完新世 エヴァンゲリオン   作:犬社長

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05〈知らない天井〉

 

 

 

ーーーーーーーーコレは、ずっと昔の記憶だ。

 

 

『待ってよ、父さん!』

 

 

『僕』は、夕日に照らされた道に立っている。

 

……視界の先には、夕闇に浮かぶ真っ黒な背中。

 

 

『僕を置いて何処に行くの、父さん!!』

 

 

 溢れ出す悲しさに突き動かされるまま、『僕』は去りゆく背中に追い縋ろうとした。

 

しかし、背中は遠いまま。

……振り返ることすらなかった。

 

『嫌だよ父さん!!()()()()()()()()()()()()、父さんまで居なくなったら僕はどうしたらいいのっ!!!』

 

ーーーー初めて、黒い背中がピクリと動いた。

 

『シンジ………。』

 

背中が語り掛けてくる。

 

 

『いい子にして居ろ。』

 

 

ーーーー言葉はそれだけだった。たったソレだけだった。

 

 

『父さん………。』

 

 その言葉の裏に隠れた深い拒絶の意思を感じて、『僕』の足は止まった。

自分の肩に、親戚の叔父さんだと言う人の手が置かれる。

 

ーーーー諦めな。……そう言われている気がして、『僕』は俯いた。

 

 

(父さんは僕の事が嫌いなんだ。僕の事なんか、どうでも良いんだ。……だから……だから………。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ…!?」

 

ーーーーーーーーシンジは目を覚ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーー知らない天井だ。」

 

 

たっぷり1分は沈黙してから、シンジは呟いた。

 

 如何やら自分は、ベットの上に仰向けの姿勢で寝かされているらしい。

消毒のツンとした匂いが、空気中に漂っていた。

 

(僕は……どうなったんだっけ……?)

 

シンジはぼんやりとした思考を巡らせる。

 すると、少しずつ記憶が戻ってきた。ーーーー恐怖と、痛みと共に。

 

「あ…ッ!」

 

 思わずシンジは左腕を触る。自分の呼吸が一気に荒くなるのを感じた。

 

(そうだ…!僕は使徒と戦って…!)

 

 触った左腕には、傷など無かった。しかし、コックピットで体感した腕をへし折られる痛みの幻想が、シンジにフラッシュバックとなって襲い掛かってくる。

 

(痛い……怖い……!!僕は…僕はどうなったんだッ?!)

 

息が荒くなる。胸の…動悸がーーーーーーーー

 

 

「落ち着きな、碇君。」

「…?!」

 

 

 ベットの横から静かな声が聞こえてきて、シンジは驚いて振り返った。

 

いつの間にか、自分の隣に1人の青年が立っている。

 

 サラッとした茶色の髪で、同じく茶色がかったスーツを着こなし、胸元からは名札がぶら下がっていた。

 

ーーーー名札に書いてある文字は《加賀美ツカサ》…だろうか?

 

 

「……落ち着いたかい?」

 

シンジに向かって、柔らかな声がかけられる。

シンジは微かに頷いた。

 

「…は、はい。なんとか………。」

 

「そうか。なら、良かった。」

 

 ツサカは頷いてから、シンジの隣に置いてあった丸椅子に腰を下ろした。

シンジは、彼に向かって恐る恐る口を開く。

 

「あの……。」

「ん?何かね??」

「ーーーー使徒は…どうなったんですか…??」

 

シンジの問いに、ツサカは軽く微笑んでみせた。

 

「安心してくれ。……使徒は殲滅された。初号機が使徒を倒したんだ。」

「…そ、それってーーーーーーーー」

 

 ツカサの言葉の意味が分からず、シンジが更に尋ねようとした時、シンジの居る病室に新たな影が飛び込んで来た。

 

「シンジ君ッ!!」

「ミ、ミサトさん!?」

 

ーーーー葛城ミサトその人である。

 

 全力で走ってきたのか肩で息をしている彼女は、シンジを見るなり爆速で駆け寄ってきた。

 

「おっと。」

 

突き飛ばされない様、横にズレる加賀美ツカサ。

 

「シンジ君、身体大丈夫だった!?何処にも後遺症とか無い!?痛いとか、ジンジンするとか、大丈夫!?」

「あ、え、う、うん。…大丈夫だよミサトさん。ちょっとパニックになっただけ…です。」

 

 マシンガンの様に早口で捲し立てるミサトに、若干気圧された様に頷くシンジ。

ミサトは、シンジの側で崩れ落ちる様に息を吐いた。

 

 

「良かったぁ〜〜〜。…死んじゃったらどうしようかと思ってたのよ。初めてのシンクロ且つ、シンクロ率40%とか言う高シンクロ状態で、あれ程のダメージを受けるだなんて前例が無いもの……。はぁ………良かったわぁ〜〜。げほっ。」

 

 軽く咳き込んだミサトに向かって、シンジは未だ混乱したまま口を開いた。

 

「あ、あの…!僕は一体どうなったんですか…?!使徒を殲滅出来たって、どう言う事なんですか!?あの後、一体何がーーーー」

「大丈夫。順を追って説明するわ。ちゃんと聞いてね?」

 

ミサトがシンジを遮って口を開く。

 

 

 

ーーーーそして、語られた話は俄には信じ難い話だった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「初号機が…勝手に??」

 

 

信じられないと言わんばかりにシンジは呟く。

 

「本当の事よ。……貴方は使徒との戦闘によるダメージフィードバックによって意識を失った。ーーーー普通、パイロットが意識を失えば、エヴァも止まるわ。……でも、初号機は動いた。」

 

 そうシンジに話すミサト自身も、未だ理解が追いついていなさそうな顔付きだった。

 

「リッちゃ…リツコは、暴走状態だと言っていたわ。……シンジ君は知らないかもだけど、エヴァは普通のロボットじゃない。ーーーー正式名称にもある通り、人造人間なの。…半分、生きているのよ。」

 

黙り込むシンジ。

 

アレが…生きている。

 

 これもまた、俄には信じられなかった。ーーーーしかし同時にシンジは、なんとなく納得もしたのだ。

 

(そうだ……エントリープラグの中で感じた、あの不思議な暖かさ……。確かに、アレは生きているのかも………。)

 

 黙り込んだシンジに向かって、ミサトは声を掛けた。

 

「ーーーーだけど、勝手に動いたのが初号機であれ、貴方が出撃する覚悟を決めてくれなければ使徒は倒せなかった。………ネルフ全員を代表して、礼を言うわ。」

 

 ミサトは立ち上がると、シンジに向かって深々と頭を下げた。

 

 

「ーーーーありがとう。」

 

 

彼女の突然の行動に面食らうシンジ。

 

「ミ、ミサトさん??」

 

…気がつくと、ツカサまで頭を下げている。

 唖然とするシンジの前で、ミサトは頭を下げたまま口を開いた。

 

「いきなりの事で戸惑いもあったでしょうし、怖かったとも思うわ。ーーーーでも、貴方は戦いに行ってくれた。コレは感謝の気持ちよ。ありがとう、シンジ君。」

「ミサトさん………。」

 

シンジの心の中に、じんわりと暖かい気持ちが広がった。

 

 訳も分からないまま戦って、自分は何も出来ずに気絶して、目が覚めたら全てが終わっていた。

 

 

ーーーー自分は何もしていない。

 

 

…でも……それでも。自分がエヴァに乗った事は良かった事なのだと、シンジは確かに思ったのだった………。

 

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