完新世 エヴァンゲリオン   作:犬社長

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14〈蛇〉

 

 

 

 

 

西暦2016年9月18日

 

 

 

 

 

……真っ暗闇の中に、誰かの声がこだまする。

 

 

「ーーー全電源、入れろ。」

 

 

ーーーーーーガチャン!!…と、大きな音と共に、闇が光に散らされる。そして明るく照らされた『その場所』には、()()()()()()()()()が佇んでいた。

 

 初号機に似ているが、先述した通り色は山吹色で、丸みを帯びた頭部には、丸い単眼レンズが付いている。

 

まさに、一つ目の巨人…と言った所か。

 

 

「ーーーでは、これより『零号機』の稼働シーケンスに入ります。」

 

 

 そんな事務的なアナウンスと共に、零号機と呼ばれた山吹色の単眼巨人の首元がパカッと開く。

 

 ソコにゆっくりと挿し込まれて行く、細長い筒状の物体。

 

エヴァパイロットが搭乗する『エントリープラグ』だ。

 

その中に居る搭乗者はーーーーーー

 

 

「聞こえますか?綾波レイさん。」

「……はい。」

 

 

ーーー黒髪の少女、綾波レイだった。

 

 

 彼女は白いプラグスーツ(ーーーエヴァパイロットが、エヴァとのシンクロをより高めるための補助具である。)に身を包み、循環するL.C.Lの中で目を閉じている。

 

『これより、第九回シンクロテストを開始します。音声認証、どうぞ。』

 

 その声を聞いたレイは、そっと目を開く。ーーーその微かに()()()()()黒い瞳が瞬いて、彼女の口端から声が漏れた。

 

「零号機、シンクロスタート。」

 

次の瞬間、彼女の周囲が七色の光に包まれる。

 

 そして、レイとシンクロした零号機の単眼に、確かな光が宿るのだった。

 

 

 

「ーーーーー主電源、全回路接続。」

「主電源、接続完了。起動用システム、作動開始。」

「稼動電圧、臨界点まで、後0.5、0.2。」

「起動システム、第2段階へ移行。ーーーパイロット、接合に入ります。」

 

 起動した零号機が佇む場所の隣、強化ガラスで隔てられたオペレーションルーム内に、オペレーター達の声が素早く飛び交う。

 

 

「システムフェーズ2、スタート。」

「シナプス挿入、結合開始。」

「パルス送信。全回路、正常。」

「初期コンタクト、異常無し。」

「左右上腕筋まで、動力伝達。」

「オールナーブリンク、問題なし。ーーーーチェック2550まで、リストクリア。」

 

少しずつ進む零号機の起動。

 

 プラグ内のスピーカーから聞こえるオペレーター達の声。それを軽く聞き流しながら、レイはコックピットに静かに座り込んでいた。

 

 高性能なシンクロ維持の為には、シンクロ中の思考ノイズを減らすこと…即ち、不要な思考の排除が必要不可欠。

 

 心を無にして、ただ自分が巨大なナニカと溶け合うような、不思議な一体感に身を任せる。

 

 

…それは得意だった。元々、自分の心なんてものは空っぽで、空虚なモノなのだ。

 

…だから何時も通り出来る筈だと、そうレイは思い込んでいた。

 

 

ーーーしかし……

 

 

 

(……()???)

 

 

 

 その時レイは、自分の心の中に『誰か』の影が過るのを感じた。

黒い髪、白いカッターシャツ、人懐っこそうな笑みを浮かべながらも、何処か遠くに心を置いているような顔ーーーーーー

 

 

 

「………碇くん??」

 

 

 

次の瞬間、モニターの全てが真っ赤に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇西暦2019年9月22日◇◆◇

 

 

 

 

[第3新東京市 第壱中学校]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーセンセ!何見とるんや??」

 

 

今は一限目と二限目の間の準備時間。

 

 ()()()()を見つめて物思いに耽っていたシンジは、トウジの明るい声で顔を前に戻した。

 

「あ、あぁ……いや…。何でもないよ…。」

 

 そうシンジは言い淀みながら、チラリと少し離れた場所に有る空席の椅子と机を見やる。

 

そこは綾波レイの席だった。

 

「なんや。綾波の席をジッと見詰めとった気がしたんやけどなぁ。」

 

 そうトウジが呟く。…どうやら目線でバレたらしい。

 

 バレたならもう良いかーーーと思いながら、シンジは綾波の席を指差す。

 

「いや…綾波さんさ。もう4日も休んでるけど、大丈夫なのかなって思って。」

 

それを聞いたトウジは、綾波の席をチラリと見た。

 

「綾波は、いっつもあんな感じやで。…長い時は一週間位出てこんし、ちょろっと来たと思ったら、また直ぐ来んくなるし。」

「そうなんだ…。」

 

 そう相槌を打ったシンジは、ポツンと空いている綾波の席をもう一度見る。

 

 机の中には教科書類が整理された状態で仕舞っており、この4日の間に溜まったプリント類が、その上に無造作に突っ込まれていた。

 

(アレ、誰かが届けに行かないとな……。)

 

なんて、ボンヤリと考えるシンジ。

 

 

 

ーーーーーーそう思っていたせいかどうかは知らないが、その日の帰りのHRでシンジは担任の先生に指名され、綾波の家までプリント類を届けに行くことになったのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

…コツ…コツ…コツ……

 

 

残暑の残る灰色の道を一人歩く。

 

 トウジは家の手伝い、ケンスケは受験勉強の為の塾へ行くと言う事で、今日のシンジは一人だった。

 

「受験か……。」

 

人気のない住宅地を歩きながら、シンジはポツリと呟く。

 

 夏休みも終われば、本格的な受験シーズンのスタートだ。勿論、備えている人はもっと前からとっくに始めている。

 

 トウジやケンスケに将来の志望を聞いたことは無い。きっと彼らには目指すべき目標があって、それに向かって進んでいるんだろう。

 

 

……なら、自分はどうだ??

 

 

(……僕にはエヴァパイロットって言う使命がある。僕の未来は、もう決まったようなものなんだ…。)

 

 自分で決める間も無く、既に誰かによって引かれていたシンジの人生のレール。

 

 その上を、此れからも歩いていく。…歩いていくことしか出来ない。

 

 

ーーーでも、()()()()???

 

 

これからも使徒は現れる事が想定されている。

 

 

 南極事変(サウスポールショック)を引き起こした〈第一の使徒〉、16年越しに現れた第二の使徒〈サキエル〉、間髪入れず出現した第三の使徒〈シャムシエル〉、そしていつか現れる第四・第五の使徒。

 

 

…シンジはこれからも生き続ける限り、彼らと戦い続けなければならない。

 

 終わりのない戦いに、気が付いたら身を投じてしまっていた。

 

 

ーーーーーー使()()()()()()()()()()()()()??

 

 

 ソレは、最近からずっと抱き続けていた、シンジの切なる疑問だった。

 

 終わりの無い戦いの舞台に、足を踏み入れたーーー()()()()()()()()()事。来たる受験への空気が高まる教室の中に居ると、否応なしに自らの将来を考えねばならない。

 

その度に不安になるのだ。

 

 

 

僕は一体、此れからどうなるんだろうーーーーーーと。

 

 

 

「……あ。」

 

 

 

ーーー気が付くと、シンジは綾波の居る〈ネルフ職員用集合住宅〉の前に来ていた。

 

 相変わらず周囲には誰もおらず、寂しい雰囲気が漂っている。

 

「301号室だったよね……。」

 

 シンジは呟きながら階段を登った。人の気配のない灰色のアパートメントに、シンジの靴が立てる音だけが響き渡る。

 

「……よし。ここだな…。」

 

ーーー目的地へ辿り着いたシンジ。

 そして、彼はインターホンのボタンをそっと押した。

 

 ピンポーン…と、相変わらず掠れた音でチャイムが鳴る。

 

「…………。」

 

 暫くシンジは、プリントの入ったファイル片手に立ち尽くしていた。

ーーーしかし、部屋の主は出てこない。どうせこうなるだろうと思っていたシンジは、ドアノブに手を掛けた。

 

 案の定、ノブはするりと回ってシンジを招き入れる。

 

「こんにちは~!ーーー綾波さ〜ん!碇です!プリント届けに来ました〜!」

 

薄暗い部屋の中へ呼び掛けるシンジ。

彼は、特に返事を期待してはいなかった。

 

 

「ーーーはい。」

「…!」

 

 

ーーーーだから、返事と共に部屋の中から綾波レイが出てきた時、少しばかり驚いたのだ。

 

「あ……。」

「…?なに??」

 

 出てくるとは思ってなかったシンジは、玄関先で固まる。一方でレイは、そんなシンジを訝しげに見ていた。

 

「あ、いや、出てきてくれたのなら、それで良いんだよ…。うん。」

 

 出てこないと思った、なんて言うのは失礼なんじゃと思ったシンジは、小さな声でお茶を濁す。

 

「あの…取り敢えず、コレがプリント類だから。はい、どうぞ。」

「ん。」

 

 彼からプリントを受け取るレイ。その時、やけに彼女が指を自分の指に絡ませてくる気がした。

 

 殆ど、プリントごとシンジの指まで取っていくかの如き手付きだ。

 

「………。」

 

しかもそのままシンジの顔を凝視してくる。

 

「…あ、綾波…さん?」

 

 なんか僕の顔に付いてるっけ?ーーーとシンジが心配になった所で、彼女は軽く頭を下げてから部屋の奥へ引っ込んでいった。

 

「あ…。」

 

玄関先で立ち尽くすシンジ。

 

 消えた無表情な家主は、それっきり戻ってこない。…何なんだろう?ーーーとシンジは訝しげに首を傾げながら、踵を返した。

 

「あの…僕、これで帰るので!ーーー失礼しました!」

 

 最後にそう声を掛け、シンジは玄関のドアを閉める。

 

 

 

 ガチャン!ーーーと、思ったよりも重々しい音が鳴った。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

ーーー第3新東京市地下空洞。通称:ジオフロント。

 

 

 

 

ーーーシンジが帰路に着いている頃、夕方のような光に包まれているジオフロントの一角に、加賀美ツカサの姿があった。

 

 

 薄茶色のスーツを着こなした彼は、ジオフロント内部に植林されている落葉樹の森を歩いている。

 

ブブブブブ…ブブブブブ…

 

 ふと、彼の胸ポケットに入れ込んでいたスマホが震えだした。

 

「ーーーもしもし。」

 

 あたりをサッと見渡しながら、落ち着いた手付きで通話に出る加賀美。その向こうから、変声機を使っているらしきノイズ混じりの声が聞こえる。

 

『出てくれたか、〈蛇〉。』

 

 〈蛇〉。…そう呼ばれた加賀美は、近くのベンチに腰を下ろした。周囲には彼しか居ない。

 

「そろそろかと思いましてね。貴方から()()()()が来るのは。()()()、お元気ですか?」

『あまり余計な事は喋らないほうが良い。…この『通信』も、ネルフ側に傍受される可能性がゼロでは無いからな。』

 

加賀美の言葉に釘を刺す、ノイズ混じりの声。

加賀美は静かに頷いた。

 

「えぇ、そうですね。……で、どうですか?そちらの方は。」

 

彼の問に、ノイズ混じりの声が答える。

 

『順調だ。()()()()()()()は、まだ誰にも気づかれていない。ーーー既に4()()()()()()。あと少ししたら、お前にも来て貰う事になるかもな。』

 

 その言葉に、満足そうな微笑みを浮かべた加賀美。

 

「そうですか。…なら、近いうちに伺いましょう。」

『あぁ。ーーーくれぐれも、ネルフや補完委員会には勘付かれるなよ?』

 

再び釘を刺す声に、加賀美は深く頷く。

そして、そっと言葉を付け足した。

 

「あと……()()()にも、ね。」

『…そうだな。』

 

 ノイズ混じりの声は静かに呟く。そして、通話はプツリと切れた。

 

 履歴は残らない。コレは、特殊な回線を使った秘匿通信なのだ。

 

「さて………。」

 

 スマホを仕舞い込んだ加賀美は顔を上げる。そして、本当に小さな声で呟くのだった。

 

 

 

「……未来が解かれる日も近い。」

 

 

 

 彼の、ある種の決意を感じさせる横顔が、ジオフロントに差し込む光に照らされて浮かび上がる。

 

そして、彼は最後にそっと囁くように口を開いた。

 

 

 

 

 

「見ていてください。ーーーーーーユイさん。」

 

 

 

 

 

 








加賀美は何を考えているんでしょうね?



次回はラミエル出現まで行けたらいいな…。
尚、投稿日は未定()
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