星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
無数の星の輝きに彩られる宇宙。その輝きに混じって、別の光が瞬いていた。それは惑星リーフ周辺で行われた大決戦、後に言うリーフ会戦の最終局面であった。
「避難船団脱出率90%を超えました!しかし、我が軍の戦線は崩壊寸前です!」
特務艦隊の旗艦である重巡洋艦ヴィクトリア号(後の銀河一美少女ティリスちゃん号)のブリッジにて、オペレーターの悲痛な叫びが響く。宇宙に瞬く数多の光は、勇者達の断末魔でもある。
戦況は最悪と言えたが、指揮官であるティリス提督は隻眼に灯した闘志を失っていなかった。
「本艦も前に出る!損傷した船はそのまま下がらせよ!」
「各員。ここが正念場だ。提督と一丸となり窮地を乗り越え、我が艦隊の武名を鉄屑共へ今一度知らしめよ!」
ティリスの号令に合わせ、副官であるアナスタシアも皆を鼓舞する。
「提督、本艦を前に出せば最早全体を俯瞰した指揮は不可能となります。それを承知で前へ出ると?」
アナスタシアの反対側、ティリスから見て右側に立つ男性が確認のため口を開く。アード人には珍しく立派な口髭を整え、美しい金の髪をオールバックにした壮年の男性。重巡洋艦ヴィクトリア号の艦長にして、ティリスの夫ディータである。
「事此処に至り、最早指揮は不要。あとはどれだけ時間を稼げるかに掛かっている。それに、部下達が戦っているのだ。私も往かねばな」
夫の言葉を受け、僅かに口元に笑みを浮かべたティリスを見て、ディータも僅かに頭を下げた。
「ならば是非もありませんな、参りますか」
激闘は続く。特にゲート付近はまさに激戦と呼ぶに相応しい戦況であり、アード宇宙軍は津波のように押し寄せるセンチネルの大軍を前にして一歩も譲らず、数多の犠牲を払いながらも怯まずにリーフ人達が乗る避難船団を護り続けていた。
「更にワープアウト反応多数!センチネルの増援です!数は……万単位です!更に増加中!」
「まだ来るか!知ってはいたが、まさに無尽蔵の物量だなっ!」
「怯むな、アナスタシア。あと少しだ。あと少し支えれば、我らの勝ちだ」
「はっ!」
義妹を諌め、ティリスはオペレーターへ視線を向ける。
「フェルシア陛下の船は?」
「たった今リーフを離れました!ゲート到着まで三十分程度です!」
「うむ」
艦隊に希望が湧いたその時、オペレーターが口を開く。
「提督!第三艦隊旗艦ベレスよりメッセージを受信!」
「テュカから?なんだ?」
「はい……あとは任せると……」
「そんな!ベレスとの通信途絶!轟沈しました!」
別のオペレーターの悲痛な叫びが木霊した。それは最前線を支え続けていた第三艦隊の壊滅を意味し、同時にティリスの幼馴染みであり親友のテュカ提督の死を知らせるものであった。
「……テュカ、すまん。先に逝って待っていろ。
第三艦隊が崩れたとなれば、奴等の攻勢はより激しくなる!奮起せよ!ここが踏ん張りどころだ!」
だが、ここで思わぬ事態が発生した。フェルシア女王と皇子達、近衛兵団を乗せた最後の脱出船が突然全域へ向けて救難信号を発したのだ。センチネルの大軍を前に、それは自殺行為である。
「何があった!?いや、直ぐに信号を止めさせろ!急げ!」
だが、全ては遅すぎた。信号に釣られて無数のセンチネルスターファイターが脱出船へ群がり、そして大きな閃光が瞬いた。
「フェルシア陛下を乗せた脱出船の通信途絶!轟沈しました!それに……」
「……ティダル大尉の反応ロストを確認しました」
婚約者を護るために王室の船の護衛をしていた息子の訃報を受けて、ティリスの隻眼に大粒の涙が溢れる。だが、彼女は強引に涙を拭う。
「全軍ゲートへ飛び込め!殿は我が艦隊が引き受ける!女王陛下には私がお詫び申し上げる!急げ!」
姉妹同然に育った親友と最愛の息子、数多の部下を失いながらもティリスは戦い続ける。
そして。
「回避間に合いません!直撃します!」
強烈な閃光と衝撃がブリッジを襲い、直前でディータが自分の前に飛び出したのを見て、ティリスは意識を失う。
「義姉上!義姉上!」
しばらくして、義妹の呼び掛けに僅かに意識を取り戻したティリスは、ブリッジを見渡す。警報が鳴り響き、各所に損傷を受けているが緊急隔壁が降りて気圧は保たれていた。
「……アナ……スタシア……ゲートへ……はや……く……!」
「既に向かっていますからご安心を!直ぐに手当てします!」
両目に深い傷を負いながらも手探りで自分を手当てする義妹を見て、自身の手当てを優先せよと言う前に彼女は見てしまった。
巨大な小惑星を叩き付けられて死の星と化した惑星リーフ、そして自分を庇って上半身のみとなり宙を漂う夫ディータの姿を。
絶望が心を埋め尽くし、再び彼女の意識を深い闇へと誘った。
「……ーーーっっ!!」
銀河一美少女ティリスちゃん号にある自室で、ティリスはベッドから飛び起きた。
「っ!!……っぅっ……くっ!」
全身を襲う震えを抑えるために、側に常備してあるシリンジを取り出して、無針注射を首筋に打ち込む。中身は地球で言う強力な鎮静剤であり、注入される薬剤が彼女の興奮を抑えていく。
「っ……ふぅー……はーっ……はぁっ……はぁっ……」
深く息を吐き、静かに呼吸を整える。ふと自分の右手を見ると、力が入りすぎて血が滲むどころか滴るほど流血している。
ため息を吐き、治癒魔法で怪我を癒してベッド脇に備えられたホログラムへ目を向ける。
そこにはティルを抱っこしたティナと新しく生まれた里の子供達が映し出されたフォト以外にも、里の皆による集合写真、パトラウス、アナスタシア、パルミナ一家の写真、そして自分とディータ、ティダルの家族写真、親友であるテュカとのツーショット、特務艦隊の部下達との集合写真などが投影されていた。
それらを見て心が落ち着きを取り戻していくのを、確かに感じた。
「あれから三百年……情けないな、まだ引き摺っているみたいだ」
ほぼ毎夜襲われる悪夢に辟易としながらも、自身が汗だくであることに気づく。
「ふむ、たまにはさっぱりするか」
浄化魔法ではなくたまには風呂で汗を流すかと立ち上がり、部屋を後にする。
自室を出る直前に口許を揉んで笑顔を作り、廊下へ出る。そこへちょうどティナが通りかかった。
「あれ、ばっちゃん?汗だくじゃん。大丈夫?なにかしてた?」
「淑女の嗜みだよ☆」
「なにそれ?」
首をかしげるティナへイタズラっぽい笑みを浮かべる。
「んー?☆ティナちゃんはナニをしてたか気になるお年頃なのかなー?☆教えてあげよっか?☆
それとも、フェルちゃんから教えられてるかな?☆」
「なっ!?もう、ばっちゃんのエッチ!まだ朝なんだからね!」
顔を真っ赤にして飛び去っていく少女の後ろ姿を慈愛に満ちた目で見つめて、ティリスは汗を流すべく浴室へ向かうのだった。