星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
世界経済に大きな影響を与える合衆国の大都市、ニューヨーク。
ティナが初めて地球へ降り立ったこの街は、彼女に感謝したり信奉したりする人々の聖地となっていた。
特にマンハッタンの奇跡の舞台となったビルの跡地は公園として整備されて記念碑が造られ、マンハッタンの奇跡の象徴的な場面である翼を広げたティナが少女を抱き抱える様子を忠実に再現した銅像が建てられていた。
もちろんこの少女はカレンであり、当事者達の許可も貰っている。その際カレンはノリノリだったが、ティナは恥ずかしげだったのが印象的だ。
現在この地は聖地として観光名所にもなっており、アードとの交流に好意的な人々が度々集会を開いてより良い未来を模索する場ともなっていた。
反アード思想の人々が抗議デモを開くこともあり、双方の衝突が頻繁に発生した。本来ならば集会の中止を勧告することで事態の沈静化を図るものだが、政府の要望もあり警察当局は反アード思想の人々による集会や抗議デモのみを中止。
公園内に派出所を設けて、複数の警官を常駐させることで治安の回復を図った。
当然ながら反アード側から猛烈な抗議が寄せられているが、国家の意思を背景として時に強権を行使してこれらの反発を抑え込んだ。
抑制されれば更なる反発を生むのは必然と言えたが、徐々に広がるトランクや医療シートの恩恵、俳優などのスター達を起用した親アードキャンペーン、ティナ達が介入して救われた命や解決した事件が増える毎に反アード思想の持ち主の数は減少していった。
その状況下で、まさかのクサーイモン=ニフーターの脱走である。単なる陰謀論者では無く、ワシントンプラザで起きた事件の首謀者であり特級のテロリストである彼の脱走は、合衆国の面子を潰すことを意味していた。
彼に同調する者も居るが、勢力としての一味は極めて小さい。少なくとも脱走させる程の力を持ってはいない。それがFBIの見解である。
であるならば、それを裏から支援した存在が居る。当局は背後関係の洗い出しと、クサーイモン=ニフーター本人の確保に奔走しているが、彼は一味と一緒に地下へ潜伏しているので半月が経過した今でも足取りを追えていなかった。
更に合衆国政府を悩ませたのは、同時に脱走した狂信者ケイン=ラッセルの処遇である。
彼の犯行動機が露見すれば反アードの人々に利用されてネガティブキャンペーンを展開されるのは必定であり、それ故に彼の逮捕は公にされず罪状も伏せられたまま密かに投獄されたのだ。
ついでに言えばアリアがこの件に介入して、ケイン=ラッセルの犯行を示す監視カメラなどのあらゆる証拠が残らず削除されていることも関係していた。
もちろん彼に撃たれた女性は訴えを起こしたが、同時に彼女がマンハッタンでティナに救われた身でありながら、強烈な反アードの主張を繰り返していた数多の証拠が
「ティリス殿。貴女はケイン=ラッセルについて、放置せよと仰るのか」
「そうだよ、ハリソン君。クサーイモン=ニフーターを取り逃がした件については正直失望したよ」
マンハッタンにある聖地の側に新たに開設された地球統一連合設立対策本部の会議室にて、ハリソンを含めた政府閣僚は構想の実現に向けた会議を開いていた。
そこへティリスが私物であるトランク一つと医療シート百枚を手土産に乱入。無下にするわけにはいかず、そのまま会議に参加することとなり、第三者として幾つか有益なアドバイスを送り、そして脱走事件に言及したのである。
ティリスの言葉を受けて背中に冷たいものが走るハリソンであるが、努めて表に出さず話を続ける。
「その件につきましては、弁解の余地もありませんな。速やかに確保して、皆さんに危害が加わらないように尽力することをお約束しましょう」
「私個人としては殺処分を願ったんだけどなぁ☆」
ティリスは当初秘密裏にクサーイモン=ニフーターの処刑を望んだが、露骨な内政干渉は控えるべきかと再考し、合衆国政府に対処を任せたのだ。
合衆国側も厳罰を確約したのだが、その矢先の今回の失態である。
「返す言葉もありませんな」
「ああ、勘違いしないで。ハリソン君達を責めるつもりはないよ。人的なミス、或いは陰謀の類いが絡んでいるのはなんとなく分かるからさ☆」
「ご理解いただき感謝します」
ティリスの言葉に皆がほっとした。この場にこの幼子を侮る者は居ない。見た目通りではないことを皆が理解しているのだ。
「でも、代わりに要望を出して良いかな?」
「さて、我々に応えられれば良いのですが」
ティリスの言葉に緊張が走る。一体どんな対価を要求されるのか。皆が次の言葉を待っていると、彼女は笑顔のまま要求を口にした。
「このケイン=ラッセルを捕まえないようにして。あっ、もちろん道理に外れたことをしたなら構わないけど、法の範囲から逸脱しないなら見逃して☆」
まさかの司法への介入である。
「それは流石に……」
「彼があの日起こした犯罪の証拠は一切残っていない。だって私がアリアにお願いして消去させたんだから」
「なんと、貴女が?」
動揺が広がる。しかしティリスは気にすること無く言葉を続ける。
「彼は確かにティナちゃんを悲しませた。それだけでも万死に値するけど、同時に彼は改心した。
もうティナちゃんを悲しませるようなことはしない。そしてその場合、彼の存在や今後行う活動はアードにとって有益だからね」
ティリスとしては今回の件がなければ無視したが、地球側のセキュリティに疑問が生じたこともあってケイン=ラッセルの起用を再考したのだ。彼の活動は、地球側に害があってもアードには無い。これはティリスが地球人の自浄力に疑問を持った故の判断である。
ティリスの言葉の真意を正しく認識したハリソンもまた、苦笑いを浮かべる他無かった。狂信者を野放しにするのはリスクを伴うが、少なくとも彼がティナを悲しませるような真似をする確率は低い。狂信者故に、自らの過ちをティナ本人を見て思い知らされたのだ。
「分かりました。ただし、常に監視を行い法に触れた行為をした際には裁きを下します。それでよろしいですか?」
「うん、それで良いよ。はい、これをあげる☆前払いだよ☆」
ティリスはポーチから更に医療シート百枚を取り出して、ハリソンへ手渡す。
「よろしいので?」
「ティナちゃんは全部無償でやっちゃうからねぇ。私は依頼を出して、報酬も用意した。
普段は見返りを求めないあの娘相手に苦労してるんだし、こんな取引の形の方が気も楽なんじゃないかな?☆」
ティナの見返りを求めない善意にどう応えれば良いか日々頭を悩ませているハリソン達にとって、確かに取引は有り難いものだ。取引ならば、借りになることもないビジネスな関係を構築できる。
「有難いものです。正直に申し上げて、地球滞在中の歓待やサポート程度で、ティナ嬢から受けた恩にお返しできているのか不安でしたからな」
「あはは、ティナちゃんにもその辺りを教えていかなきゃね☆」
斯くしてケイン=ラッセルについては監視付きで非公式ではあるが、自由となったのである。
「そうそう、クサーイモン=ニフーターについてだけど。地球のセキュリティレベルは信用ならないから、こっちで地球全体を常時監視するからそのつもりで。文句はないよね?」
ティリスのお仕置きは容赦が無かった。