星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
「まさかフローラちゃんを捕まえるとはねぇ」
「やっぱり不味かった?」
「いや、お手柄だよティナちゃん。フィオレちゃんとフィーレちゃんは大丈夫?」
「うん、フェルの手当てを受けて休んでる。クレアが居なかったから気付けなかったよ」
フローラ達を捕縛したティナはリーフ姉妹の手当てをフェルとクレアに任せ、ティリスに事の次第を説明していた。
既に何があったかはフィオレから説明を受けていたので、情報共有はスムーズに行われた。
「それを聞けて安心したよ、大きな怪我じゃなくて良かった☆」
「うん。でも、色々厄介なことにならないかな?」
後悔はしていないが、後始末をするティリスを心配した言葉に彼女も笑みを浮かべる。
「大丈夫大丈夫☆
面倒な後始末は大人に任せて、ティナちゃんは皆と一緒に居てあげて☆」
「分かった。手伝えることがあったら言ってね」
飛んでいくティナを見送ったティリスは、意識を失ったまま捕縛されているフローラと取り巻きの三人を見下ろす。
思うところはあれど、この少女達もまたミドリムシの犠牲者である。
少なくともティリスはそのように考えていたので、厳罰に処するつもりもなかった。
まあ何らかの罰は必要になるだろうが、その辺りは行政の責任者であるパトラウスに任せれば問題ないだろう。
いきなり丸投げされたパトラウスは泣いて良い。
彼女の思考は既に先を見据えて進み始めた。
今回の事件と捕虜(暫定)の取り扱いについて考えを巡らせているのだ。
「上手くいけばミドリムシを分断できるかもしれない。
子供を政治利用するのは気が引けるけど、反省の意見も込めて我慢して貰おうかな☆」
事件発生から二時間後、正午が近付いていた。
外交団はアード滞在二日目となり、情報収集や交流に邁進していた。
サマル大使は持ち込んだ製品の展示会と試供品の提供を行いつつアード全体の需要を調査しており、ホワイト大使はどの様な芸術品がアード人に受けるか画像などを使って慎重に調べていた。
食料品以外の交易品は地球側の熱望であり、既に絨毯等の製品は好評を得ていた。
絵画を中心とした美術品も、風景画よりは人物画の方がアード人の興味を惹く傾向があるとホワイトは確信を得ていた。
一方ヤン大使達は伝統的な中華料理だけではなく、和洋折衷何でもござれの料理でアード人の胃を鷲掴みにしていた。
特にアード人は料理の決め手と言える調味料に強い関心を示しているので、香辛料なども高い需要があることを突き止めていた。
更にホワイト大使と情報共有を行った結果、アード人は人物画に描かれた衣類にも強い関心を示していることに気付いた。
それは服飾関係も交易品となる可能性を示唆していた。
一方我らが異星人対策室の面々だが、ジョンとジャッキー=ニシムラ(活きる伝説)はアード人と外交団の面々の橋渡しに奔走し、朝霧は息子を預けて地球代表大使としてドルワの里とケレステス島を忙しく行き来していた。
美咲はセシリアの付き添いで数日間の検査入院、誠はティルに振り回されている。彼らからすればありふれた日常がそこにはあった。
そんな最中、ケレステス島のアード永久管理機構利用区劃の密室にて、呼び出されたフリーストがパトラウスと秘密会談を開いていた。
「なんと、我が娘がその様な狼藉を。なんとお詫びすれば良いのやら」
「ドルワの里へやって来て、強引にフレスト中将の所在を調べようとし、実力行使に及んだとの事だ。
フリースト卿、作為的なものを感じるのは私だけだろうか?」
「どうやら誤解があるようだ。我々に含むところはない。
心からの謝罪と再発防止、下手人の厳罰を以て誠意を示したい」
表情を変えぬフリーストを見てパトラウスは内心怪しみつつも、姉からの言葉を伝えるべく口を開いた。
「謝罪を受け取ろう。
里を管理する我が姉より、子供の喧嘩として処理するので厳罰は止めてほしいとの要請が出ている。そちらが望むならば、身柄もすぐに引き渡そう」
「寛大なる御沙汰に心からの感謝を申し上げる。
また二度この様な行き違いが発生しないよう厳重注意と、一族全体への周知徹底をお約束する。充分な賠償も確約しよう」
予想外の寛大な対応にフリーストは僅かに表情を変えた。叔父の帰還と今回の失態によって、ティリス提督からは熾烈な攻撃があるのは避けられないと覚悟していた。
今回の件は完全に娘の独断専行であり、父であるブレックスが唆したことも判明している。
父を含めたお歴々には焦りがある。フリーストとしても苦々しく情勢を見ていたのだ。
「ひとつ、フリースト卿へ姉からの言伝がある」
「伺おう」
フリーストが姿勢を正し、パトラウスはAIを操作してメッセージを再生した。
『若い子を巻き込むな、黙ってみていろ。次はない』
いつもの愛らしさなど微塵もない、凍り付くような冷たい言葉にフリーストはもちろん、パトラウスも滝のような冷や汗が流れるのを感じた。
フリーストもまた野心家でありミドリムシだが、父であるブレックスには遠く及ばない。
それがティリスのフリースト評である。
本来ならばフリーストも処してしまいたいが、それではリーフに無用な混乱を招く。
今回は本命であるブレックス一派の始末を以て満足する。
それがティリスの決断であり、パトラウス達もそれを容認した。
「……厳しいご叱責だ。身が引き締まる想いですな」
「弟として、姉の折檻は勘弁願いたいものだ」
「全くですな」
二人の間に不思議な空気が流れる。暫しの沈黙を経て、フリーストは重々しく口を開いた。
「パトラウス卿。下手人の身柄引き渡しについて、ご相談があります」
「伺おう」
「私の娘を含めた者達は、当分ドルワの里で身柄を預かっていただきたい。
恥ずかしながら私は娘を甘やかし過ぎた。手元に戻しては、あの子達も反省しないだろう」
フリーストは、ティリスのメッセージからその真意を正しく理解していた。自身にも野心はある。
だが、今のまま父達を自由にしてはそれこそ三百年の苦労が水泡に帰してしまう。
何よりこれは政争なのだ。政治の世界に娘を巻き込みたくはない親心もある。
要はフローラ達を一時的に人質とすることで、これから起きるであろう政争から自分と派閥を逃すつもりなのだ。
「……貴公程の御仁が、その意味を正しく理解していないとは思えん。宜しいのか?」
「政争ならば幾らでも受けてたちますが、一族の未来を担保にするほど酔狂でもない」
父を差し出すと暗に言っているのだ。出来ればフリーストも消してしまいたい想いはあるが、当分は大人しくなるだろう。
政治とは妥協である。
パトラウスは静かに頷くことで返答とし、フリースト一派との一時休戦を受け入れたのである。