星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
ティナ達がアードへ戻るために準備をしつつ“アース”の試作品で色々実験をしながら世界にお披露目している頃、合衆国某所。
この海沿いにある小さな港町は先日合衆国を襲ったハリケーンによって少なからず被害を受け、官民共同で復興作業に邁進していた。
ティナが持ち込んだトランクや医療シートで合衆国に割り当てられている分を全力で投入しており、それによって短期間で大規模な支援物資の輸送を実現。
更に重傷者の治療に医療シートを惜しみ無く使ったので、死者の数はハリケーンの規模からすれば奇跡と言えるレベルで減少していた。
ただ、ハリケーン襲来時ティナ達が不在であったこと、大統領選挙期間であったので露骨な支援はハリソン陣営にとって不利となると政府側が判断。
今すぐ支援に飛び出そうとするティナをティリスが制止して、直接関与することはなかった。
もっとも、そのお陰で余裕があったティナ達によって大西洋の奇跡が発生し、結果的にハリソン陣営の支持を後押しすることとなったのだから政治は複雑怪奇である。
さて、この港町では誰よりも住民の支援を熱心に行い、瓦礫の撤去などの重労働を率先して引き受ける一団が存在していた。彼等彼女等は爽やかな笑顔を浮かべて汗を流し、人々に寄り添い豊富な物資による炊き出しを行なって人心の慰撫に努めていた。
「我らの救いの主よ、災いによって光を失った彼等を救いたまえ。あなたの御名の栄光を輝かせたまえ。御名のために、彼等を救い出し、非力なる我らの罪を御赦しください……ティナ様ッッッ!!
嗚呼、慈悲深き我らが神よ!貴女より賜った神具により数多の命が救われ、そして明日への希望を胸に励んでおります!!
ご多忙を極める貴女の代わりになるとは到底思えませんが、少しでも貴女の神業を広めるために微力を尽くします!!
しかしながら、悲しいことに未だに貴女の神業を侮蔑する者が居るのです。
ですが、どうかご安心を。このケイン=ラッセル、二度と過ちは繰り返しません。この命は全て貴女の神業のために!!
彼らの顔が侮りで覆われるのなら彼らは主の御名を求めるでしょう! 彼らが永久に恥じ、恐れ、そして改心し、悟りますように…あなたの御名はティナ様!! ただひとり、全知を超えて、いと高き神であることを!!」
自ら率先して汗を流し、小休止の時間は邪魔にならないように誰も居ない静か場所で祈りを捧げるのはケイン=ラッセル。
ワシントンプラザ事件で逮捕された後に信徒達と脱獄して政府に見逃され、自ら立ち上げた教団で慈善活動に精を出す狂信者である。
しかし、完全に改心したのかワシントンプラザで見せた狂気は一切存在しない。それどころか。
「宇宙人の手先が!恥を知れ!」
「なんだと貴様ぁ!神業を理解しないのか!?」
「いけませんっ!」
「教主様!?」
反アード主義者の暴言で激昂した教団員の間に立ち、諍いを止めたのだ。
「同志よ、落ち着いて。主義主張の自由は認められるべきです。彼が反アードの主義を持つことは、悪いことではありません。
彼は誤解をしているだけであり、それは偏にティナ様の神業をお伝えできていない私達の不徳によるもの。
彼等を責めるのではなく、今も助けを求める人々に救いの手を差し伸べるのです」
「教主様!」
ケイン=ラッセルの細かな指導や方針もあって、ティナを信奉するアード教団(安直な名前であるが、ケイン=ラッセルが教団の在り方を分かりやすく表現するために選んだ)は反発に一切抗議せず黙々と慈善活動に打ち込み、少しずつではあるが信者を増やしつつあった。
信者が増える=親アード主義者が増えることを意味しており、アードにとって都合が良く、それは親アード政策を続けている合衆国政府も同じであるため密かに支援している。
それと、トラウマを持つティナがケイン=ラッセルの事を知ることがないようにアリア、ティリスが細心の注意を払い意図的に情報を遮断。
結果、ティナが地球で活動するアード教団の存在を知る頃には相当な規模を持つ団体となっていた。
一方反アード主義者達による活動も活発化していた。脱獄したクサーイモン=ニフーターは各地の過激な活動家達の統合に動き、また重武装化も進んでいた。
これらの活動資金は選挙に敗れたジョンソン派が密かに流しているとの憶測もあり、法務機関が慎重に調査していた。
ワシントン郊外にある住宅地。平日の昼間ということもあり、本来ならば心地よい静けさに包まれている筈のこの場所では、静謐を打ち破るような銃声が轟いていた。
「くそっ!マリオの奴がやられた!下がれ!下がれ!」
「あいつ配管工みたいな名前してるくせに無茶するんだよな!」
「ジョニーは何をやってるんだ!?」
「アイツなら腹を下して便所に立て籠ってるよ!」
「便所なんか無いだろ!ドラム缶にでも隠れてしてるんだろうさ!」
開けた芝地で警官達が発砲しながら、倒れた同僚を引き摺りつつ下がっていく。
発端は、一件の通報であった。見慣れない車と数人の男性が現れて不審な様子であるとの通報を受けた警官が駆け付けると、複数の不審者達は突然発砲。
警官は応戦しつつ応援を要請し、複数のパトカーが現場へ到着。それを見た不審者達は近くにある家屋へ立て籠り、銃撃戦に発展。
不審者達が立て籠った家屋は広く、更に周囲を広い芝地に囲まれていた。
つまり、警官達は身を隠す場所が極端に少ない状況下での応戦を余儀なくされ、既に数人が銃弾に倒れたのである。
「相手は重武装だ!機関銃まで持ち込んでいる!特務部隊の派遣を頼む!駆け付ける警官も重武装でだ!
それと、すぐに救急車を!銃撃戦で負傷者が多数出ている!」
現場で指揮を執るのは、ダンディな口髭と愛嬌ある笑顔が特徴の黒人、ビルフォード=クーパー。
ジョン=ケラーの友人であり、ジャッキー=ニシムラ(誤解がある)が度々お世話になる警察署の署長である。
署長の身ではあるが、部下達が危険な現場に居ると知るや直ぐに駆け付けて指揮を執っている。
「早く退け!皆援護しろ!」
パトカーの陰に隠れながら、前進した部下達を逃がすために銃弾を家屋へ撃ち込む。あと少しと言うところで、窓から顔を出した目出し帽の容疑者が持っている武器を見てビルフォードは青ざめた。
「おいおいマジかよ!!伏せろーーーっっ!!」
容疑者の一人は手にしたロケットランチャーを躊躇無く発射。飛び出したロケット弾によって大惨事が引き起こされると思われたが。
「危ない!!!」
急降下して降り立ったティナがビームシールドで受け止め、大爆発から警官達を護る。
「ティナ嬢!?」
「私が支えます!下がってください!早く!」
「分かった!皆行くぞ!仲間を助けるんだ!」
ティナが銃弾を防ぐ間に警官達が飛び出し、負傷者達を安全な場所へ下げていく。閑静な住宅街を舞台に、ティナもまた事件に介入していく。