星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
「何故差し伸べられた純粋な善意へ噛み付くような真似をするのか、私には理解できない」
「彼等は何が不満なの?どうして受け入れることが出来ないの?不思議だわ」
合衆国某所。アード教総本山と呼ばれるその場所は、名前とは裏腹に極めて質素な作りであった。
寂れた田舎の片隅にある朽ち果ててた教会を買い取り、自分達の手で回収と補修を行ったのであるが、それ故に贅沢な調度品等は一切存在しなかった。
風化しつつあった彫像については敬意を示して修繕した上で別の建物に安置し、代わりにティナを描いた肖像画が掲げられ、ステンドグラスもアード人を模した絵柄へ変更されていた。
その厳かな教会で教団の信者達が言葉を交わす。内容としては、世界中で広がっている反アード主義者への弾圧であった。
フランスを筆頭として容赦の無い弾圧は少なくない流血を招いており、その事に彼等は心を痛めていた。
「思想の自由は尊いもの、慈悲深きティナ様を信奉する我々がそれを犯してはなりません。
彼等にも事情があるのです。或いは、未知故の恐怖に取りつかれてしまっている。
未知のものに恐怖を覚えるのは、人間として当たり前の感情なのです」
祭壇にて静かに祈りを捧げていた教祖ケイン=ラッセルは、同志達へ穏やかな表情で語り掛けた。そこにワシントンプラザでテロを起こした狂信者の面影はなかった。
「教祖様」
「様は無用ですよ、同志。私達はティナ様を信奉する旗の下へ参じた仲間、上下などありません」
「申し訳ありません、同志ケイン」
「良いのです。未知は既知となれば恐怖も和らぎます。では恐怖の源である未知の原因は何か。
ティナ様こそが原因であるとの論もありますが、それは誤りです。未知を未知のままとしてきたのは、全て私達に原因があります。
ティナ様は我々に手を差し伸べるだけではなく、様々なアードの情報を開示してくださっています。
即ち、知ろうと思えば幾らでも知ることが出来るのです。未知を既知へ出来るのです。それをしないのは、偏に我々の行いに原因があります」
「同志……」
「だからこそ、敬虔な信徒である我々が未知を既知へ変える活動をしなければなりません。
皆が慈善活動で多忙であるのは承知していますが、少しでもより良い未来へ向かうために更に尽力する必要があります。
無論、私が前面へ出ましょう。全ての批判や誹謗中傷は私が受け止めます。皆が活動へ専念できるよう、非才の身ではありますが尽力することを誓いましょう。
どうか、今一度私に力を貸してください。他でもない、人類の笑顔のために」
この日を境に、アード教団は街頭でのビラ配りやインターネット上での布教活動を活発化させていくことになる。
ケイン=ラッセル自身は布教活動であるとの自覚はなく、ただ単にアードの事を知って貰おうと行っているだけなのだが、日々増え続ける入信者に困った笑みを浮かべた。
「思想の自由を犯してはなりません。決して無理強いをしてはいけません。
相手の信仰を尊重し、敬意を払わなければなりません」
新しい信者達一人一人に彼は語り掛ける。歴史を見ても、宗教組織による暴走や増長が数多の悲劇を引き起こしてきたのを知る故である。
「他のあらゆる宗派を信じていても構いません。私達は心の内にある良心に従う信徒、改宗する必要はありません。
貴方の信じる神をそのまま信じていてください。私達は強制など一切行いませんから」
アード教は宗教団体でありながら他の宗教への深い寛容性を持ち合わせ、信者の中にはキリスト教、イスラム教、仏教など様々な信仰を持つ人々も合流していた。
それ故に信者同士が対立しないようにケイン=ラッセルは一人一人に寛容性を説いていた。
「私達は志を同じくする同志です。そこに宗派や文化の違いは些末なこと、目指す道は同じなのですから」
ケイン=ラッセルは優れた宗教家と言うわけではない。ただ、ティナに魅せられて利他行動を突き詰めた人物なのだ。
それ故に野心もなく、少しずつ拡大する教団の方針を変えることはなかった。
連絡機構の整理は最優先で行ったが、教団の大々的な組織化は行わなかった。
組織化は効率化を図れるが、同時に利権な権力を生み出してしまう。
彼はそう考えた。その考えの是非は別にして、そこにはただ善意のみがあった。
「あなた方の志に感銘を受けました。これは気持ちです。
我々への便宜等は不要、どうか役立ててください」
そしてその行いはニシムラ一族にも感銘を与え、異星人対策室のジャッキー=ニシムラ(永遠の賢者)を介して資金や物資の援助が行われた。
ケイン=ラッセルは深く感謝し、これらの寄付は全て慈善事業へ充てた。
「他者を慈しむ心は、余裕の中に生まれます。同志たちの生活を工面するのもまた私の役割です」
自身は質素倹約の生活を送りつつ、義援金の一部は教団員の生活費として充てた。無論それらは全て詳細に公表する徹底ぶりである。
このアード教団の活動は親アード勢力の拡大へ多大な貢献を果たした。
無論国家として座視できない規模にまで発展してしまう危険性はあったが、舵取りをしているケイン=ラッセルの人柄と、アードの思惑(正確にはティリス)が絡むため発祥の地であり本拠地である合衆国のハリソン大統領は、影ながら支援しつつも複雑な心境であったが。
「同志ケイン、私はこれから聖地であるアードへ発ちます。
地球人類のより良い未来と、良き隣人であるアードとの友誼を更に深めるために尽力することを約束します」
「ええ、同志イワン。必ずや使命を果たしていただきたい。ただ、お忘れあるな。
アードの方々は、支配者ではなく共に肩を並べる友として私達地球人を見ている。
私の曇った眼はその真意を見誤り、ティナ様を悲しませてしまった。
貴方には同じ過ちを犯して欲しくはないのです」
「はい、同志ケイン。私個人としてはアードの方々へ従属することに否やはありませんが、それは彼らの善意に対する非礼となることも正しく理解しています。
アードが地球に求めているのは従属ではなく、対等な立場の友ですからな」
ティリスによって目覚めた連邦のイワン補佐官は、アード教団ヨーロッパ支部の長としてケイン=ラッセルと友誼を深めていた。
彼は連邦ブレンチョフ大統領と一緒に、密かに渡米していたのだ。
アード教団はイワン補佐官の加入により政治の世界にも影響力を持ち始めた。
とは言え、ケイン=ラッセル自身が権力欲と無縁なので政治的な干渉が行われることはなかったが。
来るべき日に備えてアード教団も日々勢力を伸ばしつつある頃、大人達の思惑と全く関係ないフィーレは。
「はい、出来た」
「もっ、木馬ーーーっっっ!!」
「キターーーッッッ!!!」
某国民的ロボットアニメの初代を象徴する強襲揚陸艦をしれっと建造していた。