完新世 エヴァンゲリオン   作:犬社長

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やはり戦闘シーンは長くなる定めか。

…ま、戦闘シーンなんてなんぼ長くても良いですからね。




10〈使徒 シャムシエル〉

西暦2016年 9月 3日

 

 

 

2()()()()使()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「ーーーー良いかしらシンジ君?」

「はい。」

 

 暗い視界の中、リツコの声だけがシンジに聞こえる。

 

「ーーーーコレから、〈中距離戦闘射撃訓練〉を開始するわ。エヴァパイロット候補生なら、誰でも行う簡単な訓練よ。ーーーー今から始めるわね。」

 

そんな声と共に、真っ暗だった視界に光が走る。

 

 一本の光の線が幾つも交差し、格子状の模様を作り出す。更にその模様の上に、青白く輝くホログラムの街並みが出現した。

 

 その街並みに、黒く表示された異形の影が映り込む。ーーーー使徒のホログラムだ。

胸の部分だけ、赤色に着色されている。

 

「見えるかしら。ーーーーあの赤く表示されている部分が、使徒の弱点よ。」

 

 リツコの声と同時に、使徒のホログラムの胸部にある赤い球体が点滅する。

 

「…あそこを破壊すれば、使徒は動きを止める。逆に言えば、そこを潰さない限りは、使徒は不滅なの。」

「…なるほど。」

 

 頷くシンジ。すると、今度は彼の目の前に一挺のライフルのホログラムが現れた。

 

「それは、〈MM-99パレットライフル〉。ーーーー劣化ウラニウム弾をレールガンの要領で射出する、エヴァンゲリオン専用装備よ。」

「こんな物が…あったんですか。」

 

 青白いホログラムのパレットライフルを、繁々と見つめながらシンジは呟く。

 それと同時に、最初からコレがあったら、最初の戦いで()()はならなかったのではーーーーと思ってしまった。

 

「…なんで最初の戦いでは、こんなのが使えなかったんですか?」

 

不平そうなその呟きに、リツコの声が答える。

 

「ーーーー仕方なかったのよ。まず、ちゃんとエヴァが動くかどうかすら分からなかったもの。それに、あの時の貴方がコレを持っても、マトモに当てる事は出来なかったと思うわ。」

「そう…ですか。」

 

 一歩足を踏み出すのがやっとだった時の事を思い出して、シンジは静かに頷いた。尤も、今もまだエヴァの操縦訓練をやり始めてわずか2日しか経っていない。

 

 

 この二日間、シンジは学校終わりにネルフに寄って、操縦訓練を夜遅くまで行うという事を続けてきた。

 

 

 その甲斐あってか、歩いたり、走ったりといった簡単な動きなら、普通に出来る様になっている。ーーーー素人が僅か二日の訓練でそこまで動ける様になる事は、本来異常な事なのだがシンジにその自覚は無い。

 

 

「物は試しね。取り敢えず、一回使徒の弱点ーーーーコアって言うんだけどーーーーコアを狙って撃ってみなさい。」

「はい。」

 

 シンジは手元にある操縦桿を握ると、スイッチを押した。ーーーーコレは、エントリープラグ内に元からあるエヴァの操縦桿である。

 動く、と言うヒトの意思によってのみ稼働するエヴァにとって、操縦桿は本来必要無いパーツだが、こういった射撃などを行う時は、引き金を引く事をイメージしやすい様に、スイッチの付いた操縦桿が役に立つ。

 

 ホログラムの弾丸が、シンジの付けているVRヘッドセットが映し出す仮想の街並みにばら撒かれて、使徒の体に当たった。

 

 しかし、弱点のコアには当たっていないし、殆どの弾丸が関係の無いビル群を穿ってしまう。…銃の反動も、しっかり再現されている様だ。

 

(ーーーーむ、難しい……。)

 

「目標をセンターに入れて、スイッチを押すの。しっかり構えれば、ちゃんと当たるわ。ーーーー操縦桿には、手ブレ修正機能や視線と同期したエイムアシスト機能もあるから、使える物をフルに使って頂戴。」

「ーーーーはい。」

 

 シンジは気を取り直して、ホログラムの使徒目掛けてひたすら銃を撃ち続けた。まるでおまじないの様に、1つの言葉を呟きながらーーーー

 

 

 

「目標をセンターに入れてスイッチ。目標をセンターに入れてスイッチ。目標をセンターに入れてーーーーーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

翌日ーーーー西暦2016年 9月 4日

 

 

 

 

2()()()()使()()()()()()

 

 

 

 

 

 

ーーーーその日、シンジはいつも通り学校に通っていた。

 

 

 

 席に座り、至極普通の一般中学生として、勉強に集中していたのだ。

 

 しかし、後ろの席からの鈴原トウジの視線が、事あるごとに気になる。

 

 視線が気になる度に、薄っすらと涙すら浮かべながら、胸ぐらを掴まれた時の事が頭を過ぎるのだ。

 

(僕がちゃんとしなかったら…鈴原君の家族は傷付いた。……全部、僕のせいだ。)

 

 そう思い悩む反面、シンジの中で別の思考ーーーー言うなれば、悪魔の自分…だろうか?ーーーーが、語り掛けて来る。

 

『ソレがなんなのさ?…悪いのは、避難せずに外に出ていた鈴原の妹じゃないか。ーーーーそもそも、鈴原の妹を怪我させたのも、親戚の家を壊したのも、暴走していたエヴァがやった事だ。僕のせいじゃ無い。鈴原の怒りなんて、唯の理不尽さ。どうして、他人の理不尽を抱え込んで自分を責めなきゃならない???』

 

 

「…………。」

 

 

ーーーー知らず知らずの内に、シンジの教科書を捲る手は止まっていた。

 

「ーーーー次、綾波。五行目から読んで。」

 

 国語教師の声が、ボンヤリとしていたシンジの耳に入ってくる。

 

 そしてシンジから離れた席の所で、綾波レイがそっと立ち上がって音読を始めた。

 

 

 

ーーーー抑揚の無い静かな朗読を聴いていると、彼女の家に職員証を届けに行った日の事が、脳裏に蘇る。

 

 

『どうして、エヴァに乗ろうと思ったの?』

 

 

ーーーー彼女からの静かな疑問。

 

 ソレに対する答えが分からないまま、エヴァパイロットになっていた。

 

ーーーー何故僕は、エヴァに乗るのか。1度目の時は、その場の成り行きで、としか言えなかった。

 しかし、正式にエヴァパイロットに成り、今後エヴァに乗り続けていく以上、ソレに対する答えを見付けなくてはならなくなった。その理由を見つけられればきっと、上手くやれる。…そんな気がしたのだ。

 

 

 

 

ーーーーピンポン♪パンポーン…♪

 

 

 

 

「!?!?」

 

 突然、午後の静かな授業中だった教室内に、大きなチャイムが鳴り出す。シンジの思考は、その音で中断された。

 

(コレってーーーーーーーー)

 

ーーーー続いて、スピーカーから誰かの声が流れ始める。

 

 

『特務機関ネルフより、第三新東京市全区域に通達。ーーーー現在、当市に使徒が接近しているとの情報を確認した為、市内全域に緊急非常事態宣言を発令致しました。市民の皆様は、速やかに指定されたシェルターに避難して下さい。』

 

 

どよ………

 

 

 騒つく教室。ーーーー国語教師は素早く教科書を置くと、手を叩いた。

 

「ーーーーハイ、皆さん!!授業は中止です!シェルターに急ぎましょう!!」

 

 ワッ、と動き出す生徒たち。一方シンジは携帯ーーーーミサトに2日前に買って貰ったモノだーーーーを片手に、クラスの皆んなとは違う方向へ駆け出した。

 

携帯の画面には、こんなメッセージが有った。

 

 

『緊急招集。エヴァンゲリオンパイロット-03《碇シンジ》。速やかに、ネルフ本部へ移動せよ。』

 

 

(2体目だ…。今度は…ちゃんと戦わないと…!!)

 

 

 走りながら、シンジは心に誓う。前みたいな事はしないと。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 校門で待ち構えていた黒服の男達ーーーー自分のボディーガードらしいが、いつも何処に居るのだろう?ーーーーが運転する車に乗り、シンジはジオフロント内部のネルフ本部へやって来た。

 

ーーーー着くや否や、シンジは有無を言わさぬ勢いで出撃の準備をされ、あれよあれよと言う間に、シンジを乗せたエヴァ初号機はジオフロントから使徒迎撃の為に、出撃して行ったのだーーーー。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

〈同時刻 第壱中学全校生徒避難用シェルター 〉

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーおい!!ケンスケ!!お前、何しとるんや?!」

 

 

 

ーーーー第壱中学校生徒が避難してきているシェルター内部で、誰かの驚愕した声が聞こえて来た。

 

 

叫んだのは、鈴原トウジ。

叫ばれたのは、相田ケンスケ。

 

 

ーーーー何方も、シンジのクラスメイトだ。

 

 ケンスケは()()()()()()()()()()()()()()()()()で、固まっている。

 トウジもトウジで、ケンスケを見つめたまま固まっていた。

 

「な、なんで俺がここに居るってーーーー」

 

ケンスケの問いに、トウジは答える。

 

委員長(いいんちょ)(洞木ヒカリの事)から、便所に行ったきり戻って来ないお前を探すよう頼まれとったんや。……なんでシェルターの扉を開けとる?ワシら、外には出れへん筈やで?」

 

 トウジの問いにケンスケは、悪戯が見つかって狼狽えている子供の様に視線を彷徨わせていたが、突然両手を合わせてトウジに向かって勢いよく頭を下げて来た。

 

「トウジ!!今日だけはどうか見逃してくれ!!後で、何でもするから!!!」

「…は、はぁ???」

 

 ケンスケの首元にぶら下がっているカメラが揺れる。そのままケンスケは、目をキラキラさせて喋り始めた。

 

「俺、見たいんだよ!!エヴァンゲリオン!!ーーーーネルフの情報統制とかいうヤツのせいで、すぐ近くで全男子垂涎のイベントが起きているってのに、外も見れない鉄箱(シェルター)の中に閉じこもってなきゃならないなんて、生殺しじゃないか!…トウジなら、トウジなら分かってくれると思う!!ーーーーだから、今日だけは見逃してくれっ!!」

「………マジかぁ…。」

 

 その言葉を聞いて、頭に手を当て天井を仰ぐトウジ。ーーーー彼がミリオタだという事は知っている。エヴァンゲリオンに心を惹かれている事も。

 

ーーーー常識的に考えたら、ココはケンスケを連れ戻すべきだ。間違いない。

 しかし、同時にケンスケはトウジの竹馬の友でもある。ーーーー友の望み。それが叶うチャンスを潰すのも、なんだか気が引けた。

 

「あぁー………。」

 

トウジは悩む。

 

…弱ったなぁ…………。」

 

 悩んで、葛藤して、また悩んだ末に、彼は意見を固めた。

 

「ケンスケ………。ーーーーホンマに、何でもしてくれるんやな??」

「トウジ…ッ!!」

 

感極まったかの様に息を呑むケンスケ。

 

 

ーーーー(トウジ)は友情を選んだのだ。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーしかし、ケンスケ!一つ聞きたい事があるんや!」

 

 

シェルターから抜け出した二人。

 

 

 トウジは、シェルターが設置されている山の斜面を駆け上がりながら、先を急ぐケンスケに叫ぶ。

 

「なんだい?」

 

振り返るケンスケ。

 

「ーーーーお前、なんでシェルターの扉開けれたんや。アレは開けるのにパスワードがいる筈やで?」

 

トウジの問いに、ケンスケはニヤリと笑った。

 

「ーーーー俺の父さん、ネルフの職員なんだけどさ。その父さんのパソコンにハッキングをかけて、シェルター開閉用のパスワードを入手したのさ!…どうだい?凄いだろ〜!」

「はぁ?!ちょ、お前、それ犯罪ーーーー」

「さぁさぁ!先を急ごうじゃないかトウジ!ーーーー怪しまれない様、すぐにシェルターに戻らなきゃいけないんだからさ!」

 

 トウジの突っ込みは、ケンスケの元気な言葉に遮られた。ーーーーそして、二人の前に開けた場所が現れる。

 

ーーーー第三新東京市の、全体が一望できそうな高い場所だ。

 

「さぁ〜てさてさてさて!ーーーーどっから〜〜…お!アソコか!!ラッキー!思ったより近いぞ!!」

 

ケンスケが素早くカメラを構える。

 見ると、彼がカメラをむけている方角の地面から、何かーーーー鉄の箱のような物ーーーーが迫り上がって来ていた。……意外と近い。

 

「…箱?」

「エヴァをジオフロントから出し入れする為の昇降機さ!…あの中にエヴァンゲリオンは居るんだよ…!」

 

 興奮気味に呟くケンスケの前で、昇降機の扉が開き、中から紫色の装甲に身を包んだ巨人が姿を表す。腹部や二の腕の一部の装甲は、緑色に光っている様だ。

 

「出た出た!!アレがエヴァンゲリオン初号機っ!!ーーーー紫色なのか〜!!スッゲェー!!」

 

 ケンスケのカメラが、何度もシャッター音を鳴らす。今の一瞬で30枚近く撮ってるに違いない。

 トウジも、初めて見るエヴァンゲリオンの姿に多少圧倒されていた。

 

「でっかいのぉ………。ーーーーん?でも、相手は何処や?」

 

 そうトウジが呟いた瞬間、エヴァとは反対側の山から爆発音と閃光が轟いた。

 

立ち昇る爆炎の中から、何かがヌッと姿を表す。

 

「お出ましだよトウジ!!…アレが人類の敵ーーーー使徒さ!」

 

煙が晴れ、使徒が姿を露わにした。

 

 

 

「………なんやアレ。気持ち悪い見た目しとんのぉ。」

 

 

 

一眼見たトウジは、そんな感想を抱く。

 

 

 何というかーーーー()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

ーーーージオフロント内部 ネルフ本部中央発令所

 

 

 

 

…発令所の巨大なモニター全面に、真っ赤な体をした細長い見た目の使徒が映っている。

 

「烏賊みたいね…。気味の悪い……。」

 

 そうミサトが呟く。すると、彼女のすぐ前の椅子に座り込んでいた眼鏡の男性が、賛同の意を示す様に頷いた。

 

「えぇ。まさに化け物、って言葉が似合いますよ。」

 

ーーーー彼の名は、()()()()()。ネルフの頼れるオペレーターである。

 

「ーーーー取り敢えず、弱点のコアはちゃんとあるな。虫の節足みたいなので守られてるが、アソコを叩けば問題無さそうだ。」

 

ーーーー続いて声を発したのは、日向マコトの同僚()()()()()。彼は手元のコンピュータを素早く動かしながら、使徒を調べていた。

 

「わしゃわしゃ動いてて、気持ち悪いですぅ……。」

 

ーーーーシゲルの隣で弱気な声を出すのは、二人と同じオペレーターの女性、()()()()

 どうやら、使徒ーーーーのコア付近の虫の脚みたいなモノーーーーがドアップで映っているモニターを見るのも憚れるらしく、両手で顔を隠していた。…それでも、指の隙間からチラチラ見てしまっているが。

 

「しっかりしなさい、マヤ。シンジ君は私達がサポートしないと。」

 

 隣で赤木リツコが、マヤの肩に手をおく。それだけで、彼女はだいぶ落ち着いた様だ。

 

ーーーーここで、シゲルがシンジに連絡を入れる。

 

「シンジ君。聞こえるか?ーーーーオペレーターのシゲルだ。」

 

 

 

 

〈エヴァ初号機エントリープラグ内〉

 

 

 

 

「ーーーーはい。聞こえます。」

 

 スピーカーから聞こえて来たシゲルの声に、シンジはそっと答えた。既に彼の目は使徒を見つめている。

 

『あの使徒ーーーーシャムシエルってコードネームがあるんだがーーーーソイツの胸に当たる部分に、弱点のコアがある。500メートル先の〈EVA武装格納ビル〉をアクティブにするから、その中に入っているパレットライフルで戦うんだ!』

「はい!」

 

 シンジは頷く。ーーーーと、同時に初号機の前にビルが突き出して来た。無論、ただのビルじゃ無い。中にエヴァ専用の銃火器を詰め込んだ、武器庫でもある。

 

 開いた格納ビルから、一挺のパレットライフルを取り出したシンジ。一方、使徒シャムシエルも初号機の動きを感知したのか、のっそりと細長い上体を起こす。

 

『気をつけろよシンジ君!ーーーーシャムシエルは第一・第二防衛線ともに、ただ通過するだけで攻撃をしてきてない。…どんな手段を取ってくるか、分からないからな!』

 

シゲルの声を聞きつつ、シンジはライフルを構えた。

 

 

「ふぅー…ふぅー…ふぅーっ…!」

 

 

ーーーー自分の息が荒くなるのを感じる。

 

 これはシュミレーションではない。目の前にいるのは本物の使徒。何をしてくるか分からない。だからーーーーーーー

 

 

(何かされる前に、倒すッッッ!!!)

 

 

 

 

ーーーーカチッ!…ダダダダダダダダダダッッッ!!!

 

 

 

 

シンジの指は、引き金を引いた。

 

 

 訓練通り、コア(目標)中央(センター)に入れて射撃(スイッチ)だ。

 

 激しいマズルフラッシュが初号機両側のビルの表面を焼き、排出された空薬莢が、乗り捨てられた乗用車を押し潰して道路をバウンドして行く。

 

 そして、射出された弾丸はシャムシエルの体に命中して、火花と煙を散らした。

 

ーーーーシャムシエルの姿が見えなくなる程に。

 

 

『ッ?!ーーーー待つんだシンジ君!目標が黒煙で見えない!』

 

 

 シゲルが咄嗟に射撃を止める様シンジに言うが、シンジの耳には入っていない様だ。

 今の彼は、ただ銃を撃ち続ける事しか思考が回っていない。

 

 

ーーーーびしゅんっっ!!!

 

 

 突然、黒煙を裂いて紫色に光る鞭の様なものが伸びてきた。シャムシエルが、体から触手を伸ばしてきたのだ。

 

「うわぁ?!」

 

シンジは咄嗟にライフルでそれを防ごうとした。

 

ーーーースパンッッッ!!

 

…シンジの手の中で、パレットライフルは呆気なく真っ二つになる。

 

「嘘…!」

 

 シンジが息を呑んだ瞬間、2()()()()()が初号機に襲い掛かった。

 

ーーーースパパパァンッッッ!!!

 

 なんとか2本目も避ける事に成功したが、シンジが居た周辺のビルが纏めて輪切りになってしまう。

そして、さらに最悪な事態が起きた。

 

 

「アンビリカルケーブル切断っ!!ーーーー初号機、内部電源に切り替わります!!」

 

 伊吹マヤの叫びが発令所に響く。ーーーーと同時に、主モニターの片隅に真っ赤な文字で『5:00.00』の表示が現れた。

 それは直ぐに『4:59.00』へと、表示を変えてカウントダウンを始める。

 

「やられたかっ!」

 

ミサトは顔を顰めた。

 

ーーーーアンビリカルケーブルとは、エヴァを動かす為のエネルギーである〈電力〉を、外部から供給する為の巨大な配線コードの様な物だ。

 

 巨大なエヴァを動かす為の膨大な電力は、全てアンビリカルケーブルを通って送り込まれている。ーーーーここを切断されると、エヴァは〈内部電源〉に切り替わるのだ。

 

…ケーブルが切断されても直ぐに活動が停止しない様、エヴァに内蔵されている〈内部電源〉だが、こちらは持っても5分しか持たない上、エヴァの動き方によっては5分よりも短くなる。

 

 

ーーーーアンビリカルケーブルは、正にエヴァの生命線。ソコを切られてしまったのは、痛すぎた。

 

 

 

「ーーーーでも、まだ大丈夫だ!」

 

 すかさず日向マコトが叫んだ。彼の手は忙しく仮想キーボードの上を行ったり来たりしている。

 

「北北西方面1.7キロ先に、替えのアンビリカルケーブルが入った格納ビルが有る!!ーーーーソコに行って、再接続するんだシンジ君!!」

「は、はい!!」

 

 

ーーーーシンジは、なんとかマコトの示す方角へ向かおうとする。しかし、シャムシエルの鞭による連撃が、彼を阻んでいた。

 

「くっ…!」

 

 鋼鉄すら簡単に切り裂く鞭だ。当たれば、どうなるか分かったもんじゃない。

 シンジは素早く鞭を避けながら、シャムシエルから距離を取ろうとする。

 

 

ーーーースパン、スパパンッ、スパスパンッッ!!

 

 

 シンジが鞭を避けるたびに、巻き込まれたビルや建物が切り刻まれて、空を舞った。

 

 それを見るたび、シンジの脳裏には、自分の戦いに巻き込まれて家を失ったというトウジの親戚の話が甦ってくるのだ。

 

 

(マズいマズいマズいマズいマズいマズいマズい!!)

 

 

シンジは、完全に冷静さを欠いていた。

そして、冷静さを失うと判断力も鈍る。

 

『シンジ君!!』

 

 誰かのーーーーマヤのだろうか?ーーーー声が聞こえた瞬間、初号機の足にシャムシエルの鞭が絡み付いた。

回避が遅れたのだ。

 

「わっ!!」

 

 そのまま、初号機はシャムシエルによって天高く持ち上げられる。

 そして、向かっている方向とは真逆の方ーーーーつまり、山の方へと放り投げられたのだった。

 

 

 

 

 

 

〈ケンスケ&トウジ視点〉

 

 

 

 

 

ーーーーエヴァンゲリオンが、光る紫の触手に足を取られたと思った瞬間、その巨体がコチラに飛ばされてきた。

 

 

 

「「えっ。」」

 

 

呆気に取られる2人。

 

 みるみるうちに、飛んできたエヴァンゲリオンの背中が大きくなりーーーーーーーー。

 

「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ?!?!」」

 

 

ズドォーーーーーンッッッ!!!

 

 

 エヴァンゲリオンは、2人の目と鼻の先に落下した。ーーーー立ってられない程の衝撃が大地を走り、太い大木が雑草の様に根こそぎ抜かれて空を舞う。

 

 2人はなんとか生きていた。ーーーーしかし、無事を喜んでいる様な状況では無くなってしまう。

 

 

 何故なら、投げ飛ばしたエヴァンゲリオンを追って、使徒がこちらに来ているからだ。

 

 

 

 

〈初号機エントリープラグ内〉

 

 

 

 

「くっ………。」

 

 初号機とのシンクロによって発生している身体の痛みに耐えながら、シンジは体を起こす。

ーーーー同時に、エヴァ初号機も上体を起こした。

 

 使徒はこちらに向かって来ている。ーーーー残り時間はあと僅か。どうしたら良いのだろうか……とまで考えた時、シンジの視界に映っているモニターが、何かを検知した。

 

「ん…??」

 

ーーーー見ると、地面についた初号機の手の指と指の間に、何か人の様なものが見える。

 

「…な、人?!」

 

驚くシンジ。

 それは、ネルフ本部の中央発令所にもエヴァのメインカメラを通して映っていた。

 

 

 

「民間人…子供?!」

 

リツコが驚きの声を漏らす。

隣でシゲルがキーボードを叩いた。

 

「身元を特定……しました!第壱中学校3年生相田ケンスケ、と鈴原トウジです!ーーーーしかし、何で外に…???」

「その2人って、シンジ君のクラスメイトじゃない!!」

 

ミサトも驚愕の声を上げた。

 

 そしてその声は、プラグ内のスピーカーを通してシンジの耳にも入ってくる。

 

(相田くんとーーーー鈴原くん…?!)

 

ーーーーソコにいるのが誰だか分かったシンジの行動は早かった。

 

 素早くコックピットのレバーを操作すると、シンクロ状態は維持したままエントリープラグを半分、初号機から露出させる。そして、緊急用の昇降ロープを地上に下ろした。

 

2人は目を丸くしたまま固まっている。

 

 

「2人とも!!中に入って!!!」

 

 

ーーーーシンジの叫びを聞いて、2人は弾かれた様に動き出した。ロープに掴まると、エントリープラグの中へ引き上げられていく。

 

「ご、ごめんシンジ!!」

 

 開口一番、ケンスケが謝って来た。だいぶと顔が青い。……こんな状況になったが故、なんとなく自分の今後ーーーー間違いなくお偉いさん達に怒られる事ーーーーを理解してしまったのかもしれない。

 

一方、シンジには何か言う余裕は無かった。

 

 何故なら、シャムシエルが直ぐ真上まで来ているからだ。

 

「っ…!」

 

シンジは、素早くL.C.Lの再注入を開始した。

「な、なんやこれぇ!?」

「うわぁ?!俺の!俺のカメラ、水没には弱ーーーー」

 

 突然注入されたL.C.Lに戸惑っている2人だったが、シンジに2人のことを気にする余裕は無い。

 

「ーーーーふっ!」

 

 L.C.Lの満水を確認するや否や、此方に触手を振り下ろそうとして来ていたシャムシエルの触手を、両手で掴んで止める。

 

 瞬間、焼けた火箸を掴んだ様な熱さと痛みがシンジを襲った。手のひらがみるみる赤くなり、周囲のL.C.Lから気泡が上がる。

 

「くうぅッッッ……!」

 

 顔を顰めるシンジ。しかし手は離さずに、そのまま使徒を投げ飛ばす。

 

 飛ばされていったシャムシエルは、空中で体勢を立て直すと、少し離れた住宅街にフワリと着地した。

 

起き上がる初号機。

 

スピーカーから、ミサトの声が聞こえてくる。

 

 

『2人の回収、良くやったわねシンジ君!!ーーーーそのまま聴いて!今から十七番シャフトを開けるわ!…そこからジオフロントに一旦撤退しなさい!!』

 

「ーーーー!!」

 

彼女の声を聞いたシンジの目が、一瞬見開かれた。

 

(撤退…?)

 

ーーーーエヴァは内部電源に切り替わり、更に2人の民間人を乗せている。

 2人はシンクロしていないとは言え、エヴァがヒトの思考で動くと言う性質上、2人以上の人間がエントリープラグ内に居るという事は、エヴァのシステムにイレギュラーな事態だ。

 実際、シンジのシンクロ率が2人を乗せた瞬間不安定になり始めた。トウジとケンスケの思考が間に入った事で、ノイズが発生しているらしい。

 

 あらゆる観点から見ても、これは一度撤退すべきだろう。

 

『聞こえるかシンジ君!オペレーターのマコトだ!ーーーー今、南南西600メートル先に有る、十七番シャフトを開けた!動ける内にシャフトへ飛び込むんだ!』

 

マコトが叫ぶ。

 

 一度撤退し、2人の民間人を降ろしてからアンビリカルケーブルを繋ぎ直して、再出撃する。ーーーーそれが、ミサト含めた発令所メンバーのプランだった。

 

ーーーーしかし、シンジは別の事を考えていた。

 

「…………。」

 

 シャムシエルを睨みながら、初号機は右手を左肩へ持っていく。

 

 すると、初号機の左肩に装着されている〈ウェポンラック〉が開き、中から一振りのナイフが飛び出して来た。ーーーー近接格闘用武装〈PK-01〉通称:プログレッシブナイフーーーーだ。

 

それを右手に握り、中腰に構える初号機。

 

 

ーーーーナイフの刃が暮れ始めてきた太陽光を反射し、キラッと煌めく。

 

 

 

〈ネルフ本部 中央発令所〉

 

 

 

「初号機、プログレッシブナイフを展開!!」

 

マヤの叫びに、ミサトは顔をこわばらせた。

 

「ーーーーまさか、あの子戦うつもりッ!?」

 

リツコが隣で叫ぶ。

 

「ダメよシンジ君!危険すぎる!撤退しなさい!!」

 

 

ーーーー撤退を進める声は、エントリープラグ内にも聞こえていた。

 

 

「な、なぁ転校生。ーーーーなんか、撤退せぇ言われとるぞ…??」

 

トウジが恐る恐るシンジの肩に手を乗せた。

 しかし、シンジは振り向かずに使徒を睨む目を細める。

 

 

 危機的状況に追い込まれた事により、シンジは逆に覚悟を決めていた。

 

 

ーーーーこの使徒は、僕が、必ず、ここで倒すーーーーと。

 

 

「ーーーーちゃダメだ……!」

 

知らず知らずのうちに、心の中の呟きが口に出る。

 

「は…?」

 

困惑した様な声を上げるトウジ。

 

「ーーーー逃げちゃダメだ…!今度はちゃんと、戦わなきゃ…!!」

 

 まるで自分に言い聞かせる様に、シンジはその言葉を呟いていた。

 

 そして視界の片隅で、活動限界までのタイムリミットを示すカウンターが、『0:29.58』を示す。

 

 

ーーーー活動限界まで、30秒を切ったのだ。

 

 

「うおおおおおおおっっっ!!!!」

 

 

その瞬間、シンジは雄叫びと共に初号機を動かした。

 

 

ーーーードンッッッ、と山の表面を蹴り砕き、住宅街に佇むシャムシエル目掛けてナイフを突き出して突進する。数百メートルの距離が、一瞬で埋まった。

 

 

 

ーーーーびしゅんっっっ!!!

 

 

 カウンターで、シャムシエルが2本の触手を伸ばしてくる。

 

 ビルを切り裂いた時の様な横薙ぎでは無く、触手の先端を使った鋭い突き攻撃。

 

 それは初号機の腹部装甲を貫通し、背中まで突き出した。

 

「あぐっっ!!!」

 

 初号機のダメージがシンジにもフィードバックし、焼けた鉄杭で腹を串刺しにされた様な痛みが、体を駆け巡る。

 

 しかしそれでも、シンジはプログレッシブナイフを落とす事なく、シャムシエルの弱点(コア)目掛けて超振動する刃を突き立てた。

 

ーーーー凄まじい火花がコアから散る。…そのまま、刃とコアはせめぎ合った。

 

同時に、内部電源がみるみる減っていく。

 

『初号機、活動限界まであと10秒!!ーーーー8、7!』

 

マヤのカウントダウンが始まった。

 

 シンジは叫びながら、プログレッシブナイフをコアの奥へ奥へと、突き込んでいく。

 

「ーーーーおおぉおぉおおおおぉッッッ!!!」

 

『6!』

 

コアはまだ砕けない。

 

『5!』

 

「転校生っ…!!」

トウジの声が、シンジの後ろから聞こえる。

 

『4!』

 

「が、頑張れシンジ!」

ケンスケが、無我夢中な様子でシンジを応援した。

 

『3!』

 

ピキリ………コアに亀裂が生じる。

 

『2!』

 

ーーーー生じた亀裂が大きくなる。

 

『1ッッッ!!!』

 

「あぁぁあぁぁあぁぁああッッッ!!!」

 

 シンジは渾身の力を込めて、ナイフを根元まで突き刺した。

 

『0!!』

 

 

 

パキィンッッッ!!!!

 

 

 

 カウントダウンがゼロになり、エヴァの瞳から光が消え失せると同時に、シャムシエルの真っ赤なコアがガラス細工の様に砕け散る。

 

 

『ーーーーーーーー!!』

 

 

 コアを砕かれたシャムシエルの巨体から力が抜け、シャムシエルは初号機に寄りかかる様にして倒れ込んだ。

 初号機もまた、活動限界によってシャムシエルに寄りかかる様に停止する。

 

 

ーーーー戦闘の後に訪れた静寂の中、夕陽に照らされて両者の影が黒々と浮かび上がっていた。

 

 






シャムシエル君、形象崩壊はしませんでした。ここTV版基準。

10話にして、二体目の使徒撃破かぁ。先は長そうですね。

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