完新世 エヴァンゲリオン   作:犬社長

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「…(投稿が)随分遅かったじゃないか。」
「いや、シナリオ通りさ。」
「……今まで何をしていた。」
「トイレと戦争していた。(ガチ)」
「そうか…。まぁ良い。久方ぶりの投稿だ。しくじるなよ。」
「あぁ、任せろ。」





19〈汝、覚悟を決めよ〉

 

 

 

 

ーーーー静かな部屋の中で、1人俯く。

 

 

シンジは、どうにも動く気になれなかった。

 

 

(………またエヴァに乗る。…また…苦しい思いを……)

 

 

 孤独の中で重ねられた思考は、シンジをどんどんナイーブなものへ変えていく。

 

ーーーーそしてそのまま、彼の心が暗闇の中へ沈んでいこうとしたその時だった。

 

 

ブブブブ……ブブブブ…

 

 

「…!」

 

 シンジが枕元に置いた自分の私服の中から、スマホが震える音がした。

 

服と一緒に、レイによって持ち込まれていたらしい。

 

「………あ。」

 

 緩慢な動きでスマホを取り出して画面を見たシンジが、ポツリと声を漏らす。

 

 画面にはトウジからのメッセージが表示されていた。…定期的に送られているのか、既に10件近い未読通知がある。

 

 最初のメッセージは、シンジをそれとなく心配するような短い文章達だったが、最後の2件は、『時間が有ればグループ通話に参加して欲しい』と言う内容だった。

 

「……………。」

 

緩慢な動きで、シンジはLI◯Eのグループ画面を開く。

 

ーーーーー取り敢えず参加だけでも、と半ば強制的に入れられたグループで、今まで殆ど見向きもしてこなかった『3年A組』のアイコンをタップすると、グループ通話中の文字が画面上に表示された。

 

……通話中なのは14名。クラスの半数弱が参加しているらしい。

 

 それを5秒程見つめ、シンジはそっと受話器のマークにタッチする。

 

 すると、さっそくトウジの話し声が聞こえてきた。自分では無い、誰かに向けて喋っている様だ。

 

『ーーーーーせやからな、ワシはどうにかして力になりたいねん。…な?同じクラスの人間やろ?』

『…あぁ。そうだな。ーーーーーでも何が出来るんだ?俺達なんて所詮、端役も端役だぞ。』

 

 トウジの言葉に答える誰かの声。おそらく、出席番号18番の 長尾マヒロと言う男子だろう。

 

『おう。それをなーーーーーって、センセ来とるやないか!?』

 

 彼に答えんとしたトウジが、シンジの存在に気付いて大きな声を上げた。

 

『あー!!碇くん!!』

『碇くん!まさかグループに来るとは!』

『碇ィ!!生きとったんかワレェ!!!』

『なーなー、今回大丈夫そ?!?!』

 

静かだった通話が一気に騒がしくなる。

それに少し気圧されながら、シンジは口を開いた。

 

「あ…どうも…?ーーーーートウジのメッセージを見て…。」

 

『おぉ!気付いてくれたか!』

 

トウジが嬉しそうな声を漏らす。

さらに横からケンスケの声が入った。

 

『ーーーーー兎も角、今は話せる感じなのかい??』

 

「……多分ね。ーーーーー実を言うと…さっきまで気絶してたんだ。」

『…!!』

 

そうシンジが答えると、通話の雰囲気が一気に重くなった。

 

『…………使徒と戦ったんか。』

 

「うん。………何も出来なかったけど。」

 

トウジの声に、暗い声色でシンジは返す。

 

 今通話の向こうに居る皆は、其々のシェルターの中で避難している筈だ。…シンジが使徒と戦って負けてから、既に長い時間が経過している。

 その間、街の皆は何の情報も知らされないまま、シェルターの中に籠もっているしか無かったのだ。

 

 その不安や不満が自分に向いているのではないか。……シンジは、そんな事を考えていた。

 

『その…大丈夫だった?怪我は無い??』

 

ーーーーーしかし、返ってきた言葉は彼を案ずる声。

 

「…!」

 

 それを聞いたシンジは、思わず顔を上げる。…自分のいる部屋の中に他人は居ないが、まるで目の前にクラスメイト達がいる様な気がした。

 

「霧島さん………いや、怪我は無いよ。多分。」

 

 自分の心配をしてくれた女子ーーーーー霧島マナへ、シンジはそう返す。

 

『そう。良かった…。』

 

通話の向こうで、彼女が明らかに安堵の溜め息をついたのが分かる。

 

「ーーーーー皆に心配かけさせてるよね。…ごめん。僕、エヴァパイロットなのに……。」

 

思わずシンジは謝っていた。

 

『いやいや!謝んなくていいよ!』

 

ケンスケの声が響く。

 

『確かに碇の事は心配だけど、ソレは碇を悪く思ってるわけじゃない。むしろ逆さ。…だから、謝ることなんて無いんだよ碇。』

 

その言葉に、シンジは無言で俯いた。

ケンスケはそのまま続ける。

 

『俺達は碇を応援したいんだ。ーーーーーまたコレから使徒と戦う事になるんだろ??』

 

 その言葉に、使徒との戦いで植え付けられた死の恐怖が、胸中にフラッシュバックする。

 

ーーーーー逃げ場の無いエントリープラグの中で感じた熱と、全身が焼けるような苦しみ。泡立つL.C.L。視界に踊る無数の警告表示。

 

「………っ!!」

 

 蘇った恐怖に圧倒されて黙っていると、ケンスケが焦り気味に口を開いた。

 

『碇……?ーーーーーあ、いや、機密情報なら話さなくてーーーーー』

 

 

「怖いんだ。」

 

『…!?』

 

 

シンジはポツリと呟いた。…殆ど無意識の内に。

 

「…エヴァにまた乗るのが、怖いんだ。死ぬかと思うぐらい苦しくて、痛くて、怖くて。……こんな事、僕が言ったらおかしいよね…。」

 

彼の呟きが、静まり返ったグループ通話の中に響く。

 

『…………すまんな。』

 

トウジが、不意にそんな事を言った。

 

なぜ謝るのか。それが分からず、シンジは驚く。

 

「なんでトウジがあやまーーーーー」

 

『ワシらは閉じこもっとる事しか出来ん。センセが命賭けて戦っとるのに、出来るのはせめての声援を送ることぐらいや。…不甲斐ない…。』

 

「そんな……」

 

シンジは思わず何度も首を振った。

 

ーーーーー不甲斐なくなんか無い。不甲斐ないのは、こんな所で怖いだなんて言っている自分なのに。

 

『……だからこそ、せめてもの声援をシンジに送りたくてね。』

 

ケンスケが話を継ぐ。

 

『庇われている身で、こんな事を言うのは無責任かもしれない。…だって、俺たちはシンジの受けた恐怖も苦しみも、完全には理解出来ないんだから。ーーーーーでも、言わせて欲しい。』

 

そこで一旦彼は言葉を区切り、ハッキリと声でシンジへ告げた。

 

『ーーーーー()()()()!』

 

「っ!!」

 

シンジは目を見開く。

 

 その激励が、彼の心の中の闇に微かな火を灯した。…小さな、然し確かな勇気の火を。

 

 そしてケンスケの声援を皮切りに、次々とクラスメイト達が声を上げていく。

 

『ファイトだよ!碇くん!』

『こんな所からだけど……頑張ってくれ…!』

『押忍!!!!頑張れぇい!!!』

『諦めたらそこで試合終了だぞ、碇!』

『どうか無事でね…!』

 

「……みんな…。」

 

 一人一人の声が、確かな熱となってシンジの心へ染み込んでいく。

 

彼は一瞬口元を綻ばせると、1言呟いた。

 

 

 

「……ありがとう。」

 

 

 

『皆が居てくれて良かった』ーーーーーシンジはその時初めてそう思った。そう、思えた。

 

…今まで唯の『同じ教室に居る他人』としか思っていなかった皆が、なんだかとても暖かくて身近な存在に感じ取れた。

 

ーーーーーそして同時に、この皆を喪いたくないと、彼は心の底から強く思ったのだ。

 

 

 

 

 

 

「シンジ君?ーーーーー私よ。入るわね??」

 

 

…ふと、ドアの向こうからミサトの声が聞こえた。そして、控えめなノックの音も。

 

「あ、ミサトさん………ごめん皆、行ってくるから!切るね!」

 

 そう早口で言って、シンジは通話を切る。『頑張れー』と言う皆の声が最後に聞こえ、部屋はまた静かになった。

 

そして、ガラリとミサトが扉を開けて入ってくる。

 

……彼女は、どうにかしてシンジにまたエヴァに乗ってくれるよう、彼を説得するつもりでここに来ていた。

 

 正直、あんな事があった後で、エヴァにまた乗らせるのは気が引ける。……しかし、気が引けるとかいう理由で彼をエヴァに乗せなければ、その対価は人類滅亡と言う形で返ってくるのだ。

 

 そうならない為には、彼を引っ張ってでも乗せなければならない。

 

そう思うが故に、彼と向き合う彼女の顔は暗かった。

 

 

「ーーーーーシンジ君。その……危険な目に遭った後で、こんな事を言うのも気が引けるけどーーーーー」

 

「エヴァですよね。ーーーーー乗ります。」 

 

ミサトの声を遮る様にシンジは答えた。

 

「えっ。」

 

面食らったのはミサトの方である。

 

 まさか、彼の方から「乗る」と言い出すなんて、思っても居なかった。

 寧ろ、あんな事があった後なのだから、必ず躊躇いが有る物だと思い込んでいたのだ。

 

「…えっとーーーーーあ、それなら、良いんだけど…。」

 

謎に出鼻を挫かれたミサトは、自らを納得させる様に頷く。

 

ーーーーーしかし同時に、彼女はどうしても彼へ聞かざるを得なかった。

 

「ーーーーー怖くは無いの???」

 

問いかけつつ、彼女は心の中で苦笑した。(……コレじゃあ、私が引き止めに来たみたいじゃない)ーーーーーと。

 

 

「怖いですよ。ーーーーー死ぬかもしれないのに、またエヴァに乗るのは。」

 

シンジは答える。

 

 その言葉は嘘ではない。依然、彼の心から恐怖は消えていない。

 

 だが、それでもシンジはミサトを真っ直ぐ見つめて口を開いた。

 

「でも、僕がここで乗らなきゃ、トウジやケンスケーーーーークラスの皆が死んでしまう。ミサトさんも………父さんだって。」

 

 言葉を紡ぎながら、シンジは震える手のひらをギュッと握り締めた。

 

脳裏に浮かぶのは、トウジやクラスの皆の顔。

 

ーーーーーそれだけではない。

 

 ネルフの職員達に、この街に住んでいるあらゆる人々の姿。そして今、シェルターの中で先の見えぬ状況に震えているであろう、全ての人達の姿。

 

……この人達に、死んで欲しくないとシンジは思った。

 

 

 そう思えた時、自分がエヴァに乗る理由。ーーーーーそれを見つけた気がしたのだ。

 

 

「死ぬのは怖い。だけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。……()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「…ッ!!」

 

 ミサトはシンジの瞳の中に、ハッキリとした覚悟を見た。…もう、彼は死に怯える少年では無かったのだ。

 

 目を見開いたまま固まるミサトの前で、シンジはベッドから確りとした足取りで降りた。

 

そして、手のひらを強く握り締めて口を開く。

 

 

「綾波さんから作戦の予定は聞きました。ーーーーー僕をもう一度、エヴァに乗せてください。」

 

 

彼は覚悟を決めた。

 

 

 

そしてソレは、全てが動き出す合図でもあったのだ。

 

 

 

 







………この世界、ぐう聖しか居ないのか??


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