星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
ティナ達が無事にアードへたどり着いた頃、すなわち彼女達が地球を離れて一週間が経過していた。先ず地球の極東アジアでは某国が度重なる失態と先の報復攻撃により国内が一気に不安定になり、内戦一歩手前まで事態が悪化した。
この情勢を重く見た中華が本格的に介入することで血が流れる事態は何とか避けられているが、未だに予断を許さない状況であることに変わりはなく、この対処に中華は膨大な外交力を割かれることになる。
尚、隣国日本は人道的な支援のみを表明し、難民等の受け入れには慎重な姿勢を見せた。これは難民に紛れて、工作員の類いが国内へ流入することを避けるためである。
もちろんこの対応には内外から批判の声が挙がったが、椎崎首相は断固たる意志でこの決断を覆すことはなかった。
極東アジアで混乱が起きている頃、欧州大陸でも動きがあった。特に活発な動きを見せているのは、ドイツである。
次回の外交団派遣への参加が確定し、派遣する外交員の選定を急ぎつつ情報収集を欠かさなかった。特に彼らが注視したのは日本である。
既に合衆国はブリテンと連携体制を確立しており、その莫大な経済力を背景として欧州の盟主を自認するドイツとしては、ブリテンの二番手に甘んじることなど出来ない。かといって、無知のままではフランスの二の舞である。
ならばと彼等が目を付けたのが、ティナが二番目にやって来た国であり、ティナと椎崎首相との親密な関係を背景として一気に交流が進んでいる日本である。
在日大使館を通じて日本政府とコンタクトを取りつつ、地球外技術研究センターとも交流を図り情報収集に余念がなかった。
そしてその過程で彼等に衝撃を与えたのは、日本人のアードに対する好意的な感情である。
無論日本国内にも反アード思想は存在するし、警戒心を持つ人間も少なくはない。
だが、他国に比べて余りにもその数は少ない。
それは日本人の風土や気質が大きな影響を与えているのは否めず、ティナ達の愛らしい容姿はもちろん、その献身性と文化に対する理解が日本人の心を捕らえたのだ。
ドイツの動きを他所に、日本では歴史的な試みが行われていた。東京のとある繁華街は厳重な警戒体制が敷かれていた。そしてこの中を歩く一団。
「不思議ですね、アード人の居住区とはまるで違う景色です」
「私達としては、アードの皆さんの樹上生活に憧れを感じてしまいますわ。地球では中々実現できませんから」
商店街を歩いているのは、椎崎首相とアード人のセシルである。
今回地球初めての試みとして、彼女を招いて東京の商店街を散策する催しを日本側が提案。
セシルも快諾し、こうして東京を訪れて椎崎首相と一緒に街並みを散策しているのだ。
「そうなのですか?まあ、私達は飛べますからその辺りが関係しているのかもしれません。それに、私達が利用しているような木は地球に存在しないみたいですし」
「もし地球に害が無いのならば是非とも頂きたいものです」
「ええ、戻ったら早速調べてみましょう。あの木々には大気を浄化して環境を最適なものにする力があります。地球の環境改善に役立てることが出来るかもしれませんから」
「それは素晴らしいですわ。是非ともお願いしたいわね」
笑顔で穏やかに談笑する様子はアード側が用意したドロイドによって、まるで側で一緒に歩いているような臨場感とともに撮影され、世界中に配信されている。
アードの機材を利用するのは、ハッキングなどの不測の事態を防ぐためである。
この配信は世界中に衝撃を与えた。大使であるティナ達一行以外で初めてのアード人来訪である。しかも相手は月面の居留地の代表だ。関心を寄せるのも無理はない。
「だがここで声を挙げる国は、自国の状況を正しく理解していない者達だよ。世界的にも高い治安と融和感が浸透している日本だから成り立つ、違うかね?」
「仰有る通りです、閣下。大統領も同じ気持ちです。故に……」
「合衆国は無理に招待せず、日本からデータの提供を受けて来るべき時に備える、かね?」
ブリテン某所にてチャブル首相は、葉巻を片手に合衆国から派遣された密使と極秘会談を開いていた。
「ご賢察、恐れ入ります」
「合衆国は既にアードの主要な活動拠点としての意味合いを帯びている。故に余裕がある。だが、他国はそうではない」
「やはり欧州は落ち着きませんか」
今回の会談はハリソン大統領が提唱した地球統一連合への協力の確認と、欧州方面の状況確認のために開かれている。
「
相変わらずのチャブル節に密使は困ったような笑みを浮かべた。
「今回派遣が予定されているイタリアはどうですか?」
「あの国は些か混乱している。或いは外交員派遣を取り止めるかもな」
「なんですと?」
イタリアの参加は、アードに関してそこまで関心を寄せていないこともあって、他国のガス抜きの意味合いもあったのだが。
「まだ我々も正確な情報を得られていないが、どうやらバチカンが動いているらしい」
チャブル首相の口から語られた地名を聞き、密使は顔を強張らせた。
「まさか!」
「あくまでも我々が掴んでいる範囲だがね。どうやらアードへ宣教師を派遣しようとする動きがある。
無論法王は関与していないことを確認しているし、バチカンの極一部だろう」
「……それは、悪手ですぞ」
「ふっ、彼等には熱心な布教に命を賭ける連中が居るのだろう。それそのものは否定しないが、アード相手には最悪の悪手だ」
チャブル首相は笑みを深め、葉巻を吸い紫煙を吐き出す。
「アードはセレスティナ女王を頂点とする絶対王政が敷かれており、しかも女王は信仰の対象だ。他所の宗教が入り込む隙間など存在しない。
だが、熱心な宣教師にその背景を読み取れるような頭があるか?あるならばこんな話が出る筈もない。
連中は数百年前から続く成功体験を忘れられないのだろう。全く、相手は未開の部族では無いのだがね?
アード人に対して地球の宗教を布教すればどんな反応をするか。無関心か、或いは……」
「たっ、ただちに持ち帰り大統領へ報告します!」
「うむ、そうしたまえ。幸い
密使を見送ったチャブル首相は国内で開かれたたチャリティーイベントへ参加し、国民と交流を図っていたその時。
「死ね!宇宙人の手先め!地球は俺たちの星だ!」
会場に響き渡る銃声、悲鳴、怒号。チャブル首相を過激な反アード活動家の凶弾が襲ったのである。