星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
「はぁ……」
ここは星降る丘。正式な名前じゃないけど、私が勝手にそう呼んでる月のお気に入りの場所。
ここからはドーム状の建物が連なる居留地や、地球の月面基地が見下ろせるんだよね。
そして何より、空を見上げれば青い地球が見える絶景スポットだ。
周りにはたくさんのクレーターがあるし、多分隕石がたくさん落ちたんだろうなって思って、そんな名前をつけた。
いつの間にかセシルさん達もそう呼ぶようになっていたのはビックリしたけどさ。
「私が……お姫様かぁ……」
ばっちゃんから衝撃のカミングアウトを受けて一時間後、取り敢えず落ち着くために星降る丘の淵に腰掛けて、ため息を吐きながらばっちゃんから言われたことを考える。
お母さんが女王陛下の妹なら、私は姪っ子になる。女王陛下にお子様がいらっしゃるなんて聞いたこともないし、もしかしたら私が後継者になったりするのかな?
……何度か見た、私が女王になる夢。流石に不敬すぎると思って誰にも言わなかったけど、これってまさか予知夢ってやつなのかな?
『女王陛下は未来を見通す力をお持ちなんだ。
そしてティナちゃん、その力は貴女にも受け継がれている。
まだまだ完全じゃなさそうだけどね☆』
あの後ばっちゃんが色々と教えてくれた。まあ、私が混乱しないように触りだけね。
その中で教えられた未来視の力。私の場合は予知夢がそれに当たるのかな。
いや、パイロットをやってる時にも感じた。特に先日ケンタウリ星系で起きた戦いで感じたアレは、未来視の一環なんだろうなぁ。
ニュー◯イプじゃなくてある意味残念な気持ちはあるけど、実態はそれ以上だった。
「そりゃ確かに転生特典とか無いの?って愚痴ったけどさぁ……これは予想外だよ……」
結果、こうして私は絶景を堪能できずに頭を抱えてる。
ケンタウリ海戦でドンパチして、自分の前世をフェルやジョンさんにカミングアウトしたり、美咲ちゃんを助けたらリーフ人に成っちゃったり。そして私がお姫様だった件。
……ここ数日イベント盛りだくさんだなぁ。なんて現実逃避もしたくなるよね。
ぼんやり考えつつ、何気無しに近くの石を拾う。月の石だ。
前世で私が生まれる前に開かれた万博で注目されたものだっけ?
地球以外の星から持ち帰った石は、科学的な意義以上のロマンを内包している。
月面基地があって、開発が本格的になってる今の地球じゃ、昔ほど貴重なものじゃなくなってるんだろうなぁ。
「あー……そうなるかぁ」
力を込めてぽいっと投げてみたら、あっという間に視界から消えちゃった。まあ重力は地球の六分一しかないし、アード人の力で投げたらこうなるよねぇ。
……ん、誰か近付いてくる。フェルかな?
「やっぱりここに居ましたね、ティナさん」
「クレア?」
予想と違ってやって来たのはクレアだ。ちなみにお互い宇宙服なんか着ていない。
真空の月面で音が響いたり言葉を交わせるのは魔法と科学の……なんか、アレだよ。
フィーレに聞いてみたけど、難しい単語ばっかりで理解するのは諦めた。
「何だか思い詰めたようなお顔をされていましたから気になって。それでフェルさんに聞いたら此処にいる筈だって」
「フェルが……ごめんね、心配かけちゃって」
フェルとしては自分が傍に居たかったが、今のティナに自分がリーフの女王候補であると告げるのは更なる混乱を招くと判断し、ノームの後継者であるクレアに託したのだ。閑話休題。
「悩み事ですか?」
クレアは笑顔を浮かべて隣に腰を降ろした。
「ん……まあ、そんな感じかな。衝撃的過ぎるカミングアウトをされちゃってさー」
「実はセレスティナ女王陛下の姪姫様だった事ですか?」
「え?クレアは知ってたの!?」
あの場に居なかったし、フェルは言い触らすような娘じゃない。
「アードで迎え入れて下さった時に、女王陛下とお話をする機会がありまして」
「いつの間に」
クレアの行動を全部把握してるわけじゃないけどさ。
「ティナさんには内密にと言われまして。ただ、直接お会いしてみてその意味を正しく理解しました」
「そうなの?」
女王陛下と直接お会いできるなんて、アードでも貴重な機会なんだよなぁ。
「ええ、ティナさんがこのまま成長したらこうなるんだろうなって直ぐに感じるくらいには、色々とそっくりでしたよ」
「そりゃまあ、姪っ子だからねぇ」
不思議な感覚だなぁ。私が知らないだけで、周りの皆は知っている。
……流石に叔母さん呼びは不敬すぎるな。女王陛下でいこう。
秘密にされていたことに不満はない。自由に育って欲しいと言うお母さんの願いだもん。
そのお陰で好き勝手やれてるんだし、文句がある筈もない。他にも理由はあるんだろうけどさ。
「いきなりお姫様なんて言われても今一実感が湧かないんだよねぇ」
ここで使命だとか言われたらまだ良いんだけど、引き続き自由にして良いってばっちゃんから言われた。
地球側へ伝えても良いし、お姫様として振る舞っても良い。全部黙ってるのも良いってさ。
選択肢があり過ぎるのも困るなぁ。何より実感が無い。
でも、何を選ぶにしても責任は果たさないといけない。
「アードの作法はまだまだ勉強中ですが、将来に備えて学ぶことはたくさんあると思いますよ」
「だよねぇ。聞いちゃった以上今まで通りにはしたくないし。
クレアはどんな感じだったの?」
クレアはノームのお姫様だ。
「私ですか?確かに小さな頃からノーム王家の姫として知識や作法なんかは教育されてきました。
ただ私は所謂お転婆娘でしたから、良くお父様や皆を困らせたものです」
「意外だなぁ、クレアって真面目だから」
懐かしそうな、そんな優しい表情を浮かべてる。良かった、聞いて直ぐに悲しい思い出を蘇らせちゃったかと焦った。
「お勉強よりも大地の恵み、つまり土を触っている時間が好きでしたからね。
それでも何だかんだでお姫様は出来ましたし、ティナさんもやりたいようにやっては?
女王陛下もきっとそう願っていらっしゃいますよ」
「ん……ありがとう、クレア」
自分のやりたいように……か。
正直まだ理解が追い付いていないけど、それはアードに帰ってから聞けば良いか。
お母さんと女王陛下……うん、考えるのは後回しにしよう。胃がキリキリしてきた。
「ムーンベースボールっっ!!」
巨大化したカレン(アード装束)が地球をバックに、月の大きな岩をメジャーリーガー並みの投法で遥か彼方へ投げ飛ばす風景を眺めつつ、ティナは取り敢えず考えることを放棄したのだった。