きさまらにも味わわせてやる!ゲッターとヤマトの恐ろしさをな〜〜!!   作:桐山将幸

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PART 4 救いの亡霊

 機械的な廊下、キリシマの艦内を歩くタケルを遠巻きに見るクルー達、彼らは決まってこれらの内容を口にした。

 

 『やはり、大鳥タケルだ』

 

 『英雄だ』

 

 『ハ虫人類を滅ぼした』

 

 『特攻したんだ』

 

 『どうして生きている?』

 

 タケルはその全てを持ち前の地獄耳で聞いていたが、全て無視して先導に従う。

 その指にかけられたヘルメットは、無重力をふわふわと浮きながら、指で引っ張られて進んでは空気抵抗でゆっくりと減速し、また引っ張られる不規則な動きを繰り返している。

 

 ……戦いの後、大鳥タケルは国連艦隊への合流、キリシマへの移乗を提案され、それを選んだ。

 そして、()()()()()()()()()()()積んでおいた特殊環境用ヘルメットを被り、宇宙遊泳してキリシマのハッチへと泳ぎ着いたのだった。

 

 精神的に限界状態にあったタケルも、宇宙遊泳時に夜風を浴びて落ち着き、今はキリシマ艦内の多目的上映室を目指していた。

 それは、『ゲッターロボが辿った歴史を知りたい』というタケルたっての要望を果たすためである。

 

 

 何故か、都合よく、積み込まれていた、ゲッターロボに関する記録映画は語る。

 

 曰く、早乙女研究所は強力な人型ロボットを開発しつつ、リソースの集中によって生み出されるテクノロジーの山を手に入れ、日本が政治的に開発できない原子力兵器の代替となる戦力と国威を得るための計画、その中心地であった。

 

 ――――正しい、タケルはゲッターロボ以前に開発された、あるいはゲッターロボと並行して開発されていたいくつもの技術の産物を見ているし、いくつかには実際、携わりもした。

 人型ロボット研究者である以上に兵器キチガイ、特攻キチガイ、殺戮キチガイである敷島博士が重大な立場にあったのも、本質的に早乙女研究所の志向するものの一つが、兵器だったからだ。

 

 

 曰く、その計画はゲッター線の発見というそれだけで大成果とも言える研究によって一つのピークを迎え、ゲッターロボという宇宙開発機……明らかに兵器の側面を帯びた特殊なロボットの開発を開始することになる。

 

 これもその通りだと、タケルはよく知っている。

 ゲッター線とゲッターロボはあくまで早乙女研究所が作り出した技術であり、成果だ。

 タケルが押しかけ弟子を始めたのは、早乙女博士がゲッター線を見つけ、その()()()()()()()()()巨大重機や戦闘ロボット向きの性質を活かす計画……『ゲッター計画』を始動させた頃だった。

 

 

 タケルにとってその光景は、『まだ、みんな居た頃』だ。

 画面の中の研究員たちは、わざとらしく大仰に悩み込んだり、フラスコやビーカーを振ったり、驚いてみせたりしていた。

 後世に残る映像だからと見栄を張っているのだと、彼ら、研究員の身分にもかかわらずその多くが戦いの中に死んだ彼らの性格をよく知るタケルにはわかる。

 まだ中学生の自分も、わずかに若い早乙女博士も、……早乙女達人も、そこには写っていた。

 

 

 曰く、早乙女研究所と日本政府は、火山での研究中にハ虫人類の存在を知る、その瞬間から、ゲッターロボの研究はなりふり構わないほどに軍事色を強め始めた。

 出力の増加、戦闘用装備の追加、ゲットマシンの武装化、完全に戦闘用の新型ゲッターロボの設計。

 その中には、後に人類史上で最も大きな波紋を呼ぶ事件を引き起こした、あの機体もあった……。

 

 その姿は紛れもなく、タケルがその手で設計し、彼の名を与えたロボット、ゲッターロボタケルだ。

 ゲッターロボは一つの兵器としてはかなり大味なところがあるが、一方で、莫大なゲッターエネルギーを全身に浸透させ、安定した超パワーを得るメカニズムを整えるには、一種神がかり的なものが必要だ。

 今(224年前)のところ、それを完遂できたのは、早乙女博士と、タケルだけだった。

 

 

 曰く、ついにゲッターロボと恐竜帝国が激突する。

 ゲッターロボと日本はその総力を尽くして恐竜帝国の進撃を阻み続け、新型ゲッターロボの就役をもってついに恐竜帝国に痛打を与えることに成功した。

 それによって、ハ虫人類の活動はしばし弱まるが、しばらくの後、彼らは自らの居住地をも兵器化した大攻勢を行い、人類全体に壊滅的な損害を与えることになる。

 

 タケルはわずかに片眉を潜めた。

 自分の突き立てたドリルが、帝王ゴールとその幕僚を皆殺しにした大戦果が、語られていない。

 だが、タケルは心の中での追求を、一時とりやめにして、続きの視聴を決め込んだ。

 

 

 歴史物語はついに、ハ虫人類との最終戦争に突入する。

 日本だけでなく、各国すべてへと襲いかかる、大量生産された究極のメカザウルスと居住区域まで転用されたマシーンランドの軍団。

 先進国の軍事能力は数日でゲリラレベルにまで落ち込み、秘密兵器も刃が立たない。

 ゲッターロボに守られた自衛隊すら戦力を喪失し、そのゲッターロボもまた……。

 

 そして、歴史物語はゲッターロボタケルが太平洋へと飛び込み、火星へと飛び去っていく映像で一つのクライマックスを迎える。

 

 大鳥タケルは英雄、大英雄だ。

 人類を救った大鳥タケルはあらゆる国家、団体に栄典を追贈された。

 あらゆる栄誉と位を与えられ、あらゆる神や聖人の列の最後尾にして最も輝ける一人となった。

 …………。

 それを最後の言い訳のように述べて、話は不穏な方向へと進んでいく。

 

 ゲッターの所業は、本当に正義だったのか?

 それを成す力は、人が持っていいものなのか?

 

 まずは、そんな問いがあった。

 

 そして、それを正義と見なした人々同士もまた、ゲッターロボという一つの正義、恐竜帝国という一つの悪を巡って熾烈な争い――――私はゲッターの側、やつらはハ虫人類の側――――を繰り広げることになる。

 

 その一連の混乱が収まりを見せたころ、国連と日本、早乙女研究所は共同で、ゲッター技術の研究中止とゲッターロボGの封印、残された試作型ゲッターの破棄を決定した。

 人類はゲッターという大きすぎる力と、重すぎる業と、輝かしすぎる栄光に絶えられなかったのだ。

 

 それ以降の二百年間、ゲッターは国際的に禁忌の扱いを受け、今では歴史と宗教、思想の世界にしか現れないものとなった…………。

 

 

 

 ……映画は、そこで終わっていた。

 タケルは、ピクリともしなかった。

 

 「……おれは果たして英雄か、大罪人か……か」

 

 タケルはまさか、自分がそんな存在であるとは思ってもみなかった。

 いや……大きな扱いになるかもしれないという、漠然とした考えは、あった。

 人類を救うために働く研究者、開発者、戦士……自分がそれであるとは、うぬぼれでない範囲で理解しているつもりだった。

 自らが知性を持った異種族を戦いの中で殺し、その身と引き換えとはいえ、死滅させた男であることも。

 

 タケルは自分がいまだ呆然と座る映写室に、一人の老人が入ってきたのに気付いた。

 当然それは、自分にこの学びの機会を与えてくれた男である。

 

 「沖田艦……提督、わざわざこのようなものをご用意くださり、ありがとうございます」

 

 「……いえ、こちらこそ、できるならば全て口頭でお伝えしたいところですが、なにぶん戦闘後で立て込んでおりまして、申し訳ない」

 

 精神的な混乱の中にあっても、タケルは(儀礼的に正確とは言えないものの)年長者慣れした、いかにもな礼を忘れない。

 沖田はそんな礼に応じつつ――――タケルの言う『ご用意』という言葉の含意を噛み締め、心の中でわずかにうなりつつ――――先程にも増して深く沈み込んだタケルのために、もうひとつ用意してきた言葉を、使うことにした。

 

 「大鳥さん、世の人間が貴方をどう見るか、貴方と出会う前の私が貴方をどう思っていたか、それは……ひとまず、忘れようと思います」

 

 「……忘れられることではないでしょう、決して」

 

 人類史上最高の英雄、最悪の虐殺者としての言葉は、齢17……あるいは前世を加えて四十路やそこらのその若さでもなお、きわめて沈み込む重さをもっていたが、沖田は幸いなことに、それに平然をよそおって立ち向かうだけの胆力のある人物だ。

 タケルの自責……あるいは、誇りを受け止めながら、あえてそれには答えず、沖田は言葉をつなげる。

 

 「私とっての貴方は、自分を攻撃してきた敵を自分だけで倒すことにこだわらず、彼らの本当の敵であった私達にまかせてくれた貴方です、私達の事情を知ったら、歯を食いしばって冥王星基地攻撃を見守ってくれた貴方なのです……」

 

 うつむいたタケルが、かろうじて、相槌には遅すぎるタイミングで『そうですか』と返した。

 すると、沖田はタケルにしばらく上映室に留まっていてもいいと伝え、重ねて礼を言ってその場を離れていく。

 タケルは思う。

 自分の正義は、異種族には及ばない小さな正義でしかないかもしれない。

 しかし、200年後の地球には、まだその小さな正義を愛する仲間がいるのだ。

 ならば、百万パワーを今だって、出せる……と。

 

 

 

 

 タケルがキリシマ艦橋に踏み入ると、遠くの……しかし、わかる人間が見ればあまりにも近い空に、赤く光り、青のにじむ星があった。

 それを見るため、タケルはあえて、この二週間謹んできた『艦橋に出て宇宙を見たい』という欲望をあらわにし、沖田のはからいでそこに招かれたのだ。

 

 「おれが眠っている間に、あの星では色々なことがあったようですね」

 

 タケルとゲッターロボは火星に飛び、そこで眠ったが、真ゲッターロボのように環境を劇的に変えてしまうことはなかったらしい。

 ゲッターロボは地中深く眠り、地上にその力を表すことはなかった。

 そして、時が流れ、ゲッターに頼らぬ形で復興した人類が火星に降り立ち勢力を広げるようになると、火星は真っ先にその対象として選ばれ、なんとテラフォーミング計画までもがスタートしたのだ。

 しかし、そのテラフォーミング計画も、力をつけ始めた火星が正体の分からない(ゲッターでもない)高度なテクノロジーで反旗を翻し……そして、敗れることで終わりを告げた。

 今の火星には少数の観測要員……『など』しか置かれていない、らしい。

 

 (『など』が引っかかるが、その観測要員ってのが古代と島で、死んだサーシャを回収したのを今から迎えに行く……ってことでいいんだろうな)

 

 古代と島、宇宙戦艦ヤマトの主人公と相棒は、訓練生として火星に滞在していたところにやってきた宇宙からの使者、サーシャが自らの命を失いながらも火星に降り立ったところに出会い、そのなきがらから受け取った通信カプセルを持って、冥王星海戦に破れた沖田艦長と合流し、地球へ帰り沈没戦艦大和を目撃する……。

 それがタケルの知る、宇宙戦艦ヤマトという物語の始まりだった。

 

 「ウズメ収容完了、ウキハシも本艦隊に接近しています」

 

 「うむ」

 

 ウズメ、ウキハシ……。

 前者を聞いた時、いくらかのクルーが知らない暗号名に首を傾げ……。

 ウキハシ、という言葉を聞いた時は、首を傾げぬ者の方が多かった。

 

 (裸踊りしてアマテラスを引っ張り出した神と……、国産みの時にイザナミとイザナギが降りてきた橋か、なんのことかさっぱりだ、暗号だから当然だけど)

 

 「大鳥さん、ウキハシは貴方にも関係がある人々の船です」

 

 「船ですか、それに……関係? それは早乙女研究所だとかの……」

 

 その時、真正面から、『顔』を見せながら上がってくる艦影があるのを、タケルは見た。

 顔。

 赤を基調に、亀甲の如く敷き詰められた巨大な発光体、緑がほとんど、中央の2つのみが黃。

 顔の上に、2つのツノ。

 

 「ゲッターエ……え、ええっ!!!?」

 

 タケルはらしくなく声をあげ、目を見開き、口まで開けた。

 

 「……大鳥さんにお見せしたあの記録映画が撮られたあと、地球の危機を前に、ゲッターを信奉する団体と研究者達によって作られた試作型ゲッター炉心巡洋艦、アサマです」

 

 それがアサマ、浅間、浅間山麓の早乙女研究所を意識したネーミングであることは誰の目にも明らかである。

 タケルが周りを見れば、艦橋のクルーたちはどこか苦々しそうにしている、タケルも微妙な顔をして、『そこまでおかしいのか? だれかかばう人は居ないのか?』と周りに意識を向けると、みな目をそらした。

 アサマが近づくと、それはどうやら、周りにある『ムラサメ型』巡洋艦にゲッターの頭をつけたような艦艇であることがわかる。

 (その姿は、いくつかの歴史に現れた、同じくゲッターの顔を持つ戦艦『ゲッターエンペラー』とは似ても似つかず、むしろ形から入ったような、漫画の海賊船にありがちな奇妙な船首楼のようなニュアンスを感じさせるものだった)

 タケルはそれにゲッター線技術が使われていることを感じ取ったが、200年分の進化はなく、むしろ200年分の眠りを取り戻そうとあがいているように見えた。

 

 「アサマ、本艦の右舷につきます」

 

 それはタケルがゲッターロボタケルを飛ばしているのと、同じ向きだった。

 少し目を凝らすと、アサマ艦橋には多くの人々が集まり、並んでゲッターロボを見ている。

 

 「……貴方は、彼等に会っているはずでは?」

 

 「沖田艦長、それはどういう意味です?」

 

 「貴方の乗るゲッターロボを掘り起こしたのはウキハシ……彼等なのですから」

 

 「すいません、寝ていた時の記憶は……曖昧なんです」

 

 そう言うと、僅かなタケルはさっと踵を返し、僅かなあいさつをして艦橋から立ち去る。

 向かう先は、与えられた……用意されていた士官室だ。

 タケルは確信していた、少なくとも自分の目覚めは、この時代の人々にとって意図されたものであった、と。

 そして……ゲッターロボを、自分たちを信奉する団体というのは確かに存在し、力を持っているのだ、と。

 

 (どうする? アサマに行くかと聞かれる前に逃げてきちまったが、これは……)

 

 『大鳥タケル、あの船はお前を信仰する人々の船だろう? どうして姿を見せてやらないのだ?』

 

 「!?」

 

 タケルの耳に、いや、耳ですらない場所に、通常の物理法則を無視して聞こえる――――しかし、200年前に聞いたのとは違う――――女の声。

 その声に振り返ると、そこには……今まで、2つの人生で見たこともない衣装を纏った、金髪の女……美女の幽霊があった。

 

 そう、幽霊。

 その美女には、どう見ても実体がなく……タケルが早乙女研究所時代からいくらか見てきた、幽霊に違いなかった。

 紫と白をベースにした、1970年代の常識でも、21世紀の常識でも理解しがたい、妙に露出度が高い衣装の女。

 今までの常識にない、肌に張り付いているかのような宝石のアクセサリを胸元につけた女。

 何よりその髪と顔、タケルはそれを見て、こう思った。

 

 『まるで、松本零士の描いた宇宙美女だ』……と。

 

 そして、そこから連なる極めて強い確信は、動揺の波に乗って口から溢れ出すこととなる。

 

 「……サーシャ?」

 

 『へえ』

 

 タケルの確信を持った発言は、驚きと好奇の薄ら笑いで受け止められた。

 その反応と自らの失言に動揺したタケルだが、今度はこらえた。

 そして、一度すべてを忘れて、先程の問いに答えた。

 

 「関係があるとして、おまえ、おれのマシンとあの船を見比べてみたか、それで、おれがあいつらと話したいと思うか?」

 

 『誤魔化したな』

 

 「……あのマシンに乗ってると、幽霊を見ることはある、超能力者の言うビジョンというやつを見ることもある、それだけだ」

 

 『ま、そういうことにしといてやろうか、それで……』

 

 金髪の亡霊美女、サーシャは、おばけらしい平行移動で、自分の顔をさっとタケルに近づけた。

 タケルは幽霊とは思えぬその存在感に圧され、はっきり言うと顔を赤らめてたじろきながらも、なんとか目をそらさなかった。

 

 『お前、自分を信ずるものにはまっすぐ接してやれ、なにもいわれなく崇められているわけではないのだろう? ならば、自らの威光を正しく伝えるのも、光を背負った者の義務ではないか』

 

 亡霊のくせにいやに輝くその目は、タケルを……否、タケルが背を向けたものと、タケルが背負ったものをまっすぐ指す。

 しかし、その双眸の輝きの強さの所以、彼女もまた、重い栄光と罪を背負う存在であることを……。

 タケルはいずれ、知ることになる。




お久しぶりです、桐山です。

少しあれこれと立て込んだり難産だったりして、投稿が遅れました、申し訳ありません。

さて、今回は歴史回となってしましましたが、次回は……次回も、もう少し謎の松本美女と付き合って頂きます。
多分、その次には地球に到着し、お待ちかねの『あの船』も画面(?)に写すことができるでしょう。

投稿遅れ申し訳ありませんが、読者の方々の反応などを励みになんとか書き上げました。
次回はなるべく早く投稿できるよう、努力します。
それでは次回まで、ごきげんよう。
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