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ーーーー白い雲が後方に流れていく。
…此処はNERVが保有する輸送用VTOL機の機内。
その中には、葛城ミサトと日向マコト、そしてNERV諜報部所属の男の姿があった。
3人は今、ミサトが立案した使徒狙撃作戦実行の為、作戦の鍵を握る戦自の極秘開発兵器ーーーー【大出力陽電子自走砲】の徴収へと、向かっている所だ。
「しかし、戦自研の極秘開発兵器ですよね?」
ミサトの隣で、マコトがウンザリするような声を漏らす。
「多分ーーーーいや、確実に向こうはゴネて来ますよ??そもそも、NERVと戦自は犬猿の仲ですし。……権利の関係で一悶着有りそうですね。」
ミサトは鼻をフンと鳴らした。
「分かってるわよ。ーーーーでも、コッチは人類の運命を賭けてんのよ?この期に及んでまで、地位とか権利とか気にする老害は、部屋から締め出しなさい。分かった?」
その強気なセリフに、マコトと諜報部の男は互いの顔を見合わせる。
ーーーー流石は葛城さんだ。…口に出さずとも、互いに思う事は1つであった。
ーーーーその後、ミサト達は無事に戦自研から目当ての物を強だt…貰い受ける事に成功し、意気揚々と帰路に着いた。
そして、強力な助っ人兵器を手に入れた事で、使徒狙撃作戦は遂に本格始動する事になる。
◇◆◇
「ーーーーーーーー射撃ポイントは、使徒との距離や見晴らし等も考慮し、二子山山頂とします。」
NERV第四作戦会議室の中に、ミサトの力強い声が響く。
「私達が戦自から徴収した陽電子砲は、整備班が現在エヴァ用に改造中。狙撃システムと合わせて、現在急ピッチでやって貰ってるわ。」
「……なるほど。」
会議室の片隅で話を聞いていた赤木リツコが、机の上に広げられた第三新東京市の地図を見下ろす。
其処には既に様々な人の手で、あらゆる書き込みがなされていた。ーーーー1番目立つ真っ赤なマーカーで丸されている場所が、今作戦を実行する舞台。…二子山の頂上である。
「しかし、随分と無茶な計画を立てたものね。葛城作戦部長さん?」
リツコの顔がミサトへ向いた。
「
「相手はコッチの常識が通じないトンデモ生命体だもの。多少無茶しないと張り合えないわ。そうでしょ??」
ミサトは軽い口調でリツコに言葉を返した。
リツコは反論せずに息を吐く。
「ま、現状取れる策なんてコレしか無いわね。……アフタープランは?」
「勿論無いわ。ぶっつけ本番一発勝負。…最初っからそうだったじゃない。」
「そうね…。」
リツコは苦笑した。……たしかにそうだ。最初から、
だがそれでも、今はやれる事をやるだけだ。奇跡とは、自らの手で起こす物なのだから。
ーーーーパンッ、とミサトが手を打つ。
「では、これよりヤシマ作戦を開始します。ーーーー人類の行く末を決める一大作戦よ。失敗は許されないし、失敗すれば待つのは滅びだわ。…だけど、私達ならやれる。」
部屋に集う面々を見渡しながら、ミサトは硬い意志の籠もった顔で言葉を続けた。
「手筈通りに行くわよ。ーーーー総員!行動開始!!」
『『『了解ッッ!!!』』』
オペレーター達の力強い声が重なったーーーー。
◇◆◇
『ーーーー特務機関NERVより、通達です。今夜午前0時より、全国で大規模な停電があります。該当時間は、全ての電気供給が一時断絶いたしますので、皆様のご協力お願い致します。繰り返しお伝えいたします。今夜午前0時よりーーーー』
…街中ーーーーいや、日本中に鳴り響くアナウンス。
ソレはテレビ、スマホ、新聞の号外と、媒体を問わず、日本全国を駆け巡る。
全ては来たる決戦の瞬間の為に。
最終作戦会議より数時間後。
狙撃ポイントである、二子山の山腹に造られた仮設基地の中には、ミサト達の姿があった。
「ポジトロンライフルはどう?順調??」
ミサトの問いに、作業員の1人が振り返ってサムズアップした。
「大丈夫です!技術開発部第三課の意地にかけても、後3時間で形にして見せますよ!!」
隣ではリツコがオペレーター達に進捗を訪ねている。
「エネルギーシステムの見通しは?」
『電力系統は、新御殿場変電所と予備2箇所から、直接配電させます。』
『現在、引き込み用超伝導ケーブルを、下二子山に向けて敷設中。変圧システム込みで、本日22時50分には、全線通電の予定です。』
問いに答えたオペレーターたちの通信が、次々と流れ込んできた。
「了解。狙撃システムの進捗状況は?」
「組立作業に問題なし。作戦開始時刻までには、なんとかします。」
ーーーー此処でミサトが隣から口を挟む。
「エヴァ初号機の状況は?」
「現在、狙撃専用のG型装備に換装中。あと1時間で形に出来ます。」
それを聞いたミサトは、一先ず安堵するように頷いた。
「了解。あとは、パイロットの問題ね……。」
そう呟いたミサトは、今は見えないジオフロントの有る方角へと、少し憂う様に顔を向けたのだった…………
◇◆◇
「う………うぅ…ん…。」
ーーーー
「ーーーーあ…。」
開いた目に映るのは、真っ白な医務室の天井。
「…………知ってる天井だ。」
天井を見上げたまま、シンジはポツリと呟いた。
………体がとても重い。そのくせ、頭は何故かスッキリと冴えていた。
(ーーーー僕は…負けたんだ。あの一瞬で…………)
少し混乱する思考を整理し、シンジは小さな息を吐く。
ーーーー少なくとも、自分は死んでない。其れは喜ぶべき事なのだろう。
(………でも……もう…
まだ自分が生きている事への安堵の思いが増すたびに、比例するようにして、死への恐怖も湧き上がって来る。
こうして生きているという事は、またアレに乗る時が来るという事でーーーーーーーー
「ーーーーーーーー
「!!」
ーーーー突如、自分の真上に人形の様な顔が現れた。
真っ黒な、星の無い夜空を思わせる髪。一切の感情を感じ取れない、人形の様な顔。ーーーー零号機パイロットこと1stチルドレン、綾波レイだ。
「わ………びっくりしたぁ……綾波さんか…。」
シンジは目を瞬かせながら、自分を見下ろす綾波レイの無表示な顔を見る。
一方で彼女はそっと顔を引くと、滑らかな動きで自分のスマホを取り出した。
そして、恐らく画面に映し出されているであろう文書を、抑揚の無い声で話し出す。
「明日、午前0時より発動される、ヤシマ作戦のスケジュールを伝えます。ーーーー碇・綾波の両パイロットは、本日17:30ケイジに集合。ーーーー18:00初号機および零号機起動。ーーーー18:05発進。ーーーー同30、二子山仮設基地到着。以降は別命あるまで待機。ーーーー明朝、日付変更と同時に作戦行動開始。」
ほぼ一息で言い切ったレイは、小さく息継ぎをすると、シンジが寝ているベットの側に置いてあった服を手に取った。
ーーーーシンジの服と、プラグスーツだ。
「はい。コレ、貴方の。」
「…あ、ああ。ありがとう…。」
2つの服を受け取るシンジ。
「あと、コッチ、食事だから。」
「…!」
続いて自分の前に差し出されたトレーを見て、シンジは目を伏せた。
………今は、どうにも食欲が湧かない。
「………今はいいよ…。食べる気がしないんだ。」
「あと少しで出撃よ。」
淡々と返すレイ。
『出撃』ーーーーその言葉が、シンジの胸に深々と沈み込んだ。
逃げたくても逃げられない、呪いの言葉の様に。
「またアレに乗るのか………。」
プラグスーツを持つ手が震える。
「そうね。」
「………怖いよ。」
ポツリとシンジは呟いた。
ありありと感じた死の実感が、彼からここ最近手に入れたばかりの僅かな勇気を、奪い去らっていった。完膚無きまでに。
「なら、そのまま寝てなさい。」
「!?」
突き放すようなレイの言葉に、シンジは思わず顔を上げる。
レイはなんて事も無い様に話を続けた。
「もし貴方がそうするのなら、初号機には私が乗る。パーソナルデータの書き換えなら、いつでも出来るもの。」
「ソレは…っ!」
困惑するシンジ。
レイは踵を返し、出口へと歩き始めた。
「綾波…!」
思わず、シンジは彼女を呼び止める。
「……なに?」
振り返った彼女に、シンジは問い掛けた。…問い掛けない訳には、いかなかった。
「綾波さんは……怖くないの…??」
……レイはシンジを見つめる。
やがて、彼女はポツリと呟いた。
「私には、コレしか無いもの。」
その言葉の真意を解するより先に、彼女は扉の向こうへ姿を消す。
孤独に残されたシンジは、1人ベットの上で俯くのだった………