星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
フレスト帰還によるリーフ上層部、特にブレックスを筆頭とした元老院の生き残り達の焦りは大きなものであった。
これまで狡猾かつ慎重に、表舞台へ出ないよう細心の注意を払っていたブレックスを引きずり出すことに成功したのは大戦果と言えるだろう。
「だが、功を焦るな。お前にはゼバ星系の生き残り達を導く大切な役目がある。
ミドリムシ如きにお前の命をくれてやる価値はない」
「有り難き御言葉です、提督。
ワシとしてもセシリア達を置いて死ぬつもりはありませぬ」
「それで良い。既にパトラウスに指示を出してある。ハロン神殿へ向かえ。フェルト殿下の付き人であったんだ。
女王陛下ともお会いしたことはあるな?そこならば安全だ」
ティリスはフレストを安全なケレステス島、それもハロン神殿で匿うようにパトラウスへ指示を出していた。
アード永久管理機構の利用区画にリーフ人は常駐しておらず、最奥部にある聖域となれば絶対不可侵の領域。
セレスティナ女王が招いた人物以外の立ち入りは禁じられ、それ以外は護衛と身の回りのお世話に従事する近衛兵と侍従、そして影の護衛ヴァルキリーだけである。
そして彼ら彼女らは、狂信的なアード人の中でも選りすぐりの狂信者集団。懐柔等の調略の類いは、一切成果を見込めない。
アードで最も安全な場所と言えるだろう。
そしてティリスはパトラウスに依頼して、フレストがドルワの里に滞在していると対外的に発表させる。
それだけではなく、幻影魔法を用いて彼が実在するよう誤認させた。
無論魔法に長けるリーフ人相手に何処まで効果があるかティリス自身も疑念を抱いてはいるが、時間は此方の味方である。
万が一ミドリムシが動かない場合は、事実を暴露するだけなのだから。
ただ、出来れば暴露する事態は避けたいのがアード側の本音だ。
ミドリムシ達が健在のまま暴露した場合、間違いなく大きな混乱が起きる。誰も望まない内乱に発展する可能性もあるのだ。
滅亡の危機を脱したとは言えないアードとしても、それは避けたい。
何よりもティリスは、ミドリムシに洗脳されているだけのリーフの若者達を巻き込むことを望まない。
そしてそれは彼女だけではなく、セレスティナ女王の意志でもあるのだから。
「ごめんね、ジョンさん。折角の舞台なのに騒がしくしちゃうかもしれない」
ティリスが唯一案じたのは、地球からの外交団、より正確には親密な関係を築いている異星人対策室のメンバー達だ。
特に地球・アード双方が最大のキーパーソンと判断しているジョン=ケラーの存在である。
万が一彼の身に何かあれば今後の交流に大きな支障が出るし、ティナの精神的なダメージも大きいだろう。
本来ならばミドリムシ関係を先送りすることも考えたが、交流が本格化すればミドリムシ達は自分達より遥かに劣る(ミドリムシの主観)地球人を相手に、非情で悪辣な行為に及ぶ可能性が高いと判断したのだ。
「わざわざ知らせてくれたことに感謝します。
我々の事は気にされず、どうかより良い未来のための行動を。それが我々の望みです」
唯一リーフの暗部を知るジョンは、ティリスに覚悟を決めた表情で返答する。
「ありがとう。地球の新たな友に手出しはさせない。
新しい未来にミドリムシは要らないからね、頑張るよ」
ジョンへの説明を終えたティリスは、腕に覚えがある元部下達を然り気無く外交団の護衛として配置した。
懸念があるとするならば中華が派遣したヤン代表と十名の中華人随行員達だったが、彼らは今現在大人しいので警戒はしつつもミドリムシ対策に注力することになる。
だが、事態は予想外の場所から始まった。
「あら、良く見たら里を追い出された変人じゃない」
ドルワの里の玄関口である転送ポートにて機材確認をしていたフィーレへ声を掛けたのは、気の強そうなリーフ人の少女とその取り巻きの少女達である。
フィーレは声をかけてきた人物を一瞥し、興味がないとばかりに作業へ意識を戻した。
「ちょっとアンタ!無視するんじゃないわよ!」
「これだから変人は!機械なんかに現を抜かすからダメなのよ!」
取り巻き達が非難するのを無視していたフィーレだったが、無視された少女が荒々しく近付き、その小さな身体を思いっきり蹴飛ばす暴挙に出た。
「っ!?ゲホッ!ゲホッ!」
咄嗟の事で障壁も間に合わず、近くにあった木に叩き付けられたフィーレは全身に走る激痛に激しく咳き込み、涙を浮かべる。
天才的なメカニックであるフィーレだが、地球人換算ではまだ幼子なのだ。
「あらごめんなさいね、ついムカついて脚を当てちゃったわ。
思ったよりも飛んだからビックリしちゃったじゃない。大丈夫?」
そんな彼女を嘲笑う少女の名はフローラ。リーフ族長フリーストの娘であり、ブレックスの孫娘である。
祖父からの英才教育(?)を真に受けて育った彼女は、族長の娘と言う立場故の権力を振り回す傍若無人な化け物へと立派に成長していた。
それでいてアード人相手には、“愛嬌を振り撒きながらも礼儀正しく控え目な深窓の令嬢"に擬態する強かさも持ち合わせているのだから質が悪い。
ついでに言えば、周囲にアード人が居ないことを探知魔法で念入りに探ってからフィーレと接触する嫌らしさもある。
「フローラさんってば優しい~」
「こんな奴の心配をするなんて、寛大なお方ね!」
「流石未来の族長!」
言うまでもないが取り巻きの少女達もまた、元老院メンバーの縁者達である。
「さて……聞きたいことがあるから答えなさい。フレスト様はどちらに居るのかしら?
私にとっては大伯父様に当たる方だから、ちゃんとご挨拶したいのよね」
「ゲホッ!ゥェッ!!」
「は?まだ無視するつもり?
呆れた。理解力がここまで無いとは思わなかったわ」
フィーレからすれば全身に走る激痛でそれどころでは無いのだが、フローラからすれば知ったことではない。
火星のオリンポス山並みに高いプライド故に沸点もかなり低い。
もう一度躾が必要か。
そう考えた刹那、彼女の探知魔法に新たな反応が現れる。アード人では無いことを確認してそのままにしておくと、フィーレの前に怒れる少女が降り立った。
「うちの妹になにしてんのよ?」
「おねー……ちゃんっ!」
フィーレの姉、フィオレである。
「あーら、変人姉妹の姉じゃない。ごきげんよう」
「アンタと挨拶なんかしたくないわ。フィーレに手ぇ出したわね?」
「礼儀知らずの異端を躾けてやったのよ、フィオレ。
感謝の言葉はまだかしら?」
嘲笑するフローラ達、そして苦しむ最愛の妹。これだけでフィオレを激怒させるには充分すぎた。
「ああそう……昔っからアンタの事は気に入らなかったのよ。
私の妹を痛め付けてくれたお礼として、その腐った性根を叩き直してやるわ!!!」
ミドリムシ事変は先ず、若い世代の衝突から始まったのである。