星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
「中々派手にやってるみたいだねぇ、アリア☆」
「私は地球人へ情報を提供しているだけです。それらの情報をどのように取り扱うか、それは地球人が自ら選択して実行した結果であり、我々の関知するものではないと判断します」
月では比較的穏やかな時間が過ぎていたが、地球各地では今も凄惨な弾圧が展開されていた。
アリアはこれらの流血が伴う情報を極力ティナ達が知ることがないよう意図的にシャットアウトしており、詳細はティリスとザッカル局長等にのみ共有されていた。
同時にこの粛清劇に際して、アリアは過激な反政府・反アード勢力だけでは無く、潜在的な反発勢力に関する情報を各国政府へ提供して粛清を促していた。
一種の恐慌状態に陥っていたフランス政府は提供された情報の通りにリストアップし、一部では罪をでっち上げるような事までして弾圧を強化し、各国政府は困惑しつつもそれに続いた。
その有り様はまさに、地球人を用いたアリアによる地球の反アード勢力の粛清であった。
「地球人の罪は、当事者である地球人が裁くべきです。
私は将来的に交流の妨げとなりそうな思想を有し、かつ地球の法を犯している者をピックアップしているだけです」
淡々と答えるアリアを見て、ティリスは少し困ったような笑みを浮かべた。
「否定はしないけど、やり過ぎないようにね☆」
「アード批判へ繋がらないよう、細心の注意を払っています。
少なくとも地球側に痕跡を辿る力はありません」
アリアからの情報提供であるが、そのセキュリティレベルはアード基準であり、情報提供元は各国情報機関やシンクタンクとして徹底的に偽装されていた。
少なくとも地球側の電子技術で、この偽装を見破ることは不可能である。
もちろん事実を知る政府首脳陣は別であるが、それを暴露すれば自分が粛清対象となるのだ。口を紡ぐのは当然と言えた。
「まるで恐怖政治だね☆」
「私としてもティナの意志を尊重して穏当な手段を選択したかったのですが、それは不可能でした。
少なくとも今の地球人に穏当なやり方で交流促進を進められません。
ならば、強引にでも交流を促進するための選別を行う必要があります」
「私達は神様じゃないんだよ?☆」
傲慢とも取れるアリアの発言に、流石のティリスも苦言を呈した。
「例え地球人が十人死んだとしても、十一人が我々と共に歩む道を選ぶならば問題ありません。
百人の地球人が死んだとして、百一人の地球人が救われるならば問題ありません。
今回の粛清で流れた血によって、地球とアードの共生によるより良い未来へ進むことになるならば、そこに問題は生じません」
それはどこまでも冷徹な足し算と引き算。すなわち、損得勘定である。
AIである彼女だからこその意見であった。
だが、豊かな感情を習得しつつある彼女もAIである以上人の感情の機敏を正しく理解できなかった。まして地球人は感情の生き物と揶揄される程である。理性よりも感情が優先される場面は多々あり、消えることの無い根強い反アード感情に苦慮することとなる。
さて、血生臭い粛清の嵐が吹き荒れる最中、合衆国某所。打ち捨てられた教会を自ら修繕してアード教団の本部としたケイン=ラッセルは、幹部達を集めて法話を行っていた。
「彼らは確かに神を理解しなかった。それ故に粛清されるのはある種仕方がないのかもしれません。しかしながら、我々がこの行動に加担することはありません。それは我らが神、ティナ様の御意志に背くこととなります。
地球人の罪は、地球人である我々が裁くべきであり、我々の業は我々自身の手で乗り越えるべきものです。
われわれの過ちは、我々自身が正すべきものです。
神は、我々に自らを省みて生まれ変わる機会を下さいました。何と慈悲深いことでしょうか」
ケイン=ラッセルは自身の言葉を真剣に聞く仲間達をゆっくりと見渡す。
「ティナ様は、容赦なく力を振るえるお立場にあります。
我々の罪を悪と断じて、正義の為に討ち滅ぼしたとして、誰が文句を言えましょうか。
しかしながらティナ様は慈悲深く我らの過ちを赦し、チャンスを与えてくださったのです。
ならば我らは敬虔な信徒として、ティナ様の御意志を形にせねばなりません。慈悲には慈悲を。
彼らは誤った道を歩みましたが、それは些細な誤解によって生じた誤りなのです。
故に我らは、慈悲の心で彼らに救いの手を差し伸べなければなりません。
彼らの更正を真に願い、真摯な真心で接すれば必ず道は開けるのです。
心無い誹謗中傷を受けた際は、直ぐに連絡を。私が受け止めます。決して悪意に飲まれないよう、徹底してください」
ケイン=ラッセルの檄によって、アード教団は各地で宣伝活動と慈善活動を更に活発化させた。
誹謗中傷に晒されることも多かったが、彼らはそれらに屈すること無く黙々とボランティア活動に従事した。
その姿は大勢の人々の心を確かに掴んだ。それは同時に、新アード世論形成の一助となり団員の増加によって組織も拡大された。
「我々は善意によって集まった団体であり、利を得る者が居てはなりません」
組織の拡大に合わせて腐敗が蔓延するのはある種当然の帰結と言えた。故にケイン=ラッセルは教団の腐敗を避けるため徹底的に利権から教団を遠ざけた。
運営資金は寄付によって成り立ち、資金は一部の維持費や諸経費を除いて慈善事業へ投じられた。
そして資金管理そのものを外部の第三者に委ねた。
ちなみにこの第三者となる団体は厳重に秘匿されているが、合衆国政府系列である。
さて、アードとの友好条約締結など世界が確実に動き始めている頃。
地球とアードの未来を担う子供達にも一つの進展があった。
「~!……マコ!」
「ティルちゃ……ー?!」
日本。今日も今日とて謎の技術を使って朝霧少年と遊んでいたティルだが、別れの時に何かを思い立って朝霧少年へ声をかけた。
呼ばれた朝霧少年が振り向くと、翼を羽ばたかせて勢いを乗せたティルが文字通り飛び付いてきた。そして二人の唇が優しく触れ合い。
「えへへ、ちゅーしちゃった!」
「てぃっ……ティルちゃん……」
夕陽が照らす中、幼い二人ははにかみ合う。互いの顔が赤いのは夕陽に照らされているからか、あるいは別の理由があるのか。
大人達が知らない間に、幼い恋もまたゆっくりと歩み始めていた。それはアードと地球の未来を占うような光景でもあった。