星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
ティナ達が牛丼チェーン店で大騒ぎを起こした翌日、すなわち彼女達は合衆国で人質事件を解決する活躍を見せている頃、日本。
旅館やすらぎはティナ達が気に入った贔屓の滞在場所として名を馳せていたが、同時にティナ達が太陽系に滞在している間は急な利用に備えて一般客の利用が禁じられていた。
当然旅館側としては不利益を被るのだが、その分は政府が補填しているので問題にはなっていなかった。
他の宿泊業界から独占しているとの批判もあったが、異星人を迎えることの難しさを旅館側がティナ達の許可を得て公表したところ、批判の声は下火となった。
外国人を受け入れる以上に対応が難しく、更に問題が起きればそのまま地球規模の問題となると知れば及び腰になるのが人情というものである。
「まあ、それでは誠をアードへ?」
「誠だけじゃないぞ、瑠美。私や君も一緒に招待を受けている。その、こんな言い方をしたくはないが断ることは出来ない」
旅館にある事務所で人払いを済ませた外交官朝霧は、旅館やすらぎの女将にして妻である朝霧瑠美へアード側の招待を伝えた。
オーストラリアから日本へ帰還して直ぐに政府と話し合い、そのまま旅館へ戻ったので些かの疲れは感じているが、事は重要なものであるため休む間も無く人払いを頼み妻を呼んだのだ。
ちょうどティナ達が地球に滞在しているので一般客は居らず、女将である瑠美にも余裕があったので直ぐに会うことが出来た。
「私も?」
「ああ、先日誠がティナさんの妹さんを助けただろう?そのお礼としてアードへ招待したいと。差出人は、ティナさんの母親であるティアンナ女史だ」
「まあ、ティアンナさんが?誠や貴方なら分かりますが、まさか私まで招待してくれるなんて」
ティアンナは椎崎首相と友好を深めながら、滞在していたやすらぎの女将である瑠美とも友好的な関係を築いていた。
彼女としては、娘の恩人と友人を招く程度の感覚である。奔走する羽目となった朝霧の心労については、考えないものとする。
「友人を除け者にするつもりはないとメッセージに書かれていた。急なことで申し訳ないが、明後日にはアードへ出発することになる。
君が留守の間の補填は政府がしてくれることになったから、直ぐに準備を始めてくれ。必要なものは出来る限り手配するから」
「分かりました。貴方のお役に立てるなら光栄ですし、誠を一人で宇宙へ行かせるわけにはいきませんから」
「ありがとう」
理解ある妻に朝霧は深々と頭を下げた。思えば窓際時代からずっと支え続けてくれた、自分には勿体無い妻である。
「ただし、ただお世話になるのは私の性分が許しません。貴方、必要なものがたくさんありますから忘れずに手配をお願いします」
「承った」
この日から二日間、朝霧夫妻は慌ただしく動き回った。日本政府が全面的にバックアップを行なったため必要なものは充分に集めることが出来て、それらは準備のために必要だろうからとティナから贈られたトランクを利用することで問題なく持ち込むことが出来た。
「これがトランク……まさか倉庫一杯にあったものを全部収納してしまえるなんて。一家に一つ欲しくなりますね。片付けが便利になります」
「このモデルの収容量は貨物船一隻分だと聞いていたが、凄いな。在庫管理や物流の概念を根本から変えてしまう」
これまでティナ達が持ち込んだトランクの一部は各国に振り分けられて物流の現場で試験的に運用されているが、その性能は驚異的と言えた。
ただ物流業界からは急速なトランクの普及は、既存の物流システムに大打撃を与えて恐ろしい数の失業者を招きかねないとの懸念も提示され、各国政府も運用に頭を悩ませている。閑話休題。
「瑠美、必要なものはこれで全部なのか?」
「はい、しっかりと皆さんをおもてなしさせていただきますね」
何処か楽しげな妻を見て、朝霧も笑みを浮かべる。
「それは楽しみだ。ティナさん達もきっと喜んでくれるだろう」
さて、ティナ達との合流地点であるが少し問題があった。最初は大気圏内航行能力を持つ銀河一美少女ティリスちゃん号を着陸させて乗り込むことが検討されたが、平地の少ない日本であの巨艦を着陸させられるような場所は限られている。
空港を使う案もあったが、今回の訪問はあくまでもアード側の招待を受けた私的なものである。
他国の関与や介入を避けるために、出来るだけ極秘裏に行う必要があるのだ。
結局地味ではあるがフェルが迎えに行き、転移で軌道上の銀河一美少女ティリスちゃん号へ乗り込むことになった。
派手な歓迎をしたかったティナは残念そうにしていたが、特大の胃痛を回避できた朝霧や日本首脳部が内心ガッツポーズをキメたのは言うまでもない。
フェルが朝霧夫妻を迎えに行っている頃、ティナも合衆国の異星人対策室本部を訪ねていた。先日の人質救出作戦は記憶に新しく、合衆国中を沸かせていた。
ただ、ティナが盛大な式典などを苦手としていることを知っている異星人対策室では特に大きな催しは行われず、ジョン=ケラーが代表して感謝の言葉を伝えるに留まった。
「君のお陰でまた大勢の命が救われた。ありがとう、ティナ」
「私は当然の事をしただけですよ、ジョンさん。亡くなった人が出なくて本当に良かったです」
警官隊に負傷者が出たものの、周辺に被害を出すことなく重武装のテロリスト達を全員逮捕できたのだ。
まさに奇跡の大活躍と称えるに相応しい功績だが、ティナ本人は気にした様子もなく自然体である。
その姿を好ましく想い、ジョンも笑みを浮かべる。
「君は変わらないな。ビルからも改めて感謝を伝えてほしいと頼まれたよ。大切な部下達を失わずに済んだのは君のお陰だ」
「私は出来ることをやっただけですし、手当てをしてくれたのはフェルですから」
二人はしばらく楽しげに言葉を交わした。残念ながらメリルとカレンは定期検診のため研究所へ行っているので会えなかったが、その分ジョンと近況を存分に語り合ったのだ。
「今回はミスター朝霧の家族も連れていくのだろう?旅の無事を祈っているよ」
「ありがとうございます。本当はジョンさん達も連れて行きたかったんですけど」
朝霧一家を連れていくならばと、ティナは個人的にケラー一家も連れていこうと誘っていた。
だが、地球統一連合設立を急ぐ合衆国政府にとって異星人対策室の存在は大きく、ジョンが地球を離れることは出来ない。
「今回は残念だが、次の時は必ず行くよ、ティナ。なにせ外交団のメンバーに選ばれているからね。またお邪魔させてもらうよ」
「……はい!」
ジョンは優しげに笑いながらティナを撫で、彼女もまた満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ、行ってきます!」
「ああ、行ってらっしゃい。気をつけてね」
ティナはジョンとの別れを済ませて、そのまま太陽系を去った。地球、アード双方に大きな変化が起きることを予感しながら。
「……行ってしまったか」
夜空を見上げるジョンの隣へ、ドクターことエドワード博士が並び立つ。
「ああ、次の来訪は来月になるだろう。それまでに、少しでも交流を有利に進めなければいけない」
「だが無茶はいかんぞ、室長。君が倒れればティナ君達も悲しむ」
「分かっているよ、ドクター。ほどほどに頑張るさ。まあ、私ごときがやれることなどたかが知れているさ」
「君は自分を過小評価するな……まあいい、そのためにはあの馬鹿者を自由にしてやらねばな」
「彼は誤解されているだけさ。ビルに挨拶がてら迎えに行ってくるよ」
この日、公園で女児に手を出そうとした不審者を取り押さえて無事に逮捕されたジャッキー=ニシムラ(裸族スタイルだが、局部は葉っぱでしっかりガードしている紳士仕様)はジョンの働きかけで釈放され、任務に復帰した。