星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~   作:イワシロ&マリモ

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未来のために

 ブリテンで起きたチャブル首相襲撃事件は世界を震撼させた。犯人はその場で取り押さえられたが、銃弾はチャブル首相の首を貫いたのだ。

 本来は頭部を狙っていたのだが、彼が動いたことで銃弾がそれてしまったのである。だが、首を貫いた銃弾は間違いなくチャブル首相に致命傷を与える結果となった。

 

 

 

「ふはははっ!やったぞ!やってやったぞ!くたばれ!宇宙人の犬が!」

 

 

 

「暴れるな!大人しくしろ!」

「首相を病院へ!早くしろ!」

 

 

 現場は大騒ぎとなった。直ちにチャブル首相は車で病院へ運ばれたが、誰もが最悪の事態を覚悟していた。

 病院へ向けて全速力で突っ走る車内にて、チャブル首相は薄れていく意識を必死に押し留め、震える手で懐を探り。

 

 

 

「閣下!?」

 

 

 

「ふぅ!……ふぅ……やれやれ、心配性の友人は得難いものだよ」

 

 

 

 懐から取り出した医療シートを首に貼り付けると、致命的だった傷が瞬く間に塞がってしまう。

 血を飲んだために噎せ込みはあったが、それだけだ。ゆっくりと身体を起こして座席に深く座る。

 

 

 

「閣下、それはまさか医療シートですか!?」

 

 

 

「ああ、そうだ。安心したまえ、国庫から持ち出したわけではないよ。心配性の友人が個人的にくれたものだ」

 

 

 

 ティリスは地球の情勢から親アードであるハリソン大統領や椎崎首相、そして裏で動いているチャブル首相の暗殺を警戒。密かに私物である医療シートを渡していたのである。そして彼女の懸念は残念ながら的中してしまったのだが。

 

 

「では、直ぐに無事を伝えましょう!」

 

 

 

「待ちたまえ、このまま病院へ向かうように。そしてワシは重傷で予断を許さない。助かったとしても、当分復帰は出来ないと報じるのだ」

 

 

 

「……閣下?」

 

 

 

 車内に居た者達が怪訝な表情を浮かべるが、チャブルは逆に笑みを深める。

 

 

 

「ワシが表舞台から去ったと知れば、逆に不穏分子が表に姿を現す機会が増えるだろう。それを利用して、国内の掃除を済ませてしまおう。

 どう足掻いても我々はアードと共に歩む選択肢しか残されていないし、悠長に議論を重ねている余裕もないからね」

 

 

 

 チャブルの言葉に皆が顔を見合わせる。

 

 

 

「死ぬような体験をしたのだ。ワシには相応の見返りを得る権利があると思わんかね?それに、これくらいやらねば友人に呆れられてしまう。ハーバーグラム君、後は任せたよ」

 

 

 

「お任せを」

 

 

 

 チャブルの指示を受けた情報機関の長は静かに頷くのだった。

 

 

 

 

 チャブル首相の状態はただちに全世界に報じられて人々を震撼させたが、ハリソン大統領と椎崎首相にのみアードの通信機を用いて真相が伝えられた。

 襲撃から数日が経過すると、チャブルの読み通り不穏な者達が活気付いてきた。脱走して姿を眩ませていたクサーイモン=ニフーターも、その一人である。

 

 

 

『いよいよ行動に移した勇者が現れたな!政府の奴らは俺達を宇宙人に奴隷として売り渡そうとしてるんだ!この危機感を持っている奴は世界中に居るんだ!みんな!政府の嘘に騙されるんじゃないぞ!

 あいつらが俺達を騙してきたのは歴史を見れば一目瞭然だからな!宇宙人は地球の資源を食い潰して、俺達を奴隷にするために来たんだ!じゃなきゃ、わざわざ銀河の反対側から来るか!?来るわけがない!

 政府はご主人様に俺達を売り渡して、宇宙人から特別な待遇を約束されているんだ!俺のことを妄想野郎だと笑う奴がいるが、そいつらには言ってやりたいな。

 俺を否定するのは好きにすれば良いが、俺の言ってることが正しかったらどうするんだってな!宇宙人共の奴隷にされた時に後悔しても手遅れだぞ!

 今はまだ宇宙人共も数が少ない!今ならまだ間に合うんだ!今こそ俺達の力を奴等に示して、薄汚い宇宙人共を俺達の星から追い出すんだ!

 宗主国面したブリテンに出来て、俺達に出来ない理由なんざ無いんだからな!』

 

 

 

 クサーイモン=ニフーターによる脱走後初めての放送は、各方面に少なからず影響を与えることになる。

 

 

 

「彼は考えを改めなかったんだね……」

 

 

 

 放送を聞き、悲しげに呟くジョン=ケラーを労るようにジャッキー=ニシムラ(縛りプレイ)が口を開く。

 

 

 

「彼に賛同する者も少数ではありますが、まだ存在するみたいですな」

 

 

 

「ティナ達があんなに頑張っているのに、かい?」

 

 

 

「ふん、人間という種族は私も含めて度し難い生き物ですよ。口では他者と手を取り合おう、分かり合おうと綺麗事を言ってもほんの少し自分と肌の色が違う、言語が違う、性別が違う、文化が違う、歴史が違う、宗教が違うという些細な変化だけで敵と判断するのですから。

 まして相手は異星人、完全に未知の存在です。人間が未知の存在に恐怖し、嫌悪するのは歴史が証明しています」

 

 

 

「だが、彼女達は自分達のことを知ってもらおうと努力しているし、我々も微力を尽くしている」

 

 

 

「ケラー室長、これは感情論なのですよ。彼らは感情的にティナ嬢達を受け入れたくない。この根幹がある限り、どんなに言葉を尽くしても意味を成しません。

 いやはや、感情とは極めて厄介なものですな」

 

 

 

「同時に美しくて、かけがえのないものだよ」

 

 

 

 ジョンの言葉にジャッキーも嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

 

 

「全く同意しますよ、室長。だから私達は手を取り合う夢を見ることが出来る。

 これから交流が進めば、アード人の善性に対する拒否感を抱く人間も現れるでしょう。無償の善意など地球にはほとんど存在しませんからな。

 しかし、かつて我々が確かに持っていた性質でもあると確信しています」

 

 

 

「私もだよ。ただ、やはり世代交代が必須になるか」

 

 

 

「残念ながら、それも事実です。今の世代がアードを完全に受け入れるのは不可能でしょう。

 しかし、教育を整えてアードの恩恵が充分に浸透した後の世代ならば可能です。

 交流が本格化すれば地球の抱えているエネルギー問題はアードの手によって解決しますし、後は時間を掛けて親アード世代を産み出していくしかありませんな」

 

 

 

「……まだまだ入り口にたどり着いただけなんだね」

 

 

 

 疲れたような苦笑いを浮かべるジョン。最近の彼は寝る間も惜しんで各地を飛び回っており、疲労が蓄積していた。その事をよく知るジャッキーはある提案を提示した。

 

 

 

「室長はお疲れの様子、明日開かれる予定の外交団説明会ですが、私が代理を務めましょう」

 

 

 

「いや、そういうわけには」

 

 

 

「ケラー室長が交流の要であることは、論じるまでもない純然たる事実です。

 それに私もアードへ同行していますし、何より記録員として数々の報告書を書き上げたのは私です」

 

 

 

「それはそうだが」

 

 

 

 ジョンが言い淀む理由は、ジャッキーの強すぎる個性故である。

 ジョンの内心を察したジャッキーは、更に笑みを浮かべた。

 

 

 

「私が試金石となりましょう。確かに私は自分が常識的ではないことを自覚していますが、アードには地球の常識など一切通用しないのです。

 私ごときに躊躇するような人物を、アードへ派遣するほうが危険ですよ。それに、カレンお嬢様やメリル女史も随分と心配されておられます。無論、異星人対策室の仲間達もです」

 

 

 

 ジャッキーなりの意義を聞き、ジョンはしばし考えを深めて。

 

 

 

「……分かった、確かに疲れが溜まっているかな。すまないが、頼めるかい?」

 

 

 

「お任せを、室長」

 

 

 

 各国の大使達、外交官の前にジャッキーが現れることが確定した瞬間である。

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