星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
ティナが封印されていたマナを解き放つ。それは彼女自身が自分の正体に気付いたことを意味している。
事前に姉から知れていたパトラウスであったが、まさか謁見の間、それもアード首脳陣が集まった状態で自らの正体をさらけ出す決断をしたティナを見て、激しい胃痛を感じていた。
落ち着いてから密かに連絡を取ってセレスティナ女王との密会を計画していたのだが、それ等の準備が全て水泡に帰した瞬間である。
近衛兵にとっては周知の事実であるが、アード首脳陣の大半はこの秘密を知らない。
それ程までに徹底的な秘匿が為されていたが、この暴露によって周知される結果となった。
幸いなのはこの場にリーフ人が居なかったことであるが、それにしても大胆な行動である。
なにか政治的な意図があるに違いない。彼はそう確信した。
だが、真相は一刻も早く色々と隠された過去や正体を知りたいティナが先走っただけであり、政治的な意図などある筈もない。
思い立ったら即行動。
実にティナらしく、そしてそれこそが女王の系統である。
つまり、パトラウスの準備や配慮は全く無自覚に意味をなさなくなった。
彼は泣いていい。閑話休題。
「殿下!」
パトラウス達が固まる中、アナスタシアの号令で近衛兵達はティナへ最敬礼を行う。
パトラウス達政務官達も慌てて最敬礼を行う。厳粛な空気が流れる中、渦中のティナは困ったような笑みを浮かべた。
「局長、女王陛下とゆっくりお話がしたいんです。良いですか?」
直属の上司であるザッカルへ問い掛けると、彼は姿勢を正してティナと向き合う。
「殿下がお望みならば、どうか御随意に。アナスタシア殿」
「御意のままに。女王陛下も殿下とのご歓談を望まれていらっしゃいます」
深々と一礼したアナスタシアと近衛兵達は素早く謁見の間を後にし、パトラウス達も足早に部屋を後にした。
大広間に一人残されたティナは緊張したまま、ベールで仕切られた個室を見つめる。
暫くするとようやく落ち着きを取り戻したのか、人影が動いてベールが左右に開かれ、セレスティナ女王が姿を表す。
クレアが言ったように、自分が成長したらこうなるのかなとティナが内心納得していると、セレスティナ女王はゆっくりとした足取りでティナへ近付き。
「愛しいティナ……この時をどれほど待ち焦がれたことでしょうか」
優しげな言葉と共に、ティナを優しく包み込むように抱きしめた。暖かな包容を受けて、ティナもまた確かにセレスティナ女王の存在をしっかりと思い出した。
まだ赤ん坊の頃ではあるが、転生者故に自我が確立していた故の想起である。
当時彼女はうたた寝をしていたのだが、自分に優しい言葉を掛けて温かく抱きしめてくれた記憶は確かに残っていたのだから。
「お話ししたいことがたくさんあります、女王陛下。私について……そして、色んな事を。でも今は、こう言わせてください。
……ただいま」
「はい……お帰りなさい、愛しいティナ……」
感極まったのか、女王陛下は静かに涙を流し、ティナもまた温かな抱擁の中で涙を流した。
暫くして、一頻り抱擁を交わした二人は落ち着いて話をするために場所を移すことに決めた。
抱きしめられたまま何かに引っ張られるような感覚を味わい、ティナがこれは転移魔法だと気付いた時には風景が一変し、一面に広がる花畑と大きな噴水がある庭園へと場所が移っていた。
「お帰りなさい、ティナ。待ちわびたわよ」
「お母さん」
二人を出迎えたのは、いつも羽織っている白衣を脱いで二対の翼を広げたティアンナであった。
ドルワの里で待機していた彼女は、ティナがマナを解放するのを感じると直ぐにティルをティドルへ預けて一足先に庭園へとやって来ていたのである。
幸いティルはマコが来たのでそちらに夢中となり、ティドルの負担も考えなくて良かったことも行動を後押しした。
「ティアンナ、私達の愛し子が帰ってきましたよ」
「予定より二百年早かったけどね。
ただ完全に封印が解かれたわけじゃないみたいだし、もう暫くは隠せそうね」
ティナの翼は一対に戻っており、意識してマナを解放しなければ二対にはならないことを確認してティアンナは安堵の息を漏らした。
「うん、意識しないとマナも上手く使えないんだよね。それに私は魔法学が苦手だったから、勉強の毎日だよ」
治癒魔法に関しては熱心に勉強していたが、他の魔法についてはどうせ使えないからと半ば諦めていたのがティナである。
魔法の行使そのものが命取りになるような状態だったのだ。彼女の不勉強を責める者は居ない。
「その問題はアリアとフェルが解決するから気にしなくて良いわよ。貴女が勉強を頑張れば良いだけなんだから。
それよりも、色々と知りたいんでしょう?」
「うん。先ず最初に……私はお母さんの本物の娘なの?」
ティナが最初に問い掛けた疑問、それは自らの出生に関するものであった。
「心配しなくても、貴女を産んだのは私よ。そこは安心しなさい。
でも、ちょっと事情が複雑なのよ」
「複雑な事情?」
ティナが首を傾げ、セレスティナとティアンナは互いに視線を交わして頷いた。
「そうね、簡単に言えば受精卵……分かるわね?要は貴女の素なんだけど、これを弄ったわ。具体的には、私達夫婦以外で姉様の遺伝子を組み込んだの」
「女王陛下の!?」
予想外の答えにティナが驚きの声を挙げた。もしかしたらセレスティナ女王が自分の母親ではと考えたことはあったが、まさかのデザインベイビーである。
彼女の脳裏に某ガン◯ム作品が浮かんだのは完全な蛇足である。
「当時、ティアンナの懐妊は私の未来視に存在しない出来事でした。
私としても可愛いティアンナの懐妊は喜ぶべき慶事でしたが」
「時期が悪かった。この一言に尽きるわ」
当時セレスティナ女王の永い治世に於いて幾度か発生した後継者問題が、アードで再熱していた。
単純に伴侶を迎えて子を残す案が有力視されていたが、アードの有力男性達がことごとく辞退してお蔵入りとなった。
これは駆け引きではなく、心底から神の伴侶に自分は相応しくないと確信した上での辞退である。
これ迄のように結論が出ないまま問題の先送りが検討されている最中、王妹であるティアンナの懐妊が発覚。
紆余曲折喧々囂々とした議論の末、ティアンナが姉のためならばと折れて第二案が始動。
彼女の胎内から成長途上の受精卵が摘出され、新たにセレスティナ女王の遺伝子を組み込まれ、そして生まれたのがティナである。
「それってつまり?」
「ちょっと複雑だけど、姉様も貴女の母親ってことになるわね」
「……えぇ……」
予想外の答えにティナはショックを隠せなかった。