星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
地球を離れて七日間の航海を経て、私達は無事にアード星系へ辿り着くことが出来た。ハイパーレーンを航行中は朝霧さんとお話をしたり、瑠美さんの美味しいご飯を食べたりマコくんと遊んだりして退屈しなくて済んだ。
まあそれなりに娯楽にも気を遣っているし、退屈することは無いんだけどさ。
ただ、ちょっとした問題も起きたんだよね。
「本当にごめんなさい!止まらなくて……」
「うん、まあ……予想はしてたよ。朝霧さん、私からも謝らせてください」
「いえいえ、持ち込んだものが無駄にならず良かったです」
今回朝霧さんが交易品のサンプルとして持ち込んだお酒の大半を、クレアが飲み干してしまったことかな。
クレアはドワーフっぽいし、多分お酒が大好きなんじゃないかなぁって予想はしていたけど、此程とは思わなかったなぁ。
見た目は私と変わらないくらいの小さな女の子が、トランクから取り出した大きな酒樽を持ち上げてゴクゴク呑んでる姿にはビックリしたけど。
スチームパンク風ドワーフ美少女が酒樽をらっぱ飲みする光景……なんだろう、凄く背徳的に見えたのは私だけかな。
「あの飲料は好きになれませんでした」
「何か変な味よね。地球人はあんなのが好きなの?」
「……不味い」
ちなみに私達も試飲したんだけど、フェル達リーフ組はお酒全般が好きじゃなかったみたいだ。個人差かもしれないけど、アリアの予測だとリーフ人そのものがアルコールと相性が悪いのかもしれない。
私は個人的に前世で好きだった銘柄のビールがあったら、こっそりと楽しんだ。ばっちゃんは……飲み過ぎて酔っぱらって寝ちゃったかなぁ。まあ、大きな問題が起きなくて良かった。
朝霧さんは、アード人相手にお酒も充分に交易品になることが分かったって笑ってた。
「クレア、これまで我慢してたんだね」
「酒精の類いは貴重品でしたから、飲むのも久しぶりで……アードにもお酒を飲む文化は無いみたいでしたから諦めていたんです」
「そして我慢しているところへ私がビールを差し出してしまった、と。これは完全に私の失態ですね、どうか気を病まれずに。次に来訪された際は、もっと様々なお酒を用意しましょう」
「たくさんのお酒!?」
ああ、うん。クレアが目をキラキラさせてたから、取り敢えず解決ってことにしておこう。
「わぁあっ!ティナお姉さん!あれが惑星アードですか!?環がある!」
「そうだよ、マコくん。夜に空を見上げたらとても綺麗なんだよ!」
アード星系へ到着した私達は、ドッキングまでの操作をアリアに任せて展望室で朝霧ご一家に惑星アードを紹介した。
まあ、朝霧さんは二回目だけどマコくんは目をキラキラさせていて微笑ましい。瑠美さんも、地球では見ることが出来ない景色に圧倒されているみたいだ。
惑星アード最大の特徴は、なんといっても大きな環と、周りを回る二つの大きな衛星かな。
「朝霧さん、先ずは宇宙ステーションに停泊して、そこで手続きをしてアードへ降りることになりますよ」
「となると、昼食をゆっくり食べる時間は無さそうですね」
「そこは大丈夫ですよ、瑠美さんがお弁当を作ってくれましたから!」
「簡単なものでお恥ずかしい限りです」
「そんなことはありませんよ!とても美味しそうで、今から食べるのが楽しみです!」
瑠美さんは和食だけじゃなくて洋食も作ってくれたからなぁ。今回はお昼が忙しくなると予想してお弁当を用意してくれたんだ。
中身はサンドイッチ、確かに手早く簡単に美味しく食べるにはうってつけだ。なにより、ばっちゃんのお気に入りなんだよなぁ。
「瑠美ちゃん、私のはティリスちゃんスペシャルだよね?☆」
「はい、勿論ですよ」
「コレステロールとか大丈夫かなぁ?」
「大丈夫じゃない?里長だし」
ティリスちゃんスペシャルとは、ばっちゃん専用のサンドイッチだ。厚切りにした食パンにゆで卵と目玉焼きとスクランブルエッグを同時に挟んでる。見ただけで胃もたれしそうな卵尽くしだ。
「永遠の美少女だからね☆」
「永遠の美少女(1000歳)」
「笑うな☆」
ちなみに瑠美さんは、私達全員の好みに合わせたサンドイッチを作ってくれている。
私は定番のハムと卵、フェル達リーフ人は色んな野菜を組み合わせた健康的なサラダサンドイッチ。クレアは厚切りのパンにスルメ、ビーフジャーキー、スモークサーモン、スモークチーズにブランデーを掛けたもの……酒のつまみかな?
クレアめ、お酒が飲める環境になった瞬間自重しなくなったな。まあ酔っぱらったりしないし、量は度を越えているけど食事の時以外は絶対に飲もうとしないし、無理に勧めたりもしないから問題ないけどさ。
「以前お話しした通り、月に大使館を作っていただきましたので可能ならばアードにも何らかの交流拠点を設営したいのです」
アードの美しい環を見ながらぼんやり考えていると、朝霧さんが話し掛けてきた。
朝霧さんにはゆっくりして貰いたかったけど、やっぱり外交官としてお仕事があるみたいだ。その一つは、次回予定されている外交団の活動拠点をアードに作ること。つまり、大使館みたいな感じなのかな?
「うーん、私としては大歓迎ですけど政府の皆さんがどう判断するか分かりませんよ?もちろん交渉はしてみますけど」
私は親善大使であって、政治的な影響力なんて無い。そもそも政治は分からないからね。
地球での活動や交流は一任されているけど、アードじゃただの小娘に過ぎないしね。
「交渉していただけるだけで有り難いことです。それに、無理にとは言いません。妻と息子が心配してしまいますし、ゆっくりとしますよ」
「はい、皆さんはお客様なんですから!精一杯おもてなしをさせてください!」
だが、朝霧には確信があった。目の前の少女の隠された正体に気付いているからこそ、アード側はティナの“お願い”を決して無下には扱わないことを。故に、少しだけ気楽な心地で妻子を連れて宇宙ステーションへ降り立ち。
「おっ、お帰りなさいティナ」
「えっ……お母さん……?」
ティナ達を出迎えた宇宙開発局の面々の中に佇むティアンナの髪が、アード人の特徴である金からティナと同じ銀髪に変化していたのだ。
ティナが呆然としているのを見て、朝霧は無言のままジョンから渡された特注胃薬をダースで飲み干すのだった。