星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
片道七日間の航海を経て、親善艦隊は無事にアード星系へと辿り着いた。ゲートから出た親善艦隊はそのまま惑星アードをゆっくりと一周して、軌道上に存在する唯一ので入り口である宇宙ステーションへ入港する。
先ずザッカル宇宙開発局長を筆頭とした使節団と地球からの外交団を乗せたハンマーヘッド級駆逐艦がドッキングし、ティナ達が乗る銀河一美少女ティリスちゃん号も近くにドッキングした。
「「「お帰りなさい、局長!使節団の皆!
そして、ようこそ!地球の友人達!」」」
宇宙ステーションへ降り立った彼らを最初に出迎えたのは、再び活発に活動し始めた宇宙開発局の職員達である。
宇宙ステーションは玄関口であり、あまり派手な歓迎は逆に地球側を萎縮させてしまう恐れがあるとの配慮から、歓迎式典のようなものは準備されていない。
しかしアード来訪の経験があるジョン達以外の代表達は、大勢のアード人やリーフ人を前にして緊張の色を見せていた。
これまで交流の中心はティナ達、つまりアードやリーフの子供達であったが、今この場にいるのは地球基準から見ても成人したアードやリーフの男女なのだ。
随行している記録員はカメラを止めることなくこの様子を撮影しながら、自分達が別の惑星へやって来たことを強く意識した。
「首尾は?」
「手筈通りに、皆様お待ちですよ」
「よし。ではご友人の皆様、これよりアードへ降りてケレステス島へ向かいます。
既に首脳陣がお待ちで、畏れ多いことではありますが女王陛下も皆様とお会いするのを楽しみになさっておられますからな」
ザッカルの善意溢れる笑顔から発せられた言葉に、外交団の面々は戦慄した。
アード側としては長旅の疲れもあるだろうし、先に主要な目的を果たしてゆっくりと休んで欲しいと完全な善意による行動である。
もちろん可愛い姪に会いたいと言うセレスティナ女王の個人的な願望も含まれているが、それは誰にも伝えていない。
ただし、地球側からすれば完全に想定外の事態である。
先ず初日は現地で過ごして少しでも情報を集め、後日開かれるであろうセレスティナ女王やアード上層部との会談に備える予定だったからだ。
それが外交の常識でもあり、各代表達が内心慌てるのも無理はない。少なくとも到着当日、それも到着した直後に重要案件を全て済ませてしまうなど外交常識から言っても異例である。
このアードによる完全な善意による無茶振りや、突発的なイベントに慣れてしまったジョン達異星人対策室の面々は諦観と共に受け入れていた。
「であるならばお待たせするわけには参りませんな。
さあ、皆さん。行きましょう」
ザッカルの言葉に平然と答えるジョンを見て代表達は戦慄した。アード側の突発的な提案をさも当然のように受け入れているのだから。
「アード側に裏はありません、完全な善意によるものです。
早く仕事を済ませて休んで貰おうと考えたのでしょうね」
「しかし、それはあまりにも性急過ぎるのでは?」
苦笑いを浮かべる朝霧にホワイト代表が異議を唱えるが。
「出発前に申し上げた筈ですぞ。ここは地球ではなくアード、地球の常識は一切通用しないと。
東洋には郷に入っては郷に従えとの格言があるのだとか。その教えに従う時です」
ジャッキー=ニシムラ(実はコスプレイヤー)が気さくな調子のまま言葉を掛け。
「でありますな。
皆様、粗相の無いよう細心の注意を払いましょう」
イワン代表は抑揚の無い言葉と共に皆の背を押した。
一行はそのまま軌道エレベーターを使用して惑星アードへ降り立ち、転送ポートでケレステス島へ向かう。
銀河一美少女ティリスちゃん号からはティナだけが同行して、他のメンバーはドルワの里へ向かった。これはマコと美咲を秘密裏に移動させるための措置である。
フェルはティナと一緒に行くことを内心望んだが、ティナから皆のことを任されたので素直に従った。
そしてティナは確固たる決意を秘めてジョン達と一緒にケレステス島へ向かい、荘厳なるハロン神殿へと赴いた。
「ザッカル卿、貴公等が無事にアードへ帰還したこと祝おう」
「感謝する、パトラウス卿」
ハロン神殿正門にて彼らを出迎えたのは、パトラウス政務局長を筆頭とするアード政府首脳陣である。
首脳陣総出の出迎えは、代表達を緊張させるには充分なインパクトを有していた。
ザッカル等を労ったパトラウスは、地球の外交団へ視線を移した。
「私はアード永久管理機構政務局長のパトラウス。地球の新たな友人達の来訪を心から歓迎する。
今すぐに貴公等と親交を深めたいところであるが、長旅の疲れもあるだろうし、女王陛下もお待ちだ。
先ずは厄介な案件を片付けてから、ゆっくりと語らおう。こちらへ」
パトラウス達はそのまま外交団を引き連れてハロン神殿へと入り、謁見の間へ案内した。
石造りの荘厳な広間の最奥にはベールで仕切られた個室があり、近衛兵達が左右に立ち並び厳格な雰囲気を醸し出していた。
「女王陛下、ご臨席です」
個室の側に控えるアナスタシアの言葉に合わせてアード人達が最敬礼をし、外交団達も深々とお辞儀をした。
ベールの向こう側に人影が現れ、着席するのを見計らって皆が姿勢を正した。
「先ずはザッカル卿、貴公等の労苦を労おう。女王陛下へ成果を御報告されよ」
「はっ、畏れながら申し上げます。我々に新たな友が増えました!」
極めて簡潔な報告であったが、それだけで居並ぶアード人達は意味を解した。
「慶事である!」
「「「応っっっ!!!応っっっ!!!応っっっ!!!」」」
パトラウスの号令と共にアード人一同が声を挙げ足を踏み鳴らす。
古代ギリシャを彷彿とさせるような歓迎に代表達は驚くが、ジョン達に倣って深々と頭を下げた。
「地球からのお客人方、我々はあなた方を全力で歓待しよう。
あなた方は我々の新たなる友だ。先ずは今宵に開かれる歓迎の宴を開く。
皆様には長旅の疲れをしっかりと癒していただき、このアードでの日々を安らかに過ごしていただきたい。
正式な場としては、明日或いは明後日を予定している。此度は皆様と我々との顔合わせを意図したものである」
パトラウスの宣言に外交団一行は胸を撫で下ろした。このまま正式に文書の確認などを行うのではと危惧していたが、アード側としては首脳陣との顔合わせを優先しただけであると判断できたからだ。
『この日がアード、地球双方が共に歩む新たなる一歩となることを、望みます』
場に居る全ての者の脳裏にセレスティナ女王の言葉が響き、アード人達が再び最敬礼をする。
「女王陛下よりお言葉も頂けた。実に喜ばしい。
ザッカル卿お客様を休める場へ。今宵の宴は盛大に行う」
「承知した。では皆様方、どうかこちらへ」
「ティナ大使はこのまま。女王陛下より直々の労いを賜る」
「はい」
心配そうにするジョンへと笑みを返し、外交団一行が謁見の間を後にするのを見届けた。
セレスティナ女王が直接言葉を掛けるため、近衛兵やパトラウス達も改めて最敬礼をするが、突如ティナが最敬礼を止めて立ち上がる。
アードからすれば非常識な行動に謁見の間に居る者達が目を見開き。
「ティ……ティナ大使、女王陛下よりお言葉を賜るのだ。直ぐに礼を……」
パトラウスが戸惑いながらも嗜める言葉を掛けた瞬間、ティナは内包するマナを解き放った。
新たに出現した二対の翼を大きく広げ、真っ直ぐに小部屋を見つめるティナ。
謁見の間にセレスティナ女王が息を飲む音が反響し。
「たくさん……聞きたいことがあります。女王陛下」
「ティナ……」
ベールの奥から震えを含む声が厳粛な謁見の間へ漏れた。