星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
地球で血生臭い粛清の嵐が吹き荒れている頃、月面の居留地は平穏な空気が流れていた。
名目上はショックを受けたティナの療養となっていたが、実際には地球で起きている事象に直接触れさせないための措置であり、地球の情報についても一部を意図的に隠蔽して伝えられた。
ティナ本人も何となく察してはいたが、これまで政治や外交をティリスに丸投げしているので口を挟むのも筋違いであると想い、彼女の判断に従っている。
「ワォ!凄い!まるで水族館みたい!」
「地球環境じゃ生きていけないからねぇ。でも、観光地にはなるんじゃないかなってお願いしてみたんだ」
「どうやって運んだの?アード鯛って呼ばれてる魚と同じ感じ?」
「“トランク”を使ったんだよ。地球へ卸してるのは旧式なんだ。最新式は生物まで収容できるんだよ。
まあ、色々制限があるから人を運ぶのに向かないのは間違いないけどね」
居留地にはティナ達との友人関係が公表されているカレンが、万が一への備えとして避難して来ている。
ティナの精神安定のためにとティリスがジョンに提案し、同じくティナの心中を案じており、尚且つ情勢が落ち着くまで娘を安全な場所へ移したいジョンの利害が一致した結果である。
現在ティナとカレンは気晴らしの一環として、居留地にある利用されていないドームを一つまるごと改修した、巨大な水族館を観賞しているのだ。
これはティナが提案したものであり、娯楽施設兼観光が出来る場所を作ろうとした試みである。
そもそもアードに水族館と言う概念は存在しない。海洋開発を諦めていたアード人からすれば当然のことではあった。
せいぜい海洋庭園くらいのものであり、それらも大半が魔法で再現されたものであるし、個人が楽しむレベルのものである。
研究のために利用するのは様々な制限から難しい。
しかし地球との交流によって優れた海洋開発技術を知ったアードでは、これまで諦めていた海洋開発の機運が高まり始め、その一環として海洋生物の捕獲や生態調査が再熱し始める。
そこに目を付けたティナは、生態調査と娯楽のために捕獲された海洋生物の一部を引き取り、生物を保存できる最高級“トランク”を利用して居留地へ移して環境を再現して水族館としたのだ。
本人としては断られる前提の軽い提案であったが、当然ながらとんとん拍子に話が進んで困惑したのは記憶に新しい。
「海洋庭園と違って、こっちには色んな生き物が居て楽しそうね!」
「まあ、海洋庭園は安全な生き物しか入れてないからね。こっちはそのまま持ってきたけど」
日本でよく大きさの指数となる東京ドームが十ヶ所くらい入りそうな、巨大な水槽である。
それだけでも圧巻であるが、実は専用として急遽開発された強化ガラスには地球の技術を参考にしている部分があり、ここにも技術交流の成果が現れていた。
「それにしても……似合うだろうなぁって思ってたけど、良く似合うなぁ……」
ティナは視線を友人へと移して、感嘆の息を吐く。カレンは本人の希望もあってアードの民族衣裳に身を包んでいるのだが、その容姿の良さもあって良く似合っていた。
アード人と同じ金の髪も相まって、翼があればアード人の少女と言われても納得してしまうだろう。
「ふふんっ、そうでしょう?肌触りも良いし、履き物も履き心地は抜群よ!」
服そのものに防護効果が付与されているのだ。能力と合わせて、今のカレンを地球の武器で傷つけるのは至難の技と言えた。
「気に入って貰って良かったよ。地球に比べたら娯楽も少ないけど、我慢してね?」
「娯楽が少ない?そんなことないよ!だってティナ達が居るんだから、退屈なんかしないし!」
明るい笑顔を浮かべるカレンに励まされるのを感じながら、ティナも笑みを浮かべて心の安らぎを確かに実感していた。
ティナとカレンが水族館にて穏やかな時間を過ごしている頃、
そこには何の設備も存在しない平面が広がっており、周囲を覆う壁も透明で星空や地球、月の表面や他のドームが良く見える絶景スポットである。ただ唯一の特徴として存在するのは、地面に広げられた地球産の土である。
このドームは地球環境の再現と研究を目的とする環境研究施設として建設されていたが、ティリスから工廠や大規模ドッグの建設を優先するように指示が出されて建設計画が変更されて後回しにされたのだ。
それ故に土があるだけの広大な空間だけが残されたのだが、そこに目を付けたフィーレが試験場としての利用をおねだりした。
ティナ達は基本フィーレに甘いので、このおねだりはあっさりと許可された。無論居留地のリーダーであるセシルも有効活用できるならばと快諾している。
「クレア姉ぇ、鉱石が無くてもゴーレム作れる?」
「ええ、土があれば作ることが出来ますよ。一度触れたものなら、鉱石類を創造するのも簡単です。どちらにしても材料として土が必要になりますが」
フィーレが連れてきたのは、フェルとの茶会を終えて暇だったクレアである。
彼女の発言はまさにチートであるが、フィーレとしてはこれほど頼もしい言葉は無い。
「じゃあ、今から言う鉱石を作って」
「分かりました」
クレアは特に疑問を指示された鉱石を次々と創造し、それらのインゴットをフィーレは慣れた手付きで調合していく。
魔法を使ったそれは、地球人からすればまさに常識外れの光景であった。
少しでも詳しい者は、それらの鉱石類や合金類が全て地球のものであると分かるだろう。
一時間ほど経過した頃、カレンと水族館を堪能したティナが、フィーレの不在を知って慌てて駆け付けた。
「ティナ姉ぇ、これあげる」
そんな彼女へフィーレは気安い感じに四角く小さな金属の塊を差し出した。
唐突に差し出されたそれを困惑しながら受け取ったティナは、それが思ったよりも軽いことに気づいた。
「これは?」
「地球に存在する金属で作った合金だよ。地球人達が作ったどの合金よりも軽くて硬い。加工も簡単。
もちろん地球の技術で作れるレベルに仕上げてみた」
「新しい合金かぁ」
地球人からすれば衝撃的な発明品であるが、これまで建造したロボット群に比べればマシだろう。
クレアを一緒に連れ回したのも、素材を産み出すため。そう考えて安堵の息を吐いたティナは。
「で、これ作った」
フィーレが指差した先に聳え立つ黒鉄のお城、国民的ロボットアニメの魔人なZさんを見て卒倒したのであった。