完新世 エヴァンゲリオン   作:犬社長

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お待たせ〜。






12〈南極事変(サウスポールショック)の記憶〉

 

 

 

 

 

……温かな香りが漂ってくる。

 

 

 

「う…ぅ…ん………。」

 

 

ミサトは自分の寝床の上で寝返りを打った。

 

 

…くん…くんくん。

 

 

 続いて彼女の鼻が、台所から漂ってくる匂いを嗅ぎ取る。…実に食欲を唆る、良い香りだ。

 

「ぅあ…??アレ??」

 

 寝ぼけ眼を擦りながら、のっそりと起き上がるミサト。髪の毛が爆発でも起きたかのように、ボッサボサになっていた。

 

「…なんで、こんな良い香りが……って、まさか…??」

 

 ミサトは軽く髪の毛を手櫛で直しながら、台所の方へ向かう。

果たして台所にはーーーーーーーー

 

 

「……あ。ミサトさん。おはようございます。」

 

 

ーーーーシンジが居た。

 

「……今日は早いわね…?ビックリしたわよ。」

 

 ミサトは驚きながら、壁掛け時計の時刻を見た。……まだ、朝の6時前だ。

 

「ーーーー朝ご飯、作ろうと思って。」

 

シンジが包丁を洗いながら口を開く。

 

「朝ご飯はゆっくり食べるのが、一番良いんですよ。…此処に来てから、あんまりゆっくりした気分になれて無かったから、今日は余裕を持って起きたんです。」

 

 そう言って、彼はコンローーーーミサトはマトモに使った事も無いーーーーの火に掛けてある鍋の中を覗いた。

ミサトも隣から覗き込む。

 

 鍋の中には、湯気を立てる味噌汁があった。綺麗な白い豆腐と緑色が美しいワカメが、ふんわりと浮かんでいる。

 

「……わ、美味しそう…。」

 

ミサトは、思わずそう口走ってしまった。

微かに笑顔を見せるシンジ。

 

「…うん。良い感じだ。ーーーー食べましょう、ミサトさん。」

「あ、ハイ。」

 

思わず、反射的にミサトは席についていた。

目の前に、器に乗ったご飯が置かれる。

 

「ご飯は温めただけですけど。」

「……ううん。気にしないわ。」

 

ミサトはゆっくり首を振った。

隣でペンペンが鳴く。

 

「クエッ!クエ!」

「あぁ、大丈夫。ペンペンの分もあるよ。ーーーはい、イワシ団子。」

「クエ〜〜!!」

 

 シンジは小鉢に入ったイワシ団子をペンペンに差し出した。ーーーーコレは、ミサトがペンペンの餌として常備している冷凍品だ。

 

 一足早くペンペンが小鉢の中身をがっついている間、シンジは慣れた手つきで味噌汁を器に装い、彼女の向かいに座った。

 

「いただきます。」

 

 そっと手を合わせるシンジ。ミサトも、彼に倣って手を合わせる。

 

「…いただきます。」

 

先ずは味噌汁を一口。

 

「……ん!」

 

ミサトは目を丸くする。

 

「何これ?!すんごく美味しいじゃない……!?」

「んー…個人的には、まぁまぁの出来ですね。もうちょっと薄くても良かったかも?」

 

 味噌汁を口に含んだまま、軽く首を傾げるシンジに向かって、ミサトは首をブンブンと振った。

 

「いやいや、コレで良いわよコレで。一気に目が覚めちゃったわ。」

「そうですか。……ミサトさんが良いなら、それで良いです。」

 

 そう言って、シンジはまた食べ始める。それを見ながら、ミサトは不思議な気持ちになっていた。

 

(……なんか、シンジくん……妙に優しくないかしら……??)

 

 何故だろう?……と思いながらも、ミサトは味噌汁を口に運ぶ。口の中に広がる、ふんわりとした味噌の味が彼女の体を芯から温める様だった。

 

(……はぁ。落ち着くわ………。)

 

 こんなに朝から落ち着いた気分になったのは、いつぶりだろうか??気がつくと、ミサトは口を開いていた。

 

「……昨日はごめんねシンジ君。」

「え?」

 

シンジがキョトンとした顔になる。

 ミサトは穏やかな顔で、味噌汁の入った椀を持ちながら、そっと話を続けた。

 

「……貴方は自分の為すべきことを、確かに精一杯やっただけなのにね。本来なら、こんな世界に関わることなんてなかった子だったのに。……加賀美さんの言う通り、少しキツすぎたわ。ごめんね。」

 

シンジは虚をつかれたかの様に、首を振った。

 

「い、いやいや。ミサトさんが怒った理由は分かります。それに、実際に僕は勝手な行動をしてしまったし……。怒られて、当然ですから。」

 

今度はミサトが首を振る番だった。

 

「その怒り方が、ちょっとキツすぎたって事よ。……私も、何であそこまで自分がカッとなったか、分かんないわ。だから今、謝らせて欲しいの。」

「いや、そんな、僕は気にしてませんから…。」

 

尚も首を振るシンジ。

ミサトは椀を置くと、少し遠い目になる。

 

「……もしかしたら,怖かったのかも。また、誰かが目の前で死ぬんだ、って。」

「………。」

 

 シンジは、少し真剣な顔になってミサトを見つめた。

 

「…私はね。昔、南極に居た事があるの。」

「……!」

 

 コレから始まる話が、あの南極事変(サウスポールショック)の事であると、シンジは理解した。加賀美ツカサから聞いた話を、ミサトが彼女自身の口から語ろうとしている。

 

 

「ーーーーそこで、第一使徒が引き起こした南極事変(サウスポールショック)を経験した。私は南極唯一の生存者なのよ。知らなかったでしょ……?」

「………えぇ。」

 

 シンジはそっと頷く。ーーーー加賀美から、この話は聞いている。しかし、今は彼女の話すままにシンジはしようと思った。

 

ミサトは話し続ける。

 

「ーーーー記憶は無くならないモノね。まだ、昨日のことの様に覚えてる。」

 

彼女は天井を見上げた。

 

 

……もう見知った天井が()()()見た、見知らぬ天井へ変わっていく。ミサトは話しながら、自らの意識を始まりの地へと彷徨わせていたーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

西暦2000年 9月 9日

 

 

 

南極

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー彼女はその日、自らの父に無理を言って南極にやって来ていた。

 

 

 

いつも忙しい父親。

 

仕事に追われ、自分達家族のことに見向きもしない男。

 

 だから、少しにムキになったのだ。……彼をここまで魅了する仕事とは、一体何なのか。何にそこまで惹かれるのか。それを探ってやろうーーーーそんな思いがあったのかもしれない。

 

……初めて訪れる南極。第一印象は『寒い。』コレに尽きた。

 

 でも、海に浮かぶ氷河の上で見たペンギンの群れは、可愛らしくて好きになった。父親がリーダーを務めていると言う調査団の人達も、優しい人が多かった。

 

 

「ーーーー本当に実在するのか?S2機関。」「間違いない。と言っても、ゼロポイントのアレをこの目で見ない事にはーーーー」「ーーーーアレの年代測定結果はまだ出んのか?」「ーーーーまだだ。しかし恐るべき事に、14C法では炭素の検出がーーーー」「ーーーーつまり、数十万年前などと言う時間経過では無い…と言う事なのか?」

 

 

……但し、彼らの言っている事は何一つとして分からなかったが。

 

 

(……みんな、顔合わせるたびに気難しい顔して…変なの。)

 

 ミサトはただ、彼らから離れた所で窓越しに南極の海を見ていた。……ペンギンにアザラシ。こんな寒い所にも、生命は根付いている。

 

(……アレとか、ゼロポイントとか、一体何なのかしら……。)

 

 そうミサトは疑問に思う。…腐っても研究者の娘だ。ほんのりと、知識欲が彼女の中に芽生え始めていた。

 

 

 

 

…………そして、運命の日がやってきた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

西暦2000年 9月 10日

 

 

 

南極氷床内部空洞ーーー通称ゼロポイント

 

 

 

ゼロポイントと呼ばれる巨大な氷の洞窟。

 その中を、ミサトは調査団の人たちと一緒に歩いていた。

 

 鉄の足場が洞窟の壁に埋め込まれる様に設置され、ライトが辺りを照らしている。……空気は冷たく、そよともしない。

 

(…凄い……この氷の壁は、何万年も前に出来てるんだ……。)

 

 分厚い手袋で、洞窟の氷壁を触ったミサトは、言いようの無い感慨に浸った。

…何千、何万年もの間、凍り付いたままの時の中を人々は進む。

 

 

ーーーーそして、ミサトの前に()()が姿を現した。

 

 

「「「おぉ……!!」」」

 

 調査団の人々が一斉に息を呑む。ミサトも、冷たい空気をひゅっと呑んだ。

 

 

…………そこには、分厚い氷の中に封じられた巨人の姿があったのだ。

 

 

「コレがっ!ーーーーコレが眠れる巨人(スリーピングギガント)かっ!!」

 

 ミサトの父が、目を少年の様に輝かせて巨人に駆け寄る。……こんなに喜びの感情を剥き出しにした父を、ミサトは見たことが無い。

 

「素晴らしい……。コレが…コレが私の理論に答えをくれるのか……!!」

 

 極厚の氷の壁が間にあるとはいえ、その巨人は目の前で今にも動き出しそうな迫力だった。

 

……黒い身体。細長い四肢。顔の部分には、ひび割れた仮面の様なモノがある。更に体には所々抉れたり、焼け焦げた様な痕があった。胸には、真っ赤な宝玉の様なモノが埋め込まれている。…ソレも、少しひび割れていた。

 

「……随分と損傷があるな。」

「あぁ。ボロボロだ。……氷の中にあったからこそ、後世まで残されてきたのだろうな。」

「ソレも気がかりだが、先ずはS2機関をーーーー」

「そうだな。よし、機材をココにーーーー」

「取り敢えず、動作チェックをーーーー」

 

 調査団がわらわらと動き出す。一方ミサトは巨人を遠巻きに見上げ、あんぐりと口を開いていた。

 

……怖かった。動かぬ筈のソレが、とても恐ろしく感じた。

 

(……怒ってる。凄く……怒ってる……。)

 

直感で、ミサトはそんな事を思っていた。

 

 湧き上がる激情の中で命を終えたその瞬間の空気が、巨人と一緒に凍り付いている様だった。

 

 

 憤怒、悲憤、激怒の情ーーーーでも、何に???()()()()()()()()???

 

 

「さぁ、実験を始めよう。ーーーーミサト。上に戻っていなさい。父さんは忙しくなる。」

 巨人の足下で、彼女の父がミサトの方を碌に見もせず口を開いた。

「えぇ??…嫌よ。私もここに居るわ。」

 

 首を振って嫌がるミサト。ーーーーしかし、父親は譲ってくれない。

 

「今から父さん達が挑むのは、未知の存在だ。何が起きるかわからない。上に戻りなさい。」

 

 真剣且つ有無を言わさぬ口調に、ミサトは口籠もってしまう。

ーーーー肩にそっと手が置かれた。……調査団の人の手だ。

 

「行こう。ミサトちゃん。お父さんの言う通り、ここは危ないよ。」

 

…そんな声を掛けられる。ミサトは、父親を睨みつける様にして踵を返した。父親は何も言わない。『邪魔だ』ーーーーそう、言外に言われている気がした。

 

(やっぱりこうなんだ…。お父さんは、私の事なんてどうでも良いって思ってるんだ…!)

 

 苛立ちに顔を歪めながら、ゼロポイントから出て行くミサト。

 

 

 

 

……しかし、コレが彼女の命を救う事になる。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでーーーーそれで、どうなったんです…?」

 

 

舞台は現代に戻る。

 

 

 ミサトの告白を聞いていたシンジは、彼女が一息ついた後で、思わず身を軽く乗り出すようにして続きを促してしまった。

 

 ミサトは味噌汁を一口飲んでから、ため息をつく。

 

「そこから先の記憶は、少し曖昧なのよね。…当時のお医者さんは、強い外的ショックに対して自分の精神を守る為に、自己の記憶を封じてるんじゃないか、って言ってたわ。」

シンジは姿勢を元に戻す。

「そうですか。……ごめんなさい。あんまり先を催促する様な話じゃなかったのに…。」

 

 ミサトは、気にしていないと言う事を示す様に、首をゆっくりと振った。

 

 

 脳裏に蘇るのは、言葉にする事の出来ない記憶の断片達。

 

 

ーーーー爆ぜる氷床。

 

ーーーー揺れる南極の大地。

 

ーーーー人々の断末魔と、巨人の咆哮。

 

ーーーー南極を満たした光と熱。

 

ーーーー天使の輪。ぎらぎらと輝く紅玉。

 

ーーーー光の中に浮かぶ仮面。

 

ーーーー自分を緊急避難用シェルターに押し込んだ父親の姿と、最後に自分に向かって落とした、小さな十字架のペンダント。

 

 後から分かったが、自分が押し込まれたシェルターは、第一使徒が目覚めた衝撃でドアが壊れ、閉まらなかったらしい。

 それでもあの時シェルターのドアが開かなかったのは、父親が最後の瞬間までドアを外から押さえていたお陰なんだと、随分と経ってからミサトは知った。

 

ーーーー父親は最後の最後に、自分の為に全てを投げ打った。

 

 ソレに感謝するには時既に遅く、ミサトは未だに十字架のペンダントを持ったまま居る。

 

(遅すぎるのよ。アソコまでするぐらいなら、もっともっと最初から色んな事をしてよ。………出来たはずよ…。)

 

ミサトは味噌汁の入ったお椀に目を落とす。

 

あったかい、美味しい味噌汁の入ったお椀。

 

(一度でいいから………)

 

ミサトの瞳から、つ…と涙の粒が零れ落ちた。

 

「ミ、ミサトさ………」

 

「一度でいいから…こうやってお父さんとご飯食べたかったなぁ……………。」

 

 

……そう呟いて、ミサトはそっと目を伏せるのだった。

 

 

 

 






こんな話原作には無かったよ…。これやってるぐらいなら、さっさと原作の展開回収した方が、話サクサク進むんじゃねーの()

…なーんて思いながらも、書く事はやめられなかった。

原作のセカンドインパクト的立ち位置に南極事変(サウスポールショック)が居座る以上、避けて通れない話なんすわ。…後回しにしてると、いつになっても回収しなさそうだから先にする事にした。

次回、投稿日未定。期待せずに待ってね()
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