星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
サッカーW杯。四年に一度の世界中が沸く一大イベント。国の代表達がスタジアムで世界中の人達に見守られながら競うスポーツの祭典。
前世じゃサッカーに興味が無かった。テレビの中継や周りの盛り上りを見て、「ああ、W杯かぁ。日本が勝ったのかなぁ?」って思う程度の関心だったからなぁ。
もちろん何処の国やチームが強いとか、有名な選手とかはほとんど知らないし、ルールだってお互いのゴールへ玉を入れる基本中の基本しか知らない。
まあつまり、前世じゃほぼ縁がないスポーツだった。
唯一縁があるとすれば行き付けの飲み屋さんの大将が大のサッカーファンで、贔屓にしてるチームや選手が活躍すると上機嫌になって色々オマケが増えたことくらいかな。それくらいの関係だ。
「なのに、なんでこうなるの?」
サンダル越しに感じる芝生は、前世じゃ感じたこともない不思議な感覚だ。
そこらの公園にある芝生とは、明らかに品質が違うのは私にだって分かるくらいだ。
そして巨大な競技場を囲むように広がる観客席には、数万人の人が集まって大歓声を上げてる。
正直に言って、かなりうるさい。選手の皆さんは凄いよ、この中で言葉を交わせるんだから。
私達は魔法で言葉を通せるようにしてるけど、それでもうるさいんだから。
まあ、つまり私達はなぜかドイツで開かれているサッカーW杯の舞台にお邪魔してるんだよ。何故こんなことになったのか良く分からない。
セシリアが地球のスポーツに興味があるみたいな事を記者会見で答えたんだけど、それからとんとん拍子で私達の参加が決まっちゃった。なんで?
「こんなにもたくさんの地球人が集まるなんて、とても大切な儀式なのですね」
「儀式じゃないからね?クレア」
「何をするのかは知らないが、これ程の観衆に見て貰えるのだ。昂るじゃないか、ティナ」
「それはセシリアだけだから。私は緊張してるんだからね?」
「熱量が凄いです」
「圧倒されちゃうよねぇ。でも、大丈夫だから落ち着いて。悪いことじゃないからさ、フェル」
「興味深い。地球人はその闘争心を争い以外の形で解消する術を持っていると」
「そこまで深く考えなくて良いよ、アリア」
セシリアはヤル気満々で、フェルは気圧されつつも警戒心が高くなってる。アリアは妙な解析をしてるし。
無理もないけど、これも交流のためだ。笑顔を忘れないようにしないと。
さて、招待されたのは良いけどサッカーって十一人でやるスポーツだよね?私達は四人しか居ないから当然試合なんて出来ない。
数を合わせるためにクレアのゴーレムを出そうかと思ったけど、地球人を怪我させてしまう可能性があるから中止した。
私達の前に集まってる人達は、人種も様々なドリームチーム……らしい。急遽各国の超有名な選手をかき集めたんだって。試合の日程とか大丈夫なのかな?
ティナの心配通り大会の運営は急遽決まった親善イベントの調整で地獄を見たが、政治の要求故にどうすることも出来ず、文字通り奔走して死屍累々となった。閑話休題。
「人数の問題もありますから、親善試合を組むことは出来ませんでした。
しかし、折角なので地球で有名なスポーツを是非とも体験してください」
私達と一緒に居るのは、ドイツの首相さんだ。他にもボディーガードや政府関係者の皆さんが集まって、ちょっと物々しい雰囲気がある。
「ありがとうございます。でも、急なイベントで皆さんを困らせてないか心配です」
サッカーファンの人からすれば、余計なイベントは嫌になるんじゃないかな?
私の質問に首相さんは笑顔で答えてくれた。
「そうでもありませんよ。今この場に集まっているのは、文字通り地球が誇る名プレイヤー達によるドリームチームです。
むしろこんなイベントでもなければ実現しませんし、ファンの皆さんにも好評ですよ」
「そんなものですか?」
「私もサッカーは詳しくないけれど、そんなものじゃない?ティナちゃん達はお客さんなんだから気にしなくて良いわよ」
私達の傍には、ボディーガードとしてスタジアムで合流できたメリルさんが居る。
「メリルさんがそう言うなら……朝霧さんは間に合いませんでしたね」
「仕方無いわよ、急な予定変更なんだから。ここは合衆国や日本じゃないし、諦めるしかないわ」
言うまでもないが、ティナが関わると必ず急なスケジュール変更が付きまとう。
合衆国や日本はこれまでの交流でそれ等を精神的な苦労と引き換えに学習しているが、ドイツ政府は完全に対応できなかった。まあ、場の流れに乗っかった所以でもあるが。
それ故にホテルで合流する筈だった朝霧は、スケジュール変更に伴い現地の駐在大使と調整のため参加できなかったのである。
余談だが、何気にサッカーファンである朝霧はこの結果を悔やんだらしい。閑話休題。
それから私達はドリームチームによる短時間の親善試合を観戦して、更に一流プレイヤー達の神業の数々を間近で見せて貰った。
「凄い!」
サッカーに詳しくない私や文字通り初見のフェル達も釘付けだ。ルールは分からないけど、凄いことをしてるって一目で分かるんだから。
「玉を使った競技か、見ていて胸が熱くなるな。私も身体を動かしたくなったぞ!」
まあ当然ながら、競うのが好きなセシリアが興味を示して、ならば少し交流をって話になったんだけど。
「この場を知らせないのは不義理だな。ちょっと待ってくれ」
場を整えようとしたらセシリアが端末を弄り始めた。
記録でも撮るのかなって思っていたら、十分くらい経って私達の近くに若草色の魔法陣が現れた。
会場がどよめいて、そこから現れたのは。
「面白そうなことしてるじゃない。私も交ぜなさいよ!」
『ああーっと!これは!突如現れたのは、リーフ人のフィオレさんだーっ!!!』
会場に響き渡る実況の声に観衆が沸き、大歓声を上げた。
「おお!お友達を呼んでくれたのですか!」
フィオレの登場で、首相さんや関係者の皆さんは大喜びだ。いやまって!?
「フィオレ!?どうやって来たの!?かなりの距離があるんだよ!?」
だってフィオレとフィーレは合衆国に居た筈。
「ああ、それなら簡単よ。
セシリアから連絡を受け取った時にフィーレが日本へ行きたいって言ったから一緒に転移して、地球外技術研究センターだったかしら?
あそこにフィーレを預けて、後はスターファイターでかっ飛ばしてきたわ」
合衆国ならば大西洋を横断すれば済む話であるが、妹を溺愛しているフィオレはわざわざ遠回りをしたのだ。
美しき姉妹愛であるが、それは同時にフィーレを魔境で野放しにすることを意味する。
尚、これまでフィーレが起こした数々のやらかしについても、やらかしと認識しているのはティナだけである。
フィオレ達からすれば、無償で地球の防衛力を強化しただけなのだから。
来るやらかしを予感し、大歓声で盛り上がるスタジアムにてティナだけが胃を痛める結果となったのである。