星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
世界中で反アード勢力の大粛清が開始されて六日が経過した頃、日本でも反アード勢力及び反政府勢力に対する検挙が相次いだ。
政治の世界でも、野党だけではなく与党勢力でも椎崎首相の足を引っ張る派閥や議員達の汚職等が暴露されて永田町は上から下まで大騒ぎとなっていた。
そんな最中、大打撃を受けたのが世界融和党である。密かに武器を集めていたり、諸外国の勢力との密接な関係や様々なテロ計画が暴露された彼らは予想外の反応を示したのだ。
「この様な事実無根の虚偽の数々により、我が党が受けた影響は計り知れません!
これ等の誤った情報を拡散した張本人であるティナ大使に謝罪と賠償を求め、証人喚問を実施することを強く要請します!
これが受け入れられない場合、あらゆる法的措置を執り行うことをここに宣言します!」
ティナに対する証人喚問要求である。この騒動の背後にアードの存在があると確信した彼らは、それ故に攻撃的な姿勢を見せたのだ。
この暴挙に与野党を問わず彼らの正気を疑った。
先ず第一に、この件にティナは全く無関係であることは言うまでもなく、前回の参考人招致ではまさかのフィーレ爆誕で散々論破されたばかりであるのだ。
性懲りもない。少なくとも政府側はその様に受け止めた。
政界に混乱の嵐が吹き荒れていたが、半日の休養を挟んで椎崎首相は事態の収拾と難しい舵取りに全力を尽くしていた。
重要な党三役による公金着服まで暴露したのだ。直ぐに三役を信頼できる人材に任せることで混乱を最小限に留めた。
幸いなのは、政府閣僚にスキャンダルが存在しなかったことだろう。
或いはアリアによる意図的な情報操作の可能性はあったし、野党からの攻撃も懸念されたが野党自身が火消しに躍起になっていたので、追求の手が及ぶことはなかった。
そんな激務の最中ではあったが、一通り執務を終えた椎崎首相は専用車で都内の病院へ向かう。
それは彼女の日課であった。
「一週間も来れなくてごめんなさいね、美咲」
「あっ!お母さん!」
その一室にて、ベッドから状態を起こした白髪の少女が笑顔で椎崎首相を出迎えた。彼女の名前は椎崎 美咲。
椎崎首相の一人娘であり、今年で十三歳になる。
我武者羅に邁進していた椎崎首相を支え続けてくれた愛する夫の忘れ形見。
美咲が生まれた時に不治の病で急逝してしまったが、それでも椎崎首相は再婚話を全て断って亡き夫に躁を立て、愛娘を大切に育て上げた。
政治の世界に身を置きながらのシングルマザー生活は極めて困難であったが、周囲の支えもあってすくすくと成長していく美咲の存在は椎崎首相にとって掛け替えのないものとなっている。
だが、十歳の誕生日に病が発覚。奇しくも夫を奪ったものと同じ病を患い、闘病生活を余儀なくされた。
国会議員、そして首相の娘として日本でも最高峰の医療を受けられているが、治療法は今も見付からずに病は幼い美咲の身体を蝕み続けていた。投薬の影響で髪の色素も抜け落ちてしまっている。
「実は月へ行っていたの。とっても綺麗な場所だったわ」
「じゃあ、ティナさんとも会えたの!?」
「ええ、元気そうで良かったわ」
「いいなー、私も会いたい!」
「もちろんよ、美咲。元気になったら直ぐに紹介するわ。一緒に月へ行きましょう。それでね?」
楽しげに月での話を聞く美咲を見て、椎崎首相は心を痛めた。
総理大臣として激務に身を置きながらも、何とか時間をやりくりして可能な限り美咲と会っているが、日に日に悪化していく娘の様子を見て彼女も精神的に追い詰められているのだ。
「あら、もうこんな時間ね。あんまり遅くなると悪いから、今日はもう休みなさい。また直ぐに来るから」
「うん!おやすみなさい、お母さん!またね!」
「おやすみなさい」
しばし親子の暖かな会話を楽しみ、病院を後にした椎崎首相は車中にて憂鬱な気持ちを抱いていた。
アードの力があれば愛娘を救える。それは予測ではなくアリアから実際に提案されたものである。
母として今すぐにでもティナにすがり付いて、美咲を助けたいと言う想いは強い。
だが同時に、同じように不治の病に犯されている子供は日本や世界に大勢居る。
総理大臣として、コネで自分の子供だけを救うような真似は出来ない。
彼女の生真面目さ、そして総理としての矜持がその選択を取ることを良しとしないのだ。
故に椎崎首相は、まだティナに娘が居ることを知らせていないしアリアも彼女の意思を尊重して沈黙している。
「母親失格ね……」
彼女の口から漏れた呟きを、同乗している秘書やドライバー達はただ聞くことしか出来なかった。
だが、希望はある。このままいけば年内にはアードの医療技術が地球で導入されるだろう。
そうすれば、堂々と美咲を救い出すことが出来る。
後少しだけ我慢して欲しい。椎崎首相は心中にて愛娘にエールを送りながら、思考を政治へと切り替えた。
翌日も朝から政界の混乱収拾のため、椎崎首相を含めた政府及び与党一同は精力的に動いていた。
椎崎首相も何とか時間を作り、各党の党首と会談を開いて新たな局面への協力と理解を求め、国民生活への影響を最小限にするため奔走していた。
その最中、病院から緊急の呼び出しが来たのだ。
強烈な不安を抱きながらも皆の前で気丈に振る舞い、午前最後に予定されていた政府寄りの野党である革新党との党首会談をキャンセルし、直ぐ様病院へ向かった。
あくまでも平静を装って駆けつけた病室周辺では、医師や看護師達が慌ただしく行き交っていた。
その有り様を見て椎崎首相は嫌な予感が的中したと悟り、申し訳なさそうな主治医へ歩み寄る。
「お忙しいところ申し訳ありません、総理」
「いいえ、いつもありがとうございます、先生。それで……?」
あくまでも気丈に問い掛ける椎崎首相へ、主治医は重々しく口を開いた。
「今朝の検診で、脳内に出血が確認されました。恐らく肥大化した腫瘍による圧迫が限界を迎えたものと思われます。
時期としては真夜中に発生した確率が高く、もう少し発見が早ければ……」
高鳴る心臓の音が脳裏を支配し、病室に居る愛娘は明らかに顔色が悪く呼吸も浅い。
直ぐに手術を!そう口にしようとした椎崎首相であったが、主治医の言葉に引っ掛かりを覚えた。
「……先生、手術は……?」
「……出血が止まりません。残念ですが……これ以上は……手術にも堪えられないでしょう」
主治医の言葉を正しく理解した椎崎首相は、足元から崩れ落ちるように。
「総理!」
だが、崩れずに踏み留まった。自分は内閣総理大臣、一億を越える国民の未来を背負う立場にある。悪い言い方をすれば、これはありふれた悲劇の一つに過ぎない。
毅然として受け入れるのだ。最後のその時まで、誇れる母であるように。
その様に強く念じ、自分を騙そうとした刹那、後ろから抱き締められるのを確かに感じた。
柔らかな感触と視界に映る真っ白で綺麗な翼。
「どうして、教えてくれなかったんですか?」
かつて彼女を救ったヒーローが、再び彼女に手を差しのべたのである。