星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
アード初となる人型ロボット“アース”の重力下に於ける実証実験が、異星人対策室本部にある広大な演習場にて行われた。
日本の富士山麓に築かれた地球外技術研究センターよりも更に広大な敷地面積を誇り、あらゆる実験が執り行える広さが確保されていた。
その演習場を駆け回ったり飛び回りする五メートルの人型ロボットと巨大化したカレンが戯れる非現実的な光景があったが、異星人対策室のメンバーにとっては見慣れた光景である。
「人型ロボットは実用性に欠けると言われていたが、充分な技術力とサイズを調整すれば充分に実用性を発揮することが立証されたわけですな」
「機械工学の先生方は目を輝かせていたよ。地球じゃ再現は難しい素材が使われているから、コピーは無理だが技術提供は快く応じてくれた。フィーレには足を向けて眠れないね」
「全くですな。それに、地球で言えば小学生の少女がこれを生み出すのです。文明レベルの違いはもちろん、人的資源にも大きな差があります」
「改めて人材の層の厚さを実感するな。ところで、フィーレは?」
「先ほどドクターを連れて屋内へ戻りましたぞ。あれはアリアが制御しているので放置で構わないと」
「ふむ、技術的な話だろうか?」
ジョン=ケラーとジャッキー=ニシムラ(実はサブキャラクター)は駆け回る異様な光景を眺めつつ言葉を交わす。いざとなればカレンを止められるのは二人だけなのだから。
二人が演習場で見物している頃、ドクターことエドワード博士は研究開発部の専用棟にてフィーレと密談していた。
「言われた通り人払いは済ませたぞ、フィーレ君。内密な話とはなにかね?」
「せんせー、技術革新にはどうしても時間が掛かる。そーだよね?」
フィーレの言葉は極めて単純明快であった。
アードから見れば初歩の星間航行システムであるパルスドライブシステム。地球から見ればまさに夢のような技術の産物だが、これをフィーレが改良して地球の技術や資源で作製できるようにしたものの設計図など、革新的な技術の提供を受けている。
これ等は異星人対策室を中心に各界の権威達が集まって研究を進めているが、いくら設計図や理論の解説があるにしても直ぐさま実現できるものではなかった。
「その通りだ。君が提供してくれたパルスドライブシステムでさえ、実用化には年単位の時間が掛かるだろう。もちろん、研究に必要な予算や資源は充分に割り当てられているがね」
「うーん……ちょっと遅いかなぁ」
フィーレとしては地球の宇宙開発を促進する必要性を痛感していた。万が一に備えての自衛用として、日本で製作したヤ◯トを改良小型化した専用の宇宙フリゲート艦の設計に取り掛かっているのだ。
地球の技術や資源で充分に実現できるものだが、問題は宇宙空間に大規模な生産拠点を持たないことである。
宇宙ステーションISSは大規模に拡張されているが、月面基地との中継拠点の域を出ない。つまり人類は今も地球で部品を作製し、宇宙へ打ち上げて組み立てているのだ。
これでは膨大なコストが掛かり、宇宙開発が促進されない。ロケットそのものが高額であり、更に打ち上げられる量も限られている。
もちろん技術革新で改良を重ねているが、直接宇宙で製造する方が安上がりであるのは事実である。少なくともアード基準では。
「それでも君たちの技術提供があったから、飛躍的な技術革新を短期間で成せるのだ。感謝しているとも」
「でもそれじゃ足りないよね?だからね、せんせー。これ、分かる?」
フィーレがデバイスを弄るとエドワードの眼前に非実体モニターが現れた。そこに映し出された映像を見て、エドワードは目を見開く。
「これは、軌道エレベーターか!」
軌道エレベーター。極めて大雑把に言えば、地上と宇宙にある静止軌道の間を結ぶ巨大なエレベーターである。
その構想そのものは古く、なんと1895年に宇宙旅行の父と称されるコンスタンチン=ツィオルコフスキーが自著の中で記述しているのだ。
現代でも地上からロケットで物資や人員を打ち上げるのが主流なのだが、ロケットは構造上重量の九割が燃料となりロケット本体の価格もあって非常にコストパフォーマンスが悪い問題を抱えている。
更に言えばロケット燃料は有害物質を多数含んでおり、環境的にも宜しくない。
そこで有望視されたプランの一つが軌道エレベーターであり、2000年代前半から構想の研究が始まり統合宇宙開発局設立後は研究が加速した。
何よりも重要なのは、軌道エレベーターを実現すればロケットに比べ圧倒的に低いコストで宇宙へ人員や物資を運べることだ。それは同時に、宇宙開発の飛躍的な加速を意味する。
とは言うものの実現には数多の課題が存在しており、統合宇宙開発局でもまだ設計段階で着工すら行われていないのが現状である。
「なるほど、我々でも作れるように手直しをしたものかな?実に有り難いが、こちらも実現にどれだけの時間が掛かるか……」
言うまでもないが軌道エレベーターは巨大な建造物である。それこそこれまで人類が築き上げたことのない規模なのだ。果たして着工から完成までに、どれだけの年月が必要なのか。
そもそも資源の枯渇が目前に迫っている地球人類に、これ程の建造物を造る余裕があるのか。
頭を悩めるエドワードを前にして、フィーレは不思議そうに首を傾げた。
「せんせー、何を悩んでるの?これ、プレゼントだよ」
フィーレの言葉を聞き、エドワードはその意味を理解するのに時間を要した。今この幼子はなんと言った?プレゼント?軌道エレベーターを?
「……ふむ、歳には敵わんな。フィーレ君、私の聞き間違いでなければ軌道エレベーターをプレゼントすると言ったね?これ迄のように設計図を提供するわけではなく?」
「そーだよ」
あっさりと言ってのけた幼女を前にして、エドワードも苦笑いを浮かべた。
「我々からすれば大助かりだよ」
「あっ、でもアードの技術をそのまま使うから地球人じゃ管理できないかも」
「構わんさ、文句を言う輩は黙らせるよ」
事実上宇宙進出の有力な手段をアードが牛耳ることになるが、エドワードはあっさりと認めた。
そもそも実現するか怪しい代物なのだ。くれると言うなら貰うだけである。技術についてはゆっくりと追い付いていけば良い。
少なくとも彼はそう考えたし、今ではアード研究の第一人者となった彼の決断は大きな意味を持つ。
「ん、わかった。みんなに相談して造るよ」
「うむ、宜しく頼む。ただ、実行する前に教えてほしい。色々あるのだよ」
「りょうかーい」
斯くしてティナの知らない場所で軌道エレベーター建設が決まった。すなわち、約束された胃痛である。