星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
地球を旅立って六日が過ぎた。明日にはアード星系へ辿り着く予定であり、外交団の面々も最終チェックや打ち合わせに勤しんでいたが、中華代表のヤンだけは内心焦りを覚えていた。
彼には密命が与えられており、それはティナと出来るだけ親密に、可能ならば恋仲になるように指示されているのだ。
本来この手の仕事はしっかりと腰を据えて、じっくり時間を掛けて行うものであるが、今回は時間に制限がある。
些か強引な手を使うことも視野に入れていたが、想定外の事態によって全く任務を果たせそうに無いことが彼を悩ませた。
毎日銀河一美少女ティリスちゃん号へ足を運び交流する機会も少なくないが、基本的にティナが一人で居ることは先ず無い。
大抵フェルが側に居るし、仮にフェルが居ない場合でも高確率でクレアが代わりに居るのだ。
少なくともティナと二人きりに為ることは不可能であった。
またこの密命そのものをアリアに察知されている事も、彼の任務に多大な影響を与えていた。
密命の指示に関しても一切のネットワークが遮断された密室で行われたのであるが、既にアリアはその手段を警戒し軌道上に展開する数千の超小型(三センチ程度)監視衛星だけではなく、大国や主要国の中枢に超小型の監視ドローンを密かに配置し、ネットワーク外の情報収集を行っているのだ。
当然ながら中華も例外ではなく、むしろ要監視対象であるためこの密命も筒抜けとなってしまった。
恋愛云々に関してアリアは干渉するつもりはないが、明らかに裏がある行動であるため二人きりにしないように動いていた。
事実として、外交団が銀河一美少女ティリスちゃん号へ滞在している最中にフェルとクレアが私用のためティナの側に居ない時間帯も何度かあったが、アリアは先んじて美咲やマコの側に居るセシリアではなくリーフ姉妹のどちらからを側に居させる。或いはジョン=ケラーを動かしてヤンを牽制したのである。
これでは任務達成など夢物語である。ならば最低でも親しくなろうと積極的に交流するが、その前に立ち塞がったのは。
「焦る必要はありませんよ、ミスターヤン。交流する時間はまだたくさんありますからな」
「っ!
……ええ、少し焦りがありました。交流には時間を掛けないといけませんね」
ジャッキー=ニシムラ(一般人)である。彼はヤンの目的を見抜いているが、その持ち前の気高さと気さくさで短期間でヤンと親しくなったのだ。
ヤンとしても性癖には些か難はあるものの彼の人柄に惹かれ、任務がなければ個人的に親しく交流したいと思える程度の関係性を構築している。
そしてジャッキーの存在は、ヤンにある種の葛藤を植え付けていた。
そして最大の壁は。
「君にも色々と使命があるだろう。だが今はそれよりも人類の未来のため、一緒に頑張らないか?もちろん責任は私が持つ」
ジョン=ケラーである。持ち前の包容力はヤンの使命感を溶き解していった。
或いは彼が生粋のエージェントであれば話は別だっただろうが、今回の選抜はアリアによる徹底的な身許調査を受けた。
結果彼は外務省出身の若手であり、諜報の世界に足を踏み入れたことすらない素人なのだ。
事前に訓練は受けたが、技量や精神性がその道のプロには遠く及ばないのは言うまでもない。
対してホワイト大使、サマル大使は順風満帆に旅を満喫していた。ホワイト大使は芸術に理解があり、ティナが適当に選んだ絵画や美術品を使って主に談話室や会議室の装飾に関してアドバイスを行い、サマル大使は持ち込んだ製品を惜しみ無く使って部屋の模様替えに尽力。
結果、銀河一美少女ティリスちゃん号の談話室や会議室は地球の産物が多く利用された内装へと一新され、ティナ達からも好評を得ている。
「んー……やっぱり戦闘力が足りない。地球基準で十メートルくらいは欲しい」
一方格納庫では、フィーレが“アース”を見上げつつぼやいていた。
彼女が試作した人型ロボットの“アース”は既に二十機程度が製造され、大半は地球で警備用として稼働している。
これらの運用データを集積して分析した結果、地球人相手ならばオーバーキルな本機体も、センチネル相手には火力が足りないと考えているのだ。
「ビームライフルの威力が足りないのかな?」
一緒に居たティナも一緒に五メートルある“アース”を見上げる。
人型ロボットはロマンの塊であるし、何よりこの“アース”は機体だけならばクレアがゴーレム召喚で幾らでも呼び出せるのだ。
正確には、使用されている鋼材をクレアが召喚し易いものに変換したのである。センチネルが得意とする物量にもある程度対抗可能だ。
ただし、これはあくまでもゴーレム扱いなので大量に生み出したら複雑な動きは出来ないし、術を解いたら消えてしまうのだが。
「センチネルバトルドロイドくらいなら問題ないけど、スターファイターやスターシップ相手だと火力が足りないよ。
このサイズの武器だと出力に限界があるし、シールドを突破できない」
「宇宙の戦いかぁ」
「有効な武器を装備するための大型化ですか。
ですがこれ以上となりますと、巨大な格納庫が必要になりそうですね。
そうなると、地球での運用には色々と制限が出てしまうと思います」
一緒に見学していた朝霧が地球人としての所見を口にする。
十メートルサイズの人型ロボット、それも大量に配備されるとなれば市街地等の運用が限られてくる。
「そーなんだよね。それにこれ以上大きかったら、クレア姉ぇの負担も考えなきゃいけない」
当然ながら大きくなればなるだけ消費するマナも増えていく。それは同時に、クレアの負担が増加することを意味する。
また宇宙の戦いとなれば、ゴーレム操作はより複雑となるので宇宙で運用する場合は、ゴーレムとしてではなく最初から生産されたものを運用する方が効率的でもある。
「んー、ならちょっと面倒だけど二種類作ったら?
地上は今までのタイプで、宇宙は専用の大型機で。資源に問題がないなら、マルチロールに拘る必要はないし」
アードには多機能を追求したマルチロール思想が定着しているが、ティナは敢えて逆行した提案をしたのだ。
「それだと汎用性が下がるじゃない。最初から大型一本にした方が良くない?」
一緒に見ていたフィオレが疑問を呈するが。
「待って、おねーちゃん。ティナ姉ぇの提案は良いかもしれない。宇宙でしか使わないなら、重力下での運用に必要な装備や機能をまるごと外せるし、宇宙でクレア姉ぇがゴーレムとして使わないなら精製し易いようにしてた工夫も取っ払える。
大型化するなら、地球で見た超兵器を積めるかもしれない」
熱心にタブレット端末を弄り始めたフィーレを見てフィオレは肩を竦め、ジト目でティナを見る。
「あっ、これやらかしたかも」
ティナは自分の迂闊な発言が、結果的にアードにとってプラスとなるが強いストレスもセットでついてくる事を察して頭を抱えた。