闇派閥の一員は、正義を語る   作:闇派閥のだれか

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※長話注意。



第2話

 

「回復役だ。ヒーラーがもっと要る」

 

――また、ある闇派閥の拠点。その拠点にてとある対オラリオ会議が開かれていた。

 

「ヒーラーか」

 

男がそう口にした“回復役”すなわちヒーラー。それを聞いたオリヴァスは静かにそう声を上げて腕を組む。

 

「――……あ~……」

「どうした、ヴァレッタ?」

 

そして、会議に出席していたヴァレッタは、何やら言葉を濁している様子であった。それを聞くかのように、男はそう発言をする。

 

「いや……オラリオをぶっ潰すために会議するのはいいけどよ。なんでこいつがいるんだ?」

 

オリヴァスの方を顎で指すヴァレッタ。その表情は不服のようであった。それは、いくら同じ闇派閥に与ずる身としても、彼とはファミリアが違う。

 

「確かにオリヴァスは俺達とは別のファミリアだ。だが、彼がいるファミリアもまた“オラリオを潰す”という闇派閥に通ずる目的を共有しており、彼もまた仲間である。ならば、ある程度の情報を共有する必要があるだろう? そもそもの話、今に始まった話じゃあるまいに」

「そりゃそうだけど」

 

男の言っている事は分かる。分かるのだが、どうもきまりが悪く感じる。

 

何せ、この男とはレベルが違わないのだ。オリヴァスの方は何を思っているのかまでは知らないが、ヴァレッタとしては勝手に対抗心を燃やしている感じである。

 

このままでいても埒が明かない、とヴァレッタはやや乱暴に椅子に腰をかけた。といってもテーブルに足を乗せるといったマナーもクソもない姿勢だが。

 

そんなヴァレッタを見やり、男はふっとひとつ笑って。

 

「――どこかの世界に、“勇者パーティ”という一行が存在していると聞いた」

「“勇者”パーティだぁ?」

 

勇者、と聞いてヴァレッタは眉をしかめた。

 

勇者――とそう呼ばれる者を見たことはある。ただそれだけなのだが、どこか妙な胸騒ぎを覚えたのだ。

 

そう、これは――あの者に負ける、ような。そんな予感。

 

「落ち着け、ヴァレッタ」

 

男の声で我に返るヴァレッタ。彼女は気づいたと同時に上げている足を組み換え、暗黙的に話を促す。

 

「……そのパーティは、一般的に“前衛”“中衛”“後衛”――そして、“回復役”。まさしくどの敵が立ち塞がってもそのバランスの良さにおいてまんべんなく発揮される」

「だから、回復役が要ると貴様は言うのだな」

「そうだ。我々闇派閥には“前衛”――攻撃に重みを置く者はいる。“中衛”――近接戦と魔法、その両方ともできる者もいる。“後衛”――魔法に重みを置く者もいる。だが、回復に重みを置く者があまりいないのが現時点だ」

 

確かに、“今”の闇派閥に回復役はあまりいない。

 

ほとんど、回復薬といったアイテムに依存している。そして、その回復薬を作るには特定の発展アビリティが必要になっており、そのアビリティを有する者の多くはオラリオ側にいる。

 

「回復薬を手に入れるのでさえ、ひと手間がかかる。そもそもオラリオ側から回復薬を手に入れる必要があるという時点ですでに後手に回っている。闇派閥は、オラリオありきで成り立っているとそう宣伝しているも当然だ」

「……一理はある」

 

オリヴァスは腕を組んだまま、男の言う話に肯定の念を表す。

 

「けどさ、いないって訳じゃねぇんだろ? そういう薬をもっと作れって言っちゃあいいんじゃねぇの」

 

闇派閥にも、回復薬を生産できる者はいる。その数は少ないが――作れない、という訳ではないのだ。ならばその生産数を増やせばいいんではないのかと、そうヴァレッタは口にする。

 

「馬鹿かお前は」

「あ゛?」

 

いきなり罵倒した男に、ヴァレッタは青筋を立てる。

 

「確かに我々の中に、回復薬を作れる者はいる。そいつらに、“薬”をもっと作れと命令することはできる。だが、ある程度の“人権”は必要だ。でなけりゃ、闇派閥はただの無法地帯と化す。そこら辺の線引きは要る」

「――……“人権”、だと?」

 

その単語を聞いたオリヴァスは目を開く。

 

闇派閥に“人権”などという単語は到底似合わない。オラリオという社会に反する活動をしている闇派閥に与ずる身だからこそ、のものであった。

 

「確かに我々はオラリオという社会に反する活動を行っている。オラリオというひとつの社会を潰すのだから、“人権”もクソもない――――確かにその通りだ。だが、闇派閥という組織もまた“ひとつの社会”だと定義するとそこでも“人権”は必要になってくる」

 

何やら難解な話を始める男。

 

「以前にも言ったように、我々それぞれの“個”が集まってこそ闇派閥という組織がある。闇派閥という組織に意識を集中するあまりそれを構成する“個”に目を向けなければ、尚更闇派閥の瓦解を招く。その為に()()()()()()()()()()

 

男の話に、一言も上げずに静かに聞く二人。

 

「組織において、重要なのは強力な“個”ではない。まぁ、重要でなくとも重宝ではあるが……“団結力”または“チームワーク”。それが組織を維持するために重要な要素の一つだ」

「団結にチームワークね……」

 

団結力だの、チームワークだの、ポジティブさを感じさせられる言葉に白けを覚えるヴァレッタ。

 

「白けたか? まぁ、諦めろ。どの組織であっても、それが例え“悪”に与ずる組織であろうとも、“団結力”“チームワーク”がない組織は組織と言えない。ただの集まりに過ぎない。だからこそ、ある程度の“人権”が必要なのさ」

「ふむ……」

「我々闇派閥に与ずる理由はそれぞれだ。分かりやすく言うなれば“賛同”だな。オラリオを潰すという大きな目的に賛同する者が集まり、出来上がったのが闇派閥だ。オラリオを潰す事自体に興味がなくとも、オラリオを潰した結果引き起こされる“結果”を期待したからこそ賛同する者もいる。それも人それぞれだろう」

 

だが――と男はひとつ間を置いて。

 

「我々は人間だ。昨日まで賛同していたものが、今日反感を持つなんて心変わりをする生き物だ。その可能性を頭に入れなければ、闇派閥という組織を維持するなんて夢のまた夢なのだよ」

 

その可能性を考えたくはないが、ゼロとは言えない。実際、闇派閥の中にはオラリオ側から移してきた者もいるのだ。ならばその逆もまたしかり……という事である。

 

「話が長くなったな。まぁ、薬をもっと作れと命令することは、“社会貢献”とは別の意味を与えることになってしまう。闇派閥という“社会”に貢献するからこそ“社会貢献”だ。そして、“社会貢献”は、誰かに強制するものではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が前提条件となっているものだ。そして“社会貢献”するためには“人権”が必要だ。だから回復薬ありきではなく回復役が要ると言った。まぁ、ヴァレッタの言う通り回復役でなくとも回復薬を作れるヤツが要る、でもいいがね」

「ああ……そういうこったぁ」

 

一応は納得の念を表すヴァレッタ。話がなげぇよ馬鹿が、とかいう心の中でそう罵倒するはするが、男の話が間違っているという訳ではない。だからこその反応である。

 

「オラリオ側から引き抜く、のはあまりにもリスクが高い……慎重に行う必要がある。オラリオ側がスパイを放つなんて真似をされたらそれでこそ厄介だからな」

 

――スパイ。つまり、闇派閥の情報を引き抜いてオラリオ側に情報を送るということだ。そう考えれば確かにそのリスクは高い。

 

「となると……やはり、長期的に見て人材育成ということになる訳か」

「そこに行きつくことになるな。どこかから引き抜くのが、かけるコストが低い・最もリターンがあるが、それと同時にリスクが高い。一方、コストはかかるが長期的に見てリターンを得るのであれば、オリヴァスの言う案が現実的だな」

 

結局のところ、今やれる事はどこも同じ。人材育成に力を入れるしかない。

 

「――まだ手が入っていない孤児院はまだたくさん存在している。地道に、注意を払いながらそれらを回る方針で行くか」

 

この三人の間としては、その方針で行くことに決めた。

 

「孤児院か……つまり、貴様は“人材育成”として子どもを選ぶわけだな? 身寄りがない子どもを」

「子どもはいいぞ。子どもには無限の可能性がある。社会を支える大きな存在の一つだ。未来を創っていく者達だ。そんな重要な存在を放っておく馬鹿が何処にいる」

 

一区切りをついて、男は席を立ちあがり。

 

「迷える子羊に、美味しい食事を与えよう。自分で考えて自分で決められる教育をしよう。きちんと自分の足で立てるようにサポートをしよう。その結果、闇派閥に反する行動を取ったとしても構わない。それもまた“自立”だ! その結果、闇派閥に与ずるとしても構わない。それもまた"自立"だ!」

 

そう力説をする男。一見言っていることはまとものように聞こえる。だが、この男のことだ――きっとまともな事ではないだろう。

 

だからこそ、二人は何も言わないのだ。

 

そして、男はすっかり蚊帳の外になりかけているヴァレッタの方に顔を向けて。

 

「だから――“人間爆弾”はやめような?」

「は、はぁ……? まだ続いてたのかよ、それ」

 

ヴァレッタが考えついた“人間爆弾”。それが今この場で持ち出されていたことに戸惑いを覚えるヴァレッタ。

 

「……“人間爆弾”?」

 

そして、その“人間爆弾”という案を知らないオリヴァスは片眉を上げる。

 

「そのままの意味だよ、オリヴァス――――どうせ、先鋒として子どもを利用するつもりだったろう? 確かに子どもは、警戒を抱きづらい。奇襲しやすい上、致命的なダメージを与えるのには向いているが……()()()()()()()()()()()()()()()()。そんなもん、コストがかかりすぎだ」

「……チッ!」

 

生憎、今までの話を聞いていただけに何も言えなくなったヴァレッタは不機嫌そうに舌打ちを打つ。

 

「あーあーわかった、分かりました。やめます、やめますよ。これでいいだろ!?」

「……お前が敬語使うの、めっちゃ気持ち悪いわ」

「な、何だとテメェ!!」

 

男の言葉に、激昂し出すヴァレッタ。

 

あのヴァレッタが、敬語を使った。長い付き合いである男にとっては余りにも似合わなすぎて寒気すら覚えていた。

 

「……」

 

尤も、オリヴァスとて同意せざるを得ないものだったが、オリヴァスが言った所でますますヒートアップするだけだろう。

 

だからオリヴァスは口を閉じるのみであった。

 

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