星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
ドイツ来訪二日目早朝、首都ベルリンの朝は早い。まだ店の大半は開いていないが、物流関係業者は早朝であろうともその仕事がなくなるわけではない。
ドローン技術の発展は物流業界に大きな変化を産み出していた。トラックの類いはまだまだ現役であるが、荷物を積んだドローンが町中を飛び回る様子は近未来的な光景となって前世の地球を知るティナを密かに感動させていた。
アードから持ち込まれる“トランク”は、ここドイツでも試験的に運用が開始されていた。
盗難を防止するために厳重な警備体制の下運用されているが、一つで大型輸送船一隻分に相当する物資を運搬できるのだ。
“トランク”の普及はまさに物流業界に大きな革新をもたらすだろう。
ただ、それによって物流業界全体に必ず発生する事が予想されている雇用問題について各国は頭を悩ませていたが。
ティナ達が宿泊しているホテル、その屋上では警備を任されているドイツ警察の精鋭達が目を光らせていた。
最上階の警備そのものはティナ達から謝絶されているが、それ以外の警備に関しては完全にドイツ政府の責任となっている。
誰もがパリの悲劇の再来を恐れて厳重な警備体制が敷かれていた。ティナ達が滞在中は、ベルリン上空のあらゆる航空機の飛行を制限する徹底ぶりである。
「連絡があった。対象が二人、屋上へ向かう。警戒を厳にせよ」
突如として屋上に配置された警官達の通信端末に連絡が入り、場の空気は緊張に包まれた。
屋上へ護衛対象が出てくる可能性も検討されていたが、まさか本当に出てくるとは思わなかった。
だが、彼等は超一流のプロである。直ぐ様気を更に引き締めて周囲へ目を光らせた。
そこへ、二人の人影が現れた。
「ごめんなさい、こんなに朝早くに我が儘を言ってしまって」
「良いよ良いよ、クレアの興味があることなら付き合うからさ」
やって来たのは親善大使であるティナと、ノーム人のクレアである。
ティナはいつものようにアード人の装束に身を包み、クレアもまた見慣れたスチームパンクを彷彿とさせる装束に身を包んでいた。それだけではない。
屋上への出入り口には、護衛のメリルが壁に背を預けながら二人を見守っていた。
周囲の大人達に見守られつつ、ティナ達は手摺のある場所まで歩みを進め、早朝のベルリンの街並みを眺め始めた。
「アードやリーフの家屋も興味深く思いましたが、やっぱり人工物が密集する街並みを見ると安心してしまいます」
「ノーム人の性だったりするかな?」
「そうかもしれません。私は開拓船で生まれ育ちましたが、ノームは地下に広大な都市を築いて生活していたみたいですから」
自然と調和しているアードやリーフの街並みと違い、ノーム人は人工物に囲まれた生活スタイルであった。
クレア自身も暗く狭い場所を好むため、これは種族の性とも言える。
そんな彼女にとって、地下ではないが人工物で溢れた地球の大都市は何処と無く懐かしさを感じさせたのだ。
もちろん最上階からも眺めることは出来たが、直接その空気を感じたいと思い密かに部屋を出ようとした彼女にティナが気付いて、折角だからと同行したのが真相である。
「クレアから見て地球の都市はどうかな?」
「一見乱雑に見えますが、ちゃんと区画整理が行われて機能美に溢れていると思います」
「そうだよねぇ、アードやリーフには無い美しさがあるよね」
様子を見ていたメリルが壁から背を離したのを見て、周囲の警官達は内心疑問符を浮かべた。だが、それも無理はない。
メリルはティナが空を飛ぶ際に右足を少し後ろへ下げる癖を正確に把握しているのだ。そして彼女は今右足を少し後ろへ下げて翼を広げた。
クレアを連れて空を飛ぶつもりだと判断するのも仕方がない。これまで彼女がやって来た突発的な行動の代表例なのだから。
空を飛ばれては警備の難易度が跳ね上がるし、何処へ向かうかもわからない。何としても止めなければいけない。
メリルに緊張が走るが、直ぐに力を抜いた。ティナが足を戻したからだ。
実は、ティナ自身いつものように衝動的にクレアを連れて空を飛ぼうと考えて実行寸前までいったのだが、直前で思い留まったのだ。
何故ならば、脳裏にパリの悲劇と悲しむフェルの姿が浮かんで、それで踏み留まれたのだ。
これは彼女の小さな成長と呼べるだろう。
ともあれ、メリルは思い留まってくれたことに内心安堵して再び壁に背を預けた。
「実は、見てみたいものがありまして」
「ん?なにかな?」
クレアからの珍しいリクエストに、ティナも関心を向けた。
「地球の要塞を見てみたいんです。軍事拠点を見れば、その技術や風土、文化がある程度分かると言いますから」
「要塞……お城みたいなものかなぁ」
ティナの前世はサラリーマンであり特別軍事に詳しいわけではない。だとは言え、折角リクエストしてくれたのだ。
前世の記憶を探ると、確かドイツには有名なお城があるのではと思い出した。
「メリルさん、ドイツには有名なお城がありますよね?」
「幾つかあるけど、知名度が高いのはノイシュバンシュタイン城じゃないかしら?
そう言うのに疎い私でも知ってるくらいは有名よ」
「ああ、あの有名な」
某夢の国の会社のロゴマークのモデルとしても有名な城であり、メリルに言われてティナもぼんやりと造形を思い出せた。
なぜクレアが城に興味を示したのかは分からないが、それはティナにとって些細な問題である。
「あるんですか?」
「現代の要塞?じゃないけど、古いお城は残ってるんだよ。それで良いかな?クレア」
「はい、大丈夫ですよ。この地域の建造物の歴史を見ることが出来るなら行ってみたいです」
「決まりだね。メリルさん」
「ええ、分かってるわ。直ぐにドイツ政府に知らせてスケジュールを調整するから、今は二人でゆっくりと街並みを楽しんで」
「ありがとうございます!」
再び街並みを眺め始めた少女達へ微笑みながら、メリルは朝霧外交官へメッセージを送信した。
あくまでも役割分担である。決してぶん投げたわけではない。
もっとも、早朝からぶん投げられた朝霧からすれば堪ったものではないが、幸いにしてノイシュバンシュタイン城訪問は元々計画されていたのでスケジュールを調整するだけである。
問題があるとするならば、当日早朝にいきなり予定変更を知らされた調整官達の胃痛くらいである。南無。