完新世 エヴァンゲリオン   作:犬社長

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02〈序曲〉

 

 

 

 

乗り込んだ車の中は、嗅ぎ慣れない香りがした。

 

 

 

 

「乗ったわね!?…飛ばすわよ!!」

 

 シンジが座椅子に座るのを確認した瞬間、女性はアクセルを全開に踏んで車を走らせる。

 

ガクッと掛かる猛烈なG。

 シンジはシートベルトを締めると、歯を食いしばって加速に耐えた。

 

ーーーーフッ…と空が暗くなる。…いや、空が暗くなった訳じゃ無い。車の上に、使徒によって吹き飛ばされた戦闘機の残骸が落ちてきたのだ。

 

「か、葛城さん!上に…!!」

「口閉じて!舌噛むわよ!」

 

 そんな言葉と共に、女性が操る車が残骸をカーブして避ける。

 

 鈍い音を立てて道路をバウンドする残骸。ソレを横目で見送ったシンジは、運転席の女性に向かって声を掛けた。

 

「……あ、危なかった。取り敢えず…その、迎えに来てくれてありがとうございます……葛城さん。」

「…()()()、で良いわよ。シンジ君。」

 

 女性ーーーー『葛城ミサト』は、そう言ってシンジにウィンクした。飛んできた見えない何かを避けるそぶりを見せるシンジ。

 ミサトは気にせず話し続ける。もちろん運転は続けたままだ。

 

「ちょっと遅れちゃったケド、無事会えてよかったわ〜。……でも、まさかこのタイミングで使徒が出るなんてね。間の悪い……。」

 

ミサトの声に、微かに口の端を歪めるシンジ。

 

「え、ええ。…轢き殺されそうになりましたケドネ…。」

「それはごめんって!…集合場所が戦場になってて急いでたのよ〜。」

 

 ミサトは片手をひらひらと振った。そして、言葉を続ける。

 

「ま、兎にも角にも無事貴方をお迎え出来て良かったわ。……此処からは目的地に向かうだけだから、貴方は安心していなさい。」

 

 それを聞いて頷いたシンジは、戦場を離れて素早く流れていく窓の外の景色へ目を向ける。

 

 

 彼女の優しく聞こえる声の中に、微かに軍人めいた命令の様な気配を感じながら…………。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「第六波、効果ナシ!!!」

 

「目標は第二防衛線を突破!!!」

 

 

次々と舞い込む報告。

 

 その中に吉報は一つとして無く、聞けば聞くほど頭を抱えたくなる物ばかり。

 

 

………まさに『悲惨』。その一言に尽きた。

 

 

「ええい!埒が開かん!!ーーーー《N2》だ!!《N2爆弾》を使用するんだッ!!」

 

 

 長椅子に座り込む高官らしき人達が喚く。……彼らは政府の人間だった。

 

「了解…!爆撃ポイントへ目標を誘導します!」

 

 彼らの喚きに応える無線の声。それを聞いた瞬間、さっきまで焦って喚き散らかしていたのが嘘の様に、高官達の顔に勝ち誇った笑みが浮かんだ。

 

「…ふ、ふふふふ。流石の使徒も、N2爆弾の直撃を喰らえば絶命するに違いない…ッ!ーーーー()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 最後の言葉は、政府の高官達の後ろに佇む3()()()()()に向けられたモノだった。

 少しばかりの嘲りの感情が篭った彼らの声に、真ん中の男が一言呟いて返す。

 

 

「……それは、今から決まります。」

 

 

ーーーーそれは、驚く程酷く冷たい声だった………。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「あれ……?なんか、戦闘機みんな離れちゃいましたけど……。」

 

 シンジは車窓の外に映り込む景色を見て、ボソッと呟いた。

 彼の見る先では、ついさっきまで蚊のように使徒の周りを飛び回っていた戦闘機が、蜘蛛の子を散らすように使徒から離れていっている。

 

「うっそ!?ーーーーまさか、連中《N2爆弾》を使う気?!…伏せてシンジ君!!!」

「へ??」

 

 

 

 

シンジが目を丸めた瞬間、閃光が空を灼いた。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「エ、N2爆弾命中っっ!!命中しましたっっ!!!」

 

 

 

その報告は、今日初めての吉報だった。

 

 

 

「おおッ!!」

「やったぞ!!!」

「勝ったな…!!」

 

 

政府の高官達の間に歓喜の叫びが満ちる。

 

 

「ーーーー続いて爆心地の映像、主モニターに出ます!」

 

続くその言葉に、鼻を鳴らす高官達。

 

「…ふん。原子爆弾に匹敵する威力の攻撃だ。塵1つ残っていまい。」

 

 そう余裕綽々と言う高官達の前で、巨大なモニターが爆心地の様子を映した。

 

 

 

……果たして使徒はどうなったのかーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「……も……目標……()()()()………。」

 

 

 

 

響くオペレーターの震え声。

 

 

 

使()()()()()()()()()()

 

 

 

「ばっ、馬鹿なぁぁぁっっ?!?!」

「人類の持ち得る最強の攻撃手段なんだぞッ?!」

「何故だ!!何故効かんっっ!?!?」

 

 

椅子から転げ落ちんばかりに驚く高官達。

…そのうちの1人が、苦い顔をしながら背後を振り返った。

 

「……まだ君達には仕事があった様だな…。ーーーー我々に出来るのは此処までだ。…現時点を持って、作戦の指揮権は君に移る。使徒を……殲滅してみせろ、()()()()()。出来るな??」

 

 

…『碇ゲンドウ』ーーーーそう呼ばれた男は、不敵に微笑んだ。

 

 

「えぇ。その為のNERV(ネルフ)です。」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「せーーのっっ!」

 

 

 ガシャリと音を立てて、ひっくり返っていた青いアルピーヌA310が元に戻る。

 

「……ふぅ。ありがとうシンジ君。…大丈夫だった?」

「はい……まだ口の中がジャリジャリしますけど。」

「私もよ。……まったく。《N2爆弾》なんか出して来たって、使徒に通常兵器は通じないって話だったじゃないの。……弾の無駄撃ちね。ミサイル1発幾らだと思ってるのかしら……。」

 

 ブツブツ愚痴りながら、ミサトはボロボロになった自車を点検している。……如何やら、走行機能は死んでいない様だ。

 

「走れはするわね。…ソレ以外は終わってるけど。あ〜〜もう…まだローンあったのにぃ〜!」

 

 そう言いながらも、彼女はダクトテープやらなんやらかんやらを引っ張り出して車の応急措置を行う。

 

 そして、再びシンジを乗せた車はあちこちから怪しい音を立てながらも、動き出すのだった………。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「そうだ。…コレ、着くまでに読んどきなさい。」

 

 そう言って車の中でミサトがシンジに手渡したのは、一冊のパンフレットだった。

 

 表紙に赤い文字で《ネルフ》と書いてあるソレを読んで、シンジは一言呟く。

 

「ネルフ…?」

「えぇ。……これから貴方が向かう所よ。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

「…………父さん。」

 

シンジは微かにパンフレットの端を握りしめた。

 

「…お父さんは…苦手?」

 

 ミサトからの問い掛けに、シンジは少し複雑そうな顔つきになって窓の外へ目を向けた。

 

「苦手と言うか……長い間会ってないから……分かんないです。ずっと連絡も寄越さないと思ったら、ある日突然『来い』って書かれた紙切れ一枚寄越して……。」

 

 シンジはやり場のない想いを逃す様に溜め息を付いた。

 

 

「………今更、僕に何の様なのさ。」

 

 

 

「それは着いてみれば分かるわ。ーーーーそろそろよ。『ジオフロント』は。」

 

 そんなミサトの声と共に、オンボロ車となったアルピーヌはビルとビルの隙間に設置された下向きのスロープの中に入っていった。

ーーーー此処、第三新東京市の地下に存在する地下空間……《ジオフロント》へこれから向かうのだ。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「す、凄い……本当に地下にこんな空間が…!」

 

 

 

 生まれて初めて見るジオフロント内部は、地下とは思えないほど広かった。

 原理は分からないが、太陽光を取り入れるシステムによって地上とほぼ変わらない明るさが保たれている。…若干、夕方に近い明るさと言うべきか。

 

 そんなジオフロントの真ん中に、ピラミッド型の建物があった。

 

「あれがネルフよ。……今から、あの中を案内するわ。ちゃんと着いて来なさい。良いわね?」

「はい…!」

 

ミサトの声に、シンジは勢い良く頷いたーーーー

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー頷いたのだが…

 

 

 

「あの……ミサトさん…?さっきからおんなじ所ぐるぐる回ってませんか???」

 

 

 

ネルフ内部にシンジの疑問の声が響く。

 

「い、いやぁ……ソンナコトナイトオモウワヨ。」

「…そんなことありますよ。コレ、迷子ですよね。」

 

 はぐらかす様にカタコトになるミサトの後ろで、シンジは溜め息を吐いた。

 

「うぅ〜、パンフレットのマップが見にくいのがいけないわよ〜。……でも、多分こっちを曲がれば……ほらほらほら、あったわよエレベーター!」

 

 迷いまくった末、やっと見つけた目的地(エレベーター)に小走りに駆け寄るミサト。

 

 シンジを乗せ、彼女はエレベーターで目指す場所へ向かう。

 

 そして、エレベーターが目的の階に着いてドアが開いた瞬間、ミサトとシンジは()()()()()()()()()()

 

 

「遅いわよミサト!……何分超過したと思ってるのかしら?」

「げぇ!リツコっ!!ごめーーーん!!ちょ〜〜っと迷っちゃってぇ!」

「迷うって貴女……此処の職員でしょ???内部構造ぐらい把握しなさい…。」

 

(それはそうだよ。)…なんてシンジが思っていると、リツコと呼ばれた白衣に金髪の女性が此方を見てきた。

 

「で、貴方がサードチルドレンね。…こんにちは、碇シンジ君。私は、特務機関NERV技術開発部技術局第一課所属『赤木リツコ』よ。……よろしくね。」

「あ、どうも……よろしくお願いします…?」

 

頭を下げるシンジ。リツコは小さく手招きした。

 

「早速で悪いけど、此方へ来なさい。貴方には見せるべき物があるの。」

「……?」

 

 頭に疑問符を浮かべながらも、シンジは彼女について行く。ミサトも後ろに従った。

 

 

 

 

 

「……暗いですね。」

 

 

 連れられた先は、真っ暗な闇の中だった。…微かに水の様な湿った香りがする。

 

「大丈夫。すぐに電気がつくわ。」

 

 リツコの声と同時に、パッと前触れもなく電気が点く。そして、シンジの目の前に()()()()()()()()()姿()()()()()

 

「うわっっ?!」

 

驚いて一歩後ずさるシンジ。

 

 

 見ると、紫の巨人とでも言うべきか《ナニか》がそこに鎮座していた。

 

 

側からリツコの声が聞こえる。

 

 

「ーーーー汎用ヒト型決戦兵器『人造人間エヴァンゲリオンー初号機ー 』。……人が造った神。そして、貴方が乗るモノの名よ。」

 

 

「………は?」

 

 シンジは呆気に取られてエヴァンゲリオンと呼ばれた紫の巨人を見上げる。

 

「エ…エヴァンゲリオン …?それに……僕が乗る…????」

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーーそうだ。お前が乗れ。」

 

 

 

 

「ッ!!!」

 

 ふと上から声が降ってきて、反射的にシンジは上を見上げた。

 

見上げた先にいる者と視線が交差する。

 

 

突き刺す様な眼光。

揺らぐ事の無い佇まい。

身に纏う冷たい気配。

 

 

………シンジが此処にきた理由である人物がそこに居た。そこに居て、此方を見下ろしていた。

 

 

 彼の口が開く。そして、何の感傷も無い平坦な声がこだました。

 

 

 

1()2()()()()()()、シンジ。」

 

 

「……()()()…!」

 

 





シンジ君の年齢を、原作より引き上げています。
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