星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
異星人対策室のジョン=ケラーだ。椎崎首相を連れて日本にある地球外技術研究センターから月へ転移したのだが、ティナが唐突にカミングアウトした事実に強い衝撃を受けた。
前世の記憶か。随分とスピリチュアルな言葉ではあるが、異星人に魔法まで実在するのだ。少々驚いたが、それは些細なことだ。
重要なことは、前世が地球人であることだな。衝撃は受けたが、それと同時に納得する点もある。
ティナが来訪してから、心理学の権威達が集まってプロファイリングを行っていたのだが、数ある疑問のひとつとして彼女の地球に対する理解の高さと好意的な態度が挙げられていた。
アード人全てがそうであると断じることが出来ないのは、ティリス殿の態度を見れば一目瞭然。
彼女はどちらかと言えば、冷淡な目で地球人を見ている。
まあ、原因はまさに我々の側にあるのだが。
だが、ティナは無条件で地球に対して好意的であり続けている。それどころか地球の文化やルールに歩み寄り、理解を示しているのだ。
フィーレを見れば分かるが、数々のやらかしでティナが慌てる姿がよく見られる。
しかし、フィーレ達の行動は当たり前なのだ。何故ならば彼女達は地球のルールを知らないし合わせる必要も無いのだから。
その答えが、これか。
「色々聞きたいことはあるが、秘密を打ち明けてくれてありがとう、ティナ。
君の信頼を裏切らないと誓うよ」
「ジョンさん」
「それで、最初に聞いて良いかな?
前世の記憶云々に関してなんだが、アードでは珍しくないのかい?」
アード人には未だに謎が多い。もし前世の記憶が継承されていくならば、考え方次第ではとんでもない時間を生きる種族となるわけだが。
「いえ、私が知る限り前例は無いと思います」
「なるほど、君はかなり特殊な例か。秘密にするのも頷けるな」
それからティナはゆっくりと、自分の前世は日本人でサラリーマンだったと教えてくれた。これで謎が一つ解明されたな。
地球、特に日本について詳しい理由が判明したのだ。
それだけじゃない。これまでの映像解析で、ティナは英語など各国の言語はリアルタイムで本人の声でアリアが再現しているが、日本語に関しては翻訳を使用していないことが判明している。
この理由も不明だったが、何のことはない。前世が日本人ならば簡単に話せるわけだ。
だが、この事実を公表するのは不味い。ティナ本人もそう感じて黙っているのだろう。そしてその判断は間違いじゃない。
前世が日本人であると公表された場合、日本贔屓として日本の立場を危うくする可能性が高く、今後の交流に悪影響を及ぼしかねない。
絶対に言えないな。墓まで持っていこう。
「ちなみに、椎崎首相との繋がりに関係があるのかな?」
私の問い掛けに、ティナは曖昧な笑みを浮かべた。やはりこの娘に腹芸は無理だ。根が素直すぎる。それでは肯定している様なものだ。
……まあ、本人達の秘密なのだろう。それをわざわざ問い質す必要もない。
本人も自覚しているから秘密にすることにしたのだろう。
いやまあ、今思えば結構ボロが出ているが、真実を知らなければ分かるまい。
「分かった、今の質問は忘れてほしい。私以外に君の秘密を知っているのは?」
少なくとも連携は取れる。フェルは知っているだろうし、周りに露見しないように協力……んん?
ティナが首を左右に振ったぞ。まさか。
「……この事をフェルは知っているよね?」
「いえ、話していませんから」
何ということだ。
「最初に私を選んでくれたのは嬉しいよ。でも、ちょっと順番が違うと思ってしまったんだ。
余計なお世話だと思うけど、最初に話すべきはフェルだと思う。
オジさんの老婆心として聞き流してくれても良いよ」
もちろんカミングアウトしてくれたことを嬉しく思うが、この世で下手をすれば家族以上にティナを想ってくれているのはフェルだ。
彼女の献身と二人の深い親愛をよく知っている身としては、まだフェルに話していないのは意外だ。
「フェルに……でも、怖がられないか心配で……」
年相応、いやこの場合は外見年齢か。相応の少女らしい表情を浮かべるティナは実に愛らしい。
親友との関係が変化することを恐れている。
だが、それは杞憂だ。大人として、背中を押してあげるのが私の仕事だな。
「私の言葉に意味があるのかは分からないが、それでも大丈夫だと断言しよう。フェルはどんな秘密だって受け入れてくれるよ」
敢えて笑顔で断言してあげれば……うん、強い娘だ。瞳から不安の色が消えた。
「ジョンさんがそこまで言ってくれるなら……話してみます」
「時間はたっぷりとあるんだ。ゆっくりと話をしてみると良い」
聡いフェルの事だ。或いは察しているのかもしれないが、彼女はティナが自分から話すのを待っているのだろう。ティナに対する信頼と親愛を感じられるな。
私の予測に過ぎないが、大外れではあるまい。
ジョンに背中を押されたティナは、彼と別れて直ぐにブレスレット型端末を操作してスリープモードにしていたアリアを起動した。
『スリープモード、解除。お話は終わりましたか?ティナ』
「うん、ごめんねアリア。フェルはもう休んでるかな?」
既に良い時間である。フェルが休んでいても不思議ではないが。
『いいえ、マスターフェルより伝言を預かりました。星降る丘にて待つと』
星降る丘とは、ティナが気紛れに名付けたクレーター群の近くにある隆起した丘であり、そこからは居留地や地球側の月面基地、そして地球が一望できる絶景スポットである。
伝言を受け取ったティナは、あわてて現地へ向かう。
宇宙服は必要ない。着ている衣服そのものに環境適応魔法が付与されており、何より最近は徐々に封印が解かれてきた影響で漏れ出した純度の高いマナによって無意識に全身を障壁で包み込んでいるのだ。
「フェル!」
「ティナ、ジョンさんとのお話は終わりましたか?」
丘にある手頃な岩に腰かけていたフェルは笑顔でティナを迎えた。真空である月面で通信を用いずに会話が出来るのか。
その理由はさておき、ティナはフェルの隣に腰を降ろした。
「待たせちゃってごめんね、フェル。でも、どうしてここに?」
約束等していないのに、フェルはここで待っていた。その理由を問いかけると、フェルは優しげな笑みを浮かべる。
「そろそろお話をしたくなるかなって思いまして」
どうやらフェルにはなにもかもお見通しらしい。ティナは苦笑いを浮かべながらも、ジョンとフェルの好意に感謝した。
「フェルには敵わないなぁ……じゃあ、聞いてほしいんだ。私の秘密を」
それからティナはゆっくりと前世の記憶、そしてフェルと出会うまでの日々を語り始めた。
フェルは相槌しつつ、中断せずに最後まで聞いた。
「だからフェル、私は真っ当なアード人って訳じゃないの。
気味が悪いよね……?」
自虐的な笑みを浮かべたティナを、フェルはそっと抱きしめた。色んな言葉が脳裏を過る。
「これからも、ずっと一緒です」
ただ一言であったが、そこに込められた様々な想いをティナはしっかりと受け取り、抱き返した。
「うん、ずっと一緒だよ」
焦る必要はない。ゆっくりと話す時間は幾らでもある。今は自分を受け入れてくれたその喜びを噛み締めよう。
雄大な地球に見守られながら、少女達もまた新たな一歩を踏み出したのだ。