星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
「ああ、忘れるところだった。お母さん達にお願いがあるんだけど」
お開きに近付いた頃、ティナからのお願いを受けてティアンナは上げかけていた腰を再び椅子へと降ろした。姉は慈愛に満ちた笑みを浮かべて愛娘を見つめている。
「何かしら?大抵の事は出来るわよ」
基本的にティアンナもまた娘に甘いのだ。滅多に無い愛娘からのお願いとなれば、彼女に叶えてあげる以外の選択肢は存在しない。
「実は美咲ちゃんについての事なんだ」
事が重大なため、事前にアリアが美咲のデータと精密検査の申請を送っていたのだ。
「ああ、美月の娘さんね?
全く、私が地球へ行った時に娘さんの事を教えてくれたら治してあげたのに」
「あはは、美月さんにも色んな事情があるんだよ、お母さん」
「自分の娘の生死に勝る事情があるとは思えないわね」
「美月さんはほら、首長さんだから」
「首長である前に母親よ。次会った時に説教するとして、お願いはなにかしら?
美咲についてはもう準備してあるわよ」
アード社会に於いて善行に自らの身を投げ出す行いは、美徳以前に当たり前の行為として認識される。
ただ、その為に家族、より具体的には子供を犠牲にするのは宜しくないとの考えがある。
だがこれは答えの無い議論である。
地球でも歴史上我が子すら犠牲にしても立場に殉じる者達は居た。その行いは美しいと称賛される一方、家族失格として批判に晒されることもある。
立場の違いから来る責任の重さ故であるが、難しい問題である。
「アリアがデータを送ってくれたとは思うけど、精密検査は美咲ちゃんだけじゃなくて、ジョンさん達も追加できるかな?」
「ジョンさん達も?」
ティナの提案にティアンナはセレスティナと顔を見合わせた。
「実は航海中にまた栄養ドリンクを飲ませちゃって、色々とビックリな感じになっちゃってさ」
「それはまた興味深いわね。飲む度に効果が現れるのは素直に面白いわ」
『研究のために幅広くサンプルを採取することを推奨します』
アリアが提案するものの、何とも言えない顔をしているティナを見てセレスティナ女王が口を開いた。
「それはなりません、アリア。
これは不可抗力によって生じたものであり、地球の方に害が無いとは言えません」
『幅広くサンプルを採取すれば害の有無も判明しますが、ティナが望まないことは出来ませんね』
あくまでも機械的に判断するアリアではあるが、提案はするがティナが拒む場合は実行しないスタンスは崩さない。
アリアのあり方が変わっていないことにセレスティナ女王は安堵する。
「まあ別に構わないわよ。精密検査をすれば詳細なデータが手に入るし、謎の解明にも役立つわ。
時期は任せるから、いつでも医療センターへ連れてきなさい」
ティアンナは王妹にして科学局の職員でもあり、アード有数の医師でもある。
姉のように未来を見通す力は弱いが、膨大なマナと知識によってアードの医療は飛躍的な発展を遂げている。
「ありがとう、お母さん。お母様、私は一旦ドルワの里へ戻ります。外交団の皆さんを案内しないといけませんから」
「ええ、いつでも好きな時に来てください。待っていますよ」
セレスティナ女王は穏やかな笑みを浮かべて愛娘を送り出した。時間はたくさんある。ゆっくりと二人の間にある空白を埋めれば良い。
姉のそんな姿を見て、ティアンナも笑みを浮かべるのだった。
さて、ドルワの里では外交団を迎えて盛大な歓迎会が開かれていた。
堅苦しいものではない。既にアードで広がり始めていた地球の食文化、バーベキュー大会である。
地球から持ち込んだ食品や調味料の他に、地球で普及させる予定の巨大魚、便宜上アード鯛と名付けられた魚を中心にアードの魚介類が振る舞われた。
もちろん地球人にとって害とならないよう、慎重に選別されたものだけが用意されている。
更に地球の調味料を研究し、アードにも数多存在する果実類をベースとした調味料も同時に提供された。
「不思議な味わいですね。強いて言うなら柑橘類に近い爽やかな舌触りです。
甘酸っぱくて爽やかな、それでいて濃厚な旨味を醸し出している。
地球には無い独特な風味ですが、大変興味深い。
料理のバリエーションが増えますね」
中華のヤン代表は、同行させた料理人達と共にアードの新しい調味料へと関心を寄せた。
これまでのデータで、アードやリーフ由来の栄養ドリンクや栄養スティックは地球人に変化を与えるが、アード原産の魚介類や果物、野菜などは変化を与えないことが推定されている。
とは言え、まだデータそのものの対象が少ないので断定は出来ないが、純粋な善意である。少なくともアリア以外は。
アリアとしてもサンプルが増えるのは将来的に大きな意味を持つので、制止しない。
アリアにとって重要な地球人は異星人対策室の面々と、ハリソン大統領や椎崎首相などの政府要人なのだ。
「おおっ!これは素晴らしい!」
「新しい商品!?楽しみにしていたの!」
「是非ともお試しください!今回持ち込んだ品は全て試供品として差し上げますので、今後ともご贔屓に!」
サマル代表は持ち込んだコットン製品や絨毯などを全て出し、里の人々へ提供する。
全て最高級の品であるが、これでアード社会へ広がれば大きな商機となる。
友好関係を構築しつつ、完全なブルーオーシャンであるアード進出を目指し、経済的な繋がりを強める。これもまた中東連合の狙いである。
「ふむ、予想はしていましたがやはりアードには絵画を描く文化があまり浸透していない様子。
それに彫刻等も見掛けませんな」
「まあねぇ。あんまり絵を描いたり石や木を彫ったりすることは無いかなぁ☆」
「ふむ、芸術の分野ならば地球に分があるか。
ならば、地球の絵画や工芸品、美術品の類いはアードでも価値を発揮するかもしれませんな。
地球へ戻り次第直ぐに掛け合いましょう」
ホワイト代表は美術品や芸術品の分野で、新たな交易品の可能性を模索していた。
ティリスとしてもその姿勢に一目置き、地球へ戻り次第チャブルへ紹介しようと考えていたりする。
「私達は二度目だが、ミスター朝霧は三度目か。流石に慣れたものかな?」
「いえ、とんでもない。毎回驚かされてばかりです。それにゆっくりと過ごしたわけではありません。今回はゆっくりと見物できる時間があれば良いのですが」
だが、そうもいかないだろう。
早速ティルに捕まって文字通り空へと拉致されていく息子と、代表達がそれを見ないように身体を張って阻止するイワン代表とジャッキー=ニシムラ(性癖網羅)を見て、朝霧は遠い目をして溜め息を吐いた。