星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
「性根を叩き直す?私の?
笑えない冗談ね、フィオレ。叩き直して頂くの間違いじゃないかしら?
あれをお願い」
「はい、フローラさん!」
フィオレの啖呵に嘲笑で返したフローラは取り巻き達に合図を送る。
直ぐ様彼女達は魔法を唱え、周囲を薄い半透明の幕がドーム状に覆った。
認識阻害魔法の一種であるが、厄介な特性としてアード人の探知魔法を阻害する効果があるのだ。
当然ながらこの魔法はミドリムシ達が密かに編み出したものであり、アード側にも一切開示していない。
魔法の特性故に、セレスティナ女王の探知魔法すら阻害してしまう。
ミドリムシ達は意図せずして最高の切り札を手に入れてしまったのだ。
残念ながら普段の会話や行動が全てセレスティナ女王へ筒抜けであることは知らないので、全く有効活用できていないのが滑稽なのだが。
「見たこともない術式……協定違反よ、フローラ!
アンタなに考えてんのよ!」
双方の魔法や技術は全て開示して共有する。アードとリーフが共存するために締結した協定を完全に破る行為である。フィオレが別の意味で青ざめるのも無理はない。
だがフローラはフィオレの慌てた姿を嘲笑うかのように肩を竦めた。
「バレなければ問題ないし、アード人に敵意を向けた訳じゃないもの。
貴女の躾が終わったら説明くらいはするわよ。アード人は優しいから許してくれるわ」
結界の展開と同時にフローラと取り巻き達のマナが急激に上昇するのを肌で感じたフィオレは、多人数を相手にするため自身もマナを高めながらビームソードを取り出す。
「あははははっ!ちょっとフィオレ、私を笑死させるつもり?
そんな玩具で私達と張り合おうだなんて、健気なものね。
ご褒美として、躾の後は里へ戻れるように取り計らってあげる。
娼館の要員が足りないみたいだから、ちょうど良いわよ。一族のために尽くせるんだから幸せじゃない」
リーフの娼館とはミドリムシから目を付けられたリーフ人が行き着く先であり、リーフの暗部である。
「いちいち癇に障るわね、アンタは。安心しなさい、殺しはご法度だから……半殺しで我慢してあげる!」
マナを身体強化に回したフィオレは力強く羽ばたき、フローラ達へと向かっていった。
ここでフローラ達は幾つかの過ちを犯した。
先ずフィオレはティナとの旅でセンチネルやゼバ星系で大型バグと複数回交戦しており、リーフ人の中でも突出した実戦経験を持つこと。
勝ち気な性格もあってセシリアには及ばないが、そもそも高い戦闘技能を持つこと。
アード人やアード魔法を基本としたAIが結界に気付けなくても、ドルワの里にはリーフ人として規格外なフェルが居ること。
そしてなにより。
「何だか不気味なマナを感じます。
精霊達が落ち着かない……良くないことが起きています」
「ティナ、なにか変です」
「案内して!」
アードやリーフとは全く別の系統である精霊術を使うクレアの存在である。
彼女は結界が張られたことによる異変を感じ取り、それを聞いたフェルが直ぐ様マナを張り巡らせて結界の存在に気付いたのである。そしてティナは二人に絶対的な信頼を寄せているので、直ぐ様行動に移った。
「風の槍よ!貫けぇ!!!」
空を飛ぶ取り巻きの一人が無数の風の槍を生成し、フィオレへ向けて射出する。
だが、変則的な軌道を描かずにただ直進する弾幕などフィオレからすれば退屈なものでしかなかった。
力強く羽を羽ばたかせたフィオレは、迫り来る槍を僅かな動きで避けながら一気に距離を詰めて懐へ潜り込み。
「ちょっ!?」
「先ずは一つ!」
身体を回転させて、両手に持ったビームソードから発振した緑色の刃でがら空きの腹部を薙ぎ払う。
出力を最小限にしているので切断効果は無いが、地球で言えば高出力のスタンガンを浴びせられたようなものだ。
堪らずに気を失い落下していく。意識を失っても衝撃を緩和する簡易防護魔法は常時展開されているため、転落死の危険はないしそもそもフィオレに気にするつもりもなかった。
「ついでに、二つぅ!!」
更にフィオレは動揺しているフローラ達の一人へ、左手のビームソードを投げつける。
寸分違わず投擲したビームソードは取り巻きの一人の腹部に突き刺さり、悲鳴を上げる暇もなく意識を刈り取られた少女は地面へ落下する。
「たった一人に何をしているの!この役立たず!さっさと仕留めなさい!」
「はっ、はい!大地の槍よ!穿て!」
我に返ったフローラは最後の一人となった取り巻きに命じて攻撃を続行させた。
低空を飛ぶフィオレを狙って地面から隆起して鋭い針の山が出現するも、彼女は合間をすり抜けるように飛び越えて。
「これでっ!終わりよ!」
地面を蹴って急上昇し、そのエネルギーをそのまま乗せて真下からビームソードで最後の一人を斬り抜けた。
「貴女正気!?この役立たず達がどんな立場か理解してるの!?」
「知ったことじゃないわ!私の妹に手を出したことを後悔させてやる!」
自身へ迫るフィオレを見て焦りを覚えるフローラだったが、突如として下衆な笑みを浮かべる。
「そんなに大事ならしっかり守りなさいよ!フレイムランスッッ!!」
「っ!?フィーレ!!」
倒れているフィーレ目掛けて十を越える灼熱の槍を射出する。慌てて反転するフィオレだったが、間に合わない。
妹の名を叫び、懸命に飛びながらも最悪の事態を考えて青ざめたが。
「ウォールッッッ!!!」
突如として出現した大地の壁か全ての槍を受け止めて、フィーレを護った。
それと同時に周囲を包み込んでいた障壁の膜に亀裂が走り、粉々に砕け散った。
「嘘っ!!障壁が!?」
「やぁあああああっっっ!!!」
「ぉぐぅっ!?」
それと同時に、急接近してきたティナがビームランスの石突きで思いっきりフローラの腹部を突いて吹き飛ばす。
「またフィーレを狙ったわね!!お返しよ!!」
「げぺぇっ!?」
進路上に居たフィオレがフローラの顔面目掛けて強烈な回し蹴りを叩き込み、転送ポートである世界樹へ叩きつけた。
強烈な連撃は彼女の意識をあっさりと刈り取り、自慢の美貌を崩され白目を剥いて崩れ落ちた。
「あー……取り敢えずフィーレを狙っていたから一撃叩き込んだんだけど、大丈夫だった?」
「良いタイミングだったわよ、ティナ。
クレアもフィーレを護ってくれてありがとう」
「介入して良いのか迷いましたが、フィーレちゃんは大切な仲間ですから。
それよりフィオレさん、怪我を!」
戦いの結果無傷とは言えず、フィオレもあちこちに小さな傷が出来ていた。
「ん?ああ、掠り傷よ」
「ダメですよ、フィオレちゃん。しっかり手当てをしないと大変なことになります。
フィーレちゃんと一緒にね」
フェルは笑顔だったが、明らかに怒っている。多分自分にではなくフローラたちへの怒りだろうが、これ以上怒らせてはいけない。
そう考えたフィオレは素直に頷いた。
「アリア、取り敢えず拘束しといて」
「畏まりました」
フローラ達はアリアによって捕縛された。ミドリムシ事変の前哨戦はこうして終わりを迎えたのである。