星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
地球側にとって最大の不幸は、唯一状況を何と無くではあるが理解できるティナが美咲の変化とその後の様子観察に掛り切りとなって、地球へ意識を振り向けて居なかった事である。
当然アリアはハリソンとザッカルの会談を把握していたが、今現在ティナの関心が美咲へ向いていた事もあって知らせていない。
アリア自身も興味深い研究対象として美咲にリソースを割いていたので、会談後に地球で発生した騒動に関心を向けて居なかった。
唯一その騒動を把握していたのはティリスだが、チャブル首相と連絡を取りながら事態を静観していた。
あくまでも地球側の問題であり、過度な介入な内政干渉となると判断した故である。
だが地球側、特に親アード国家群はむしろアード側の積極的な介入を望んでいた。
圧倒的な強者による介入は、反発も生むと同時に大きな抑止力となる。
何よりも、アード人と触れ合う機会が増えればそれだけ理解が浸透する。
未知故の恐怖は、既知となる事で大抵は改善されるのだから。
とは言え、今現在ティナ達が月へ引きこもった原因もまた地球側にあるのだ。来訪を要請することに躊躇が生まれた。
双方の差を正しく認識する故の判断である。尤も、ティナ本人は呼ばれたら何処へでも行くつもりなので、ここでも双方に認識の相違が発生してしまったのだが。
「二日以内に意見を纏めよと仰有るのですか!?無理です!せめて一月は頂きたい!」
「無理は承知している!だが、これはアード側からの要望なのだ!彼等は二日以内に調印式の日取りを教えて欲しいと行ってきたのだ!長時間待たせるわけにはいかん!
もし期日までに返答できなければ、どの様な対応をしてくるか分からないのだぞ!
手段は選ぶな!人類の未来のためだ!」
合衆国や友好国ではハリソン大統領によって会談の内容が周知され、同時に合衆国外務大臣は部下達に指示を出し、それは外交の最前線となっている国連本部の国連大使に対する厳命となった。
無茶とは言え、宮仕えの悲しい性として命令された以上実行するしかない。
そこで先ずはもう一つの大国、連邦と急いでアポイントメントを取った。意外なことに、合衆国からの接触を待っていたかのように連邦側は直ぐに応じた。
「先日申し上げた通り、我が国の立場は変わらない。懸念は表明しましたが、反対しているわけではありません。
むしろ賛成票を投じると確約しましょう」
「では、なぜあの様な?」
「一種のガス抜きですよ。大半の国にとって、火星の所有権よりも国内の安定が最優先事項。
合衆国主導の議題へ物申した。その事実だけで満足するものです。内政面への支援を提示すれば、賛成票を投じるでしょうな。
我々も協力しましょう」
連邦の真意を推し量ることは出来なかったが、時間がないのもまた事実。合衆国を中心とした西側諸国は、国際外交では異例の早さで反対していた国々へ経済支援などを提案。
特に合衆国からの譲歩を引き出した諸国は賛成することを約束した。僅か一日と言う異常な早さであった。
これは、アード問題で各国の国連大使達が繋がりを深めていた事も影響していた。
翌日午前には決議が始まり、大多数の賛成によってアードとの友好条約締結が可決された。
同時に、緊急で開かれた安保理事会では特例としてこの件に関する拒否権の無効化を合衆国が表明。他国も続き、中華も渋々と承諾した。
そして翌日、ハリソン大統領は直ちにザッカル局長へ同意が取れたことを連絡した。
「それは素晴らしい!いや、私達のために皆様の貴重な時間を浪費させたくない。
可能ならば、今すぐにでも行いましょう!」
善意全開の提案に、ハリソン大統領の胃が悲鳴を挙げたのは言うまでもない。こんな時だけは再生するジョン=ケラーを羨ましく思ってしまった。思っただけではあるが。
その日の夜。国連本部にて急遽開催された調印式で各国の国連大使達が見守る中、地球代表として担がれたハリソン大統領と急遽来訪したザッカル局長が議定書に調印し、ここに地球=アード友好条約が締結される運びとなった。
「地球の皆様に最大限の敬意と感謝を捧げます。これからアードは地球人の善き友として、共に歩ませていただきます。
願わくば、双方の未来が幸福の光で満たされますように」
記者達の前に立ったザッカル局長は笑顔でその様に宣言した。地球との国交樹立はセレスティナ女王の願いであり、決定事項である。アード社会において、セレスティナ女王の意志を聞いて出来ませんでしたは通用しない。
無事に締結できたことは、同時に肩の荷が降りたことを意味する。それ故の晴れやかな気持ちでもあるのだ。
地球側からすれば堪ったものではないが。
大人達が苦労している最中、我らがティナは。
「大丈夫です。自分を信じて、語りかけてください。必ず応えてくれますから」
居留地にある訓練所にて、両手を前に突き出した美咲の後ろからフェルが優しく言葉を掛ける。
美咲は目を閉じて、集中しながらフェルの声に従い言葉を紡ぐ。
「ファイア!」
次の瞬間、掌に生成された火球が飛び出して、クレアが作った的に命中して燃え上がる。
「出来た……!」
「上手ですよ、美咲さん。呑み込みが早いですね」
「フェルさんの教え方が上手だからですよ」
リーフ人となってしまった美咲は、人類の夢である魔法を使ってみたいとお願いした。
フェルがその願いに快く応じて、ティナとクレアが付き添う形で魔法の練習を開始。
最初にフェルがお手本を見せて、初歩の魔法であるファイアを一発で成功させて呑み込みの良さを発揮した。
「凄いよ、美咲ちゃん!私なんて初級魔法を使うのも苦労したのに」
「皆さんのお陰です!ティナさんの魔法も見てみたいです!」
「私の魔法?」
「はい。テレビでも、あんまり魔法を使ってるのを見たことがなくて」
「あー……まあ、魔法を使う機会が無かったからねぇ」
初級魔法であるファイアですら、かつてのティナだと死活問題となる。
だが、多少は成長した(ティナの感覚)今ならば、簡単な魔法は使える筈。
「クレア~、新しい的をお願い!」
「分かりました~!」
クレアが右手を少し振るうだけで、用意されていた土から立派な的が生成された。それを確認したティナは右手を的へ向ける。
「ファイア!」
ティナとしては、全力を出しても今の自分じゃ美咲と同じかちょっと小さい程度の火球を想定していた。
だから思い切りマナを込めた結果、数十メートルの巨大な火球が撃ち出され、的に直撃して大爆発を引き起こした。
想定していたフェルが障壁を展開して爆風を防ぐことが出来たが。
「……は?」
ティナ自身が呆然と立ち尽くす結果となり、密かに観察していたティリスは笑みを浮かべるのだった。