星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
しかしながら、皆様に満足していただけるかとても心配だ……ですが、それよりずっと皆様の反応が楽しみです
艦隊来訪から数日間は、双方の準備を進めるために公での接触は無かった。
交渉の舞台としては合衆国にある国連施設が設定されており、当日には可能な限りの各国首脳或いは代理者が参加することになっていた。
そのため各国国連大使は準備に奔走することとなり、水面下での外交戦が展開されていた。
既に日本の椎崎首相やブリテンのチャブル首相らアードと深い関わりがある国の政府首脳が現地入りしており、周辺は厳戒態勢となっていた。
また万が一の事態を引き起こさないために、合衆国政府は恥を承知で異星人対策室を通じてアードの関与をティナに要請する。
当然のようにティナはこの要請を快諾し、フィーレとアリアへ依頼してサッカーボール程度の大きさがあるアードの警備ドローンを配置。
更に試作段階ではあるが、地球のアニメなどを参考にして開発されたアード初の人型ロボットであるアースも四機が配備されることになる。
「アースを使うの?」
「ん、運用データと可能なら実戦データがほしい。武装はビームガンと偏向シールド、ビームサーベルを用意してみた。地球人達に聞いたら、これが基本なんだって」
「何を基準にしてるのかよくわかるチョイスだね。また悪ふざけしてフィーレに変なこと吹き込んだなぁ」
ネット民達の悪ふざけに頭を抱えたティナであるが、フィーレが不思議そうに首をかしげたので深々とため息を吐いた。
「まあ良いけど、忘れないでよ?地球人は絶対に傷付けちゃ駄目だからね」
「攻撃されても反撃は駄目?」
「そうは言わないけど、怪我をさせちゃ駄目。気絶させるのがギリギリのラインだよ。分かった?」
「あーい」
ティナは何があろうと、頑なに地球人を傷付けることを良しとしない。これは彼女自身の気質もあるが、反撃して傷付けた場合地球人がどんな反応を示すか全く分からないためである。
地球には多種多様な価値観が存在する。アード社会のように、完全な意思統一がなされている世界では無いのだ。
例えどんな理由があろうと、それを地球人達がどう受け取るかは全く予測がつかない。彼女も少しばかり大衆心理と言うものを学んだ。
その熱狂や流されやすさが、如何に危険なものであるのかもパリで痛感している。
「ティナ、地球滞在中は常に同行させていただきます。マスターフェルと二人きりになりたい時は、母艦でお願いします」
「地球にいる間は四六時中一緒ってこと?それは流石に」
「私からもお願いします。次は、我慢できる自信がありません。良いですね?
……ありがとうございます、ティナはきっと理解してくれると信じていましたよ」
間に入ったのは、笑顔を浮かべたフェルである。彼女の圧にティナは後退りをして、まるで人形のようにコクコクと頭を縦に振るしか無かった。
これによって地球人によるティナ襲撃の難易度は、恐ろしいレベルで跳ね上がることになった。
一行は本格的な交渉が始まるまでの数日間を異星人対策室と軌道上の銀河一美少女ティリスちゃん号、そして月面の居留地を行き来しながら過ごすことになる。
その間朝霧一家は一旦日本へ戻ったが、朝霧少年に関してはアードにとって重要性が急上昇しているので、ティリスがフィーレに依頼して製作させた小型のドロイドが護衛に付くようになった。
見た目はデフォルメされた可愛らしいティルが描かれた小さなキーホルダーだが、危険を察知すると周囲に強力な障壁が展開される。この障壁は、隕石の直撃に耐え得るとされている。
明らかに過剰防御だが、アードからすればセレスティナ女王の姪姫が懇意にしている地球人なのだ。むしろ近衛兵を常駐させないだけ地球側の事情に配慮していると言える。閑話休題。
「しかし、事前協議無しの外交交渉か。これまた地球の常識では考えられないな」
ホワイトハウスにて準備に奔走する傍ら、ハリソン大統領は新しい難関にため息を洩らした。
地球の外交交渉では事前に事務レベルの会談が行われて、ある程度双方の合意がなされた上で行われるのが常である。
だが、性善説を大前提とするアードの外交に事前協議の概念は存在しない。誠心誠意、真心を込めて相手と正面から言葉を交わせば互いに理解できると信じられている故だ。
ましてザッカルはセレスティナ女王から指名された外交大使、その権限は地球ではあり得ない程高い。
友好条約はもちろん、宣戦布告だって独自に行えると説明されれば、地球側としては堪ったものでない。
もちろん今回はティリスとティナが事前に地球の情勢などを詳しく説明しているので、事前協議こそ無いがアード側もある程度は地球の現状を理解しているのが救いか。
「先ずは友好条約を締結し、地球とアードの正式な国交を樹立。その上で、共生するために必要なルール等を協議していく。簡単な案件じゃないな」
そもそも種族が違い、魔法まであるのだ。共生を果たすために必要なルールの設定は多岐にわたり、非常に困難な作業であることが予測された。
「だが、果たさねばならない。何よりも地球人類の未来のために」
「はい、大統領閣下」
決意を新たに、ハリソン大統領は明日のザッカル大使来訪に備えるのだった。
一方ブリテンの駐米大使館には、一足先に現地入りしたチャブル首相が滞在していた。そして彼の下へ密かにティリスがやって来ていたのである。
「友好条約とルール作りは理解した。確認するが、アード側に地球各国と個別に交渉するつもりはない。この方針に変更はあるかね?」
「ないよ、オジサマ。一つの惑星にたくさんの国があるなんて、完全に理解してるのはティナちゃんだけだろうし、その方針は変わらない」
暗に地球内部の都合にアードは一切関心を払わないと宣言されたようなものだが、チャブル首相は愉しげに笑みを浮かべた。
「それはそれは、アード側の真意を正しく理解した各国がどう反応するか見物だな」
「ハッキリ言っちゃうけど、地球にはもう時間がないんだよ。なのに私達の手を振り払うような人達の事まで考えてあげる義理はない。
いや、普通のアード人なら手を差し伸べるだろうけど、私はそこまで優しくない。同胞やティナちゃんに余計な負担をかけさせたくはないから」
アードの気質から外れているのはティナだけではなく、ティリスも同様である。
「まあ、そちらに関しては我々の問題だ。こちらで対処するとして、見返りは?」
普通のアード人ならば見返りを求めないが、目の前の老獪な幼女は違う。そう確信しているからこそ問われた言葉にティリスは笑みを浮かべて。
「あの衛星、月だっけ。あれは地球の持ち物みたいだから間借りしてる現状は好ましくない。だから、地球側の呼称……火星だっけ?あの星をアードの管理下にして貰いたい」
万が一の保険を残すために、ティリスも暗躍する。全てはセンチネルからアードを救うために。