星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
外交団の受け入れと歓迎が行われている頃、リーフの里でもティリスが仕掛けた計略が始まっていた。
「地球からの正式な外交使節か。新たなる隣人が果たして我々の輝かしい未来にとって有益となるか、しかと見定めねばならぬ」
「アード人は御人好しばかりで、その観察眼は当てにならぬ。故に楽園の害となるか否かを我々が判断せねばな」
「全く、少しは老体を労って貰いたいものだ。アード人達は無垢で純粋に過ぎる。我々が正しく導いてやらねばならないのだから」
リーフの里にある集会所には、老年リーフ人達が集まり密議を交わしていた。
彼らはリーフ元老院の生き残りであり、ティリス等がミドリムシと蔑む者達である。
アード人に庇護されている身でありながらアード人を嘲笑うその姿勢を第三者が見れば、嫌悪感しか抱けないだろう。
「我らにとって害となるようならば、我々が処理する他あるまい。努々抜かるでないぞ、フリーストよ」
その長老と呼ばれる立場に君臨するのが、現リーフ族長であるフリーストの父にしてティリスの腹心であるフレストの兄、ブレックスだ。
老年故に身体は老いているが、その瞳にドス黒い野望と野心を秘めた人物である。
フェルにとっても仇と呼べる存在で、まさに諸悪の根元。
まさしくミドリムシの親玉なのだが、狡猾であり滅多に表舞台へ姿を現さず影で暗躍している害虫である。
これまでは水面下で動いていたが、フェルが生きていることを知った今再び表舞台へ干渉を始めていた。全ては自分達の楽園を守るために。
「心得ております。例の異端も含めて、厳正に対処せねばなりません」
「うむ。その点、内部の掃除を済ませられたのは幸いだった。
一致団結して問題へ取り組めるからな。
だが、不穏分子を逃してしまう結果となったのは歯痒い限りだが」
セレスティナ女王の件を含む一部過激派の先走った行為によって動きを封じられたミドリムシは、リーフ族内部の自分達の統治に疑念を抱く不穏分子の粛清を目論んでいた。
彼らの言う不穏分子、つまり若い世代は粛清の手を逃れて安全な太陽系へ逃れることが決まっており、既にリーフの里を出てドルワの里に居を移している。
これはミドリムシから彼らを守るため、ティリスが先手を打った結果である。
「ブレックス様、問題はありますまい。不穏分子は全て銀河の反対側へ行ってしまうのです。
下手に始末するよりも穏便であり、事を荒立ててアード側に警戒される心配もありません」
「左様、去る者に意識を割く必要はありますまい。
里に残った若者等にも不穏分子は居ますが……」
「若さ故に大望を理解しないのは仕方ない。
我々が教え導けば過ちに気付きましょう」
他のメンバーの言葉を聞き、ブレックスも深々と頷いた。
ティリスがミドリムシと忌み嫌う者達。アードの善意を利用して自らの欲望を満たすリーフ一族獅子身中の虫。
彼らの暗躍は密かにアードを蝕み続け、最後には腐らせていただろう。
だが、ティナがフェルを救ったことでその存在が明るみとなり、ティリスの警戒が正しかったことを一部のアード人達に気付かせた。
そして、更なる一手が彼らを襲う。
「まさか、叔父上!?」
「久しいな、フリースト。暫く見ぬ内に貫禄を得たようだ」
ブレックスの実弟にしてフリーストの叔父であるフレストの帰還。
戦死したと思われていたリーフの英雄はリーフ社会に衝撃を与えた。
特に英雄の兄として栄誉を集めていたブレックスの衝撃は、計り知れないものがあった。
「弟よ!我らが英雄よ!よくぞ無事に戻った!急ではあるが、宴を用意させる。今宵は再会を祝して語らおうぞ!」
直ぐ様駆けつけたブレックスはフレストと包容を交わして再会を喜び、周囲に兄弟仲の良さをアピールした。対するフレストは苦笑いを浮かべながらも兄の誘いを謝辞した。
「兄上との再会を祝して語らいたいのは山々なのだが、やらねばならぬことがたくさんあるのだ。
宴については追い付いてからにして貰いたい。今は顔見せ程度しか出来ないことを許して欲しい」
「何を言うか!そなたが無事ならば幾らでも待つ!疲れもあろう?少しでも里で身体を休めぬか?」
「嬉しい誘いだが、それも出来そうにない。済まぬ、兄上。またの機会に心行くまで語ろう」
フレストはブレックスを筆頭とした元老院の生き残りや旧知の老人達に顔を見せた後、足早に里を後にした。三百年ぶりの帰還である。
アードならば身体を休めるように指示を出すだろうが、フレスト生還の衝撃は彼らの正常な判断力を一時的に麻痺させた。
何故ならば、フレストは真実を知る唯一の生き残りなのだ。万が一里で暴露されれば、自分達の長年の努力が水泡に帰す。
「ブレックス議長、弟君を懐柔しますか?」
「いや、あやつは昔から実直であることを誉れとする堅物だ。
更にフェルト殿下の養育を任されていた忠臣でもある。
懐柔は不可能と見て良い」
「ならば何となさる!既に里の若者らは英雄の話を聞きたいと騒いでおるのですぞ!」
「左様!万が一忌み子の事を話されては、我らの身が危うくなります!」
騒ぐ面々を見て苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたブレックスは、猶予がないこともあって、短絡的な手段を行使する他無かった。
「フレストを生かしていては、我が一族の栄華が約束された未来に陰りを及ぼすことに為りかねぬ。
弟ではあるが、心を鬼にせねばならぬ。
如何なる手段を用いようとも、あやつを亡き者としなければならん!フレストが余計なことを口走ったその時!我が一族の未来は永遠に閉ざされる!
一族の未来を担う身として、その様なことは決して許してはならん!」
フレスト抹殺に向けて、ミドリムシ達が形振り構わぬ行動を開始したのである。
だがそれは、これまで決して表舞台へ出て来ようとしなかった諸悪の根源と言えるブレックスが、表舞台へ出てくることを意味しており。
「巻き込んでしまう地球の客人達には申し訳ありませんが、我々も生き延びるために決断を下さねばなりません。
フェラルーシア殿下を中心としたあるべきリーフの姿を取り戻す。それが無念の内に倒れた女王陛下や王族の方々、そして命を散らした戦友達への手向けとなります。
その為ならば、この身を惜しみませぬ」
「……済まんな、フレスト」
獅子身中の虫たるミドリムシを駆除するため、自らを囮としたフレストの覚悟をティリスは複雑な思いのまま受け入れ、そして策を巡らせるのだった。