星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
「フローラは!ワシの可愛い孫娘はどうしたのだっ!」
「不祥事を起こしました故、折檻する意見も込めてドルワの里に預けております」
「愚か者めが!これが奴らの策略であることは明白ではないか!
可愛い孫娘をみすみす奴らの手に委ねるなど、耄碌したか!」
フリーストは、激昂する父を何処か冷めた心地で眺めていた。
彼は娘であるフローラの教育にほとんど関われていない。父が手離さず、そして自分を遠ざけた故である。
或いは将来的に自分が父の政敵となることを見越して、娘を介して影響力を保持しようと目論んだか。
今となっては父の真意は不明であるが、その結果としてフローラは中々の難物として育ってしまった。
「アード側が我々に対して策略を用いる理由がありません。
我々は彼等と敵対しているわけでは無いのです。
娘と言えど、無用な諍いを招いてしまった責任を負うのは当たり前の事です」
「全くお前は小心者だな!何を恐れておるのか!
栄華のためならば、アードであろうと踏み越えていかねばならん!それが分からんのか!」
アード社会の中での権威を確立しようとするフリースト、アードさえも踏み台として自らの下と見ているブレックス。
表面的にはフリーストが従順なため対立は起きていないが、この根底的な思想の相違が水面下での派閥形成を促した。
そしてアード社会で新世代が活発化する中、リーフ社会でも世代交代が起きようとしていた。
ティリスはこの水面下で燻っている火種を利用することで、ミドリムシの分断を仕掛けたのである。奇しくもその引き金を弾いたのは、旧世代の象徴であるブレックスが手塩にかけて育て上げた孫娘のフローラであることは皮肉以外のなにものでもなかった。
「恐れてはおりませんが、故郷を失った我々を快く受け入れてくれたアードとの対立は、我が一族の未来に益するものではありません」
「その通りだ、我々は故郷を失った。だがそれは同時に旧態依然とした社会からの脱却であり、新天地における新生の機会を得られたのだ。
フリースト、今少しなのだぞ。三百年の月日を浪費してしまったが、今こそ楽園を創造する好機なのだ。
それを邪魔立てする者は排除せねばならん!」
熱弁を振るう父の言葉には、アードに対する感謝は一切含まれていなかった。
無論フリーストもリーフ会戦時の暗躍には関与した。とは言え当時まだ成人したばかりの若造であり、父の指示に従って動いただけであり真相については知らないことが多い。
アードで暮らし、族長として切磋琢磨する日々。妻を迎えて娘に恵まれた穏やかな日常は、アード人によってもたらされたもの。
少なくともフリーストには、父のようにアード人を踏みつけようとする考えは全く無かった。
これまでは父の言葉に従いそうあれと振る舞ってきたが、事此処に至って心中するつもりもない。
「それに、地球と言う新天地も新たに見付かったのだ。
なんとしても統治権を手に入れて、第二の故郷として楽園を築き上げる!」
「地球人はどうするのです?」
「魔法も使えず空も飛べぬ劣等種ではないか。
まあ、家畜として使役すれば良い。多少は役立つだろう」
熱に浮かされたような父を見て、フリーストは完全に愛想を尽かせた。パトラウス経由で手に入る情報では、地球人は決して簡単に屈するような種族ではない。
更にアードは既に地球人を対等な友として見ている。父の企みは、アードとリーフの関係に決定的な亀裂を生み出す事は間違いない。
とは言え、最早この父に自分の言葉は届かないだろう。既に自分は今回の舞台から降りたのだ。
ティリス達からすれば自分も排除の対象だろうが、上手く立ち回れば妻と娘の未来は守れるだろう。
「父上の意思は理解しましたが、一族を率いる身としてケジメは付けねばなりません。
フローラについての決定を覆すつもりはありませぬ」
「アメリアは!あやつはなんと言っておるのだ!」
アメリアとはフリーストの妻であり、フローラの母である。
閉鎖的なリーフ人には珍しく、里から出てアードの学校で学びアード人達との交流にも積極的な人物である。
それ故に娘を洗脳する義父との関係は最悪だったりするのだが。
「妻は私などより聡明な女性、全てを受け入れております」
「あの様な埒外者を妻として認めたワシが愚かだった!腑抜けおって!
もう良い!貴様は黙って見ておれ!老いた父に苦労させる愚息めが!」
肩を怒らせて部屋を出ていく父を、フリーストはただ黙って見送った。
そして手早く念話を使い、自分の派閥に属する同志達に事態を静観するよう指示を出した。
ドルワの里。外交団の受け入れてお祭り騒ぎとなっており、今も里のアード人やリーフ人達が来訪した地球人達と積極的に交流していた。
その喧騒から少し離れた里唯一の商店、“鬼カワ☆ティリスマーケット☆”で、店長でもあるティリスは一人のリーフ人女性と対面していた。
地球人基準ならば三十手前の誰もが見とれるようなリーフ美人が衣類を全て脱ぎ捨て、生まれたままの姿で床に正座し、両手を胸の前で交差させて深々と頭を下げていた。
それはリーフ人にとっての謝罪の姿勢であり、日本の土下座以上の意味を持つ。
要は自分の全てをさらけ出した謝罪なのだ。
「この度の娘の不祥事、誠に申し訳ございません」
「頭を上げて服を着て、アメリアちゃん。
パトラウスを通じて、厳罰を与えるつもりはないって伝えてるよ」
「寛大なるお心に最大限の感謝を。
ですが、夫も伝えるとは思いますがフローラが行ったことは、決して許されるものではございません。
母として、娘の分まで誠意を尽くすのは当然の事。フローラだけではなく、どうか私にも罰をお与えください」
尚も頭を下げ続けるアメリアを見て、母とは強いものだと内心ため息を吐き、努めて笑顔を浮かべたままティリスは言葉を続けた。
「それだとお話が出来ないよ、アメリアちゃん☆」
「ですが」
「フローラちゃんの処遇についてはちゃんと考えてあるから安心して。
フィオレちゃんやフィーレちゃんの気持ちもあるから、無罪放免とはいかないけど」
「尚更私にもフローラと同じ罰を。母も同罪となれば、あの娘も自分の短慮が招いた結果の重大性を充分に理解するでしょう」
フィオレ、フィーレ姉妹はリーフの里を追われてドルワの里へ身を寄せている。
つまりティリスにとって護るべき住民なのだ。そこに手を出した。
それを最大限利用してミドリムシの分断を仕掛けたのはティリス本人なのだが、多くのアード人と交流があり、聡明なリーフ人であるアメリアが娘のために恥辱の限りを尽くして謝罪する姿を見て、やはり政争とは単純なものではないなと頭を悩ませることとなる。