星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
世界融和党系列による不穏な動きは、世界中に広がりつつあった。
世界融和党は日本の政党であると同時に、世界中に信者を持つ宗教団体としての側面がある。
人類皆兄弟と言う信条の下、弱者救済や各種ボランティア活動を積極的に行っていることもあって、何らかの形で関わりがある人間は決して少なくない。
それは合衆国でも変わらず、合衆国支部はそれなりの規模を誇った。
大半の組織員は純粋な気持ちで参加しているのだが、問題は急進的な一部のシンパである。
彼らは本部上層部が持つ極端なリベラル思想、反アード思想を共有しているのだ。
思想そのものは個々の自由であることに異論の余地はない。平和的なデモを起こす程度ならば、各国政府もある種のガス抜きとして黙認していた。
だが、合衆国に存在する支部の過激派達は他所と異なった。其の理由はクサーイモン=ニフーターとチャーオ=ニゴースの存在である。
クサーイモン=ニフーターによる反アード活動は一部の反アード信者達を惹き付けていたが、これに拍車を掛けたのはチャーオ=ニゴースである。
『これまで政府が隠蔽してきた数え切れない程の嘘が暴かれてきたのは、少しでも歴史を勉強すれば分かることだ。
何が分かるかって?政府の奴等は常に俺達を騙し続けているって事だ。真実を隠して、都合の良い虚報を垂れ流す。
目を閉じて耳を塞いでいたら奴等の良いように利用されて使い潰される。
お前達は、政府に使われるために産まれてきたのか?違うだろう。俺達は自由を得るために産まれてきた!自由に生きる権利があるんだ!
だからこそ、今世界を賑わせている宇宙人の問題にも目を向ける必要がある。政府の発表は全て嘘だ。
奴等が真実を口にすることはない。奴等が垂れ流すのは、自分達にとって好都合な情報だけだからな。
クサーイモン=ニフーターとか言う活動家に賛同しろとは言わない。人格面に色々問題があるのは事実だが、少なくとも奴は行動を起こして政府の隠蔽を暴こうとした。
アードと政府の間に密約があるのは間違いない。其の真実を暴くために俺も手を回している。
だから、お前達も手を貸してくれ。奴等の虚構に騙されて操られるだけの人生を歩まないためにな。
チャーオ=ニゴースの真実チャンネル、真実を直視しろ』
チャーオ=ニゴースは明確な反アード活動家ではないが、筋金入りの反政府活動家であり扇動者である。彼の信奉者はクサーイモン=ニフーターよりも多く、その一部が支援に回ったのだ。
最悪なのは、その中に世界融和党合衆国支部の過激派メンバーが含まれていた事である。
密かに物資や資金の提供を受けた彼らは、クサーイモン=ニフーターやチャーオ=ニゴース、更に融和党本部の意向に乗って行動を開始した。
現在合衆国にはアード使節団のザッカル局長と協議するため、各国首脳が集まっている。そしてターゲットとなったのは、訪米中の椎崎総理である。
正午前にワシントン近郊を視察していた彼女は、近年発展著しいドローンを用いた自爆攻撃を受けたのである。正確には未遂に終わったが。
ドローンは予め設定されたルートで椎崎総理を襲撃して爆発したのであるが、アリアが察知。
椎崎総理はティナにとっても重要な存在であり、失うわけにはいかないと判断。事前に椎崎総理本人へ連絡して干渉を開始。
ドローンは予定通り爆発させたが、その際にドローンそのものを簡易シールドで包み込んだ。
アードからすれば遠隔で付与できる簡単で薄いシールドであるが、地球の爆薬ではどうにもならない強度を誇る。
派手な爆音は敢えて遮断しなかったが、爆風その他は完全に遮断された。
同時に立体映像として爆炎を完全に再現することで、観測者が結果を誤認するように仕向けた。
アリアの計略は成功し、椎崎総理襲撃は成功を納めたと誤認させた。この事件は合衆国政府のメンツを傷付けた。
事態を重くみたハリソン大統領はその日の夜に友好国首脳陣、つまりは西側諸国と呼ばれる国々を集めて緊急会合を行った。
「椎崎首相が無事であったのは幸いではあるが、事態は些か複雑化している。
これまでの情報収集によって実行犯の特定は難しくない。だが、問題は背後関係なのだ」
「実に悩ましいですな……」
ドイツのシュバルツ首相のぼやきが全てを示していた。
事件が世間に広まると同時に合衆国だけではなく、世界中に存在する多数の反社会的勢力が犯行声明を発表したのだ。
テロとは、基本的に自分たちの主張を広く知らしめるための行為である。故にテロ行為と、それを公表するための犯行声明はセットである。
自分達の存在を誇示するために、他者が起こしたテロに便乗するのも珍しいものではない。
それでもこのまま調査を進めていけば、多少の時間は要するだろうが背後関係を突き止めるのも難しくはない。
便乗行為は操作を撹乱させるので些か厄介ではあるが。
「ふむ、随分とお優しい判断をするものだな。アード人と関わる内に、寛大になってしまったのかな?」
だがこの会談には、楽観的な考えを許さない者が存在していた。全員の視線が発言者であるチャブル首相へ集まる。
「それはどういう事ですかな?チャブル首相」
「確かに時間を掛ければ、今回の事件は解決する。
しかし、ある方法を使えば簡単に解決出来るのではないかな?」
シルクハットと葉巻が良く似合う老宰相は、笑みを浮かべながら軽い口調で続きを口にした。
「今回声明を出した組織を、全て潰してしまえば良い」
「……はあ?」
余りに発言に唖然とするハリソン大統領。
そんな彼を気にする事無く、チャブル首相は笑みを浮かべたまま続ける。
「こちらに関しても多少の時間を要することに変わりはないが、疑わしい組織を残らず全て潰してしまえば事は容易い。
仮に潰した組織が今回の件と無関係だとしても、相手は元々テロをするような輩であり、裁きを受けるに値する。
潰した所で全く問題はない」
「チャブル首相、流石にそれは問題になります」
チャブルの発言は、司法の大原則である「疑わしくは罰せず」を完全に無視したものである。
政治家として致命的なレベルでの失言であり、本来であれば他国にとって外交の手札になる。
慌てて椎崎首相が制止したが、それでもチャブルは止まらない。
「構うまい、これは当国だけでなく人類の未来のためなのだから」
「未来のため?」
「テロリストは多くの国民の命を危険に晒して、人類が一致団結しなければならない相手がいるにも関わらず、国家を混乱に陥れようとした。
万が一企みが完遂できていたとするならば、ティナ嬢との関係に深刻な亀裂が生じていたでしょうな」
「確かに……」
更に言えばアード側の使節団も滞在しているのだ。タイミングとしては最悪と言える。
「さて、お歴々へ宣言したい」
「……伺いましょう」
「これは良い機会でもある。アードとの交流をより円滑とするために、我が国は各国へ人類滅亡へ誘うような思想を持つ組織の大掃除を提案する」
「……。」
「大掃除になるので少々手間は掛かるが、治安の向上は後々には利益に繋がる。皆様には、賛同していただけると確信している」
「……この場で結論を出すのは……」
「椎崎首相の話を聞いていたかね?彼女は事前にアリアから情報提供を受けて、更にアリアによって救われた。
なのに、アード側に動きはない。それはなぜか。
“見ている”のだよ、我々に自浄能力があるのかをね。これまで何度もテロが起きた。全てアード人を狙ったものだ。
こんな連中を野放しにしている現状を、ティナ嬢はまだしも“彼女達の後ろに居る存在”は不満に思っている」
「それは……」
「我々にはアードの助けが必要不可欠、少なくともこの場に居る皆様はワシと同じ認識であると確信している。
ならば、躊躇する必要はあるまい?我々が動かねば、アードが干渉してくるぞ。
その際は仕事も早いだろうが、最早アードは我々地球人を成熟した知的生命体であると見なさなくなる。
永遠に主導権を握られるだろう。我々には自浄能力があると証明せねば、ね?」
悩む首脳達を前に、チャブルは愉しげに笑うのだった。