星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
こんにちは、朝霧 誠です。父さんから詳しい話は聞けないけど、ニュースを見る限り世界は大きく動いているのを感じます。
学校の同級生達の中には不安に思う子も居るから、アードと関わりがある僕に出来ることは少しでも不安を和らげることだと思って色々とお話をしてる。
アードへ行ったことはまだ極秘扱いだから、喋ることが出来ないのはちょっと辛い。でも、いつか皆にアードでも体験を教えてあげたい。
たまに見かける反アードの人達が言うような危険は、アード人には無いって胸を張って言える。
そんな毎日を過ごしているんだけど、変化があるとするならティルちゃんと二時間過ごすことが追加されたくらいかな。
基本的には僕の部屋でお喋りだ。出来れば日本の町を案内してあげたいけど、ティルちゃんが毎日遊びに来てるのは秘密だから仕方ない。
ティルちゃんを退屈させないように、毎日地球の雑誌や色んなことを調べるのが日課になったなぁ。嫌じゃないから良いんだけど。
この日もティルちゃんとお喋りをした。話題は、地球の海についてだったかな。特に深海生物のお話はウケた。アードで見た巨大生物は地球に居ない……と思うけど、深海は宇宙と同じくらいロマンが詰まってる。
で、いつものようにお開きの時間になったんだけど……まあその、ティルちゃんにキスされちゃった。
突然のことで頭が真っ白になった。ティルちゃんのことは好きだし、このままゆっくりと一緒に大きくなって、その時に出来たら良いなぁなんてぼんやり考えていたから。
「えへへ、ちゅーしちゃった!」
笑顔を浮かべるティルちゃんは、いつも以上に可愛く見えた。
何もかもを投げ出して、そのまま流れに身体を任せたい気持ちがスッゴく沸いてきたけど、必死に我慢した。
僕たちはまだ子供だし、何より今僕に抱きついているティルちゃんは幻影だ。
触れるし、暖かさもあるけど魔法で作られた幻なんだ。
「ティルちゃん」
「ん?」
「ありがとう、とっても嬉しかった」
「どーいたしまして!バイバイ、マコ!」
言いたいことはたくさんあったけど、最初にお礼を伝えた。嬉しかった気持ちに嘘は吐きたくないし、勇気を出してくれたティルちゃんの気持ちを無下にはしたくなかった。
ティルちゃんも嬉しそうにしてくれたけど、そこで時間が来ちゃった。
光の粒になって消えちゃったのを確認して、僕は部屋にあるベッドへ飛び込んだ。
心臓がうるさいくらいバクバクしてるし、顔が熱い。とっても熱い。身体も熱い。まるでサウナに入ってるみたいだ。
「はぁ……情けないなぁ」
ティルちゃんも僕のことを好きになってくれているのは知ってた。父さんからは、こんな時は男の子がリードするものだって教えられていたのに。
結局僕が勇気を出せなくてティルちゃんにやらせちゃった。情けない。
自分の不甲斐なさに溜め息を吐いていると、ドアがノックされた。
「誠、今大丈夫か?」
「父さん!?
う、うん。大丈夫だよ!」
ビックリしたけど、慌てて部屋の中を見てティルちゃんが居た跡が残っていないと確認して返事をした。
「入るぞ……ん?どうしたんだ。顔が赤いが、熱でもあるのか?」
「ううん!大丈夫だよ!ちょっと暑かっただけだから!」
日本外交官でありアード公認外交官であり異星人対策室の朝霧だ。今更ながら肩書きが増えてしまったな。数ヶ月前までは外務省の窓際族だったんだが、振り返ってみれば随分と出世したものだ。
まあそれに合わせて心労も増え、ケラー室長から勧められた胃薬を愛飲する日々を送っている。
さて、我が息子の顔を見るにティルさん……姫殿下は随分と息子を気に入ってくれたようだ。
あちらの家族の身分を考えれば胃が悲鳴を挙げるが、同時に人柄も充分に承知しているので安心感もある。妻はかなり乗り気だ。
更に言えば、ティアンナさん……王妹殿下は随分と妻を気に入っている様子で、「早く瑠美と姉妹になりたいわ」とまで漏らしていた。妻も満更ではない様子だ。一体二人の間で何があったのか。
……いや、女性同士の関係に男が口を挟んでもロクな結果にはならない。静観するとしよう。
ん?ティルさんの件を知っている理由か?
誠は秘密を守ろうと頑張っている。その姿は微笑ましいが、私達夫婦には事前にティアンナさんから詳細を知らされているのだ。
アードの技術や魔法は理解不能だが、親しくしているジャッキーの言う通り有りの侭を受け入れるしかない。理解しようとするのがそもそも不可能だ。何より科学や魔法など完全に専門外だからな。
「それなら良いんだが……急で悪いが、荷物を纏めなさい。最小限で構わないから」
「何処かへいくの?」
「ああ、月へ行くぞ」
「え?月!?」
内閣府及びアリアから緊急で知らされたのだが、どうやら追い詰められた過激派の一部が誠の身柄を狙っているらしい。ティルさんの一件で誠は有名になったし、私の息子であることも知られてしまった。
私ではなく息子を狙う卑劣さに激しい憤りを感じるが、残念ながら四六時中誠の側に居ることは出来ない。それに私は強化された身体があると言えど、素人だ。
息子を守るためには、安全な月へ逃がすのが最適だ。どのみち次のアードへの旅路にも連れていくことが決まっているからな。
「突然でビックリさせてしまうが、色々事情があるんだ。済まないが、もう少しだけ我慢して欲しい」
「わかった。直ぐに準備するね」
聞き分けの良い息子で助かった。
……思えば、誠もいつの間にか成長したな。この数ヶ月の経験がこの子の成長を促したのだろう。
父親として嬉しくもあり、寂しくもある。そしてちょっと不甲斐ない気持ちにもなるが、誠が元気ならばそれで良い。
それと、妻の瑠美はこのまま旅館に残る。旅館やすらぎには、フィーレさんが用意してくれた警備ドローンが密かに配備されていて、万全の警備体制が整えられている。
ついでに言えば、観光資源として例の人型ロボットのアースが一機正面玄関に鎮座している。
表向きには動かないレプリカとして展示しているが、実際には本物でいつでも起動できるらしい。
頼もしい限りだが、それでも誠を月へ連れていくのはアード側の要請、より具体的にはティリスさんからの要望だ。
有り体に言えば、将来に備えて少しでもアード社会や文化に触れさせたいのだろうな。
父として思うところはあるが……誠の恋路を応援するしかないな。
準備を済ませた誠を連れてそのまま富士山麓にある地球外技術研究センターへ移動し、そこで待機していたメリルさんと一緒に転移装置で月へ向かった。
今現在使えるのはケラー一家だけだからな、仕方ない。
そして何度も訪れた居留地へ到着した瞬間。
「あっ!テレビで見たことがある!もしかして、朝霧くん?」
何故かリーフ人に成っている総理の娘さんを見て、私は愛用している胃薬をラッパ呑みするのだった。
……総理は知ってるんだろうなぁ。