星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
ティナが椎崎 美咲の状態を知ったのはアリアによるものであった。
ジョンとフェルに秘密を打ち明けた翌日、特にやることも無いのでフェルと一緒にのんびりと過ごしていたのだから。
一方アリアは早い段階から椎崎美咲について関心を寄せており、その情報収集に余念が無かった。
具体的には、軌道上にばら蒔いた無数の偵察ドローンの幾つかを専用として配置する程度には観察対象として認識していた。
当然ながら入院している病院も監視対象であり、フィーレが暇潰しに作った警備ドローンを一機密かに護衛として配置していたりする。
普段は屋上にある給水タンクの一部に擬態しているが。
さて、そんなアリアは当たり前のように美咲の容態を正確に把握していた。冷厳なる現実として、今日一日も身体が持たないことも。
以前治療を提案したが謝辞されていたため、これまで静観してきた。
だが、椎崎首相は交流に於ける重要人物であることに疑いの余地はない。母親である椎崎首相の意思を尊重していたが、今後の交流に多大な影響が出ると判断した。
あくまでもAIである彼女は、どこまでも合理的に状況を分析して行動に移した。
具体的には、ティナへの通達である。そして我らがティナの判断は。
「今すぐ助けにいくよ!フェル!お願い、手を貸して!」
美咲の存在に驚きながらも容態を聞いた瞬間助けることを即断し、フェルと一緒に居留地から日本の病院へ一気に転移したのだ。
「あれがアード人とリーフ人か!」
「まさか、生で見ることが出来るなんてな」
ティナとフェルの登場は、周囲にいた医療従事者やボディーガード達を驚かせた。
だがティナはそれらを気にすることなく、椎崎首相を後ろから優しく抱きしめたのだ。
「……言えないわよ。病気に苦しんでいる子供は、世界中にたくさん居るわ。
それなのに、私だけティナちゃんに頼るような真似は出来ない」
椎崎首相は回されたティナの手に自身の手を重ね、震えながらも総理大臣として毅然と返答した。
「分かっています。美月さんが総理大臣として頑張っている姿は、いつも見ていますから。
真面目な美月さんは、自分だけ特別な扱いを受けるのが嫌なんですよね?」
「ええ……そうよ、ティナちゃん」
今すぐにでも美咲を助けてと叫びたい。だが、総理大臣としての矜持がそれを許さない。国を率いる立場だからこそ、身内には殊更厳しく当たらねばならない。
でなければ規律が緩み、そこが腐敗の温床となる。椎崎首相はこれまでそのような例を山のように見てきた。
一般人からすれば娘を優先しない態度は非難されるだろう。だが、彼女は国のリーダーである。
むしろ私よりも公を優先する姿勢を評価する者も少なくない。
何よりも、あの日救われた命と人生を決して無駄にはしたくない。自分を助けた人に誇れるように生きたい。彼女の生き様の根底にあるのは、その強い想いである。
それを知るティナは、椎崎首相の強い想いを受けながらも抱きしめている手に力を込めた。痛くないように、そして労るように。
「重いものを背負わせてしまって、ごめんなさい。だから、これは私の罪滅ぼしとワガママです。美月さんは何も気にしなくていい」
「ティナちゃん?」
そっと離れたティナはそのまま病室へ入り、美咲の側へ歩み寄る。既に呼吸も浅く、顔色も悪くなっている様子を痛ましく想いながら見つめて、両手を翳す。
「アリア、サポートをお願い」
『畏まりました』
「ティナちゃん!?」
慌てて椎崎首相が入室した直後、優しい光が愛娘を包み込んだ。
「災いを退け、活力を与えよ……フォースキュア」
ティナは生来魔法がほとんど使えない。これは封印されているためであるが、それでも彼女はある分野の魔法のみ熱心に学んでいた。それは治癒魔法の分野である。
例え僅かであろうと、誰かを救える可能性があるならば決して無駄にはならない。
前世から続く善性がアード社会で更に洗練された結果であり、封印が解かれつつある今、彼女の努力は実を結んだ。
「先生!バッ、バイタルが!」
「信じられない!まさに奇跡だ!」
「これが、魔法っ!」
危険値を示していたあらゆるバイタルの数値が正常化していき、顔色もみるみる改善されていく。
苦しみから解き放たれた美咲はゆっくりと目を開き、そんな彼女にティナは笑顔を向けた。
「ティナ……さん……?」
「そうだよ!はじめまして、美咲ちゃん。ずっと会いたかった」
「ーーーーーっっっっ!!!」
震える美咲の手を両手で包み込むように握るティナの姿を見て、椎崎首相は崩れ落ちて愛娘とティナを同時に抱きしめ、言葉にならぬ声と共に大粒の涙を流したが。
「総理!?」
「なっ!?」
いつの間にか周りにいた医療従事者達やボディーガード達は病室から廊下へ出されており、閉じられた扉の前でフェルが仁王立ちしていた。
「無粋はダメですよ?」
彼女はいつものように優しげな笑みを浮かべていたが、その場に居る全ての地球人が確信した。逆らってはいけないと。
それは理性や感情ではなく、生物としての本能が目の前の少女に対して警笛を鳴らした結果である。
「ティナちゃん、本当にありがとう。どんなお礼をしても足りないわ!」
一時間後、色々と落ち着いた椎崎首相は改めて深々と頭を下げた。
「さっきも言いましたけど、これは私のワガママなんです。だから美月さんが責任を感じる必要はありませんよ?」
あっけらかんと言うティナに、椎崎首相は様々な想いを込め再び頭を下げた。
美咲は回復したばかりなのか深い眠りについているが、その寝顔は穏やかなものである。
「でも、実際に魔法を使ったのは今回が初めてなんです。何か不具合があるかもしれません。
だから、美咲ちゃんを月の医療設備へ連れていきたいんですけど、駄目ですか?」
『ティナの提案に同意します。詠唱に問題はありませんでしたが、万全を期するためにも本格的な医療設備での入院を推奨します』
この時期に相手側へ国のリーダーの子供を預ける。外交的には人質と見なされても可笑しくない提案である。
だが、それが純粋な善意故の提案であることを知る椎崎首相は。
「美咲は月へ行くのが夢だったの。叶えてあげて、ティナちゃん」
「はい!大切なお友達ですから、精一杯おもてなしをしますね!」
或いは野党からの激しい追求があるかもしれない。だが、自身に続いて愛娘も救われた椎崎首相はティナの願いを叶えるために受けて立つ覚悟を決めた。
ティナは大切な友人が増えて命を救い、日本国に大きな影響を及ぼし、アード的には期せずして大きな外交カードを手に入れることとなった。
「素晴らしき哉!これぞまさに愛の為せる業!
と言うわけでフィーレちゃん、おじさんと一緒にゲッ◯ーロボ見ようねぇ」
「イン◯ーダー?物量を相手にして進化するロボット?
……うん、見る~」
感動の裏で、豪徳寺センター長がヤバイものをフィーレに勧めていた。