闇派閥の一員は、正義を語る 作:闇派閥のだれか
あらすじにも書きましたが、強いアンチ・ヘイトを含んでいるのでご注意ください。
――“暗黒期”。それは、オラリオの歴史にて最も混沌とした時代であった。
「貴様らは、どうしようもない馬鹿だ」
そんな時代に、存在する“闇派閥”。そんな闇派閥の拠点にて集まった同志の前でそう言い放つ者がいた。
「貴様らが、闇派閥に与ずる理由とはなんだ? 冒険者をこの世から消すためか? かつて神がいない古代の時代を再現する為か? ただ悪事を成したいからか? 神に同調したからか? もっとも理由なんてものは何でもいい。だが、闇派閥というのは組織だ。貴様らは闇派閥という組織の"個"である。いいか、"個"だ。そんな事も分からない"個"じゃあ、もはや闇派閥じゃない。ただのサークルに過ぎない!」
長い一文をひと息もつかずに、話す男。
「―――……さ、サークルだと?」
"今"の闇派閥は、もはやお遊びのサークルに過ぎないとそう言い放った男。場にどよめきが広がるのは無理もなかった。
「そうだ、サークルだ。所詮、お遊びのサークルだ。冒険者どもの経験値稼ぎの為のカモだ。それでいいのか? それでいいなら俺はもう何も言わん。一人で勝手に突っ込んで死ねばいい。ひとりふたり死んだところで闇派閥は止まらない」
「な……何がカモだ!!」
「そ、そうだ!!」
男の一言にカチンと来たであろう一部の闇派閥が、そう声を荒げる。といっても、その言葉の中に若干"恐れ"が含んでいたのは――男が高レベルの者である他にない。
「ああ、そりゃそうだろう。俺達は決して冒険者どものカモではない。引き上げ役でもない。そもそもそんな“小物”扱いに我々闇派閥が当てはめるなんてのは許さない――だろう?」
そう確認を取る男に、闇派閥の者らは肯定の念を表す。
「今こうしている間にも、我々の同胞はオラリオ側に束縛されている。あくまでも“尋問”だとあちら側はそう言うがその裏で何が行われているのか、知ったものではない」
「もし“拷問”されているとしたら、その苦痛は計り知れないものだろう。そうして“拷問”を続けられていく内に我々への猜疑心が芽生える。なぜ俺だけが。なぜ私だけが。とな」
冒険者側に、ギルド側に束縛された同胞。彼らが現在どうしているのかは分からない。情報には聞くが、実際どうなっているのかは実際にこの目で見ないことには――分からない。
「我々の情報を吐けば、“拷問”されなくなる。楽になれる。そんな美味しい餌をぶら下げられている状態で、果たしてどれほどの人が拷問に耐えるという選択をするのだろうか」
しん……と場が静まる。何を言おう、男の話は理にかなっていた。すなわち、“拷問”とは自分の闇派閥への忠誠心を試す試練のようなものだろう。
ならば――苦しみから逃れる為に、屈するという者が出てくるかもしれないという話にはうなずける。
「――ふざけるな」
だが、そんな男の言葉に強い反感を持つ声が上がる。
「我々はッ!! 決して冒険者どもには靡かない!! 屈しないッ!! オラリオに破滅を!!」
――そうだ、俺は憎き冒険者どもをぶっ殺す。
――そうだ、私はアイツらを不幸にしてやる。
――そうだ、僕は主の期待に応えるために。
そんな声に同調し彼らの声が上がる。
「――――素晴らしい」
そんな一同を、心から褒め称えるように満喫な笑顔を浮かんだ男は、パチパチと拍手をする。
その仕草は、まさしく率いる“リーダー”……もしくは、“統率者”……または、“王”としての風格を感じさせられるものであった。
「素晴らしい。実に素晴らしいぞ――たった今、我々は“意義”を再確認したのだ」
にぃ、とそう微笑む男。そんな男に、この場にいる闇派閥の者らは引き込まれていった。
「“冒険者が憎い” “アイツらを不幸にしたい” “我が主のために”。どれも貴様らそれぞれが抱いている気持ちだ。この中には、僅かでも罪悪感を持て余している者もいるかもしれない……」
シュン、と声のトーンを下げる。
「――しかし、俺は貴様らのそれを肯定しよう」
その次の瞬間、先ほどのトーンと打って変わって強い何かを感じさせられる声に変わった。巧に感情を込めた声を出す男にこの場はすっかり引き込まれていた。
「それこそが、貴様らそれぞれが抱く気持ちだ。それだけは誰が何でも、否定されてはならないものだ。何よりも貴様ら自身の気持ちだ。想いだ。感情だ。一般論うんたらかんたらであれ、それはとても尊いものだ」
「【大事なのは、お前自身がどうしたいかだ】――……どこかの世界で言われている言葉だ。この言葉をそのまま貴様らに捧げよう」
男は、胸を張り……両手を大きく広げて歓迎するかのような姿勢を取り。
―――――――「我々こそが、闇派閥である」
そう言い切ったのだった。
◇
「あ? ――――人間爆弾だぁ?」
ある日。闇派閥の拠点にて、男の部屋にいるヴァレッタからそう聞かされた男はドスの利いた声を上げる。
「……何だよ? まさかダメって言うんじゃないだろーな」
見るからにして、呆気を取られたような表情をする男に、怪奇な顔を浮かべるヴァレッタ。
「いや、ダメというわけではないが……お前、それは流石にユルいんじゃないか?」
「……は?」
人間爆弾。冒険者どもに、爆弾を抱えた一般人を突っ込ませて冒険者もろとも自爆させる。これほどに、楽しいことはないと思ったヴァレッタだからこそ、“緩い”と言われて思わず硬直する。
――緩いのか?
――人間爆弾が、か?
「いいか、冒険者ってのは何度も立ちはだかる“絶望”を乗り越えてきた者達だ。それが冒険者だ。
「まぁ、そりゃあ……」
全面的とは言わずとも、一部は同意できる為ヴァレッタはすっかりしぼんだように素っ気なくそう返事をする。少なくとも思いつく限りは、人間爆弾ほどいいものはないと思ったが――
「……じゃあ、お前ならどうすんだ?」
「俺か?」
逆に、この男ならばどうするのか。それが気になったヴァレッタはそう聞く。
「そうだな――俺なら、まず冒険者が一般人を殺させるよう仕向けるね」
「……へぇ!」
それは面白そうだ。直感的に感じたヴァレッタは思わず笑顔になる。
「お前の言う“人間爆弾”ってのは、確かにインパクトは大きいだろう。確かに冒険者に“絶望”を与えることが出来るだろう。しかし――それを引き起こしたのは我々であるという事に問題がある。“これを引き起こしたのは闇派閥だ。何としてても奴らを止めなければ”。そんな希望が出て再起できる冒険者が生まれるのは想定できる」
「なるほどなァ」
言われてみれば確かに、とヴァレッタは頷く。ヴァレッタ自身も会ったことがあるのだ、そのような冒険者に。
明らかにレベル差があっても、実力差があっても。それでも尚、今己にできる最善の案を採用していく。そんなプロ意識がある冒険者。
「どこかの世界では、計画を立てた者・それを実行した者その両方とも罪が問われるらしい。まさしくそのものじゃないか? そう仕向けたのは我々だとしても……一般人を殺めるのは冒険者であることに変わりはないのだから」
「くはッ……いい、いいねソレ!!」
それはとても面白そうだ。仕向けたのは私たちと言えど、実際に手を下したのはソイツ自身。そう考えると、とても“悦”な気分になってくる。
「で――それはどうやるんだ?」
「ん? 知らんが?」
――ヴァレッタは、無言でその男を殴り飛ばした。
「てッ……!」
――のだが、男はヴァレッタよりもレベルが上である。その為、殴った側がダメージが大きいという結果に終わった。
「はははっ、悪いな。真面目に考えなくて」
そして、殴られたはずの男には傷ひとつなく。むしろそれを何事もなく済ませるとくる。
「……チッ」
ヴァレッタは苦汁を飲まされたような表情をする。
本来であれば、彼女はこのままなぁなぁで済ます人間ではない。
もし己を従おうとする者がいれば、それがたとえ高レベルの者であっても怨恨を以て殺す。それもただ殺すのではない、己の快楽の糧として、である。
だが――それでも、ヴァレッタはこの男にそうはしないのだ。
「我ながら、先ほどの方法はいいと思ったよ。“三人寄れば文殊の知恵”とかっていうだろ――1人足りないな。どっかから引っ張ってくるか……」
そう言いながら、口の端を上げ。どこかで楽しそうにそう言う男。
とても“冒険者に一般人を殺させる”などというあくどい方法を思いついたとは言えないぐらいに、純粋に楽しいという顔をしている。
――これだ。
――――この男は、誰が見ても“悪”とされる行為を心から楽しむ事ができる破綻者。
かといって、私のように誰かをぶっ殺して“悦”を得るのかというとそうでもない。時には誰がどう見ても“良い事”をやる日もあれば、残酷ともいえる“悪い事”をやることもある。
そして、その両方ともこの男は……心からそれを楽しんでいるんだ。
「お前――ホント、最高だぜ」
そんな男に、釣られてヴァレッタは純粋な笑顔を浮かべた。
それは、普段の彼女を知る者から見ると、あまりにも眩しいと感じさせれるほどであった。
蛇足。
男のステイタス
Lv.6
力:A815 耐久:S997 器用:S982 敏捷:B764 魔力:I0
対人:E 対魔物:E 再生:E
【魔法】:なし
【スキル】:なし