星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
椎崎 美咲の劇的な変化によって、直ちに精密検査が実施された。
分析の結果、背中に出現した羽根はリーフ人の一般的な羽根と全く同じものであることが判明。
同時に神経系統が接続され、体内にはマナを取り扱うために必要な臓器、通称“コア”がいつの間にか出現していたのだ。
更に衰弱していた身体も一般的なリーフ人と同程度に改善され、これらの要因から美咲はリーフ人化してしまったと結論付けられた。
「みっ、美月さんにどうやって説明すれば良いの!?」
ティナは頭を抱えたが、周りは別の反応を見せていた。
「不思議なことではあるが、同胞に成れて嬉しい限りだ。
これから色々学ぶ必要はあるが、心配はしなくて良い。私達が付いている」
セシリアは当然として、月に住まうアード人やリーフ人達は美咲の変化を暖かく受け入れたのだ。
これは完全な価値観の違いである。
地球人からすればとんでもない事態である。まして相手は国家を率いる指導者の娘だ。政治的、外交的にも大問題となる。
だが、アード人やリーフ人からすれば受け止め方が違う。確かに前代未聞の出来事であるが、九死に一生を得て同胞の一人となったのだ。
肉体的にも地球人を凌駕しているのは言うまでもなく、魔法を使えるのだ。
狂気といえる善性を持つアード人や高過ぎる同族意識を持つリーフ人である彼ら彼女達にとって、この事を慶事としない理由が存在しないのだ。
当然ではあるが、当の本人は最初困惑した。
だが、羽根の使い方をその場で学んで飛んだ瞬間、満面の笑みを浮かべて喜びを露にした。当然ではある。
長い闘病生活で心身ともに衰弱していた彼女にとって、より強靭な身体と魔法の習得はこの上無い幸福として前向きに受け止めたのだ。
これは母である美月の変化を目の当たりにし、また月へ預けれる際に自分のような事が起きるかもしれないと事前に教えられていたことも大きい。
「凄い!私、飛んでる!」
「あんまりはしゃぐんじゃないわよ、美咲。
危ないから低めに飛びなさいよね」
「少しずつ慣れていけば良いですから、ゆっくりと飛びましょう」
天井の高いドーム状の建物は飛行訓練に最適であり、フィオレ、フェルから羽根の使い方を学びながら、美咲は無邪気に自身の変化を楽しんでいた。
若さ故の高い適応力もあるが、母や周りの態度から自身の死を覚悟していた彼女からすれば、今の状態は夢のようなものである。
「ありゃりゃ、美咲ちゃんがリーフ人になっちゃったね☆」
「理屈が分かんないなぁ。アード由来のものとリーフ由来のものじゃ反応が違う?」
「正確には、我が部族に伝わる霊薬なんだが、不思議なことがあるものだな」
ティリス、フィーレ、セシリアも全く問題視していない現実にティナは頭を抱えた。一縷の望みをかけて視線をクレアへ移してみたが。
「身体そのものが作り替えられたと。確かに興味深い変化ですが、問題はありませんよね?
自身をアップグレードすることは、別に不思議なことじゃありませんし。喜ばれるのでは?本人も喜んでいますし」
ノーム人は本来地球人よりも短命な種族だったが、自身に遺伝子操作その他を含めた改良を施して長命となった種族である。
故に美咲の変化も驚きはするが、その問題点を理解できる筈もなかった。自分の身体がアップグレードされたことに何の問題があるのかと首を傾げる。
まさに種族の価値観の違いが顕著に現れた結果でもある。
凄まじい価値観の違いに頭を悩ませるティナであるが、連絡しないわけにはいかないため直ぐ様椎崎首相へ連絡を取った。
ただ慌てていたので事前にアポイントメントなど取っておらず、国会審議の真っ最中だったのが問題であった。
幸いにして椎崎首相からすれば慣れたものであり、直ぐに小休止を宣言して足早に議場を後にした。野党は良い顔をしなかったが、緊急時の対応と宣言されては声高に批判することも出来なかった。
控え室へ駆け込み専用のブレスレット型端末を起動した椎崎首相は、慌てた様子のティナを落ち着かせつつ事態を把握した。
「まあ、ある程度は覚悟していたわ。あの娘が元気なら文句は無いわよ」
「ごめんなさい、周知が出来ていなくて……と言うか、こんな時は価値観の違いに悩まされちゃいます」
何せ完全な善意であり、何が問題か理解しているのはティナだけである。
正確にはティリスも理解しているが、彼女はむしろ政治的な意味合いから黙認している。親アードの国家指導者と一人娘をアード側へ引き込めるのだから。
「ただ、そうなると色々と問題があるわね」
「はい、私達からしても前代未聞です。美月さん達とはまた違った変化ですから、様子観察に時間を貰いたいです」
「それは構わないわ。今の状況からして、美咲は月に居た方が安全だから。
お願いね、ティナちゃん」
「はい、美月さん!」
それから二三言葉を交わして通信を切った椎崎首相は、足早に議場へ戻る。
数十年前より日本のサブカルチャー文化は世界を席巻しており、そんな日本で生まれ育った美咲もまたサブカルチャー文化に慣れ親しんでいる。それ故にその価値観は些か他の人種とは違った。
有り体に言えば、自由に空を飛べて魔法が使えるようになる。そして害もないのだ。
その事実に喜ばない日本人は極少数であろう(偏見)。
大事なのは、椎崎母娘はその極少数に含まれていない事実だ。政治的な問題はあるが、本人が元気になって喜んでいるならば問題ない。母である美月はそう結論付けたのだから。
一方合衆国では政財界に発生した混乱を最小限に留めるため、ハリソン大統領を中心に一致団結して対処に当たっていた。
幸いにして国民生活に直結するインフラへの影響はほとんど無く、不足分は軍を動員することで対処していた。尤も、軍部もまた影響を受けていたので完璧な対応には時間を要してしまったが。
だが、ハリソン大統領はそれを必要なことと割り切った。人類が纏まるには、荒療治が必要であると認識している故である。
時間的な余裕があるならば話は別だが、今の人類に猶予はない。
その信念の下頑張っている彼の下へ、異星人対策室から連絡があった。月へ移動していたザッカル局長の来訪と、早急に会いたいとの内容であった。
連絡を受けたハリソン大統領は予定を変更して、直ぐ様異星人対策室のニューヨーク支部へ向かった。
かつては本部として機能していたビルは、今現在政府との連絡に使われる事務所代わりとなっており、同時に本部から目を反らさせるための場としても利用されていた。
そこの応接室にて、ハリソンはザッカルとの会談に臨んだ。
「急な要望であるにも関わらず、聞き届けてくださりありがとうございます」
「いえいえ、大切なお客様の為ならば幾らでも。それで、何かご要望がおありだとか?」
互いに笑顔を浮かべて会談は穏やかな雰囲気で始まった。
「手短に申し上げますが、条約調印式についてです。我々の作法を押し付けるつもりはありませんし、魔法があることが大前提ですからな。
地球の作法に則ったものにしたいと思っているのです。よって、具体的な内容と開催予定日を教えていただきたいのです。
そちらにも都合があるでしょうから、地球時間で二日以内に教えていただければ幸いですな」
ザッカルからすれば完全な善意である。地球の作法に従う姿勢は好感を持てるが、問題は期日が二日しかないことだ。
中華の横やりによって紛糾している最中であるが、アード側は条約締結と条件受け入れを全く疑っていないのだから。
これらを感じ取ったハリソンは凄まじい胃痛を感じながら、笑顔を浮かべて二日後に連絡することを約束することしか出来なかった。