星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
ティナ達が地球へ向けて出発して数日後、天の川銀河の反対側に位置する惑星アードでは、銀河一美少女ティリスちゃん号の帰還に備えて様々な準備がなされていた。
先ず軌道上にある宇宙ステーションでは交易品となるトランクや医療シート、船に積み込む各種物資が次々と運び込まれていた。
今回用意されたトランクは過去最高の一千個。地球側の資源問題を聞き付けたアード上層部が純粋な好意で物流革命を促すために準備したものであり、地球の為政者達に特大の胃痛を与えるのは避けられない爆弾でもある。
とは言え、地球のエネルギー問題が深刻である現実は変わらない。物流に使うエネルギーを大幅に削減できれば、余剰エネルギーを他所へ振り分けることが出来るメリットがあった。
反対側に位置する地球の合衆国や日本では、物流業界と政府の間で非公式の会合が何度か開かれていた。トランクの普及によって今後確実に大打撃を受ける業界に属する人々の今後を協議するためであるが、業界からは凄まじい反発が巻き起こった。
当然の反応である。自分達の仕事やキャリア、利権や権威が失われるとなれば反発が起きるのは当たり前である。
この対応に各国政府は頭を悩ませることになる。
純粋な善意で地球の抱える大きな問題の解決策を提示したアード人達に、この地球人の葛藤が理解できない。
確かに地球規模で考えれば、トランクの普及は凄まじいメリットをもたらす。
だが、地球には二百近い数の国家が乱立しているのだ。国家間の思惑などは、統一国家であるアード人の理解が及ばないのも無理はない。
アードから放たれた善意という名の胃痛ビームが銀河を横断して地球の為政者達の胃を直撃している頃、惑星アードの政府であるアード永久管理機構の中枢があるケレステス島のハロン神殿。
地球との交流が始まってからアード永久管理機構は、最高意志決定の場である御前会議を開いて改革を推し進めていた。
三百年間引きこもっていた弊害は社会全体に存在し、政務局長であるパトラウスは速やかに政治方針を内側ではなく外側へ向けるため、御前会議の場を利用することにしたのである。
「良いわよ、姉様も乗り気だからガンガンやっちゃって。ゆっくり改革をしてる暇なんて無いんだから」
予め妹であるティアンナに相談して快諾され、翌日にはセレスティナ女王と直接謁見を果たしたパトラウスは、改革の必要性を直訴し。
「より良い未来のためならば、喜んで出席しましょう」
「有り難きお言葉!」
斯くして御前会議によって政策の大幅な転換が実施された。引きこもってからはほとんど意味を成さず、移民管理局の下部組織と化していた外務局が再び復活。かつてのベテラン外交官達を再招集して準備に取りかかる。
とは言え当分の間は、交流の最前線に立つ宇宙開発局で地球の情報収集と、交流の状況確認のために時間を費やすことになる。
「余剰している旧式のトランクを可能な限り集めてほしい。高性能なものはまだ必要ない。先ずは数を送り、地球の物流問題解決に寄与することを優先する。医療シートの量産もだ」
ちなみに、これらの半ば強引なやり方に少なくともアード人からの反発は存在しない。セレスティナ女王が地球との交流を望んだ。そこに理屈が介在する余地はアード社会に存在しない。
女王の意志はアードの総意であり決定事項。アード人がこの真理に疑問を抱く事はない。生まれながらの狂信者種族、それがアード人なのだから。
一部のミドリムシは不穏な動きを見せているが。
「外務局を復活させてくれたのは素直に有り難い。既に先人の皆様と意見交換を実施している」
「それは重畳だ。出来れば双方の間に友好条約締結まで持っていきたいものだ」
「女王陛下のご意志なのだろう?ならば必ず果たして見せるさ」
御前会議の後、政務局にてパトラウスと次回地球来訪時に同行が確定している宇宙開発局のザッカル局長が摺合せを行っていた。
既に御前会議でザッカルの派遣と条約の締結が決定されており、セレスティナ女王直々の激励もあってザッカルは強い使命感と幸福感、そして頭痛を噛み締めていた。
「条約締結か。地球には様々な国家が乱立しているとあるが、それら全てと条約を交わすのだろうか?」
「いや、殿下とアリアのレポートを読む限りそれは現実的では無さそうだ。幸い地球には国際連合と呼ばれる枠組みが存在する。そちらと協定を結べれば良い。
必要なのは、我々とリーフ人が地球で問題なく過ごすことが出来る権利の確保だ。
そして、地球にはこの様な概念がある」
端末に送られたデータを見て、ザッカルは感心した表情を浮かべる。
「人権?この世に生まれた全ての人間が有する基本的な権利……素晴らしい考え方じゃないか。パトラウス卿、地球人は随分と融和的なのだな。誤解するところだったよ」
「残念ながら、殿下のお話だとその概念は建前らしい。地球人にとって達成すべき理想であるが、現実の地球社会では、一部の地域を除いて蔑ろにされている事が大半だそうだ」
「……地球人は同一種族だろう?つまりは、大規模な家族と言える。それなのにか?」
「理解に苦しむが、それが地球人らしい。我々との交流で、少しでも地球人が種として成長することを願うばかりだ。
いや、この考えは傲慢だったな。忘れてほしい」
溜め息混じりに答えるパトラウスを見て、ザッカルも困難な仕事を引き受けたものだと溜め息を吐いた。
「困難な仕事ではあるが、不可能ではないさ。我々はあの気難しいリーフ人と共生出来ているんだ。地球人と共に歩むことも出来ると信じている」
「うむ、何よりも女王陛下がお望みなのだ。更に我々にとっても大きな利がある。必ず成功させねばならない」
アード内部にも問題がある。特に一部のリーフ人の動きはパトラウスも警戒している。だからこそ、彼は出し抜かれる事になる。ミドリムシはフリーストの一派だけではない。
今回の動きはフリーストより更に古い世代、リーフ会戦の悲劇の際に暗躍した全ての元凶と呼べる者達が企んだのだから。
「時にパトラウス卿、細君がご懐妊されたとか。いや、誠に目出度い」
アナスタシアの妊娠を祝福するザッカルに、パトラウスは疲れたような笑みを浮かべた。
「近衛兵長を孕ませるなど言語道断とお歴々に叱られてしまったよ。それ以上に祝福されたがね」
「それはまた……地球の食物はある意味危険ですな」
「うむ、子供が増えることは良いことではあるが……まあ、当分は忙しくなる。アナスタシアは出産次第復帰する予定だから、空白期間は短くて済む。当面はヴァルキリーから護衛を増やして対応するさ。
……はぁ。姉上になんと言えば良いか」
頭を抱えるパトラウスを見て、ザッカルは困ったような笑みを浮かべるしかなかった。