夢を見ていた。
いや、走馬灯だろうか。
その夢の中には、名前も顔も知らない母親が、また出て来ていた。
ーーーーしかし、今度の自分は赤子では無く、今の年齢と変わらぬ姿をしている様だ。
相変わらず辺りは薄暗く、体が温いお湯に浸かっているような感覚がする。
(でも…今なら分かる。コレは、L.C.Lなんだ……)
シンジは、薄っすらとした自意識の中で、そう思った。
「ーーーーーーーーごめんね。」
逆光になって見えないが、確かに自分の側にいる母親。
そんな彼女の、縋る様に謝る声が聞こえる。
(何に謝ってるんだよ……母さん……)
夢の中では、シンジは全く動けない。
この謝罪を聞くのも、コレが二度目だ。
一体、彼女は何を謝ってーーーーーーーー
「貴方をあの世界に生み出せば、貴方は傷ついてしまう。」
(……!)
ーーーー前の夢とは違う言葉に、シンジは驚いた。そして、ソレが謝罪の内容だと言う事にも、シンジは気付いた。
母親の声は続ける。
「だけどーーーーーーーー貴方は生まれるべきなの。」
ガクンっ、と視界が揺らいだ。
意識が、夢から引き摺り出されていく。
「行ってらっしゃい。……しんじ。」
狭まる視界の中で、此方を見つめる顔を見た気がした。
「私は貴方に賭けてみる事にしたわ。」
ーーーーーーーー暗転
◇◆◇
ココは、NERV本部内にある作戦室の一角。
読んで字のごとく、使徒の進攻に対し作戦計画を練る場所だ。
しかし、今日この場に集ったメンバーの顔は暗い。
「まさか、初号機があんなにアッサリと、ね………」
ーーーーそう。彼等の顔が暗いのは、つい先程、初号機が使徒ラミエルに瞬殺されてしまった所為だ。
「シンジ君、大丈夫でしょうか…?」
ノートパソコンを抱き締めるように、オペレーターの伊吹マヤがボソリと呟く。
初号機への攻撃により、パイロットである碇シンジは、大きなダメージフィードバックを受けた。
しかも心臓付近にフィードバックを受けた為、外的ショックによる心臓震盪を起こし、即座に緊急治療室へと運搬されてしまう事態となった。
初号機自体も胸部装甲が融解、内部構造の露出とまでは行かなかったが、熱でやられた装甲類は換装しなければならない。…整備班は苦労するだろう。
「ーーーーシンジ君に関しては、治療室からの報告待ちですね。」
そう答えたオペレーターのマコトが、パソコンをキーボードを叩く。
「兎にも角にも、我々は第四の使徒ラミエルを
「なんとか、な。」
実に曖昧な発言に、同じくオペレーターの青葉シゲルが、自嘲気味な合いの手を入れた。
「ーーーー現在、目標はジオフロント直上に位置し、体表下部を円錐形に変化させて、特殊装甲板への破壊行動へ出ています。」
マコトの声と共に、作戦室のプロジェクターへ、現在の使徒ラミエルの姿が映し出された。
初号機を退けた真っ青な正八面体は、身体の下の部分を鋭く尖ったドリルの様に変形させ、ソレで第三新東京市の大地をガリガリと削り取っている。
「使徒は、既に第六特殊装甲板まで貫通。…このままのペースで行けば、明日の明朝には全ての装甲板が貫通され、使徒のジオフロント侵入を許してしまいます。」
「マズイわね……。」
ミサトがポツリと呟いた。
その顔はかなり暗い。
「ええ。ーーーー使徒に対して、国連が1度だけ攻撃を行いましたが、結果は無駄足で終わりました。」
マコトの声の後、ラミエル目掛けて国連軍からの砲撃らしきものが飛んでいく映像が流れた。
真っすぐ飛んでいく砲弾の曳光。
しかし、ソレはラミエルの手前で、一瞬だけ出現したA.Tフィールドによって阻まれた。
「ーーーーA.Tフィールドの展開は一瞬でしたが、マギの解析の結果、ラミエルは今までの使徒の比では無い硬度の、A.Tフィールドを持つ事が確認されています。」
「なんと………」
「恐ろしく硬いフィールド。マギでなきゃ見逃しちゃうね。」
作戦室の誰かがふざけた。(勿論、皆無視した)
「このA.Tフィールドを元にシュミレーションしましたが、現在初号機が所有する武装では、ラミエルのA.Tフィールドを破壊出来る可能性0%です。」
「無理って事か。」
「ええ。」
作戦室の誰しもが苦い顔をした。
そもそも、初号機の戦い方は基本的に、近距離に持ち込んでの白兵戦用だ。
一方、ラミエルは超火力の遠距離攻撃を得意としている。
今回のラミエル戦は、例えるならばスナイパーライフルに対してハンドガンで挑むような物。………まず、同じ土俵にすら立てないのだ。
苦い顔をしながらも、作戦室では話し合いが続く。
「なんかこう…レーザーとかを避けて行くとか…」
「無理です。あのレーザー、恐ろしく速い。シンクロ率40から50の反応速度では、先ず避けられませんよ。」
「そもそも、目視してから回避は無理じゃないか??」
「建築物への被害も半端じゃない。ーーーーあのレーザー、荷粒子砲ッスよ??避けながら進むのが上手く行ったとして、街がクレーターだらけになる。」
「じゃあ防壁展開も無理だなぁ……」
「うん、展開した瞬間溶けますね。」
「ほな無理かぁ。」
矢継ぎ早に交わされるオペレーター達の言葉。
ソレを聞きながら、ミサトは絶えず頭を回転させていた。
作戦の計画、では無い。
しかし、それが実行に移せるかが、彼女の悩みどころだったのだ。
(いや……ココで悩んでてもしょうがないわね……。)
そう心の中で自分を奮い立たせたミサトは、スッと立ち上がった。
そして、片手を上げて発言する。
「ちょっち良い?ーーーー戦自研の極秘資料、諜報部にあったわよね??」
それを聞いて、作戦室内の全員が「?」マークを頭に浮かべた。
「は、はい。有りますが……。」
「私の記憶が正しければ、その中に【大出力陽電子自走砲】ってのがあった筈よ。」
ミサトの発言に、オペレーター達は顔を見合わせる。
その内の1人……諜報部としても活動しているオペレーターの男が、彼女の言葉を頷いて肯定した。
「え、えぇ。確かに有るッス。未だ試作の段階を出ない虎の子兵器ッスけど……いや、まさかーーーーーーーー」
ミサトは会心の笑みを浮かべた。
「えぇ。そのまさかよ。ーーーー戦自研の虎の子…使わせて貰うわ。」
◇◆◇
「ーーーーーーーー反対する理由は無い。策が有るのなら、兎に角実行に移せ。」
ミサトの前で、眼前で両手を組む
此処はNERVの司令官室。
1個の椅子と机しか無い、無駄に広い空間の中に、碇ゲンドウと冬月コウゾウ、そしてミサトの姿はあった。
たった今、ミサトは自分の作戦を司令であるゲンドウに報告し、実行の許可を得んとしていた所である。
そして、その作戦はアッサリとゲンドウに許可された。
「はい。ーーーーでは、これより戦自に徴収に向かいますので、失礼します。」
ミサトは一礼すると踵を返し、司令官室から退室する。
彼女の姿が消えた後、冬月は手元の資料ーーーー今回、ミサトが立案した作戦についての簡易報告書に目を落とし、ポツリと呟いた。
「ーーーー戦自研が極秘開発した陽電子砲を利用した、
「だが、それが最も勝率の高い作戦だ。流れる藁も掴み寄せ続ければ、やがて葦の船にもなろう。我々には時間が無いのだ。」
冬月は溜息を付いた。
………使徒との戦いは、針に糸を通すようなモノばかりだ。
老骨の胃には非常によろしく無い。
しかし、例え胃を傷めることに成り続けたとしても、今はまだ自分は、ココで待ち続ける道を選んだ。
ーーーーやがて
「……その舟に乗れることを願っているよ。」
冬月の呟きに、ゲンドウは何も答えはしなかった………。
話の展開が亀の歩み