星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
日本国外交官兼異星人対策室所属の朝霧だ。我々はティナさん達と一緒に一週間の航海を経て、無事に惑星アードヘたどり着いた。私個人としては二度目の渡航になるが、やはり未知の天体を見るのは心が踊る。
ティリスさんの話だと、星系内にあるアード以外の七つの惑星にもそれぞれ開拓時代の宇宙基地が存在し、今では使われなくなった宇宙に関連する装備や艦艇、物資が大切に保管されているらしい。
その気になれば、無人艦であるフリゲートを含めて一千隻の宇宙船を即座に準備できると聞いた時は規模の大きさに唖然としたものだ。
だが、これだけの戦力があってもセンチネルと遭遇したら時間を稼いで逃げの一手らしい。
勝機があるとするなら、センチネルに信号を発信させないこと。発信されてしまえば、想像を絶する物量で押し潰されるそうだ。話には聞いていたが、厄介な相手だな。
センチネルの情報は各国首脳と異星人対策室の限られたメンバーのみで共有されているが、ニシムラさん曰く純粋な物量による正攻法だからこそ対処が非常に困難な相手だとか。地球が奴らに発見されないのを願うばかりだ。
宇宙ステーションへ降り立った際出迎えてくれたティアンナ女史の髪の色が、ティナさんと同じ銀色に変色していた時は波乱の予感がした。
未来を悲観してケラー室長が持たせてくれた胃薬をダースでイッキ飲みしてしまったが、ティナさん自身がその事に言及せず母親に抱きついたことで一旦保留となった。
……幼さが目立つティナさんだが、時折我々の予想を良い意味で裏切ってくれる。まあ、後は家族の問題だ。他人の私が踏み込むことじゃないな。
ドルワの里に到着した際、我慢できなかったティルさんが誠に飛び付いてそのまま足場から落下した時は生きた心地がしなかった。
どうやら里全体に転落防止の魔法が張り巡らされていたみたいで、淡い緑色に光るネットがまるでトランポリンのように二人を優しく受け止めたのを見てほっとした。
瑠美は気絶しかけたが……まあ、その内慣れるさ。
「朝霧さん、こうしてあなた方とアードで再会できるなんて感無量です」
「こちらこそ、ティドルさん。今回はお招きいただき感謝します」
一騒動起きた後、集会所でティドルさんと再会して旧交を温めた。アードで再会するなど思いもしなかったな。その流れで瑠美を紹介した。ティドルさんは旅館へ来ていないから、これが初対面になるな。
「妻の瑠美と申します。夫がお世話になっております」
「ティルの父、ティドルと申します。ご主人と息子さんは我が一家の命の恩人です。お礼として、精一杯おもてなしをさせてください」
「ありがとうございます」
「久しぶりね、瑠美。色々あるだろうけど、我が家だと思ってゆっくりしていって」
「ティアンナさん、ありがとうございます」
ふむ、誠はティルさんと遊んでいるな。一緒にティナさんとフェルさんが居るから任せて大丈夫だろう。
ドルワの里は、今回滞在のためにわざわざ一軒家を用意してくださった。地球を発つ際にティリスさんがメッセージを送ってくれたらしい。恐縮だな。仕事はあるが、先ずは荷解きをしなければならない。それに、瑠美を一人にするわけにはいかないからな。
「あなた、お仕事を優先してください。ティアンナさんが手伝ってくださるそうで、荷解きはお任せを」
そう考えていたら、瑠美から提案された。心中を察してくれたのだろう。本当に私には勿体ない妻だ。
「分かった。ティアンナさん、妻と息子をお願いします。出来るだけ直ぐに済ませますから」
「別に急ぐ必要があるとは思えないけど、まあそっちの事情があるんでしょ。瑠美とマコくんは預かるから済ませてしまいなさいな」
「はい!」
妻子を預けて、私はティドルさんと一緒にケレステス島へ転移した。大使であるティナさんを伴う必要があると考えていたが、どうやらその辺りは緩いらしい。実にアードらしいな。
「朝霧卿、再びこうして会えたことを嬉しく思う。存分に羽を伸ばして頂きたい」
「ご無沙汰しております、パトラウス政務局長殿。今回はお招きいただきありがとうございます」
ティドルさんの紹介で、ケレステス島のハロン神殿で政務局長のパトラウス殿と素早く面会を果たせた。多忙の身であるのに……有難い。
何故か四つん這いになっていて、その背中にどや顔をしたティリスさんを乗せているのが意味不明だが……私は学んだぞ。余計な詮索はそのまま胃に返ってくるのをな。だから私は、一切突っ込まずに日本政府の意向を伝えることにした。
……端から見れば、かなりシュールな光景だろうな。
朝霧が折檻中のパトラウスと面会を果たしている頃、ドルワの里で歓迎を受けたクレアは迎えに来たパルミナに伴われてハロン神殿最奥区画へ向かっていた。セレスティナ女王との謁見を果たすためである。
大使としてティナも同行しようとしたが、招待客である朝霧一家の歓待を優先するようにとの指示が出されたので、パルミナに任せたのだ。
「分かっているとは思うけど、不敬は許されないから」
「出来ればアードの作法を学びたかったのですが」
「大丈夫、敬意を示せば女王陛下は汲み取ってくださる。貴女はお客様、肩の力を抜いて良い」
並んで荘厳な通路を歩きながらパルミナと言葉を交わしたクレアは、内心苦笑いを浮かべた。不敬は許されないと警告された直後に、肩の力を抜けと言われても難しい。
同時に彼女はパルミナを観察した。背丈は当然ながら自分より高いが、身に纏っているのはアードの衣服ではなく金に輝く鎧である。
ただ全身を覆うタイプではなく、急所のみを護っているため身軽に動けそうだと思った。ついでに、昼間なのに眠そうな半目が何とも愛らしく思えてしまった。
最奥に位置する謁見の間へたどり着き、ノーム式の最敬礼に当たる地球で言う土下座をしようと膝をつこうとしたその時。
『その必要はありません』
脳内に響く優しげな声に驚き、同時に室内に居た衛兵達が一礼して退室するのを戸惑いながら見つめていると。
『さあ、こちらへ』
再び脳内に響いた言葉に従い、謁見の間の最奥にあるベールで仕切られた個室の前へ歩み寄る。次の瞬間、ゆっくりとベールが開いてセレスティナ女王が姿を現した。二対の翼、ティナと同じ銀の髪を目の当たりにして目を見開き。
「貴女と会える日を楽しみにしていました。ゆっくりとお話を聞かせてください」
アードを統べる女王と、センチネルを産み出したアプソリュート皇国の忘れ形見が出会った歴史的な瞬間である。