星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
ティナ達がドイツで色々やらかしている頃。
月面にある居留地に残ったティリスは、ザッカル達外交団との打ち合わせや居留地在住の人々の相談に乗ったり、チャブルを介して地球の主だった為政者達と連絡を取ったりと多忙を極めていた。
もちろんティナには地球から逆輸入したシエスタの文化を満喫していると偽った上で、陰ながら交流が成功するように動いているのだ。
そんなティリスにとって頭の痛い問題はリーフ人関係である。より具体的に言えば、ミドリムシに対する対処である。
自身の部下であり名将と名高く本来のリーフ社会を知るフレストの生存は、彼女にとって問題解決の重要な一手となった。
それ故に、多忙ではあるがフレストとの情報共有を欠かさなかった。
「現在の長は、フリーストでありましたか。まあ、順当でありますな」
「確かフリーストはお前の甥だったな。奴が今のリーフを率いているが……」
「ええ、フリーストは野心家でありましたがここまで大それた事を成せるような男ではありませぬ。
提督の仰有るミドリムシの根源が背後に居る筈。
まるで見当が付きませぬが」
顎に手を当てて頭を捻るフレストを見ながら、対面に腰掛けているティリスは自らの仮説を口にした。
「確証は無いが、フリーストの背後にはブレックスと元老院の生き残り達が居るのだろう。
リーフとの交流に際して、何かと障害になった古老達だからな。悪知恵も働くだろう。
……どうした?」
自分の仮説を聞いて目を見開いているフレストに首を傾げつつ問い掛ければ、想定外の反応が返された。
「ブレックスが……兄が生きていると!?それに元老院も!?そんなバカな話がありますか!
何かの間違いではありませんか!?」
ブレックス。リーフ社会元老院の長であり、保守的な思想の持ち主で革新的な考えを持った先代女王フェルシアとは度々意見の対立を起こしていた人物である。
そしてフレストの実兄にして、フリーストの実父でもある。
フレストの反応に些か戸惑いつつも、ティリスは現状を口にした。
「う、うむ。戯れ言の類いではないぞ。ブレックスも元老院の大半も生きている。
既に表舞台から姿を消しているが、こちらからの要請で何度か会談に出て来ている。
まあ、あのブレックスの事だ。難なく脱出したのは想像に難くあるまい?」
「そうではないのです、提督!兄と元老院は、母星放棄の責を取るために、マルクト殿下と共に本星と運命を共にした筈です!」
フレストの言葉に今度はティリスは目を見開いた。完全に初耳の情報であるからだ。
「なんだと!?
マルクト殿下と言えば……第三皇子殿下ではないか!そんな話、聞いたこともないぞ!」
「無理もありません。母星に残って殉じようとする者達が居ると知れば、アードは必ず彼等を護ろうと無謀な戦いを続ける。
違いますか?」
「……否定は出来ないな」
そのある意味美しい行為を知れば、善性に振り切ったアードは決して彼等を死なせないように絶望的な戦いを継続するだろう。
それがアード人の本質である。
「故にマルクト殿下は、この殉死を秘匿なさったのです。リーフの先達への謝罪と、数多の犠牲を払いながらもリーフのために戦ってくれているアードの友誼に殉じるために。
女王陛下やご兄弟様、そして提督の下で戦う私にのみ脱出直前に打ち明けられたのです」
「マルクト殿下が……」
「殿下は幼い頃より病弱でありましたが、誰よりも優しく思慮深いお方でした。
一族の咎は自分と元老院が引き受け、女王陛下や兄君ら、そして我々にリーフの未来を託されたのです」
その儚くも美しい行為にティリスは胸を打たれたが、同時に凄まじい寒気と吐き気を覚えた。
「待て、ならば何故ブレックス達が生きている!」
そこまでの覚悟を固めているのだ。直前になってブレックス達の説得で心変わりをしたとは思えないし、そもそも元老院はマルクトと共に殉じるのでは無かったのか。
当然の疑問を抱き、その邪悪な悪意を察したティリス。そしてそれはフレストも同じだった。
「提督、念のためお尋ねしますがマルクト殿下がご存命と言うことは……」
「無い。第一皇子殿下はあの会戦で戦死なされ、フェルシア女王陛下もお亡くなりになられた。
唯一第二皇子殿下はアードへたどり着かれ、一族の掌握とアード側との交渉に奔走された末、心労が祟り三年後に病没されたと聞いている。
フェルト姫殿下については、ティナ殿下の報告通りだ。フェラルーシア殿下以外にご存命の王族は居ない」
その時期はティリスも復活直後で世捨て人となっており、弟であるパトラウスの下で隠遁生活を送っていた。
「……閣下、私はこれまで感じたことの無い悪寒に襲われておりまする」
「奇遇だな、私もだ。お前の存在はしばらく秘匿するつもりだったが、止めだ。
あの会戦には不可解な点が多すぎる。
アードへ戻る際は同行せよ。ゼバの民は、セシルちゃんに委ねる」
「同じことを考えておりました。兄達にとって、私の存在は何よりも邪魔な筈。
私が存命であると知れば、必ず動きを見せるでしょうな」
「危険な役目だぞ、フレスト」
ティリスの警告に対して、フレストは笑みを浮かべて見せた。
「これよりも遥かに危険な戦場を幾度も提督と共に転戦したのですぞ?ご安心くだされ。
私は生き残りとして、フェラルーシア殿下をお支えせねばなりませぬ故、易々と死ぬつもりはありません。むしろ我々の予測が正しければ、我が兄の不義を死して詫びねばならぬ立場です」
「フェラルーシア殿下も、そしてフェルト殿下もそれを望むまい。
パトラウスにメッセージを送っておく。
そしてこの件を殿下に知られぬよう注意せよ。この様な事は知らずとも良いものだ」
「御意のままに、提督。数日以内にアードへ向かうでしょうから、セシル殿に挨拶をして皆にくれぐれも言い聞かせておきます」
足早に部屋を後にするフレストを見送ったティリスは、ブレスレット型の端末を起動する。
「アリア」
『はい、マスターティリス』
「聞いていたな?」
『はい。全ての情報を遮断します。ティナ達が知る必要はありませんから』
「ただし、殿下が疑念を抱かれたらお答えせよ。その場合は隠す必要はない」
『畏まりました』
ミドリムシ問題の全容究明が始まりつつあった。