星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
ティリスが地球全域の監視を行うと明言し、具体的な方法をわざわざ合衆国首脳陣へと説明した。要は監視ドローン(僅か数センチ)を万単位で軌道上にばら蒔き、地上のあらゆる場所を常時監視するというものだ。
その説明を受けた一同は例外無く絶句して戦慄した。その後、意気揚々と会議の場を後にしたティリスであるが、ハリソン達はそのまま会議を継続した。
「エドワード博士、あらゆる分野に精通するあなたのご意見を聞きたい。ティリス殿の宣言は、具体的になにを意味するのかを」
もちろんハリソン大統領も理解しているが、だからこそ権威の意見を求めたのだ。ティリスで提示した監視ドローンの数と簡単な性能が記されたデータを眺めていたエドワード博士は、どこか楽しげに口を開いた。
「いやはや、彼女は容赦がないな。端的に申し上げれば、この瞬間地球上からプライバシーという言葉が消滅したことを意味する」
改めて口にされ、誰もが絶句するがエドワードは構わず言葉を続ける。
「このスペックならば、屋内に居ても意味がないな。熱源探知の技術力が違いすぎる。たとえ最高峰の断熱材を纏っていても探知されるだろうし、地下も意味がない。
そもそもレーダーその他の探知技術が隔絶しているのだ。逃れる術は……いや、あるな」
「あるのか!?」
一部の高官が反応を示した。
「うむ、ある。やはりフィーレ君の言う通りだ。アードは海洋に関わる技術の開発が大幅に遅れているな。ソナーをはじめとした音波探知の技術は下手をすれば地球に劣る。つまり、海中へ潜れば探知を避けられる可能性がある。
報告書を読む限り、アードには潜水艦という概念すら無いみたいだね」
「それは朗報ですな。つまり、海中ならばアードに勝てると」
「滅多な発言をするな、少佐。アードは敵ではない」
「申し訳ありません、閣下」
若い参謀将校の発言を将軍が嗜めた。有能であるため後学のため参加させているが、若さ故の先走りもあるのだ。それを咎めはしない。若手をどんどん育てるのもハリソン大統領の方針であり、彼だけではなく若手の官僚も多数参加している。
「まあ、朗報にもならんよ。その時が来たら海に隠れようが意味がない。軌道上から一方的に攻撃されて終わりだ」
「まあ、それもそうか。では、海の中以外は監視対象か」
「テロリスト達が潜水艦を持っていないことを願おう」
一同に和やかな空気が流れる。監視社会と呼ばれて久しい今の地球社会なのだ。プライバシーの問題はあるが、これでアードからの信用を多少なりとも取り戻すことが出来ると考えれば呑めない条件ではない。
「今更ながら、全てが筒抜けとなるとは何とも言えませんな……」
「悪いことばかりではありません。犯罪についての情報提供を惜しみ無く行なってくれるとの確約も得ています。国民に公表は絶対に出来ませんが、これによる犯罪抑止と治安の回復を図れます」
「ティリス殿なりのアメとムチなのだろうな。時に博士、その監視ドローンが発見されるリスクはあるのかな?公表されたら大変なことになるが」
ハリソン大統領の問いに皆がエドワードへ視線を向ける。
「先ず物体が僅か数センチしか無いこと、次に自ら一切の光を発していないこと。地球にあるレーダーには映らぬ素材。先ず発見することは不可能でしょうな。
総力を挙げて調べれば或いは見付けることが出来るかもしれませんが、その際はアード側も察知するでしょうな」
「つまり、心配は無用だと?」
「何事にも不測の事態は付き物ですからな。誰かが偶然見付けてしまう前に、言い方を変えて公表してしまえば宜しいと判断します」
「それが良さそうだな。マイケル、原案を頼む。数日以内に監視ドローンについて説明する。もちろん、軌道エレベーターの件と一緒にだ」
「良い判断かと。民衆は監視ドローンよりも軌道エレベーターへ関心が向くでしょう」
その後は和やかに会議も終わり、正午過ぎ。昼食を終えたハリソンは補佐官であるマイケルを伴ってホワイトハウスにある小会議室へ向かった。
そして約束していた時間になった瞬間会議室の一角に若草色の魔法陣が出現し、見慣れたアード人の少女が姿を現した。
「こんにちは!ハリソンさん!マイケルさん!」
「やあ、ティナ嬢。ようこそホワイトハウスへ!」
最早見慣れた光景であり、二人は笑顔で握手を交わし、軽い雑談で場を和ませた。
日本で昼食を楽しんでいたティナ達だったが、どうしても話がしたいとハリソンが要望し、ティナが快諾した結果会談が実現したのだ。
更に目的地故にフェルも同行せず、ティナを転移させるに留まった。
……本来転移魔法は対象と接触している必要があるのだが、軽々とティナだけを転移させるところに彼女のチートっぷりが現れている。
「さて、君達もアードへ帰るために忙しいだろう。早速本題に入るよ」
ハリソンが議題としたのは、第二次使節団についてである。前回と違い今回は多国籍の編成となるためまだ調整が難航しているが、現時点で合衆国と日本はもちろん、中華、連邦、ドイツ、イタリア、エジプトの参加が有力視されていることを伝えた。
エジプトは先の訪問で手応えを感じ、コットンの大々的な売り込みを目論んでいるが、交易品が増えるのは歓迎される事案なので参加候補に挙がったのだ。
尚、本来ならば韓国も参加する筈だったがティナの報復により北の政情が不安定となり、その煽りを受けて国内に混乱が生じたため参加は取り止めとなった。
余談だが、韓国国内では一部の議員などが日本や合衆国を介してアードへ謝罪と賠償を求めようと働きかけたが、そもそも仲介を担う日本と合衆国が無視し、韓国政府も慌ててそのような主張を封じ込めるように動いた。
北の二の舞は御免被る。最も身近故に脅威を目の当たりにした韓国の本音である。閑話休題。
「参加国については、次回君達が来訪するまでに決めてしまうつもりだよ。人数は最小限にするし、人選についても徹底的に調査する。派遣される人員も下手なことはしないと思うが」
ティナも前世の記憶や某国の背後関係から苦手意識はあったが、交流のためには仕方無いと判断した。二つの大国を無視して交流を継続するのは困難であるためだ。
「分かりました。こちらも皆さんをお迎えするために準備しておきますね」
既に派遣はティリスを介して決定事項となっているし、ティナとしても交流促進に否やがある筈もない。斯くして第二次使節団派遣が確定し、地球側は次回来訪までに水面下で激しい政争を繰り広げることとなる。