闇派閥の一員は、正義を語る 作:闇派閥のだれか
――場所を移し。アレクトが使用している部屋にて。
「――それで、いつになったらお前は貰うんだ?」
互いに向き合って座る、男にそう問いかけるアレクト。
「そうですね……あの二人にも言いましたが、"その時"が来たら真摯に向き合う――と約束してます」
アレクトの聞きたい事とは、男があの姉妹をいつ貰うんだという事。それを分かっていた男はそう返答をする。
「真面目な奴だ。男なら奪うぐらいの事はせんか――何、この私が許可してやる」
いかにも意地悪そうな表情を浮かべてそう口にするアレクト。そんな彼女に、静かに笑うことでそう返事する形を取る男。
「ふん……まぁ、お前達の問題だ。私がこれ以上口を出すのは野暮というものだろう」
そんな男を見かねて、アレクトの方から話を切り上げる。そんな彼女に男は感謝するように、頭を下げるのみであった。
「――して。話とは何だ」
アレクトは、男から"話がある為時間を作ってほしい"としか言われていない。本来、オラリオでは鎮圧対象の一つでもあるファミリアの主神と話したいなどと――罠を疑ってかかるのも当然。
だが、この男は"闇派閥"という組織において影響力を持つ人物だからこそ。
アレクトは二人だけで話をすることに承諾したのだ。
――姉妹の方はというと……暇さえあればいつも、姉妹同士で稽古として戦っている。
耳を澄ませると僅かに剣と剣が擦れ合う音が聞こえるのが、それを肯定している。
「改めまして。この度は、時間を作って頂きありがとうございます」
「ああ、固いのはいらん。結論から話せ」
そう言うアレクトに、では――と一息ついて。
「食料生産に力を入れようと考えておりますので、力を貸して頂きたい」
「――む? 一体どういうことだ」
男の言う"食料生産"。その意味は分かるが、それを言い出した意図がまだ掴めないアレクトは聞き直す。
「前提として、我々闇派閥の目的は"オラリオを落とす"ことにあります。仮に――その目的を達成し、オラリオを落とすことが出来たとして……
至って当然のことだとでも言いたげにそう言う男。闇派閥が挙げる大きな目的は、もちろん"オラリオを潰す"ことにある。だが、目的を達成しようとするあまりその後の事を考えていなければ、最早オラリオとともに共倒れになりかねない。だからこそ、大したことがなさそうに聞こえるコレも大変重要だと考えてこそ。
「現在、闇派閥全体における"食材"――そのほとんどが、オラリオ側から得ています。しかし、それは我々闇派閥における目的と反した状況になっているのが現状。ならば、オラリオという都市がなくとも最低限以上我々闇派閥が生きていけるような環境を作るべきだと考えました」
「ふむ……」
男の話を聞いたアレクトは、ある一種の感服を覚えていた。
いくら闇派閥といえど、同じ人間。人間である以上、食事からエネルギーを取らねば満足に動けない。ごくごく当たり前である"衣食住"という概念の一つである"食"に切り口を作ろうとしているのだ、この男は。
まさしく刹那的に生きるだけではなく、"闇派閥"という組織の将来を真摯に考えてこそ、起こせる行動というのだろう。
「ひとまず話は分かった。お前は"闇派閥"という組織を、出来る限りより長く維持したい訳だな」
アレクトの言葉に頷き、肯定を返す男。
「して。その"食料生産"とやらに力を貸すとは、具体的にどうやるんだ」
「――ええ、そちらにいる"非戦闘員"を数人……少し貸して頂きたいのです」
遠回りに言っても意味はない。だからこそ、男は"非戦闘員"とハッキリそう口にした。
「なるほど、そういう訳か」
つまり、男はこう言いたいのだ。"食料生産"の為の人員を少し貸してほしい、と。
「期間はどれぐらいを想定している?」
「そうですね……一週間もあれば、充分かと」
「何だと?」
一週間。たった一週間だけでいいのか、とアレクトは驚きを覚える。話の流れからすると、"食料生産"とはそう短期間で行うものではないという事は分かっている。というのに、一週間という短期間だけでいいと言われて何を……? と思うのも仕方がない。
「……一週間だけでよいのか?」
「ええ、むしろ一週間だけでもありがたいぐらいです」
そう肯定する男。何故一週間だけでいいのか――それを聞こうとしたが。
「大したことはありません。単に"種を植える"のを手伝ってもらうだけですから」
それを分かっていたかのように男からそう言われる。この男は、仲間を大事にするという評判で闇派閥の中では通っている。非道な実験を行ったり、また個人をおざなりにする真似なんかはまったくしないとも言われる。だからこそ、そういった点では心配ないんだろうが……
「ただ、貸してくれ……って言うだけのもアレですから。いかに効率的にランクアップするか。その情報をと」
「……ほう」
アレクトの口端が上がった。
――その話には、信ぴょう性があった。男は、Lv6という闇派閥の中で最上級と言っても過言ではないレベルを誇る。
この男に関する話は、その限りではない。何せ、【恩恵】を授かってから
アレクトの聞く限りでは、彼にスキルや魔法といったものは発現されていないらしい。その状態下で三年しかかからずに、Lv1の初心者がLv6という域まで達する……それがいかにとんでもない事か。
一体どうやってLv6まで上がったのか。それを自らの眷属に教えるというのだ――アレクトのお気に入りでもあるあの姉妹にも役立つ情報。
それを等価交換として提示されたことに、悦びを覚えるアレクト。
もっとも、あの姉妹がLv6にまで達したのはいつの日かこの男を
「ふむ……」
元々、【アレクト・ファミリア】は過激派に属するという事もあり、眷族における強さというのは高い方である。
団長、副団長をやっているあの姉妹もそれぞれLv6というのもあって……である。
ファミリアの力を今よりさらに上へと上げるには持ってこいとも言える。だからこそ、アレクトは少し前のめりになった。
「なるほど。確かにお前自身が言うのならば信用できるだろう――が、そのような事が可能なのか?」
ファミリアの主神としても、こればかりは確認する必要がある。男の言うことは恐らく信用はできるだろうが…アレクトの眷属達はあの姉妹を除いてはそこまで交流がないのだ。いきなりこの男のいう事を信じろと言っても無理問題な話である。
――いささか、一週間眷属を貸し出すだけであると考えるなら……ややこちらに利がありすぎる気もする。
だからこそ、アレクトは遠回りに"根拠"を示せ……と男にそう返事をする。
男は予め分かっていたかのように……どこからかメモを取り出し、それをアレクトに手渡す。
「ッ、これは……!?」
メモに書かれていた文章に、驚きを覚えるアレクト。内容は、確かに"効率的にランクアップする為"の情報だ。だが、これは――
「――どうでしょう。これで"根拠"を示せましたか?」
そんなアレクトを見て、そう微笑んで口にする男。
「……いいだろう、信用してやる」
そう言いつづ、どこかげんなりとした様子であるアレクトがそこにいた。
一週間、【アレクト・ファミリア】に所属する"非戦闘員"を数人ほど貸し出すという契りを結ぶことになった。
後日、"非戦闘員"を貸し出すその日に情報を渡すという流れで。
「しかし、お前も健気なものだ……他のファミリアでもそう
先ほどのメモ。アレを見せられては、恐らくどこのファミリアもこの男の話を聞かざるを得ないだろう。それだけの内容なのだ、アレは。
それを皮肉った言い方として"お願い"という言葉を選んだアレクト。
「そうですね。皆さんの"善意"を頼りに、お願いしてます」
「――――ふ、ふはははっ!」
"善意"という言葉を聞いたアレクトは、どうやら笑いが込み上げてきたようである。
「"善意"だと! この、我々にっ、そんなものをっ、期待しているというのか、お前はっ!」
どう見ても、"善意"とはかけ離れた、闇派閥に与ずるファミリアらに。よりにもよって"善意"とは! これは傑作だと笑い声を上げるアレクト。
「――"悪"が一切混じっていない"善"の塊である人間がいないように――"善"が一切混じっていない"悪意"の塊である人間もいない。俺はそう考えています」
「――だから、お前はあえて"善意"と言ったのだな」
ええ、とそう男は頷く。
いやはや……実に、この男が
こうして、男とアレクトの間にある"話"は終わり、【アレクト・ファミリア】の拠点から男は去っていくのだった。
――その際に、姉妹の奇襲を再度受けることになってしまったのは言うまでもなかった。
蛇足 その3。
ヴェナ・ディース
Lv.6
力:H189 耐久:H144 器用:H179 敏捷:H176 魔力:G288
狩人:H 魔導:E 耐異常:H 魔防:H 治力:I
【魔法】
[ディアルヴ・ディース] 灼熱魔法。
[ディアルヴ・オチュア]闇魔法。
[???]発焰魔法。
【スキル】
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