星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~   作:イワシロ&マリモ

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ティリスちゃん、物思いに耽る

 任命式典後、ティナと朝霧を先に宇宙ステーションへ避難させたティリスは、そのままハロン神殿にある政務局長室で弟夫婦と密議を交わしていた。

 

 

 

「パトラウス、ミドリムシの動きは?」

 

 

 

「はっ。ドルワの里で発生した事件について、極秘裏にフリースト殿を呼び出して問い質したのでありますが……」

 

 

 

「義姉上、奴は知らぬ存ぜぬを貫き平謝りをするだけです。始末する許可を」

 

 

 

「待て、アナスタシア。姉上、あくまでも私個人の見解でありますが、フリースト殿は本当に何も知らなかった可能性があります。

 あの狼狽は、演技とは思えませぬ」

 

 

 

 パトラウスの言葉を聞いて、ティリスは深々と息を吐く。

 

 

 

「パトラウスの推測が正しいとするならば、一部のミドリムシが独断専行を働いたことになるな。そうなると厄介なことになるが」

 

 

 

「義姉上、私は政に疎くあります。しかしながら、奴らは遂に直接殿下のお命を狙ったのです。

 しかも、女王陛下のお手を煩わせてしまった。これは万死に値します。

 ここはこの件を強引に責め立てて、一網打尽にするのが得策では?」

 

 

 

 

「女王陛下の為されようについては、私としても完全に予想外だ。確かに奴らは一線を越えたが、死んでしまった以上背後関係を調べるのは、容易なことではない。

 この件を並べて下手につつくと、種族の対立となる。

 女王陛下がそれを望まれていらっしゃるならば是非もないが……アナスタシア、女王陛下のご様子はどうなのだ?」

 

 

 

 

「酷くお疲れのご様子でした。王妹殿下がお側にいらっしゃるので、少しは御心も安らげるとは思いますが」

 

 

 

「で、あろうな。女王陛下のお手を煩わせるなど、臣下にあるまじき事だ」

 

 

 

「千載一遇の好機ではありますが……」

 

 

 

「女王陛下の御心中を思えば、これ以上の無理は出来ない。

 アナスタシア、気持ちは分かるが今は女王陛下に寄り添うのだ。それが近衛の役目だぞ」

 

 

 

「歯痒くはありますが、委細承知しました。近衛は私が抑えますが、何かしらの一手が無いものか」

 

 

 

 口惜しそうに呟かれたアナスタシアの言葉を聞いて、ティリスは敢えて笑顔を浮かべた。

 

 

 

「その件については心配無用だ。やはりティナ殿下は並外れた幸運をお持ちのようだ」

 

 

 

「姉上、この口ぶりから察するに殿下がまた良い拾い物をした様子ですな?」

 

 

 

「そうだ、パトラウス。ゼバ星系で救った者達を率いていたのは、フレストだった」

 

 

 

 ティリスの言葉を聞いて、アナスタシアは慌てて立ち上がった。義妹の慌てぶりを見て、ティリスも笑みを浮かべる。

 

 

 

「まさか、フレスト中将閣下がご存命だっと!?

 しかし、あの会戦で分艦隊は確かに壊滅した筈ですが……」

 

 

 

「そうだ、私もそれは確認している。フレスト本人も何故生き延びたのか分かっていない。気付いた時には、ゼバ星系の宇宙ステーションに居たそうだ。

 当時センチネルの偵察艦隊に発見された直後でな、フレストは混乱する皆を纏めて惑星の一つへ降りて身を隠した。それが事の経緯だ」

 

 

 

「まさに奇跡ですな。些か作為を感じてしまいますが」

 

 

 

「良い、我々にとって最高の手札が手に入ったのだ」

 

 

 

「しかして、中将閣下は?」

 

 

 

「フェラルーシア殿下の件を伝えたら、大層激怒していたな」

 

 

 

 肩を竦めるティリスを見て、パトラウスもまた深々と息を吐いた。

 

 

 

「無理もありますまい。私は詳しくないが、フレスト中将はフェルト殿下の教育係であった筈。そのご息女であるフェラルーシア殿下の置かれている状況を耳にすれば、怒りもしましょう」

 

 

 

「同時に、真実を知る希少な存在でもあります。義姉上、中将閣下の処遇は?」

 

 

 

「当分は太陽系へ居て貰うつもりだ。ゼバ星系の者達が落ち着くまでは、フレストは傍に居るべきだ。なにより、ここに居てはミドリムシ共に狙われる。

 だと言うのに、奴はこのままアードに留まり同族の目を覚まさせると頑固でな。全く、誰に似たのやら」

 

 

 

 溜め息を吐くティリスを、弟夫婦は何とも言えない感情で見つめていた。何せ、目の前の姉もまた頑固者で有名なのだから。

 

 

 

「コホンッ!とにかく、当分は地球の交流に全力を投じる。今回の件でミドリムシも肝を冷やしただろうし、フリーストが馬鹿でなければ統制を強める筈だ」

 

 

 

 自分へ向けられた感情を敏感に察知したティリスは、咳払いをしつつ話を戻す。

 

 

 

「はっ、その日に備えて微力を尽くしましょう。私は政治的な圧力を掛けます」

 

 

 

「心配は無用と思うが、慎重に事を運べ。排除すべきはミドリムシであり、リーフ人ではない。女王陛下はもちろん、我々もこの共生を無駄にしたくはない。

 なによりも、その様な事態となったらあの会戦で果てた者達が浮かばれぬ」

 

 

 

「はっ、細心の注意を払います」

 

 

 

 深々と頭を下げるパトラウスの隣で、静かに腰を下ろしたアナスタシアが口を開いた。

 

 

 

「義姉上、報告が遅れました。此度の一件に前後して、ハロン神殿内で不穏な動きを見せた埒外者四名を排除しました。全てリーフ人であり、ここ最近神殿勤務となった者達でした」

 

 

 

「ハロン神殿にもミドリムシが……自白は得られたか?」

 

 

 

「残念ながら三名はその場で自決。残る一名は手強く抵抗したため、被害拡大を防ぐために已む無く斬り伏せました。申し訳ありません」

 

 

 

「良い、お前は近衛兵の長としての責務を果たしたのだ。称賛こそすれ、責め立てる道理はない」

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

「しかし……ここまでミドリムシが蔓延るか。世捨て人を興じている間に……歯痒いな」

 

 

 

 そっと席を立ったティリスはバルコニーへ出て、アードの見事な夜空を見上げる。満天の星に二つの衛星、そして巨大な輪が特徴的な美しい夜空であるが、それに反して彼女の心中は曇っていた。

 ティリスがリーフ会戦で全てを失い、深く傷心して表舞台から去って三百年。

 その年月はリーフの老害達が思う存分自分達に都合が良いリーフ社会を作り出し、そしてアード社会のあらゆる場所へ根を張り巡らせるには充分すぎる時間である。

 

 

 

「姉上お一人の責任ではありません。問題を先送りにしてしまった我々全員の責任です。リーフの御老体達の本質を見誤りました」

 

 

 

「パトラウスの言う通りです、義姉上。私も政の面で支えられれば、この様な事態には……」

 

 

 

 

「……済まんな……地球の為政者が我々を見れば、嗤おうな……不甲斐ない限りだ」

 

 

 

 弟夫婦の優しさを嬉しく思いつつ、ティリスは溜め息を吐く。明らかに社会にとっての害悪に対して手緩い対応しか出来ないアード人達。

 その並外れた善性の悪い面が今まさに事態を悪化させていることを実感しつつ、若い世代に頼る他ない自らの不甲斐なさに溜め息を吐いた。

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