星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
ワシントン郊外の住宅地で起きた立て籠り事件にティナが介入したのは、全くの偶然であった。
異星人対策室本部で“アース”の重力下に於ける実験と配信を行なった翌日、ティナはワシントンへ移動しハリソン大統領と会談。
次回来訪時までに新たな外交団を編成するので、アードへの移送を正式に依頼されたティナはそれを快諾。
会談そのものは和やかに終わり、ティナはハリソンの許可を得て気晴らしにワシントン上空を空中散歩することにした。
ティナ達が気晴らしに空中散歩をするのはワシントン及び東京では見慣れた光景であり、今更大騒ぎにはならない。
ティナは時折空を見上げて声をかけてくる人々に手を振りながら、のんびりと空の散歩を満喫していたのだが、その最中にアリアが事件を探知。そのままティナが強引に介入したのである。
ティナのシールドに護られながら、警官達は負傷者を連れて安全な位置まで離れる。それと同時に、アリアから連絡を受けたフェルが転移してくる。
ティナが介入したことには言及せず、直ぐさま怪我人の手当てに取り掛かろうとしたフェルだが。
「済まないティナ嬢!フェル嬢!先に奴等を閉じ込められないか!?」
ビルフォード所長の言葉を聞き、ティナは即座に理解した。ロケットランチャーを持つ不審者、いやテロリスト達がいつ周囲の民家へ攻撃するか分からないのだ。
「分かりました!フェル!あの家の周りを隔離できる!?」
「分かりました!」
他ならぬティナの願いである。直ぐさまフェルは詠唱を始め、テロリスト達が立て籠る民家の周辺をまるでシャボン玉のような膜が包み込む。
この結界によってテロリスト達は家屋の敷地内から外へ出られず、また攻撃も出来なくなった。
もちろんフェルがその気になれば家屋ごと吹き飛ばすことも出来るし、或いは内部のテロリストを無力化することも容易い。
しかし怪我人の手当てを優先したこと、ティナがフェルを荒事に巻き込みたくないので依頼しなかったことにより彼女は手当てのみに関与した。
フェル個人としては複雑な心境である。本音を言えば、さっさとティナを連れてこんな危険な場所から離れたいのだ。
彼女本人は心優しい少女であり、怪我人に手を差し伸べることに躊躇はない。
だがそれと同時に、これまで起きたアクシデントの数々によって、地球人に対する強い警戒心を抱いているのもまた事実なのだ。
ティナの善意を無下にするつもりは無いし、手も差し伸べるがどうしても地球人相手だと警戒心が勝ってしまう。
ティナとてそんな親友の心中を察していないわけではないが、前世から持つ善性にアード人の並外れた善性が足された結果、この事態を見過ごすという選択肢を持たなかった。
「ティナ、これであの人達は外へ出ることは出来ませんし、結界の外側に攻撃も出来ません。ですが、結界の中へ入ったら攻撃されます」
「わかった。ありがとう、フェル」
フェルは無駄と知りつつも忠告する。ティナが一言お願いすれば、テロリストを全て無力化出来る。
だが、ティナはそれを良しとしない。全てをティナ達が解決してしまえば、地球側の面子を潰してしまうからである。
ティリスもまた「地球の庇護者になるつもりならそれで良いけど、対等な関係を作りたいなら何から何まで全部やってあげちゃ駄目。それは対等な関係じゃない、歪な関係になる」とティナに教え込んだ。
とは言え、ティナにとって目の前の命以上に優先すべきものはない。そして、この場に居る大人達も異星人といえど少女に全てを丸投げするような恥知らずではなかった。
「協力に感謝する。本当にありがとう。部下達も救われた」
「まだですよ、ビルフォードさん。まだ事件は解決していません。むしろここからが本番なんです。アリア」
『スキャン開始……家屋内に原始的な火器を保有する敵性存在を探知、数は五。安全のために家屋ごと破壊して無力化することを推奨します』
アリアの判断に対して、すかさずティナとビルフォードが反論する。
「ダメだよ、アリア。それだとみんな死んじゃうよ」
『非合理的です。既にあちらは殺傷兵器による攻撃を実行しました。殺意を宿す相手に対しての殺傷行為は、正当な行為となります』
「気持ちは分かるが、俺達は警官なんでな。アイツ等を捕まえて、裁きの場へ連れていくのが仕事なんだ。それに、背後関係を調べる必要もある。
増援も到着したし、奴等が逃げる心配もないし、周りに被害が及ばないなら突入して制圧するだけだ。もちろん、交渉はやるがな」
『抵抗される確率が極めて高いと判断できます。犠牲者を増やす選択は論理的とは言えません』
「私が介入すれば、もう誰も死なない。そうだよね、アリア」
当たり前のように事件解決へ協力するつもりのティナを前に、アリアはAIでありながら溜め息を吐きたくなった。
『私はAIとしてティナの望みを叶えるだけです』
「ありがとう、アリア。じゃあ、ビルフォードさん。行きましょう!」
「分かった。野郎共、気合いを入れろ!」
「「「おうっっ!!!」」」
「ティナ、気を付けてくださいね」
「すぐに戻るよ、フェル。ちょっと待っててね」
増援と合流した警官隊は、直ぐさま装備を整えて突入に備える。その間にビルフォードが拡声器を片手に交渉を仕掛けた。
「見て分かるだろうが、抵抗は無意味だ!お前達に逃げ場はないし、敷地の外を攻撃することも出来ない!諦めろ!これ以上お互いに傷つく必要は無いんだからな!」
些か荒っぽいがビルフォードなりの説得も行われたが、テロリスト側は銃を発砲することで返答した。だが銃弾は敷地内を包み込むシャボン玉のような膜に阻まれて、その役目を果たす前に消滅してしまう。改めて魔法の出鱈目さを理解した警官隊、ビルフォードを先頭に強硬突入を開始。
「私の後ろから離れないでください!」
ティナが警官隊の前に出てシールドを構え、飛んでくる銃弾から皆を守る。
「走れ走れ走れぇっ!ティナ嬢に無理をさせるなぁ!」
ティナに続いて屋内へ突入。そのままテロリスト達と銃撃戦が開始されるが、ティナが同行しているため警官隊は大きなアドバンテージを得る。
『この先に一名潜伏しています。寝室に反応無し。次はキッチンです』
アリアが的確にテロリストの位置と状態を共有し。
「とりゃぁあああっ!!」
「がぁあああっ!?」
天井が高く広々とした邸宅の屋内はティナが縦横無尽に飛び回る余地を与え、警官隊が苦戦している場所へ参戦し、非殺傷設定のビームランスでテロリストを薙ぎ倒した。
次々と仲間が倒される中、最後の一人がテーブルの陰から飛び出してビルフォードを狙うが。
「ビルフォードさん、危ないっ!」
アリアによって知らされていたティナは、咄嗟に履いていたサンダルを靴投げの要領で飛ばす。
「がっ!?」
柔らかい草のサンダルと言えど、アード人であるティナの脚力で飛ばされたそれは充分な威力を持ち、テロリストの顔面に直撃。
怯んだテロリストの隙を突いて、ビルフォードは逆に懐へ飛び込み。
「ふんっっ!!」
「ごっ!?」
テロリストの胴体に強烈な拳を叩き込んで怯ませ、身を屈める。
「やぁあああっ!!」
「げっ!?」
身を屈めたビルフォードを文字通り飛び越えてティナが強烈な蹴りを叩き込み、その小柄な身体からは信じられない地球人離れしたフィジカルを遺憾なく発揮して蹴り飛ばし、テーブルを巻き込みながら壁に叩きつけられた最後の一人は意識を刈り取られる。
「良いのが入ったな、泡吹いて白目になったぞ」
「あっ……やり過ぎちゃった!?死んでないよね!?」
立役者であるティナがいつものようにやり過ぎて大慌てする珍事が発生するが、省略する。
もちろんこの一件を聞いたジョンは衝撃の余り頭部がサハラからナミヘイにジョブチェンジを果たすが、些細なことなので省略する。