星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
この日、地球の歴史に新たな一頁が加えられた。厳戒態勢が敷かれている合衆国ワシントン国際空港へ、一機の揚陸艇が降り立ったのだ。これはアードの大気圏内降下用の小型艇であったが、その外見は待機していた人々や大勢の報道陣を驚かせた。
何故ならば、その姿はまさに由緒正しきと表現するのが正解か分からないが、古くから地球の人々にミステリーロマンを与えていた存在、つまり俗な言い方をするならばUFOと同じ造形をしてたのだから。より具体的に言えば、円盤形と呼ばれる形をしていたのだ。
これはアード側のちょっとした配慮である。地球にも数多のUFO目撃情報があることを知ったアリアは、自分達以外の知的生命体が地球へ訪れている可能性を考慮すると共に、ある意味地球人が慣れ親しんだ造形の方が警戒心を薄れさせて、自分達を受け入れ易くなるのではないかと考察したのである。
この案は密かにフィーレへ伝えられて、円盤形UFOの形状にロマンを感じた彼女が秘密裏にアードの技術を用いて再現し、今回使用されたのである。
尚、これを投入当日に知ったティナは慌てて止めようとしたが時既に遅く、ザッカル局長率いる交渉団を乗せたUFOは地球へ降り立ち大騒ぎとなった。
「これ、昔から地球へ来ていたUFOはアードのものだって勘違いされる奴じゃん!なにやってんのーッ!」
珍しくティナが胃を痛める結果になったが、普段から周囲にばら蒔いている張本人なので因果応報である。
地球へ降り立ち盛大な歓迎式典と共に出迎えられた交渉団は、そのまま空港内に用意された車両で交渉の場へ移動することとなったが、集まっていた報道陣を見たザッカル局長が誘導から外れて彼らへ近寄る。
地球の常識からすればあり得ない事態であるが、SP達は取り乱さずに護衛を継続してみせた。これは非常識なティナの行動に慣れているが故である。
「地球の方々、先ずは我々を温かく受け入れて下さったことに感謝します。我が名はザッカル。宇宙開発局の長を勤め、ティナ大使の上司である縁から畏れ多くもセレスティナ女王陛下より交渉団の長を拝命させていただいた身である。
我々の目的は双方の交流を活発化させる下地を作ること。アードは地球の良き隣人、いや友としてあなた方と共に歩んでいきたいと考えている。
地球人の喜びに我々も歓喜し、地球人の悲しみに我々も涙を流し、地球人の怒りに我々も共に拳を掲げよう。
どうか、あなた方と共に歩むことをお許しください。それが我らの望みです」
右手を胸に添えて深々と頭を下げる様子は全世界に報道され、アード有力者による予想以上に高い好感度は人々を驚かせた。
そのままSP達に守られながら国連本部へやって来たザッカル局長は、大ホールへ赴く。既に会場には各国首脳や参加できなかった国の代理人である国連大使達が勢揃いしており、拍手喝采にてザッカル局長を迎えた。
事前協議は無かったが、アード側は今回四つの条件を提示して友好条約締結を目指した。本来ならば三つだけであったが、直前でティリスが四つ目を加えたのである。それは地球へ降り立つ前日の話である。
「これまでの交流で得た経験からして、地球人は無償の施しに対して猜疑心を持つ傾向が強いことが分かってるんだ」
「つまり、我々の誠意はかえって彼らを疑心暗鬼にさせてしまうと?」
「そう、悲しいけどそれが地球人だ。だから、分かりやすい見返りを提示すれば大半の地球人は安心して納得する」
「しかしながら、我々が地球に求めるものはありません」
「あるよ。大半の地球人からすればほとんど関心がなくて、それでいて納得しやすくて自分達は痛みを伴わないものがね」
そして、現在。大ホールに集う地球の有力者達を前にしてザッカル局長は怯むこと無く深々と一礼して挨拶を交わし。
「首長並びに代理の皆様は多忙の身である筈。お時間を取らせるのはこちらとしても本意ではない。早速地球・アードの友好条約締結へ向けた条件を提示させていただく」
アード側からの条件、居並ぶ為政者達は皆身構えながら提示される条件を待った。だが、内容は地球の常識からすれば信じられないほど甘いものであった。
「第一に、地球、アード双方はお互いを理性ある文明であることを認める。
第二に、双方の交流をより活発化させるために必要な事柄の制定に直ぐ様取り掛かること。
第三に、アードはあらゆる分野における技術供与及び研究を無償で行う」
これだけでも破格の条件である。ただし、地球側の技術について言及がないのは、全てアリアによって引き抜かれている故である。
だが、四つ目が波紋を呼んだ。
「第四に、地球側呼称太陽系内惑星の一つ、火星の管理権限をアードへ割譲すること。もちろん将来的な火星の共同開発その他の協力は惜しまない。
以上が我々の提示する条件です。是非ともご検討いただき、良い返事を頂けるものと確信しております」
この宣言は、暗に条件についての交渉には応じないと言っている。少なくとも地球の為政者達はそう受け取った。
事実としては、地球側へ可能な限り歩み寄り大きな利をもたらす条件なので、反対する理由はないだろうとアード側が確信しているだけなのだが。
「かっ、回答期限は?」
絞り出すように発言したハリソン大統領を不思議そうに見つめたザッカルではあるが、地球側も意見をまとめる時間が必要であると理解して。
「そうですな、地球時間で三日後にまたこの場へお邪魔させていただく。交流するに当たって、双方に必要なルールを協議しなければなりませんからな。
それまでにそちらの必要な手続きなどを済ませていただきたい。こちらは調印に必要なものは既に揃えてあるので、ご心配無く」
違う、そうじゃない!
この場に参加している者達の魂の叫びである。
取り敢えずアード側の条件を見て代案や内容を詰めようと考えていた地球側からすれば、有無を言わさぬ交渉となった。しかも相手は調印することを前提に話を進めている。
まさに大国による小国への無茶振りなのだが、アード側にその意図がまるでない完全な善意なのだから余計に質が悪い。
「ティナちゃん、今晩にでも会えないかしら?滞在先を教えるから……ええ、フェルちゃんと、出来るならティリスさんも一緒に」
絶望的な空気が流れる会場で、椎崎首相はティナから渡されている端末を操作して連絡を取っていた。